第18話 VS2000

 たった10匹の魔物でつぶせるかな? 俺と和香ほのかは、顔を見合せてニヤリと笑った。

 

 ゴンザが収納庫から魔物を出すフリをして、ヌフが巨大化する。

 

 九頭くとうのドラゴンのお出ましだ。

 

 全長が30mはあるヒュドラの出現に、闘技場は阿鼻叫喚あびきょうかんの大騒ぎとなった。

 

 胴体は四本脚で立つゴツいワニのようだが、前足が長めだ。9つの長い首があり、顔は恐竜のようにいかつい。

 そんな九頭がウネウネと動き、闘技場中をめ回す。時々、グルルルとのどが鳴る度に、チロチロと口から炎が飛び出ているさまが、魔物の凶悪さを増幅している。

 

 こんな魔物は見たことがないのだろう。

 

 最初は、度肝どぎもを抜かれたのか、観客の半分ほどが腰を抜かして、観客席からずり落ちていた。

 1本の首がゴアアア! と吠えたとたんに観客達は、我先にと逃げ出した。

 

 領主は、目が飛び出さんばかりに、瞠目どうもくしている。豚プロモーターは失神して倒れ、ナナウさんは腰砕こしくだけに座り込んだままだ。魔物の半分は、ヒュドラの出現と同時に、プチッとつぶされてしまった。勝負にならないのは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 

「領主、俺達の勝ちだ。金と命はもらうぜ」

 

 領主は、いやいやなのか信じられないのか、首をゆっくり左右に振るばかりで答えない。

 そんな領主と豚プロモーターに、ヒュドラの首がせまると、プロモーターはひと飲みにされ、領主はくわえ上げられてあばれている。

 

 ブツン!

 

 ヒュドラの下顎したあごに力が入ると、領主だったものが二つにちぎれて落ちてきた。地面に湿った音を響かせ、周囲を赤く染める。

 

 護衛兵士は驚愕きょうがくして動けないようだ。今の内にずらかった方が良さそうだ。

 

 残った魔物はおびえているが、このままにはしておけない。結局、ドガラゴとヌフに説得されて、魔導書に収まった。俺はろうせずしてゴリラ2頭、ミノタウロス2頭、白闘虎びゃくとうこのメスを得た。

 

 ゴンザが金の入ったバッグを持ってきた。和香ほのかと一緒に中を調べてニマニマしている。二人とも悪党顔だ。

 

 

 

 

 

 ヒュドラの出現が知れたのか、領主の死亡にあわてているのか、街はあわただしい雰囲気だったが、俺達はすんなり街を出て、ヘルンクラムハウスに帰ってきた。

 

 ヘルンとサマルが寄ってきて、俺の太ももをツンツンしている。何が楽しいのか理解できないが、二人は顔を見合せて、キャッキャ、キャッキャと楽しそうだ。

 

「すぐに逃げるか?」

「あんちゃん、外はもう夜だぜ。領主もいなくなったし、明日でいんじゃねえか?」

「そうよ麟太郎君りんたろうくん、悪は滅びたのだから、のんびり行きましょ」

和香ほのか、確かに悪党だったけど、人を殺したんだ。少しはあせれよ」

「契約に従ったまでだぜ。何も悪いことはしてねえ」

「そうよう、ざまあ完結したんだから喜ぶべきよ」

 

 こいつらは、間違った異世界常識に毒されてる。俺とナナウさん以外に緊張感などない。下手したら領主殺害とか、貴族殺害で国から指名手配されるぞ。

 

 

 夕食を食べた後、外に出た俺は魔導書から使い魔を呼び出した。新たな使い魔の様子を見るためだ。

 

 お控えなすってのポーズで、俺の前に現れたドガラゴ達にあきれてしまう。大きな魔物が腰をかがめて、片手をひざにつき、もう一方の手を前に突き出している。手の平を上にして、何か頂戴ちょうだいという感じだ。

 なんで異世界の魔物が、任侠映画みたいなポーズなんだよ! いろいろおかしいぞ。

 

「旦那、子分のしつけは、あっしに任せておくんなせえ」

「新しい魔物は、俺の使い魔になることに納得してるのか?」

勿論もちろんでさぁ。旦那の子分になることは、あっしらのほまれでやす」

「解放して欲しかったら、人里離れた場所で解放するから言ってくれ」

 

 誰も動かない。本人が良いなら、かまわないかと気楽に考えることにした。

 

 ヘルンクラムがミノタウロスのイナリをツンツンしたがったが止めている。ゴリラみたいな魔物と、ドガラゴ達、白闘虎びゃくとうこは体毛があるからいいが、ミノタウロスは、股間からデロンとデカいのが出ているのでマズイ。

 

「妖精さん、こいつらに服は作れるかな?」

「お任せ~、でも魔物は服を好まな~い」

「じゃあ、せめて腰ミノだけ作ってくれるか」

「あいあい~」

 

 

 翌日、晴れ渡る空に雲が流れる、気持ちの良い陽気の中、街道をヘルンクラムのボンネットバスがトコトコ走る。運転席には、ヘルンクラムとサマルちゃんが仲良く座って、運転の真似事をしている。

 

 ナナウさんの田舎は、ここから馬車で2週間ほどの距離らしい。ダンジョンのある街の近くの村だそうだ。バスは馬車より全然速いので、結構早く着きそうだ。

 ダンジョンと聞いて、和香とゴンザのやる気がすごい。俺は恐いのは勘弁して欲しいのだが、多数決でダンジョン行きが決まってしまった。トホホ

 

 

 

 出発して30分もしない内に異変があった。街道横の平原に多数の人影がある。軍隊の訓練かなと思っていたら、聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「見つけたぞ、貴様ら。今度は逃がさんぞ。領主様の軍隊で踏み潰してくれるわ!」

 

 拡声器なのか、魔法なのか、大きな声は豚プロモーターのものであった。

 

「あいつら、影武者かげむしゃを用意してやがったのか」

「契約違反じゃない。でも貴族がコスいのは異世界の常識ね。驚かないわ」

「軍隊を蹴散けちらすのは、ファンタジーの醍醐味だいごみだぜ」

 

 違うから! まったく、夜の内に逃げていれば、待ち伏せされる事もなかったのにと、今更言っても始まらない。

 

 横長に展開した軍は、2000人ほどだろうか。ゴーレムも20体ほどいる。

 

 逃げる選択肢もあるんだけど、ゴンザは青いゴーレムに、和香ほのかは黒いゴーレムに、嬉々として乗り込んでいる。ヤル気満々だ。

 仕方がないので、俺も使い魔を出す。

 

 ゴンザと和香が、ホバーの砂煙りを上げながら軍隊にせまる。ゴンザが中央、和香が左側から攻めるようだ。

 

 右側には、虎に変化へんげしたヌフと、虎人のドガラゴが突っ込む。加速魔法に背中を押され、凄まじいスピードのヌフとドガラゴを、走って追いかける新しい使い魔達。腰ミノが勇ましい。いつの間にか武器を手にしている。

 

 バスから追い出された、ナナウさんとサマルちゃんを守るべく、俺は残る。軍隊に嬉々として突っ込む勇気も度胸も俺には無い。

 

 バガン!

 

 と音がして兵士が吹き飛んだ。あちこちで人の花火が打ち上がり、喧騒けんそうが激しくなる。

 

「うわー、ゴンザ達。マジで全員殺す気でやってるよ」

「なに言ってんだい。領主達が悪いんだから自業自得じごうじとくさ。この戦力差で手加減してる余裕なんか無いよ」

「でも兵士達は、とばっちりじゃないか」

「悪党に付いちまったこいつらの運が無いだけさ。気にする事はないよ。権力をかさに誘拐したり、人を殺そうてする奴等なんて、死んで当たり前さ」

 

 

 

 横長に展開した軍隊の中央を狙って、青いゴーレムが突っ込んでいく。ゴンザとフクロウコンビだ。

 ホバーの砂煙りを上げていたゴーレムが、軍隊の20mほど手前で、加速魔法を使った。魔力を運動エネルギーに変え、瞬時に距離を詰めた青いゴーレムが、軍隊の前に展開するゴーレムにぶち当たる。

 

 すさまじい音と共に2体ゴーレムが軍隊の上に降ってくる。ここでも重量音を響かせ、兵士達を押し潰す。そして周囲の兵士が砂煙りと一緒にちゅうを舞った。

 

 青いゴーレムが起き上がる。衝突の衝撃も何のその、ピンピンしているようだ。下に転がるゴーレムは、腹部がつぶれピクリとも動かない。

 

 青いゴーレムは、周囲の兵士を無視して、敵ゴーレムに魔法を撃った。腕から雷撃の閃光せんこうがほとばしる。

 カミナリがバリバリと水平に走り、敵ゴーレムに当たると、轟音と煙りを上げてゴーレムが崩れ落ちた。

 

 何体かのゴーレムをつぶしたゴンザが、軍隊の後ろに張られた天幕に近づくと、豚プロモーターの姿が見えた。

 

「よう、悪党。また会ったな」

「き、貴様、私に手をだ……し」

 

 豚は最後までしゃべることは無かった。「じゃあな」とつぶやいた青いゴーレムの腕に叩きつぶされたからだ。

 

 

 

 軍隊の左側を狙って黒いゴーレムが突き進む。和香ほのかとヘルンクラムだ。

 軍隊の兵士が槍を構える前には、敵ゴーレムが数体見える。軍隊の10mほど手前で、黒いゴーレムは跳ねた。

 

 加速魔法により、魔力を膨大ぼうだいな運動エネルギーに変え、ビュンと斜め上に飛んだ黒いゴーレムが、軽々と敵ゴーレムを飛び越えて、兵士達の上に降り立つ。

 ズズンと重量音を響かせて着地した黒いゴーレムの周囲が地獄と化した。

 

 着地の衝撃で、砂煙りと共につぶれた肉片と人間が吹き飛ばされて、爆発が起こったように宙を舞う。

 

 黒いゴーレムは、クルリと振り返りざまに加速して、瞬時に敵ゴーレムの横をすり抜ける。加速に巻き込まれた兵士がまた吹き飛び、阿鼻叫喚あびきょうかん惨状さんじょうていしている。

 敵ゴーレムの横をすり抜けた黒いゴーレムは、ビュッ、ビュッと腕を振るい、敵ゴーレムの足を斬る。

 

 高周波振動ブレードに足をり離された敵ゴーレムが倒れ際に、また兵士を巻き込んでいた。

 

 

 

 軍隊の右側には、ヌフとドガラゴが突っ込んだ。黄色い虎に化けたヌフが加速魔法で、黄色い弾丸と化し、敵ゴーレムを避けて兵士に突っ込む。バガンと音がして、数十人の兵士が空を舞った。

 同時に兵士に突っ込んだドガラゴのところでも、多数の兵士が吹き飛ばされている。

 

 ヌフが口から炎ブレスを吐き、敵ゴーレムに火炎を浴びせる。周囲の兵士を巻き込んだ大量の火炎により、敵ゴーレムは体の一部を溶かしながら崩れ落ちる。操縦者は蒸し焼きであろう。

 

 ドガラゴは、高周波振動ブレードで兵士達を斬りまくっていた。ドガラゴの手刀がビュッと空を斬ると、当たってもいない周りの兵士が、スパスパと斬り伏せられ、血飛沫ちしぶきが舞う。

 

 やっと到着した新人使い魔達も、兵士達に攻撃を加え始めた。元々強い魔物なので人間など単体ではかなわない。

 連携れんけいしようにもドガラゴとヌフが暴れているので、連携などできない兵士達が、次々と魔物にもやられていく。

 

 食いちぎられ、引き裂かれ、武器で叩かれ、すべがない。

 

 ヌフの四尾が光った。4本の尻尾から風の刃が放たれ、敵ゴーレム目掛めがけてばく進する。敵ゴーレムは、手足を斬り落とされてズズンとしずんだ。

 

 

 

 そんな中、麟太郎達に近づくゴーレムがあった。

 

 

 

 

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