生かされている
ダークローズは今日も今日とて死んだ目をしている。その腹に腕を回して背に張り付いている少女が原因だ、いつものことながら。
少女が何を考えているのかが分からないのもこれまたいつものことなのだが、今日は更に分からない。
彼の力では今の少女に敵わないためしたいようにさせていたが、かれこれ数十分ほどこの状態である。彼はそろそろこれを引き剥がしたかった。
「離れろ」
振り向かずに声をかける。返答はない。いつもなら間髪入れずうるさいくらいの声量で返事をしてくるのに、今はそれがなかった。振り向く。
「おい」
またも返事はない。苛立ちに任せてその少女らしい華奢な肩を押す。存外簡単に少女は彼から離れた。
少女の青黒い瞳がまあるく開いて青年を見ている。彼女にしては珍しい無表情のかんばせは、いつだか見たことのある陶器の人形に似ていて気味が悪い。
「……なんだ?」
「……申し訳ありません、考え事をしておりました」
観察されているような不快感を感じ、ダークローズは深くため息をつくと少女に問いかける。ユイハはぱちりと瞬きをすると、静かに目を伏せて今度は返答をした。どうにも落ち込んでいるように見える。もしかするとその表情と顔の角度からそう感じたのかも知れない。
いずれにせよ彼女が彼の前で少しも顔に感情を貼り付けていないという状況は、戦闘時を除いてほとんど無かった。恐らくはこちらが素なのかもしれないが、ダークローズには興味がない。
「マスター。ユイハのことまだ殺してくれないんですか?」
長い沈黙の後、ユイハはぽつりと言った。ああそういえばそんな約束もしたかとダークローズは顎をさする。しかしそれは彼にとって彼女が不要になった時の話だ。
「……まだそのときではない」
ダークローズがそういうと、ユイハは俯く。一体何を考えているのかやはりわからない。よく手入れをされた金の髪をしばし眺めていると、やがてそれが小刻みに震え出す。そして小さく笑い声が聞こえ、青年は悪寒を感じた。その笑い声は徐々に大きくなり、彼女はガバッと顔を上げる。彼女の顔は幸せそうに紅潮していた。黒く濁っていた青い瞳は水のように澄み潤んでいる。ダークローズは胃が痛くなった。
「つまり!マスターは!!ユイハめをとても必要となさっているということで!!」
「……………………」
それは、そうだ。間違っていない。しかしそれを肯定したくない彼の気持ちがきっと分かるはずだ。ユイハは心底嬉しそうにダークローズの腕に抱きつく。彼はどっと疲労感を感じ、いつものように引き剥がすのを諦めて無言のまま歩き出すのだった。
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