いつもの黒薔薇主従

 ユイハはダークローズの腹に顔を押し付けている。彼女の奇行は今に始まったことでは無いため、ダークローズは死んだ魚のような目で放置して書類整理をしていた。自分はしたことが無いが、よく人に腹を吸われている猫とはこんな気持ちなのだろうかなんて妙な考えすら浮かんだ。

 こんこんとノックの音がしてダークローズは入室を許可する。ドアから顔を出したのは彼の後輩魔術師であるルピナス。彼女はダークローズの股の間に座って腹部にまとわりついているユイハを見ると「あれ?これ今私入っていいやつ?」と言いたげな顔をした。ダークローズはその顔については何も言わずに続きを促す。


「用件は?」

「えっ、あー。今日の授業何必要です?」

「……筆記用具」

「了解でーす」


 そーっとルピナスはドアの向こうへ引っこもうとする。しかしぴたりと動きが止まり、また顔を出した。その顔があまりに真剣だったため、何かあったのかとダークローズはルピナスの様子を伺う。


「プレイ中は入室許可しない方がいいと思うます」

「これはこいつのただの奇行だ、いい加減慣れろ。」

「あっ、はーい」


 今度こそルピナスが部屋から出ていき、パタンと扉が閉まる。ダークローズは未だに腹部から聞こえてくる深呼吸の音にげんなりしながら、無言で資料に向き直った。


 よくよく考えればルピナスに慣れろと言うのはおかしいのでは?と一瞬思ったが、腹部に顔を埋めている彼女の奇行は何度言っても続くためルピナスが慣れる方が早いだろう。決して自分は間違ったことを言っていないはずだとダークローズは頭を抱えた。

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