とある太陽のお話

昔々、この世界が生まれるよりもずっと昔のことです。

ある国に、太陽の子と称された双子がおりました。

姉と妹という組み合わせの双子がおりました。

彼女らはとても明るく、自信に満ち溢れ、周囲の人間を明るく照らし、この世界の悪いものである竜に対抗するための兵器を作り上げました。


姉はある青年を愛していました。

妹はある青年に愛されていました。


はてさて。

優秀な片割れと同じように、妹は自信に満ち溢れ、周囲を笑顔にする力を持っていました。

しかし、それは自らの力だけではないことを彼女はわかっていました。

なぜならば、彼女の本質は一人で輝くことのできない月だったのです。


双子は生まれるときにどちらかが劣ってしまうものだと白百合が言っていました。

それを聞いた姉は、劣っている片割れは自分のことだと思いました。

それを聞いた妹は、劣っている片割れは自分のことだと思いました。


実のところ、どっちが劣っていたかは問題ではありませんでした。


姉はそれならそれで自分は努力してそれを埋めようと考えます。

しかし妹は姉を羨んでしまいました。

妹は何でも出来る姉が大好きで、大好きで、同時に妬ましかったのです。

白百合はそれを知り、妹を嗤いました。

「お前の方が出来損ないなのに、本物の太陽を羨むのか」と。

ある時、妹の生み出した彼が壊れてしまいました。

白百合はまたいいます。

「お前が出来損ないだから、彼もまた出来損ないとして生まれてしまったのだ。姉ならば、こうならなかった」と。


妹は焦り、恐れました。

それらは小さな失敗を呼び、積もりに積もって彼女の心を蝕みます。

妹はやることなすこと全てが上手くいかないと思うようになりました。

胸には鉛が詰まったような重さが常に居座っています。

彼女の世界は色をなくしてしまいました。

口にした物だって、まるで味のしない砂のようなものに変わってしまいます。


姉はそれをひどく心配しました。

妹はその心配を拒絶しました。

周りの人間も心配しましたが、妹はやはり彼らを受け入れません。

姉と青年のみが最後まで彼女を心配していました。


姉は、妹が夏の間も長袖を着ていた理由を知りません。

知らなかったのです。

だけれど、彼女は妹がそうしなければいけなかった理由を浴槽に溜まる赤色の中で知ってしまいました。


半身を失くした彼女がどんな気持ちだったのか。

それはあなたにもわからないでしょう。

ただ一ついえることとして、彼女はそれからたったの一度を除いて笑うことはありませんでした。


彼女の半身を愛していた青年はひどく嘆き、そして「どうしてお前が生きているのか」と彼女を責め立てました。

決して褒められた行為ではありません。

何もできなかったのは彼も同じです。

だけれど彼は彼女を責めましたし、彼女はそれをただ黙って聞いていました。

そんな日が何日続いたでしょうか。

青年は椅子に座って頭を抱えていました。

それを窓に腰掛けて見ていた姉は、ふわりと、久しぶりに微笑んで。そして。

濡れた麻袋が叩きつけられたような音に青年が顔を上げたとき、そこには誰もいませんでした。


こうして太陽は二つとも地に堕ちて、二度と輝くことはなくなってしまったのです。

太陽に導かれた彼らも、光がなければ前が見えません。

次々にいなくなり、最後に残ったのは青年と研究成果たちだけでした。


結論を申し上げますと、世界の敵である竜は皮肉にも妹の作り上げた「失敗作の人造人間」の少女が屠りました。


さて。

竜を殺し、神の権威を手に入れた少女は、何をしたと思いますか?

母も大事な人もだーれもいなくなった壊れかけの世界で。


……。


王を作りました。

新しい世界を守り、育む、母の役目を持った王を。

頭のどこかで少女は期待していました。

そこに自らの母が宿ることを。

けれどそこにいたのはただの幼子でした。

幼子は少女の記憶を与えられ、彼女の理想郷を作ります。

少女はとっくのとうに眠りについてしまって、理想郷ができてももう見ることができないというのに。

一生懸命、一生懸命。


さてさて、少女が生まれた古い世界。

こちらはもう壊れかけでしたが、そこに残った僅かな命たちが少しずつ、少しずつ、他の神々の力を駆りながら息を吹き返していきます。

そして堕ちた太陽のかけら達ですが。

彼女らは戯れのように拾い上げられ、新たな命を与えられ、「ミズガルド」という世界の重要な住人としての役目を与えられました。


……前までの記憶を持つのは太陽の残りから作られた天使だけです。


可哀想に、他の住人達は何にも知りません。

彼らはずっと何にも知れないまま、何も進まないまま、そこで生きるだけの道を与えられました。

時折王の生み出した世界で死したものたちを迎え入れるくらいの変化しかありません。

なぜなら、変化を与えてくれる何かはもういないからです。

こうして、彼らは永遠に幸せにくらすことになりました。


めでたしめでたし。

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