第2話 NENE「サーチ」

この前買ったばかりのRODHIAを開き、ペンを手に取った。


一旦状況整理から始めないと、解決されないような気がした。

物事は整理してみると意外に単純だったりするものだから。


「タカシ。32歳。ミュージシャン。」「レイジ。24歳。大学生。」「タテオ。45歳。会社員。」「コウタ。28歳。トラック運転手。」「ダイキ。26歳。会社員。」「ヒロカズ。25歳。フリーター。」

6人の名前を書き出した。


1年前、私は思い立って「ハッピーマッチ」という出会い系サイトに登録した。

登録名は「本田さえ」。年齢24歳。趣味はピアノと読書。少しアプリで盛った画像と「最近さびしく過ごしている。今から会えないか、と面倒なことを抜きですぐに誘ってくれる人がタイプ」と書きこんだ。

ふざけ半分ではあったが、去年の私はなんだか寂しくて仕方がなかった。しかも事前にデートの予定を決めようにも、仕事が込み合いすぎてできなかった。

そんな時に「今から会える?」と気軽に聞けて、私の心を埋めてくれる存在が必要だと思っていた。


サイト上で私はモテた。


女性無料、男性有料のサイトで、男性はメッセージを入れるために1文字数円などの支払いが発生するということだったが、そのメッセージが転送されたg-mailの受信ボックスには男性たちからの甘いお誘い文句が100件近く連なった。


先ほど書きだした6人はその中の人たちの名前だった。

いずれも寧々の父親である可能性を持っていた。


彼らとはきちんと付き合っていたわけではなく、実の名前も年齢さえも正しいとは限らなかった。職業だって「自称」にすぎず、書き出す行為さえ不毛に思えた。


一旦退会したサイトに再度別な名前で登録し、彼らの登録が確認できれば何か進展するだろうか。呼び出して話を聞いて、もしくはDNAを採取させてもらって、、、。


いやいや。

全くそんなことをする意味がわからない。意味がなかった。


「子供が生まれました。それはあなたの子かもしれません。どう思いますか。」

と1年前に1度会ったきりの女に言われて、相手はどう反応するか。


金をむしり取られると恐れられるだけではないだろうか。新手の詐欺と疑われるとか。そもそも私に対しての愛情があってそうなったわけではないから、何の解決も期待できないだろう。

「そうですか、では結婚しましょうか。」なんてなるはずもなく、逆にそう言われてもこっちが困ってしまうだろう。



「うぅぅぅえええ、、、。」

寧々が目を覚ましたようだった。


「寧々ちゃんどうしようかねー。ママ困っちゃったよ。」

寧々は泣くのをやめて「なんでもわかってるよ。」という顔をしてじっと見つめてきた。


私はよく寧々に話しかけ、その度に寧々は私を見つめ返してきた。

本当にこの子には全部お見通しのように思えた。


「とりあえず棚上げしよっか!」

また、私は寧々に話しかけた。


寧々の顔を見ていると、時間がすべてを解決してくれそうな、嫌なことは全部投げ出してもいいような、そんな気分になった。私が娘を守っているというよりも、本当は逆なのかもしれないと思った。


私は一部責了も含めて雑誌の校正を終えて、メールを印刷会社に送信すると、ノートパソコンをパタンと閉じた。

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