蝶よ花よ< 4 >

何度目だっただろうか。何回彼の心を慰めようと姉のフリをしただろうか。どれだけ厚かましくも愛を求めただろうか。


はてさて、何がきっかけだったのだろう。


乾いた音が鳴っていた。手がじくじくと熱を伴う痛みを発している。数度に渡って頬を殴られ、まあるく薄紅色の瞳が驚愕に開かれていた。


「ねえ、さま?」


あどけない子供の声が落ちる。幸いにしてこの場には姉のフリをしていた女と幸せだった青年しかいない。何が起こっても野次馬を集めることはないだろう。


「いい加減にして」


声が震えるほどの怒りや悲しみを感じたのは二度目だった。

彼女は怒りという感情が好きだ。怒っているときだけは自分の意志を強く感じることが出来る。だけど、今は、死ぬほどそれが嫌だった。

一度口から出た言葉は戻らない。


「いい加減に、して」

「ねえさま?何を」

「私はあんたの姉じゃない!」


悲痛な叫びがキショウの鼓膜に突き刺さる。唖然とそれを聞き、姉様、何をと尋ねようとして、頭を強く殴られたような痛みを感じた。呻く。お構い無しにプリマは続ける。


「私にあんたの姉を重ねないでよ、失礼だと思わないの!?私はあんたの姉じゃない、わかる!?」


キショウの唇が戦慄く。気づきたくない、気づいてはいけないと目の前に立つ姉であるはずの女性から目を逸らした。


「戯言を、」


声が震えるのは驚きのせいに違いない、キショウは数度激しい呼吸音をさせた。これは姉様の悪い冗談だ、そうに違いない。そう思う度にふっと何かがよぎる。

_______姉様は、僕が本当に悪いことをしたときしか、手をあげなかった。

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