おでかけ

チカゲとアスターが手を繋いでソウリュウ上部の街を散歩している。群の施設の中だけでは運動不足になるだろうと訴えたチカゲにより、アスターは今施設の外にいた。

チカゲは特に普段と変わったところがないが、アスターは邪魔になってしまうからと人間に擬態している。二足歩行の彼を初めて見たときこそギョッとしたが、今はチカゲも慣れていた。

そうしてしばらく歩き、あまり変わらないソウリュウの街を眺める。それからただ歩くのも味気ないかと思い至り、口元を着物の袖で隠すとアスターを見上げた。


「折角お外出たんですしぃ、行きたいところとかないんですかぁ?」

「……私はチカゲが行きたいところならどこでも。」

「そういうと思いましたよぉ。」


まあ、自分が無理を言って連れ出したしそうなるよなと思いながら、チカゲは前を向く。……。

周囲から視線が集まっている。しまったとチカゲは眉根を寄せた。彼自身はもうとっくのとうに慣れていたし、イケメンを妬ましい心持ちでしか見れないのですっかり忘れていたが、アスターは顔が非常に良いのである。男女ともに陶然とする美貌というやつである。しかも背が高いと来た。これだからイケメンは。

チラチラとアスターのことを見ている通りすがりの人々を見ながら、思わず吐きかけたため息を飲み込む。居心地が悪い。チカゲの長い兎耳に、少女らの押さえきれない黄色い声が聞こえてきた。

なんだかとっても不愉快になったチカゲは目を細め、アスターの手を引いて来た道を戻り始める。


「帰りますよぉ」

「?わかった」


不機嫌な様子のチカゲに手を引かれて、不思議そうな顔をしたままアスターがついて行った。

部屋に戻るなり、チカゲはアスターの顔を見上げてじとーっとした視線を向ける。アスターが首を傾げるのを見ながら、チカゲは口元を隠したままため息を付いた。外出すると決まった時点から歩いている最中はいつもの様子だっただけに、アスターは不思議に思い口を開く。


「不機嫌そうだな。」

「……唐辛子さんがぁ、あんまりにも女性の視線を集めていたのでぇ……ちょっと不愉快でしてぇ……」

「……つまり嫉妬――――」

「違ぇよ馬鹿!!!!帰る!!!!!!」


図星だったのか半ば被せるように叫び、真っ赤な顔のままチカゲは部屋を飛び出していく。物凄い勢いで出て行ったチカゲに呆気に取られ、とりあえずと扉の向こうにアスターは顔を出した。

逃げ足が早いと言うか何というか、もう廊下の向こうの方にチカゲの背中がある。それを眺めてからアスターは部屋に戻り、次外出するときのために顔を隠すものを用意することにした。

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