第15話 街

 翌日、俺達は、ヘルンクラムのボンネットバスで街に向かっている。

 

 今日も天気が良い。ポカポカと暖かい日差しを受けて、うとうとと微睡まどろんでいると、和香ほのかり起こされた。

 

麟太郎君りんたろうくん、街が見えてきたよ」

「んあ? ふぁああ」

 

 森を抜けた先に平野があり、大小様々な家が建ち並んでいる。この世界の人間はどんな人達なのだろうか。

 

 のんびりトコトコとバスが走る。周りには馬車や徒歩の行商人や旅人が歩いている。素朴な田舎道といった感じだ。人間も素朴そうな人が多い。

 

「これぞファンタジーって感じの街並みだな」

「白人系の顔立ちね。私達みたいなアジア系は目立つかしら」

「ゴンザの悪党顔は間違いなく目立つな」

「「「あははは」」」

 

 街の入り口で身分証などを見せて審査を受ける。滞在許可をもらって街に入った。バスのままで街に入っても大丈夫らしい。意外と驚かれなかった。ゴーレム動力は一般的ではないが、珍しいものでもないようだ。

 

 さっそく宿を取り、観光に出かける。石畳の街路沿いに商店や屋台が並ぶ、活気のある街だ。

 

 身長190㎝のマッチョなゴンザと、身長150㎝の華奢きゃしゃな和香が前を歩き、身長180㎝の俺が続く、みんなエイメンにもらった地味なローブ姿だ。ローブの中は日本で着ていた服を着ている。

 

 俺の隣には身長100㎝のヘルンクラムが、手をつないでキョロキョロしており、ヌフは和香の肩に乗っている。フクロウもゴンザの肩に止まっており、目を閉じて大人しい。ドガラゴは当然、魔導書の中だ。魔導書の中にいる間は腹も減らないし、魔力供給も必要なく放置で良いそうだ。

 

 そして俺達の周りを家妖精がプカプカ浮かんでいる。家妖精は、俺達以外には見えないようだ。必要な食材を見つけるとフラフラと出店に立ち寄り、俺達を手招きする。

 

 

 

 街外れに、一際大きな石造りの建物があった。円形のコロッセオのような建物だ。どうやらここでゴーレムバトルが繰り広げられるようだ。

 中を見学したが、段々に設置された観客席に囲まれた中央に、かなり広い闘技場があり、毎日のようにゴーレムバトルが行われているそうだ。

 

「バトルは夜やるようね」

「夕食の後に見にこようか」

「誰でも出られるのか? 俺も戦ってみてえぜ」

「宿の人にでも聞いてみよう」

 

 そんなことを話ながら闘技場から出ると、女性に声を掛けられた。

 

「あんたら、バトルに興味があるのかい」

「ああ、ちょっとな」

 

 スタイルのいい女性を見て、ゴンザがニヤニヤしながら答える。

 

「あたいは、ナナウだ。フリーのマネージャーさ。あんたみたいな飛び入りの参加者の面倒を見て金を稼いでいるんだ。どうだい今夜のバトルに出てみないか?」

 

 バトルに参加するには、申請や報酬の交渉など、主催者とのやり取りがいろいろ面倒らしい。慣れていないとだまされて、タダ働きになることもあるとか。

 ナナウと名乗った女性は、その辺の調整をして報酬をもらっているそうだ。バトルで有名になればそんな事もないが、俺達みたいな素人は、フリーのマネージャーを雇った方がトラブルも少ないと言う。

 

「ゴンザ、俺達は素人だ。ルールや戦い方も知らないんだ。何も今日戦わなくてもいいんじゃないか?」

「心配なら、今から練習場に見学に行くかい?」

 

 行こう行こうと即座に決まり、練習場に向かっている。道すがらバトルについて、いろいろ教わった。

 ゴーレムバトルは基本、相手を倒して背中や腹が地面に付けば勝ちなのだとか。ゴーレムの腕や足を斬り飛ばしても、魔力を与えれば、すぐにではないが再生するらしい。

 

「ここが練習場よ。地下が亜空間の広い空間になっているから、好きに暴れられるわ」

「うわー、結構激しくやってるわね」

 

 和香ほのかが言うように、中では数体のゴーレムが、ホバーで動きながら殴りあったり、腕から光る弾丸を撃って攻撃したりと、かなり激しく戦っている。

 彼等は傭兵ようへいで訓練も兼ねているらしい。バトルは戦争が無いときの小遣こづかい稼ぎなんだとか。

 

 日本でもゴンザが光る弾丸を撃っていたけど、あれは魔法だったんだな。ゴーレムの腕から発射された圧縮した炎が着弾すると、小爆発するみたいだ。

 

「試合でもないのに大丈夫なのか?」

「手加減してるわよ」

「そうなのか? ナナウさん。それにしても、ここにいたら流れだまに当たりそうで恐いな」

「結界があるから大丈夫よ。闘技場も観客席は結界で守られているわ」

 

 バトルは、武器や魔法の使用も自由なようだ。だがゴーレム用の大きな武器は高価なので、稼ぎの良いトップランカーしか使わないらしい。

 ゴーレムは、魔物として自立して動いているものもいるが、バトルに使う乗り込み型のゴーレムは、人間が操縦そうじゅうしないと動かないそうだ。

 

「ヘルンクラムやフクロウさんは、勝手に動いているよな?」

「こやつらは、エイメン様が作った特別製にゃ。普通は家や車に変形しないにゃ」

「ヌフ君、特別製なら性能もいいのかしら?」

「手加減しないと、戦いにならないくらいにゃ」

 

 乗り込み型のゴーレムの性能はピンキリで、なるべく性能の良いゴーレムを手に入れるために、自分で遺跡やダンジョンから発掘したり、他人が発掘したゴーレムを買ったりするらしい。

 ゴーレムを持つ、貴族や商人にやとわれて専属操縦者になる人もいるそうだ。

 

 ちなみに発掘と言ってもゴーレムが丸々埋まっている訳ではなく、魔石の形で埋まっているそうだ。

 

「ゴンザ、手加減できるのか?」

「その辺は、ヘルンクラム達が心得ているにゃ。適当に敵の攻撃に当たってくれるはずにゃ」

「だとよ。本気で戦える相手もそのうち見つかるだろぜ」

 

 そんな話をしながら、俺達はしばらく練習風景を見学していた。傭兵達の乗ったゴーレムは、見た感じヘルンクラムより遅い。手加減してるからだろうか、光る弾丸の威力も低く感じた。

 そんな俺達に話し掛けてきた男がいる。

 

「ナナウじゃねえか。やっと俺のマネージャーになる気になったか?」

「何度も言うけどゴメンだね。今日は客を見学に連れてきただけさ」


 ニヤけた男がナナウさんにからんできた。後ろで数人の男がニヤニヤしている。

 うわー、テンプレきたー! と和香がつぶやいた。

 

「そう、つれないこと言うなよ。酒でも飲みながら話そうや」

「おいおい、ナナウは俺を接客中だぜ。野暮やぼは止しなよ」

 

 男がナナウさんの肩に掛けた手を、ゴンザがつかみながら、そう言った。

 ニヤニヤと笑いながら、顔を突き合わせた二人の腕には、相当力が入っているようだ。ぷるぷる震えている。和香はテンプレ展開にワクワクした目を向けている。俺とナナウさんは冷や冷やだ。

 

 男は、ゴンザがつかんだ腕を振りほどきながら言う。


「見ない顔だな。なんなら練習に付き合ってやるぜ」

「遠慮しとくよ。女にフラレた腹いせにイジワルされてもかなわんからな」

「てめえ……」

「怒るなよ。短気は女にモテないぜ」

「ずいぶん威勢のいい新人だな。戦績せんせきはいくつだ」

「1戦もしてないズブの素人さ」

 

「「「ぎゃははは!」」」

 

 男と取り巻きが一斉に笑う。

 

「笑わせるぜ。俺はオスロムだ。この街のランキング5位だぜ。わかったらとっとと消えな」

「なんのランクだ。街の嫌われ者のランクか?」

「てめえ、上等じゃねえか。ゴーレムに乗れ。これだけ舐めた口きいたんだ。逃げんなよ」

  

 ランカーになるような強い男は、戦場でも闘技場でも稼ぎが良い。稼いだ金をつぎ込んで、ゴーレムに魔石を追加してパワーアップしているそうだ。

 低ランクの貧乏人が乗るゴーレムとは、パワーもスピードも段違いらしい。当然、操縦者の魔力も技術も高い。

 

 ゴンザが嬉しそうに挑発したおかげで、テンプレ事件発生だ。勘弁して欲しい。

 

「ゴンザさん、謝った方がいい。オスロムは、素人に勝てる相手じゃない」

「まあ、ただで稽古つけてくれるってんだからラッキーじゃねえか」

「ナナウさん、好きでやってるんですよ、この悪党は。心配するだけ無駄です」

「言うねえ、あんちゃん。がははは」

 

 

 

 フクロウさんがバサリと飛び立ち、見る間に大きくなる。体長3m。大きな青いゴーレムが出現した。

 武骨な太い体躯たいく姿形すがたかたちはヘルンクラムと変わらないが、鮮やかな青色に所々赤い線が入ってカッコいい。

 オスロムのゴーレムは銀色でゴンザのゴーレムより一回り小さい感じだ。

 

 大柄なゴンザが背中のハッチからゴーレムに乗り込むと、ドドドッと光る弾丸がゴンザのゴーレムに当たって爆発する。

 先に準備が整ったオスロムの銀色のゴーレムが、先手を取ったようだ。練習だから開始の合図もない。素人相手にいささ大人気おとなげない行為だが、文句を言ったところで受け入れられないだろう。

 

 一瞬、ゴンザの青いゴーレムが煙に包まれるが、すぐにホバーで浮き上がり横に移動した。ゴンザのいた場所をオスロムの第二射が突き抜け煙が散らされる。

 

「おいおい、先輩。せっかちだな。短気は女にモテないって言ったはずだぜ」

「うるせぇ! スキを見せたお前が悪い」

「ご指導感謝するぜ」

 

 ゴーレムのスピーカーからそんなやり取りが聞こえてくる。

 

 ゴーレムは腰をかがめ、スキーの直滑降ちょっかっこうのような姿勢で動く。

 お互い横に動きながらの銃撃戦が始まったが、ホバーで動くゴーレムは、スピードに乗ると意外に速い。時には止まり、時には加速して魔法の弾丸を避けるので、なかなか決定打とならない。

 しかし銃撃戦をしながら、徐々に距離を詰める2体のゴーレムも、さすがに交わせない距離になってきた。

 

 一端いったん距離を取るべく後退し始めたオスロムに、ゴンザが食い付く。ジグザグに直進しながら一気に距離を詰めたゴンザのゴーレムから、火炎が吐き出された。

 ゴーレムの腕から、ドラゴンのブレスのように大量の炎が吹き出す。

 

「日本では、あんな攻撃してなかったなぁ。いつの間にかゴーレムを使いこなしてるなんて、ゴンザは傭兵だけあって武器の扱いには慣れてるのかな?」

「あのゴーレムは特別製にゃ。サポートシステムがアドバイスしてるにゃ」

「ふーん、ゴーレムに用意された魔法を撃っている感じか」

 

 ゴンザの火炎放射に包まれたオスロムのゴーレムが、腕をクロスして顔面をかばう。カメラとか重要な器官でもあるのかな? 観戦しながら俺は思った。

 

 青いゴーレムが加速して、銀色のゴーレムに蹴りを放つ。後退していたゴーレムが、腹部に蹴りを食らい。銀色のゴーレムが吹き飛んだ。

 

 地面にガツンと腰を打ち付け、ゴロンと転がったゴーレムが片ヒザ立ちで手を付き、少々滑すべって停止する。

 背中や腹を地面に付けると負けと聞いたが、少々ならば問題ないようだ。

 

「どうしたい。弱い者ランク5位だったのか? 人を笑った割に情けないぜ」

「いい気になるなあ!」

 

 オスロムが立ち上がりながら、青いゴーレムの腰めがけてにタックルする。ゴンザがヒョイとよけて、上から腕を振り下ろすと、背中に衝撃を受けた銀色のゴーレムが、前のめりに崩れ落ちる。オスロムは、何とか手をついて倒れるのを逃れたようだ。

 

 すぐに腹に蹴りを入れて転がすか、上に飛び乗れば決着が付くけど、ゴンザのことだからもう少し遊ぶかな? と予想した俺だが、ゴンザはすぐに動いた。

 

 オスロムのゴーレムの前に移動して、腰に手を回して持ち上げたのだ。

 

 ぬおおおりゃあああ!

 

 ゴンザの気合いがスピーカーから発せられる。力を出してるのはゴーレムだよな?

 

「なんで、ゴンザがりきんだ声上げてるんだ?」

「ゴーレムが必要以上の力を出す時に、操縦者の魔力が一気に吸われるにゃ。疲労感や不快感がすごいにゃ。それを誤魔化すために声を上げていると思うにゃ」

 

 銀色のゴーレムが逆さまに持ち上げられて、バタバタと手足をらす。ゴンザのゴーレムがピョンと後ろに跳ねた。

 

 ズズゥンッ! 

 

 脳天杭打ちパイルドライバーかよ!

 銀色のゴーレムの脳天が地面に突き刺さる。オスロムのゴーレムが逆立ちして、ゴンザのゴーレムは尻餅を突いたような姿勢だ。

 2体のゴーレムの体重が乗ったプロレス技が炸裂さくれつして、オスロムのゴーレムの頭が潰れている。そして内部の操縦者も衝撃で気絶したのか、銀色のゴーレムはピクリとも動かない。

 

 

 青いゴーレムが立ち上がるのと、入れ違いに銀色のゴーレムがズズンッと倒れた。

 

 

 

 

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