バイト
(※白星さんとレイジくんが主に最悪な誤解をするいわゆる下ネタ小説です)
長閑な昼下がり、レイジは白星の部屋に来ていた。室内には白星の他にレイゴルト、アンバーがいる。レイジは白星に用事があって来たのだが、彼が何かを白星に言う前にもうひとりの来訪者が訪れた。
「こんにちわぁ!」
明るい少女の声が聞こえてくる。ぴょこんと顔をドアから覗かせているのは胡桃坂マユだった。こんにちは、と返すそれぞれにぺこっと頭を下げて、マユは白星の前までやって来る。
「やあ、今日はどうしたのかな。ミイエレもイオキベも来ていないよ」
「いえ、今日は白星さんにご用事があって……あっ、初めまして!胡桃坂マユです!」
レイジを見るとマユは片手を上げ、それから勢いよく頭を下げた。元気だなあと思いながら「俺はレイジだよ、よろしくね」と返答をする。
「きみたち、どっちから話をする?」
「あ、俺急いでないしマユちゃんからでいいよ」
「わ!ありがとうございます!」
それを聞くとにぱっ!と明るい笑顔を見せてぱたぱた尻尾を振り、改めてマユは白星に向き直った。
その後ろでレイゴルトからお茶をもらってレイジは適当な椅子に腰掛けて二人のやり取りを見守る。
「バイトをしようと思うんです!」
「なるほど。……何故私に?」
「受けるのは信頼できる大人の人に相談してからでいいよって」
「うーん、なるほど。」
いつの間にそんなに信頼されるようになったんだ?と思いつつ、まあ今目の前にいるレイジの保護者役もしているしと思いながら話を聞く。彼女の家は兄弟が多く、お金がある分には困らないのだろう。
直接ではなくとも眷属の一人であるイオキベと仲が良い少女に何かあっても困るしと内容を聞くことにして、白星はレイゴルトにお茶のおかわりを頼もうと空になったコップを手に持った。
「それで、具体的には何するの?」
「えーっと、まず服を脱ぐ必要があって……」
「んっ?えっ……?」
もう早速雲行きが怪しい。白星から戸惑いの声が上がる。そしてマユは満面の笑顔で続きを口にした。
「たくさん撫でられたり咥えたり動いたりして遊ぶバイトです!」
「ゲホッ、ゴホッ」
白星の手からコップが滑り落ち、レイジはお茶を吹き出し噎せた。アンバーは物凄い楽しそうな笑顔でマユを見つめ、レイゴルトはおっと……????という顔でポットを机に置く。ガシャーン!とコップが割れる音でマユはびくぅっと肩を震わせ、様子がおかしいそれぞれにどうしたんだろう……?という顔をした。
「……………………も……もう一度言ってもらえるかな」
「?たくさん撫でられたり咥えたり動いたりして遊ぶ……」
「うーーーーーーん」
白星は頭を抱え、レイジは漸く噎せが止まり呼吸が落ち着くと、ええ……?という顔でマユを見た。
「えっと……マユちゃん、咥えるって、何を……」
「ま、待って……」
万が一彼女の口からそんな言葉が出てきたら、イオキベの顔をまともに見れなくなってしまうと白星は止めようとする。しかしそれも虚しくマユはキョトンとしたまま口を開いた。
「玩具ですけど……」
「……玩具……」
それを聞いて、いち早くまともな思考回路になったレイゴルトがあることを思い出した。
「……服を脱ぐ、というのは、変化するからか?」
「そうです!」
元気なお返事である。白星はなるほど!と胸を撫で下ろした。それにしたってどういうバイトだ?という感じではあるが。
「変化?」
「彼女、イヌ科に変身ができるんだ」
「ははあ、なるほど。じゃあアニマルセラピーとかのバイトかな……?普通の犬とかよりずっと安全だろうし……。」
ヒソヒソ話しているレイジと白星の横で、犬用の玩具というとフリスビーとかだろうかと思うレイゴルト。当の本人であるマユは、なんでこんなに安堵されているんだろうと不思議そうに首を傾げていた。
「まあ、流石に未成年にそういうのはないよね……」
「さて。」
「ん?……アンバー、きみ今何を考えて、ちょっと????」
白星は嫌な予感がした。何をしようとしているか聞こうとした瞬間アンバーはその場から転移をして姿を消す。流石に言いふらすようなことはしないだろうが、彼女はマユの発言をネタにイオキベをからかうことが稀にあるのだ。
「……れ……レイゴルト、悪いけどイオキベの様子を見に行ってくれるかな」
「…………………………承知した」
レイゴルトもまた姿を消し、白星とマユ、レイジが後に残る。白星は深々と息を吐いた。レイジは何を言おうと思って此処に来たのか思い出そうとしたが、衝撃で全て吹っ飛び思い出せない。
「……きみも誤解を招くような言い方をしないでおくれ」
「ごめんなさーい……。白星さんにはこういう風に説明しなって言われていて……」
「誰に?」
「えっと……語り部って人です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
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