12 第二の殺人
「おい、あんまり奥に進まねえ方がいいな」
根来の声が洞穴内に響いた。
「そうですね。ここには双葉さんはいなそうですしね。しかし、この洞穴はすごいですね」
「そうだな。すごい鍾乳洞だ。この島の内側は穴ぼこだらけなのかもしれねえな」
根来は、興味深そうに懐中電灯を動かして、この鍾乳洞の様子を眺めた。
「根来さん。戻りましょう」
「ああ」
二人は洞穴の入り口の方へと戻っていった。すると、洞穴の入り口から青白い月明かりが差し込んでいるのが見えた。
二人は外に飛び出すと、すぐさま、近くに人の気配があることに気づいた。二人は、慌てて懐中電灯の明かりを消して、岩の影に息をひそめた。暗闇に目を慣らしてよく見れば、浜辺の方に懐中電灯の明かりが二つばかり彷徨っていた。
それが英信のものだと気付くと、根来は英信の名前を呼んだ。呼ばれた英信は驚いて、懐中電灯をこちらに向けると、
「根来さーん!」
と叫んだ。
根来と祐介は、岩場から砂浜に飛び降りると、英信たちの元へと走って行った。
「どうして、ここへ来たんですか。危険だから、洋館で待っているように言ったのに……」
「それが、お二人の帰りがあまりにも遅いので、危険な目にあっているのではないかと幸児が言うものですから」
「それで幸児君と二人で探しに来たわけですか」
「それと未鈴さんも一緒に探すというので……」
「女性までこんなところに連れてきて、殺人犯がいるかもしれんのだぞ!」
根来は、英信の行動に怒りの声を上げた。
「す、すみません。しかし、何しろ、お二人の身に何かあっては、我々はもうすがるものが無くなってしまいますから」
と英信は不安そうな声を出した。
すぐさま、幸児と未鈴も、根来と祐介のことに気づいて砂浜を走ってきた。このようにして三人と合流した根来は、腹立たしげにあたりを眺めていたが、その時に、あるものに気づいた。
「おい、あそこを見てみろ。何か明かりが点いているぞ」
三人はその言葉にはっとして、根来の指差している、暗闇に閉ざされた浜辺の先に目を向けた。確かに一見すると気付かないが、浜辺の先にポツリと明かりが灯っているのが見えたのである。
「よし、行ってみよう」
五人はその明かりの元へ走っていった。近づいていく内に、その明かりが砂浜に落ちている懐中電灯のものであることが分かってきた。そして、その懐中電灯よりももっと海側に寄ったところ、波が打ち寄せては引いてゆくところに大きな黒い影が横たわっているのが見えてきた。
「おい、なんだありゃ……」
根来は、そう言ってからすぐに恐ろしい想像が頭をよぎって、ギョッとした。そこで根来は、
「これ以上近づくな」
と英信たちを止めると、祐介一人を連れて、その影へと近づいた。
影に懐中電灯の光を当てる。それは顔の半分が恐ろしいほどにひしゃげている男の死体なのであった。
「双葉か……。間違いないな」
根来も、いくら変わり果てているとは言え、一度見た人間の顔を見間違えることはない。死体は波にさらされて、全身がびしょ濡れになっていた。それでも、それが昼間の男であることは疑いようがなかった。割れた黒縁眼鏡もねじ曲がりながらも、まだ被害者の顔にまとわりついていた。
「これで二人目だな」
そうして、あたりを見てみると、死体の頭部の真横には大きな石が転がっていたのである。根来がそれをひっくり返すと、石の裏側にはべっとりと血がこびりついていた。おそらく、これが凶器なのだろうと根来は考えたのである。
「羽黒。この死体をどう見る?」
「ええ。そうですね。この死体は、少なくとも死後一時間は経っていますね」
「そうだな。それは間違いない」
「そして、この場所は、あの洋館からどんなに急いでも片道二十分。往復をしたら四十分はかかると思います」
「ああ」
「こうなったら、全員のアリバイを確認する必要がありますね」
「そうだな。しかし、東三に続いて、双葉まで殺されたとなると、やはり尾上家の人間が犯行を犯したとしか思えんな。こうなれば、尾上家の人間は安心して埋蔵金を独占できるというものだ」
根来の言葉は確かに合理的であった。しかし、祐介はそう単純に解釈して良いものか分からなかった。ただ他にこれといった推理もないものだから、根来の言葉にとりあえず頷いたのであった……。
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