第17話 遊戯

 ゴーレムバトルの後、ゴンザ達は報酬をたっぷりもらい、和香ほのかは掛け金をたんまり受けとる。

 豚プロモーターがゴネるかと思ったが、素直に報酬を支払ったらしい。

 

 大金持ちになった俺達は、ナナウさんにもたんまり報酬を支払って、宿の食堂で祝勝会を開こうという話しになった。

 ナナウさんは、一端家に帰って子供を近所にあずけてくると言う。先に始めててくれと言って別れた。

 

「それじゃあ、ゴンザの勝利を祝してかんぱ~い!」

「「かんぱ~い!」」

 

 んぐんぐんぐ、プハーッ!

 

「勝利の美酒は、うめぇ!」

「しかし、ゴンザのプロレスショーは面白かったな」

「私も今度出ようかしら。ゴーレムでパワーバトルなんて気持ち良さそうだわ」

「スカッとするぜ」

 

 そんなところに、ナナウさんがあわてて駆け込んできた。相当、あせっている感じだ。

 

「あたいの娘が……」

 

 ナナウさんがテーブルに書簡を置く。書簡を開くと、

 

『娘は預かった。明日の朝、闘技場にやつらを連れてこい。領主との決闘を言い渡す。断れば娘の命は無い』

 

 と書いてあった。負けた腹いせに報復するつもりだろう。

 

「うわー、決闘で私達を殺すつもりかしら。ゴンザさんを殺して、ゴーレムをうばうとか言ってたわよね。本当、貴族は馬鹿ねぇ」

「和香、不謹慎ふきんしんだぞ。ナナウさんを巻き込んでいるんだ。笑い事じゃない」

「ごめんなさい。ナナウさん」

「いや、あんたらは悪くない。ただ……」

 

 ただ貴族の決闘は、剣での勝負ではないらしい。ランチャゴと言う遊戯ゲームで、お互いの欲しい物を賭けて戦うのだとか。

 

「俺達が行くのはかまわないぜ。だがな……」

「行ってくれるのかい?」

「ナナウさん、俺達が行っても素直に娘さんを返してくれるとは限らない。ここは夜の内に娘さんを助け出して、逃げる方がいいと思う」

 

 ゴンザと和香も賛成だと言う。俺はみんなを置いて、一端部屋に戻った。ヌフとフクロウさんを連れている。魔導書からドガラゴを呼び出し説明する。

 

「ドガラゴとヌフとフクロウさんには、ナナウさんの娘を探してきて欲しい。匂いで探せるか?」

「大丈夫にゃ」

「夜だけど、ドガラゴは人間に見つからないすべは持っているか?」

「旦那、あっしは魔物ですぜ。気配くらい消せまさぁ」

 

 そう言ったドガラゴの大きな身体が、空気に溶けるように消えてしまった。魔物は恐いなと改めて感じた。しかし今は夜だし都合がいい。

 ヌフは、一番怪しい領主の屋敷。ドガラゴは、豚プロモーターの屋敷、フクロウさんには闘技場を、まず探ってもらう。そこにいなければ、全員で街中しらみつぶしに探すしかない。

 

「使い魔を捜索に出した。すぐに見つかるといいけど」

「そんなに簡単に見つけ出せるのかい?」

「わからないけど待つしかないな。ちなみにランチャゴってどんなゲームなんだ?」

 

 ランチャゴは、闘技場を出発して、近くの森で魔物を捕まえてくるゲームらしい。生きて捕まえてきた魔物を戦わせて、勝った方が勝者となるそうだ。

 なるべく強い魔物を、きの良い状態で連れてこなければならない。

 

 そして領主は軍を使って、すでに魔物を用意しているだろうと、ナナウさんは言う。近くの森に隠した魔物を、参加者が引き取りに行くだけのインチキ勝負を吹っ掛けるつもりだ。

 

「ふーん、負けようがないな。勝負に乗ってみるか」

「どういうことだ、あんちゃん」

「まさか領主から魔物を奪うつもり?」

「いや、もっと簡単に勝てるよ」

 

 勝てるんなら、領主の鼻を明かしてやろうということになった。

 食事をしながら、明日の打ち合わせをする。一時間ほど経った頃、ヌフが帰ってきた。

 

「見つかったか?」

「部屋に連れてきたにゃ」

 

 なんとヌフは、娘さんを探すだけではなく、助けて連れてきたと言う。領主の屋敷の地下牢ちかろうにいたらしい。土魔法で、娘さんそっくりのダミー人形を作って置いてきたそうだ。有能過ぎるだろ。

 

 みんなで部屋に行くとベッドに娘さんが寝かされていた。誘拐犯に魔法で眠らされたようだ。

 ナナウさんは、娘さんの寝息を聞いて安心したのか、涙を流していた。

 

 明日は、ゲームが終わったら街を出るつもりだ。ナナウさんも田舎に帰ると言う。元々そうする予定だったらしい。親子二人旅だと心配で、なかなか踏ん切りがつかなかったそうだ。俺達が送れば安全に旅ができるだろう。

 そんな、しんみりした空気の時にドガラゴとフクロウさんが帰ってきた。ヌフが念話で呼んでくれたみたいだ。

 

「なっ、白闘虎びゃくとうこ

 

 ナナウさんがドガラゴを見て腰を抜かしていた。俺の使い魔だと紹介して、娘さん捜索をしていたと言ったら、ナナウさんがドガラゴに、恐る恐る礼を言っていた。みんなクスクスと笑ってしまう。

 

 ドガラゴを魔導書に戻し、ナナウさんは家の荷物を整理しに帰る。和香も手伝いに行った。荷物はそれほど多くないらしい。収納庫に仕舞えば持てるそうだ。家は借家だから、金さえ払えばどうとでもなる。

 急な出発だが仕方がないと、ナナウさんは気丈に笑っていた。

 

「まったく、ゴンザが豚プロモーターをあおるから、ナナウさんに迷惑が掛かったんだぞ」

面目めんぼくねぇ」

 

 

 

 

 

 翌日、俺達は宿を出て闘技場に向かった。気持ち良く晴れた空に風が舞い、どこからか花の匂いがただよっている。最高の朝なのに、気分は悪い。あの豚プロモーターと領主は、きっちりお仕置きするつもりだ。

 

 ナナウさんの娘のサマルちゃんも、朝には普通に起きてきた。誘拐の件は覚えていないらしい。朝起きたら宿だったので驚いていたと言う。娘さんにはヘルンクラムを付けて、部屋から出ないように言っておいた。妖精さんもいるから大丈夫だろう。

 

 俺達とナナウさんが闘技場に入ると、観客席はたくさんの見物客であふれている。昨日の今日で、これだけの客を集めるとは、豚プロモーターは無駄に有能なようだ。

 

「貴様らは、領主様の怒りを買った。青いゴーレムを献上けんじょうするなら許してやる。さっさと謝れ!」

 

 豚プロモーターが偉そうにブヒブヒ言っている。

 

「俺は、へなちょこチャンプをやっつけただけだぜ。この街のレベルが低いのがバレちゃったのが、気に入らねえのか?」

「貴様、まだ減らず口を叩くか」

 

 貴賓席きひんせきの豪華なイスから立ち上がった領主が手袋を外し投げる。領主の近くの床に手袋がパサリと落ちた。決闘の作法なのか?

 

「領主様が決闘を所望しょもうだ。断ったらわかっているな」

「決闘ってなんだ? 野球拳でもやるのか?」

 

 ゴンザがとぼける。決闘と言えばランチャゴに決まっておろう。と豚プロモーターが怒鳴り、夕方までに魔物を捕まえて戻ってこいと言っている。

 

「領主様は、青いゴーレムと貴様らの命をほっしている」

「俺は、1億ゼニとお前らの命だ」

「契約はされた。決闘の開始だ」

 

 うおおおお!

 

 観客席がき立った。十数年ぶりに行われる決闘に興奮しているみたいね。とナナウさんが言う。

 領主の代理としてゲームを行うらしい5人の兵士達がいさんで闘技場から出ていった。

 

 どうせ茶番だけど、形だけでも魔物を捕まえにいくようだ。俺達も適当に時間をつぶさなければならない。

 

 ナナウさんと和香ほのかは、サマルちゃんとヘルンクラムを連れて、ご近所に挨拶回りに行く。街を去る報告などをして、昼頃に合流する予定だ。

 サマルちゃんが、領主達に見つかると面倒なので、和香とヘルンクラムが護衛として同行している。

 

 俺とゴンザは、街を出て魔物を捕まえに行く。尾行もついているようなので森でまくつもりだ。

 

 

 

 昼になり和香と合流した。

 

「和香、そっちは問題無かったか?」

「ええ、尾行はいなかったみたいね。妖精さんが見張っていてくれたわ」

 

 俺達は街道沿いの森で合流して、ヘルンクラムハウスを展開して休んでいる。少し森に入ったところなので、人には見つからない。

 

「こっちは、森の中で何度か襲われたよ。ゴンザにボコられてたけどな」

「権力者の放った暗殺者に、闇討やみうちされるなんてファンタジーねぇ」

「異世界の醍醐味だぜ。楽しませてもらった」

「違うからー! お前らのファンタジー感は間違ってるから!」

「そうかしら」

「そんなことねえだろう」

 

 なにこの感じ。2対1で俺が間違っているような雰囲気じゃん。おかしいだろう!

 

 昼食を取りながらそんなことを話した。

 ヘルンクラムとサマルちゃんは、すっかり仲良しになっている。妖精さんの作ったパンケーキにみつをたっぷり掛けて「美味しいねぇ」とうなずき合っている姿がかわいい。

 

「あんたらは何者なんだい。ザスガルドをあっさり倒しちまうし、娘も簡単に助けだした。領主相手にも一歩も引かない。悪魔様なのかい?」

「俺は、ただの悪党だぜ」

「私は、トラブル好きの可憐かれんな乙女よ」

「俺は、こいつらの保護者役にされた不幸な男だ」

「「「はははは!」」」

 

 このあと、笑い事じゃないとナナウに怒られた。

 夕方まで時間をつぶし、早めに闘技場に行った。ヘルンクラムとサマルちゃんはお留守番だ。

 

 

 

「良く来たな。さっそくお互いが捕まえた魔物を戦わせるとしよう」

 

 豚プロモーターが手を上げると、10人ほどのローブで顔を隠した男達が、次々と収納庫から魔物を出す。

 魔物が登場する度に、観客席が騒がしい。

 

 毛の長いゴリラのような魔物が多くいる。足が短く手が長い、そして身長が3mほどもある強そうな魔物だ。

 6頭ほどが、フーッフーッと鼻息荒く現れた。今にも暴れだしそうだが、男達になだめられている。

 

 首輪が魔導具らしく、魔法で言うことを聞かせているとナナウさんが教えてくれた。

 

 3頭いる牛頭の魔物も同じくらいの身長だ。興奮してヨダレをき散らしながら吠えている。ミノタウロスだろうか?

 そして1体だけ知ってる魔物がいた。白闘虎びゃくとうこだ。ドガラゴとは違いメスのようだ。

 

 やはり魔物を事前に用意していたようだ。あんな短時間で、これだけの魔物を従わせるのは難しいだろう。男達は調教師か何かのようだ。

 

 強そうな魔物に観客が興奮している。その気配を感じた魔物も興奮しているようだ。

 匂い、殺気、ざわめき、うなり声などが合わさって、闘技場が異様な雰囲気に包まれている。

 

 グアアアア!

 

 突然のえ声と共に空気が震えた。俺が呼び出したドガラゴが、出てくるなり威圧を放ったのだ。

 突然のことに俺はビクッとなり、闘技場の観客席も、他の魔物も静まり返っている。

 

「なんだいきなり、ビックリするだろう」

「旦那、すいやせん。騒がしいもんで少し静かにしてもらいやした」

「白闘虎のメスがいるぞ。嫁にどうだ?」

「まだ若いですね。弱そうだしダメでやす」

 

 どうやら、森のぬしになるほどのドガラゴとは釣り合わないらしい。

 

「な、なんだ。まさか白闘虎を捕まえてくるとは思わなかったが、白闘虎ならこちらにもいる。1匹だけなら負けはせん」

「もう1体いるが出していいのか? 魔物がすっかりビビってるようだぜ」

 

 ドガラゴの登場に領主側の魔物達は、おびえてしまったようだ。人間と違い、魔物は相手の力量を読むのにけている。ドガラゴの強さを肌で感じたのだろう。すでに勝敗は決まってしまったようだ。

 

「ふん、早く出せ。たった2匹など数で押し潰してやるわ」

 

 

 たった10匹の魔物でつぶせるかな? 俺と和香ほのかは、顔を見合せてニヤリと笑った。

 

 

 

 

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