蝶よ花よ< 1 >
女は泣きじゃくっている。それは紛うことなき恋心であった。しかしその向かう先にいる人物は、またも女を女以外の存在に重ねていたのである。
女は模造品だ。
産まれた時からそうなるように決められていた。口にするもの、身につけるもの、髪型、はたまたその右の目の無事さえも、父の愛する少女と同じように変えられた。
しかし女は人間。少女の姿で魔族になった本物と違い、成長をしていく。父親は落胆した。かの少女と同じにならなかった作品に失望した。
女は知らない。父親の死因、そのわけを。
知らぬが仏、女は知らぬ。
自分がこれからどうすべきで何をしたいのか、父が何に魅せられ、何故病的なまでに自分という人形を作り上げようとしたのか。
わからぬなりに生きてきた。父の望んだ通りにならぬよう、細心の注意を払って生きてきた。
自らの本物を見て敵意を抱き、自らの心の有り様も理解することが出来た。
そこで満足すればよかったと、女は泣きながら考える。
閑話休題。
今では何が初めだったのかなどわからない。しかし、彼は他の誰よりも女にとって魅力的な存在に見えた。話しているととても幸せになれる。未だ夢に出てくる父の影に怯えることもなかった。
なればこそ、彼女は彼にのめり込む。愛してしまった。
今日は会えるだろうか、会えたら何を話そうか、なんて、とりとめのないことを考えながら女は笑みを浮かべる。油断をしていたのだ、気が付かなかったのだ。
アケノキショウがいる。プリマは心底嬉しそうに、花の咲くような笑みを浮かべて彼に話しかけた。彼はプリマを見るなり微笑む。それだけで恋する女は舞い上がった。そして。
「姉様!」
……はて。
今、彼は自分のことをなんと呼んだ?
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