魔法少女パロ(?)
ここはビルの屋上。眼下では謎の巨大なロボットによって街が破壊され、人々が逃げ惑っている妙な光景が広がっていた。そして今それらを見下ろし、白衣を纏った女が堪えきれないというように身体を仰け反らせて高笑いをしている。
「ふははは!さあもっと逃げ惑え、愚かなる人類め!」
「楽しそうで何よりだ。」
白衣を纏う女の後ろで呆れたように赤い額当てをした男が腕組をしてそう呟いた。それを聞いた白衣の女はふんっと鼻を鳴らす。
「こういうノリの方が悪役っぽいだろ?」
「……。」
子供じみた発言に男がシラーッとした視線を投げてくるが、女は気づいていない。いけー!と自らの作った発明品が街を破壊していくのを囃し立てていた。
と、そのときそれが物凄い音をさせて崩れ落ちる。
「あーーっ!俺の傑作が!」
悲鳴を上げる白衣の女、発明品の方へ目を向ける男。
「くそーっまたあいつらか!許すまじ!!」
女はがしがしと頭を掻きむしり叫ぶ。倒れた機体の上には不思議な衣装に身を包んだ数名の少女が立っていた。地団駄を踏む女の横で、男は空中にウインドウを表示させて何かを確認する。そしてまた女に視線を戻すと、女の姿は既にそこになかった。
男は深くため息をつき、ビル上から飛び降りる。向かう先は少女たちのいる場所だ。
「お前ら~~~~!!!折角上手くいってたのに余計なことしやがって!」
「またあなたでしたか」
「それはこっちのセリフなんだよ!」
現れた白衣の女に対し、少女らのうち鴉のような黒い翼を生やした少女が反応を示す。その後ろでは薙刀を持った犬耳の少女が機体を解体していた。
「お前らのおかげでこっちは上から怒られてんだぞ!知ってんのか!」
「知りませんが?」
「こんにゃろ~~~!!!」
鴉の少女と白衣の女が睨み合う。それを眺めながら、兎の少女は犬の少女の手伝いに走る。一触即発といった空気の中に赤い額当ての男が現れて女を小脇に抱えた。
「おいっ!何すんだ、降ろせイグニス!」
「退くぞ」
「逃げるんですか?」
鴉の少女のセリフに男は彼女を一瞥する。しかし彼は何も言わず、未だぎゃあぎゃあ騒ぐ白衣の女を連れて姿を消した。
それを追うことは相変わらずできない。鴉の少女はため息を付いて振り向く。気づけばそこにあった機体はすっかり姿を消していて、犬の少女は尻尾を振りながら近づいてきた。
「終わりました?」
「はい!しっかりばっちしです!せんせいたちのとこ戻りましょう!」
犬の少女に手を引かれるまま、鴉の少女は大人しく歩いていく。
彼女らは魔法少女。白衣の女と赤い額当ての男が所属する謎の陣営から人々を守るために集められた、成人未満の少女たちである。
鴉の少女は振り向いた。後にはなにもない。
「……人を傷つけるのが嫌なら、何であっちにいるんだか。」
「?先輩、何か言いました?」
「いいえ、なんでも。」
「うふふ。まあた負けたのですね」
くすくす、くすくす。闇の中から少女の笑い声が響く。白衣の女……コメットは無表情のままそれを聞いている。
やがて足音が聞こえると、金色の髪を二つに結び、扇情的な衣装に身を包んだ少女が闇の中から現れた。その背後に、姿こそ見えないが赤い髪の男が立っているのをコメットは知っている。……そして彼もまた、自分たちに対してあまり良い感情を抱いていないことも知っていた。
「我々の使命は無意味に建造物を破壊することではありませんのよ、人魚の魔女。」
少女は青黒い瞳をちらりと赤い額当ての男に向け、そしてまた白衣の女を見る。背中側で手を組み、こてんと愛らしい仕草で首を傾げた。
「それで……今回はいくつ魂を回収なさったのですか?」
「……」
白衣の女は沈黙を貫いている。くすくす、くすくす。少女は笑い声をまたあげた。馬鹿にしているような嫌な笑い声だ。赤い額当ての男が眉をひそめるが、お構いなしに少女はにっこりと笑う。
「あら、一つも回収なさっていないのですね。小娘如きに手こずるだなんて、魔女の名が泣きますよ。……まあ、いいでしょう。ぼくとぼくの可愛いダークローズはちゃーんと回収ができましたので。」
少女は振り向き、無言のまま立っている赤髪の男に擦り寄る。彼は少し……否、大分嫌そうな顔をしたが、諦めているのか抵抗をしない。少女は恍惚とした表情で男の首筋に顔をうずめ、ちらりとコメットを横目で見た。
「次はどうぞ、頑張ってくださいね。ふふふ。」
少女は翼を広げ、数枚の羽根を残し男共々姿を消す。地面にゆらゆら揺れながら落ちていく羽根を見つめ、コメットは強く拳を握った。
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