平穏ないおまゆ
もぞもぞと毛布から顔を出す。腕枕をするような状態でイオキベはマユと寝ていた。すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。
すっかり目が覚めてしまった。マユは中々二度寝することも出来ず、天井を見つめる。それからちらりとまたイオキベを見た。目はしっかりと瞼に覆われていて、起きる様子はない。その身体に腕を回して抱きつき、マユはじっと青年の唇を見つめる。
少女は彼に恋をしていた。一緒に寝てこそいるが、決して二人は恋人ではない。だからマユはイオキベとキスをしたことが無かった。ついでに言えば、求婚も流されている。
流されている理由は、少なくとも彼からマユに向けている感情が恋愛感情ではないというわけじゃない。……はずだ。ただどちらにせよ一生応えてはくれないのだろうと言う感覚があり、少女の求婚は半分形骸化していた。
だからキスする機会は一生来ないかもしれない。マユは唇を尖らせる。今ここで無防備に寝顔を晒している彼にキスをしてやろうかという考えが頭をよぎった。きっと気づかれても仕方ないと許してくれるだろう。
そっと唇を寄せる。イオキベが起きる様子はない。そのまま唇を合わせようとして、マユはぴたりと止まる。
「……やっぱり、勝手に口にちゅーするの、良くないよね。うう……。」
寝込みを襲うのはまずいという思考があるにはあったらしい。考え直して渋々別の場所にキスすることにした。
ふに、と唇がイオキベの頬に触れる。マユはちょっぴり物足りない気持ちになったものの、大人しくそのままイオキベの身体に顔を押し付けて寝始めた。
「…………。」
マユが寝息を立て始めた頃、イオキベは静かに顔を両手で覆う。実はマユが隣でもぞもぞし始めた辺りから起きていたのだった。何をしようとしてるんだろうと思いつつ様子を見守っていたら、まさかのキスである。
そんなに思い悩むほど口にキスをしたかったのかと苦笑した。驚いたせいかはたまた別の理由か、二度寝は難しそうだとため息をつく。今抜け出したら胡桃坂さんが起きてしまうだろうなあと思いながら、何の夢を見ているんだかぴこぴこと揺れる犬耳を無心で撫でるのだった。
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