夢の話
イオキベは唇に柔らかなものが触れる感覚で目を覚ました。ふわふわとした気持ちの中、半ば眠ったまま目を開く。そんな状態でまともに状況把握ができるはずもなく、何が起きているのかわからない。そうこうする内に少女が顔を離した。
燃えるような紫の瞳が自分を見ている。これは夢だろうか。いや、そのはずだ。胡桃坂マユは、今日同じ部屋で寝ていない。
「せんせい」
少女の顔が近づき、頬を髪先が撫でていく。ふにりとまた唇に柔らかなものが重なった。ちろりと小さな舌が唇に差し込まれる。少女の舌が懸命に合間を抜けようとしているのを感じた。その動作に堪らなくなった彼は、夢ならば良いかと招くように口を開く。少女はぴたりと動きをとめたが、やがてすぐに舌を絡ませて口付けを深くした。
頭がぼんやりとする感覚に飲まれながら少女に貪られる。慣れていないのだとわかるたどたどしさが可愛らしい。
僅かな水音をさせて少女の口が離れる。熱っぽい少女の身体が僅かに離れて少し寒く感じた。イオキベはマユの背中に腕をのばし、抱き寄せようとする。
「すき」
その言葉に、背中に回そうとしていた手が止まった。それに気づいているのかいないのか、少女はイオキベの唇に触れるだけの口付けをする。
「せんせい、だいすき」
ぽす、とイオキベの胸にマユは顔を伏せた。そのまま擦り寄ってくる少女に、またふわふわとした幸せな気持ちになる。暖かな体温に微睡み、目を閉じて再び眠りの中に意識を沈ませた。
翌朝、目を覚ました彼は、少女の姿がないことに一瞬混乱する。昨夜のあれがやはり現実では無いのだとわかると、動揺のままに唇を押さえた。思うことは色々とあるが、目下の問題は……。
「今日から、どんな顔で会えば……」
イオキベは羞恥とも罪悪感ともつかぬ感情に顔を伏せた。夢の中のこととはいえ、あのような行為は大人として受け入れるべきではないのに。
しばしその姿勢のまま考え込んだ後、寝台から抜け出し身支度をして、そうして漸く無用心にも部屋の鍵がかかっていないことに気がついた。
「……、まさか……」
いや、そんなはずはと頭を悩ませる。まさか、昨日のあれは夢ではなく、本当に胡桃坂マユが来ていたのか?イオキベは現実である可能性に気がつくと内心焦りを覚えた。
……本当にどんな顔をして会えばいいのやら。
散々頭を悩ませた彼は、至っていつも通りの少女に何も聞けず。仕方が無いのでこのことは心の奥底にしまっておくことにした。
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