11 行方
さて、根来はしゃがんで、東三の酷たらしい死体を確認した。なるほど、腹部を鋭利な刃物で切り裂かれ、喉仏を一突きされている。根来は検死官ではないから、はっきりしたことは言えないが、経験的に、この喉の一突きが死因だろうと思われた。そして、少なくとも死後一時間以上は経過しているようであった。
「食事の時には、すでに死んでたんだなぁ……」
「そうですね。しかし、これほどの重傷を与えることができる刃物とは一体何でしょうね」
「そうだな。特に腹部の切り傷を見ると……ひでえな、こりゃあ……相当な切れ味の刃物と見える」
「日本刀じゃありませんか?」
祐介のこの言葉に驚いて、根来は顔を上げる。
「日本刀? 地下室にあったやつか。そうだな。その可能性はある。よし、後で見てこよう。しかし、日本刀だとすると相当な腕を持ってねえときついぞ」
しかし、祐介はそのことよりも他に気になることがあった。
「根来さん。何にせよ。犯人はまだこの島にいると思われます」
「そうだな。しかし、逃げ出すこともできんだろう。こいつを外部犯の犯行と見るか?」
「いえ、そうは思いませんね。部屋は荒らされた痕はありませんし、この密室という状況も外部犯がわざわざ作り出すとは思えません。第一、このような島に部外者が立ち入っているとも思えませんからね」
根来は、祐介の言葉を聞いて納得した。すると内部犯か、と根来は島にいる人間の顔を順に頭に浮かべた。そしてはっと顔を上げると、
「もしかして東三は、英信に殺されたんじゃないか?」
「英信さんにですか?」
「あいつにとっちゃ、この東三って男は、埋蔵金を狙う憎いライバルだからな。動機はそれで十分だ」
「ええ。その可能性はありますね。しかし、その動機なら相続権のある、双葉さん、元也さん、幸児さん、沙由里さんにも同じことが言えるでしょう。それだけではありません。時子さん、富美子さん、未鈴さんも同じ理由から東三さんを殺害するかもしれません」
「確かにな。この島にいる人間には全員、動機があるということだ。よし! 何にせよ、犯人はこの島から逃げ出すことはできねえ。今すぐ、リビングに全員を集めるぞ」
「そうですね」
祐介は頷いて、死体を見下ろした。
東三はなぜ殺されたのか。根来が言うように、埋蔵金をめぐる競争のせいで殺されてしまったのだろうか。何にしても、司法から隔離されたこの孤島での四日間は、根来と祐介が責任を持って対応しなければならないだろう。
根来と祐介は現場を保存すると、すぐさまリビングに人間を集めた。東三のことを説明すると、英信は驚きで目を吊り上げた。
「何ですって、殺された……! そ、それではこの島に殺人鬼がいるというのですか?」
根来は鋭い視線を英信に向けると、
「そうですな。しかし、それが誰かが分からない。この島にいるのは我々だけだと思うのですが、そうではないのかもしれない。あるいは我々の中に殺した人間がいるのか」
「そんな。我々の中に人殺しがいるなんて……!」
「ところで、双葉さんの姿が見当たりませんが……」
「双葉さんは確か、食後に砂浜を散歩すると言っていました」
「何て悠長なことを……。いけませんな。もし殺人鬼がこの島にいるのだとしたら、格好の獲物だ」
「探しますか。砂浜を走ってゆけば間に合うのでは」
「そうですなぁ。砂浜をどちらの方に歩いて行ったか分かりますか」
「さあ、それは……」
根来は祐介の方を向いた。
「どう思う?」
「食事の時間からすでに一時間が経っています。こんな街灯もない砂浜を一時間も散歩しているとは思えませんね」
祐介の言葉に、根来は事態を把握して、鋭く窓の外を睨んだ。雨は降っていなかった。
さて、根来と祐介が懐中電灯を手に持って、青月館に尾上家の人々を残したまま、浜辺を走ってゆくと、漆黒の闇にぼんやりと月明かりが見えるだけである。とても、人間を見つけられる状況ではない。
しかし、根来と祐介は、人命に関わることなので、浜辺を行けるところまで行こうということで、ついに東側の洞穴の入り口まで辿り着いてしまった。懐中電灯の明かりを当てると、穴がずっと奥まで続いているのが見える。
「根来さん。これが洞穴ですね」
「そうだな。まさか洞穴の中に双葉が隠れているわけもないだろう」
「しかし、考えてもみて下さい。双葉さんがこんな時間に散歩をすると言い出したのは、そもそも不自然だとは思いませんか」
「確かにな」
「もしも彼が殺人犯であって、我々から逃げているのだとしたらどうですか。もっとも良い隠れ場所はこの洞穴ではないでしょうか」
「そうか。その可能性はあるな。しかし、このあたりは洞穴だらけだぞ」
「とにかく、このあたりの洞穴を探してみましょう」
根来と祐介は、周囲にある洞穴の入り口を一つ一つ見てまわることにした。その前に、根来と祐介は、この洞穴が一体どれほど深いのか確認することにした。その為に、洞穴の中に入っていった。洞穴はどんどん奥へゆくほど深くなってゆくのであった。二人はすぐに洞穴が行き止まりになるかと思っていたが、まったく終わりが見えてこなかったのである……。
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