蝶よ花よ< 7 >
プリマはキショウを見下ろしたまま静かに考え込んでいた。キショウは啜り泣いている。震えが止まらない。たっぷり三分思考して、プリマは口を開いた。
「そう思いたいなら、あんたの姉のフリをしてその妄想に付き合ってあげてもいい。」
キショウが何度も瞬きをする。ドレスの裾を掴む手に更に力がこもり、シワが寄った。それを見つめながら、彼女は言葉を続ける。
「でも」
キショウの手が僅かに跳ねた。
「あんたの姉がそれを見てどう思うかわかる?心配にならないと思う?」
そんなに薄情な人だった?と問われ、キショウは何度も首を横に振る。そうだろう、そのはずだと姉のフリをしていた女は心の中でつぶやく。
「あんたがそんなんじゃ安らかに眠れないわよ、いい加減寝かせてあげたら?」
薄紅色の瞳が橙の瞳を見上げる。戦慄く唇が数度開閉し、ぐっと彼は下唇を噛んだ。
「……姉様に、僕は、迷惑を……?」
キショウはゆっくりと俯く。沈黙が落ちた。とても長い沈黙だ、それでもプリマは微動だにせずキショウの選択を待っている。
「姉様も、あいつも」
やがてキショウは整理するように言葉を吐く。
「……もう、死んでて。……君は、姉様じゃ、ない。」
受け入れてもひどく痛むのか、苦しみに喘ぐような吐息が漏れ、キショウは一度口を閉じた。すぅ、と何度も呼吸を繰り返し、また口を開く。
「姉様に、迷惑は、かけられない」
キショウは顔を上げた。紅くなった目元と、薄紅色の瞳が見える。そこには確かに正気が宿っていて、姉様ではなくプリマのことを映していた。
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