利害の愛< 1 >

「お前が俺に絶対的な忠誠を誓っている間は愛してやる」


愛という言葉を口にするには、その人の瞳はあまりに冷たい色をしていた。




ぼくは魔族である。

そしてぼくの唯一の人は、人間以外を愛せなかった。

どうしてか、と言われても、その人はそういう風に育ったのだということしかできない。

ただ、どんなに考えてもぼくが魔族でマスターが魔族を愛せないという事実は覆らなかった。

だから、そう、ぼくは自暴自棄になっていた。

ぼくの唯一の人は嫌悪を滲ませてぼくを見ている。

それなら、今更良い子でいたってそこらの空気と変わらない。

ぼくはマスターの心に自分という存在を知らしめたかった。

だからぼくは今、寝ていたマスターの上に跨っている。

彼は起きていた。

寝ているフリをしていたのか、ぼくが来たことで目が覚めたのかはわからない。


「何をしている」


静かな声だった。

本当に不思議がっているようにも、咎めているようにも、どちらにも聞こえない。

ただ事実確認のために淡々と口にしたようだった。


「愛されたいのでマスターに夜這いをかけようとしていました」


恐らく嘘をついたところでバレてしまうだろう。

嘘をついた方がきっと信用を失くす。

こんなことをしている時点で、今更かもしれないが。


「そうか。」


マスターはこっくり頷いて、一度目を閉じる。

まさかこの状態で寝ようとしているのだろうか。

ぼくの考えとは裏腹に、マスターはまた目を開いた。

マスターは手を伸ばし、ぼくの胸倉を掴んで引き寄せる。

唇が触れた。

唖然とするぼくにマスターは笑みを見せる。


「お前が俺に絶対的な忠誠を誓っている間は愛してやる」


燃えるような赤い瞳はその色に反してただ冷たくて、愛なんてものは欠片も存在していないように思えた。

マスターは手を離し、ぼくの背中に手を回す。


「いいな?」


同意を求められ、一度口を開くも声が出ず、首をこっくりと縦に振ればそれで良いと頭をなでられた。

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