エイプリルフール ヴォルトレ
「エイプリルフールか……」
時が過ぎるのは早いものだとヴォルクスはカレンダーを眺めた。去年は真面目くさった顔で「実はトレーネは卵生だったんだ」などという妙な嘘をついたことをよく覚えている。今年はどんな嘘をついてからかおうかなんて思いながら、自分の部屋に近づいてくるよく知った足音に耳を立てた。
義妹がノックをする前に扉を開く。トレーネはそんな兄に目を瞬かせ、にこ!と笑った。
「おにーさま、聞いてください!」
「なにかな?なんだか機嫌が良さそうだけど」
「まゆちゃんと結婚することになりました!」
ヴォルクスが握っていたドアの取手にヒビが刻まれた。それには全く気づかず、トレーネはニコニコ笑いながら反応を待っている。そう、エイプリルフールの嘘だ。問題というべき問題は、目の前の男が極度のシスコン……もとい、義妹であるトレーネに対して異性愛を抱いており、更には胡桃坂マユに対して敵意を抱いていることであった。
ヴォルクスはにっこりと笑い、部屋から出る。どうしたのだろうと不思議がるトレーネを横目に顔を覆い、それからふうと息を吐いた。
「胡桃坂マユはどこにいるのかな?ご挨拶に行かなきゃ。」
「えっ」
トレーネは慌てている。なにせマユの方には何も特に言っていないので擦り合わせができていないのだ。更には兄が本当に二人が結婚するなんて誤解をしていることに気がつくとトレーネは焦って兄の服を掴む。
「どうしたの、トレーネ」
「え、エイプリルフールの嘘です!」
トレーネの叫びにヴォルクスは瞬きを繰り返す。それからそういえば今日は4月1日だったなと腰に手を当てた。先程ももうエイプリルフールかとしみじみ考えていたのに、トレーネの嘘の衝撃に全て吹っ飛んでしまっていたようである。
「なんだ、嘘だったのか。どんなドレスを着るのかとか一瞬考えたのにな」
「ええっ、まゆちゃんもトレーネも女の子ですよ!?」
「あはは。」
何はともあれ胡桃坂マユのところまで行く前に嘘だということが発覚してよかった。そうでなかったらどうなっていたかわからない。
さて、自分はどんな嘘をつこうかなと自分の周りでくるくる走り回っているトレーネを落ち着かせながら頭を悩ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます