「それでね、トレーネちゃんが……」


 マユはいつものようにイオキベに話を聞いてもらっていた。それに微笑みながら相槌を打っている彼だったが、ふとその頭がかしぎずるりと音を立てて首が取れる。話を続けようとしていたマユの口が中途半端な形で固まった。しかし特に本人は気にしていないのかおやと声を漏らし何の動揺もなく両手で頭を持つ。


「きゃーーーっ!!??!?!?

せ、せんせい!?えっ首、首取れ……それ大丈夫なの!?」

「ええ、大丈夫ですよ。」


 がたたと椅子から立ち上がり、慌てた様子でイオキベの隣に移動するマユ。それと対照的に、イオキベは本当に何の支障もないのかよいしょと首をつけ直す。えええ・・・と流石の彼女も若干引き気味だ。

 イオキベが手を離すと同時に首に触れ、撫で回す。手のひらは柔らかな肌の感触しか伝わってこず、切断面らしき取っ掛かりは感じられない。くすぐったいのかイオキベは少し身を捩らせた。


「胡桃坂さん?」

「……????」


 どうなってるの?という顔でマユは彼の首から視線を上にあげ、イオキベの顔を見つめる。イオキベは困ったように首を傾げた。咄嗟にマユはそれを押さえようと手を動かすが、先程と違って首が落ちることはない。


「……どうなってるんですか?」

「ふふふ。」


 マユはとうとう疑問を口にするが、イオキベはそれに答えず笑って誤魔化した。マユは眉間にシワを寄せながらなでなでと首を触っている。やはり傷のようなものはない。どういうことだったのか全くマユは理解ができず、不思議そうに首を傾げた。一連の行動を眺めながら、イオキベはにこりと笑う。


「もう一度見たいんですか?」

「違うよ!!」


 また首が取れるところを見せられたら堪ったもんじゃないと慌てて首を横に振った。ぶんぶんと首を横に振ってマユが否定する。イオキベは冗談ですよと彼女の頭を撫で、結局今のが何だったのかを教えることはなかった。

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