第19話 導き手

 そんな中、麟太郎りんたろう達に近づくゴーレムがあった。

 

 やけに豪華なゴーレムが、砂煙りを上げながら近づいてくる。ロボットアニメなら隊長機と言ったところか、もしかしたら領主が乗っているのかもしれない。

 

「ナナウさんとサマルちゃんは、離れていてくれ。妖精さん、ナナウさん達を守ってくれるか」

「かしこまり~」

「ちょ、あんたも逃げるんだよ。ゴーレム相手に時間稼ぎも何もないだろう」

「いいから、早く逃げてくれ」

 

 ナナウさんが、渋々しぶしぶ、俺から離れていく。

 

 俺は、こちらに殺気を放つゴーレムに向けて、エアシールドを飛ばした。

 エアシールドは空気を固めた盾だ。これを加速魔法で加速して飛ばす。畳一畳たたみいちじょうほどの分厚ぶあつい氷が飛んでいくと考えたらいい。そんなものがカウンターでぶち当たれば、ゴーレムだってダメージを受ける。

 

 ゴガン!

 

 走り来るゴーレムにエアシールドが当たり、のけ反りながらバランスを崩す。フルスピードのトラックが壁に激突するようなものだ。その衝撃ははかり知れない。

 

 バランスを崩したゴーレムが倒れて、地面を滑りながらゴロゴロと転がる。

 

 やっと止まったゴーレムが、フラフラと上半身を持ち上げたところに、雷撃が突き刺さる。水平にバリバリと走るカミナリがゴーレムに当たって、轟音を発した。

 ゴーレムの外装が黒焦くろこげとなり、シュウシュウと煙りを上げている。

 

 乗り込み型のゴーレムは、一部に機械が使われている。電気で動くわけではないが、雷撃の魔法は良く効くようだ。操縦者も感電したようで動きが止まった。

 

「俺達を人質ひとじちにでもするつもりだったらしいが、お生憎あいにく様だな。ゴーレム対策なんか、とっくにできてるんだよ」

 

 動かないゴーレムに油断なく気を配りながら、つぶやいた。そんな俺に近づく物体がさらに現れた。

 

「麟太郎く~ん」

「旦那~」

 

 和香ほのかの乗った黒いゴーレムと、ドガラゴが加速しながらやってくる。助けにきたようだ。

 

「麟太郎君、ゴメンね。大丈夫だった?」

「旦那、すいやせん」

「ああ、何とか大丈夫だ。そっちは終わったのか?」

「ヌフとゴンザさんが残敵掃討ざんてきそうとうしてるわ。もう少しで終わると思う」

「ドガラゴ、ゴンザ達にゴーレムは回収してくれって伝えてくれ」

「わかりやした」

 

 ドガラゴがまた加速しながら走っていく。良く魔力がなくならないなと、感心してしまう。やはり何度も進化した魔物はすごいんだな。

 

 和香が、俺が倒した豪華なゴーレムの背中を開けて、操縦者をつまみ上げた。「やはり領主ね。でも死んでるわ」と地面に寝かせる。

 

「死体はどうするかな。墓でも掘るか?」

「このままでいいわよ」

「そいつを殺した俺が言うのもなんだけど、いくら敵でも可哀想かわいそうだろ?」

 

 自分を守るためとはいえ、人を殺したんだなと改めて感じた。

 

「何を言ってるの? 私は怒っているのよ。強引な手を使って、私達を殺そうとした奴に、情も慈悲じひも必要ないわ。生きたまま捕らえて、きにしてやりたかったくらいよ」

「わからんでも無いけど、あわれみは必要だぞ」

「そういうのは、仲間内で分け合うものよ。悪党には必要ないわ。優しさは美徳だけど、使い所を間違えるとつけ込まれるわよ」

 

 ナナウさんも、その通りだとうなずいている。他人に非情になる必要はないが、悪党には非情に接しないと、こちらの命がむしり取られる。と悲しそうに言った。

 

 何かそういう目に会ったんだろうな。俺の感覚からすると、そこまで非情にはなれないけど、経験者の話は重い。異世界には異世界の常識があると、きもに命じておこう。

 

 しかしいろいろ考えさせられるな。俺の優しさは、自己満足なんだろうか。殺しておいて、こんな事を言うのは偽善なんだろうか。

 ヘルンクラムやサマルに、非情な場面を見せたくないと思うのは甘いのだろうか。和香やゴンザに比べて覚悟が足りないのだろうか。

 少し考えてみる必要がありそうだ。

 

 日本にいた頃は、食べるために動物を殺す行為を実行することも、実感することも無かった。身を守るために他人を殺すことも無い。

 こっちでは、食べるために自分で魔物を殺し、殺されかけたから人を殺す。

 

 当たり前のようで釈然しゃくぜんとしない。

 

 日本の常識だと、殺すこと自体がダメなんだから矛盾してしまう。でも殺気を放ったゴーレムが近づいてきたら、話し合いで済むわけないよな。

 

 混沌こんとんを好む悪魔が作った世界……なかなかヘビィだ。

 

 

 

 

 

 ゴンザ達が帰ってきた。使い魔をねぎらい魔導書に送還する。ヘルンクラムハウスで休憩しながら、今後のことを話し合うことにした。

 

「しかし胸糞むなくそ悪い奴等だったぜ」

「本当よね。ゴーレム欲しさに誘拐ゆうかいしたり、人を殺すなんて最低よ」

「外の死体はどうする?」

「ほっときゃいいさ」

「そうよう、やつらは私達を殺そうとしたのよ」

「いや、疫病えきびょうとかアンデット化とかマズイだろ?」


 気候的に腐るより乾燥しそうだから、疫病は大丈夫だろう。異世界だからアンデット化が心配だ。そんなのがあるのかさえ、わからないのだが、死体をこのままにするのはどうかと思う。

 

 そんな事を考えながら、リビングのソファーに座りお茶を飲む。なんともだるい気分だ。

 

「ほっといても、街の人間が処理すると思うわ。領主だって誰にも伝えずに来た訳じゃないだろうし」

 

 ナナウさんは、そう言った。それなら放っておくかと決まって、ホッと一息ついた時に異変が起きた。

 

 突然、部屋が白く染まったのだ。チラリと見たら、ゴンザと和香ほのかも驚いている。

 

 テーブルの上に白い光点が発生し、徐々に視界がホワイトアウトしていく。しばらくして全てが白に包まれてしまった。

 

 

 

 知ってる感覚だ。一度味わっている。日本から異世界ナラクネイダに来るときにだ。

 

「ちくしょう! エイメンの奴、またどこかに飛ばす気か。今回は2000人殺したから転移するのか!」

 

 声を出したが響かない。

 

 ほら見ろ、ほら見ろ、ほら見ろー! こうやって予期せぬ事態を引き起こして、人間を不幸のドン底に叩き落とすんだよ。悪魔は

 

 輪舞曲ロンドかよ。現象がクルクル回って繰り返される。まるで悪魔に円舞曲ワルツを踊らされてるみたいじゃないか。

 

 せっかく異世界にも慣れてきたのに……

 

 

 

 強い光に包まれた後、音が消え、気配が消え、感覚が消失した。フワリとした浮遊感を感じたような気もするが、さだかではない。

 

 どれくらいの時間が過ぎたのかもわからない。

 段々と思考が動きだす。感覚が戻り、音が帰ってきた。どこか遠くでかねが鳴っている。

 

 鐘?

 

 違和感に気づき、驚いて目を開ける。

 

 リビングじゃない。俺が立っているのは白い空間だった。

 

 横にはゴンザと和香がいる。二人とも声も出ないほど驚いているようだ。勿論もちろん、俺も驚いている。

 

「なんじゃこりゃあああ!」

 

 ゴンザが声を上げた。

 

 見渡す限りの白い空間がそこにはあった。上を向けば白い空だ。床も白い。何もない空間。

 

 さっきまで室内だったのに……

 

「また転移か? 2000人殺したから」

 

 俺は恐る恐る声を出した。

 

「わからん……」

「私も……」

 

 

 

 しばし3人でたたずんだ。鐘の音が心地好いが、何もない空間で、何をすれば良いのかわからない。

 

『……む者よ』

 

『……進化を望む者よ』

 

 頭に声が響いた。年寄りの声だ。

 3人でキョロキョロとあたりを見回す。

 

『我は進化をつかさどる悪魔、みちびき手じゃ』

「導き手?」

『ある程度の真理にたどり着きし者を導く者じゃ』

 

「進化を望むってなんだ。俺達は望んじゃいねえぞ」

「ゴンザは、宇宙に行きたいって言ってただろ?」

「ああ、でも宇宙船があればいいだけで、進化なんか関係ねえ」

「いや、宇宙船だけじゃ簡単過ぎる。エイメンがほとんどのヒントをくれた」

「じゃあ、宇宙船が簡単に手に入るのか?」

「ああ、宇宙船は簡単だ」

「別の問題があるのね?」

 

 俺は、「推測だけど」と断ってから話しをした。地球から宇宙に行くのに問題なのが宇宙放射線だ。これを完璧にふせがないと身体に影響がでる。

 たぶん、この世界でも同じなんじゃないかと思っている。そして、それを解決するカギが、進化にあると思う。

 

「進化すると宇宙放射線の影響を受けない身体になるとかありそうじゃん。宇宙服じゃ動き辛いし、根本的に変えないとダメだと思う」

「ご都合主義的なやつね」

 

』(正しい)

 

 あと時間的な問題もある。宇宙は広い。普通に移動していたんじゃ、隣の星に行くまでに寿命が来てしまう。

 

「漫画に出てくるワープみたいな、次元転移ができないと、宇宙旅行は無理だと思う」

「あんちゃん、それはどうするんだ?」

「わからない。進化特典で次元転移ワープの魔法をくれたりしないかな?」

 

『是』

 

「「「くれるのかよ!」」」

 

「じゃあ、あんちゃん。進化はどうやるんだ?」

「魔法陣の成長がカギじゃないかと思っている」

 

 俺達の脳は、エイメンによって、この世界に適したものに改造されたらしい。脳を改造と言うと少し恐ろしいが、魔法が使えるようになったのと、言語情報をり込まれたくらいのようだ。

 

 魔法を使えるようにするために、脳に特殊な魔法陣が刻まれたのだ。この魔法陣は魔法を使うと成長すると言う。その成長が進化に関係すると思うのだ。

 

『是』

 

「はあー、お前、何者だよ」

「麟太郎君、天才ね。ほとんど当たっているじゃない」

「エイメンが全部しゃべっていたじゃないか」

「宇宙船は、どうやって作るんだ?」

「ゴーレムの変形を使って形を作り、動力は加速魔法さ。魔力を運動エネルギーに変えればいい。空気とかも魔法だな。火も水もだし、食料は宇宙船で野菜作るとか、家畜飼うとかしないとな」

 

『是』

 

「魔力不足にならないのか?」

「大きな魔石を用意すればいい」

 

『是、大きな魔石、すなわちダンジョンコアを集めるのじゃ』

 

「じゃあ、ダンジョンで魔法をたくさん使って進化を目指し、ダンジョンコアを集めれば良いのね」

「ああそうだ。あと乗り込み型のゴーレムも、ダンジョンで探す。宇宙船の材料さ」

「進化すれば、放射線に耐える身体と転移魔法が手に入るってことか。気合い入るぜ」

 

 

『では、進化の準備が整ったらまた会おう』

 

 

 俺達は、夢から覚めるように、ヘルンクラムハウスのリビングにいた。時間も経っていなかった。ナナウさんも、ヌフも気にした様子は無い。なんか不思議体験したようで、3人で顔を見合せてクスリと笑ってしまった。

 

 

 エイメン様、また悪魔をディスってしまいました。ゴメンなさい。

 

 

 

 

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