第12話 訓練
翌日、朝日のまぶしさに目を覚ますと、俺のベッドでは、
「エイメンは、亜空間だって言っていたけど、朝日が入ってくるんだな」
と不思議に思い窓に近づくと、昨日見た見渡す限りの草原が目に入ってくる。
ふーん、窓も外につながっているんだな。これで外観が小さな平屋なのだから魔法は凄い。
空調が利いてるのか、室温は快適だ。これもやはり魔法なのだろう。
「今日もいい天気だ。いろいろ頑張って学ばないとな」
つぶやきながら伸びをした俺は、朝風呂に行くことにした。昨夜説明を受けた通りに、魔石に魔力を流してお湯を出す。身体に魔力が流れるのが感じられて、少しこそばゆい。
もう少し熱くと考えると温度が上がる。魔法は魔力にイメージを混ぜ合わせると、エイメンは言っていた。考えただけでイメージが追加されて、温度が上がるとは、やはり魔法はすごいなと感心してしまった。
風呂につかりながら、マニュアルを見てみる。魔法陣が並ぶページを見てみると、いろいろな基礎魔法がダウンロードできるようだ。
マニュアルに魔法陣が浮かび上がり、俺の脳に吸い込まれる。一瞬、脳に違和感を感じたが、すぐに収まった。
「火よ集まりて指先に
頭に浮かんだ呪文を
「おおー、魔法が使えた」
エイメンの話では、この世界には魔法陣のスクロールがたくさん出回っていて、一般人でも簡単に魔法が手に入るらしい。スクロールは、魔法を
しかしスクロールの魔法陣は、呪文が長かったり、威力が弱かったりと、わざと使いづらくしてあると言う。
基礎魔法に慣れた者は、自分でイメージしたオリジナルの魔法を作るそうだ。
俺は、指先にガスバーナーの炎をイメージした。身体に魔力が流れて、魔法陣が脳内に浮かび上がる。
「着火」
ボオオッっと指先から青い炎が出る。先ほどの火より威力が強いし呪文も簡単だ。オリジナル魔法の方が数段便利なようだ。
しかも一度作った魔法は、次からはいちいちイメージしなくても「着火」と唱えれば、同じ魔法が使えるし、魔法陣を他人に受け渡すこともできるらしい。
「おおー、魔法はこうやって作るのか。指先が熱くならない所がご都合主義だな。水に入れたら消えるのかな?」
炎が出ている指先をお湯に
「おおー、消えないぞ。空気は必要ないのか? 魔力を直接、炎に変換しているわけか。この状態は普通の火と少し違うようだな」
魔法で遊んでから風呂をでた。洗浄の魔法で体を洗い。乾燥の魔法で体を乾かす。マニュアルからダウンロードした基礎魔法も、なかなか便利だ。
風呂から上がって少し外を散歩した後、ダイニングに向かうと、みんな集まって朝食を食べていた。
「麟太郎君、何してたの。美味しいわよ。早く食べなよ」
「朝風呂に入ってから、散歩してたんだ」
「あんちゃんもすっかり異世界生活に慣れちまったな」
「考えていたより快適で、逆に
「がははは、ちげえねえ」
厚切りベーコンのソテーと目玉焼きが美味しい。ポテトサラダや牛乳までついている。
「エイメン、食材はどうしてるんだ? 玉子とかマヨネーズまで魔法で出したのか?」
「麟太郎さん、私にはそれも可能ですが、今日の料理は、
「あまり勝手に俺の脳ミソのぞくなよな」
「私ではありません。やったのは彼女ですよ」
また幼女登場だ。黒いメイド服に白いエプロンが
「わたしは家妖精~。家事全般はお任せ~。
「麟太郎君、子供をいじめちゃダメよ」
「でも頭の中を勝手に見られるのは嫌だろ。
「ゴンザはお酒の情報だけ~。和香は甘いものばかり~。どういう食生活をしていたのかぎも~ん」
ゴンザは、がはははと笑い。和香は顔を赤くしている。二人とも料理なんてしないんだろうな。
「妖精さん、俺の脳の情報があれば、醤油とか味噌も作れるのか?」
「任せて~」
「ラーメンやカレーが食べたいわ」
「頑張る~」
「酒やつまみも頼むぜ」
「かしこまり~」
おおー、頼りになるなあ。エイメンの連れてくる人材は優秀なやつばかりだな。
食後は車で移動だ。目玉焼きをツンツンしていたヘルンクラムを
ヘルンクラムがニュ~っと形を変えて、10人ほど乗れる、小型のボンネットバスが出現した。昨日のベッドもフカフカだったけど、ボンネットバスのタイヤとかシートとかは、どういう理屈なんだよ。
タイヤはゴムの質感だし、ボディは金属の硬さがあって、シートもフカフカだ。本当ヘルンクラムは高性能だな。俺も欲しいぞ。
「かわいい車ね」
「レトロな感じがいいなぁ」
「日本に行った時にネットでデザインを探しました。なかなか気に入ってます。移動中に魔法をダウンロードしておいて下さいね」
亜空間に荷物を
今日は森に行って魔物と戦う予定だ。
ボンネットバスで移動しているのだが、草原はデコボコなのに意外と
昨日の家でも変形後に内部にヘルンが存在したが、ボンネットバスにもヘルンがいて運転している。
身長100㎝の幼女の運転するバスなど、非常識にもほどがある。かろうじて前方は見えているようだが、明らかにアクセルやブレーキに足が届いていない。
だが、ボンネットバスは、問題なく森に向かっているから不思議だ。結局運転手は、ただの置物なのだろう。運転にあきるとハンドルを離して寝てしまった。
「エイメン、運転手が寝ちゃったぞ」
「大丈夫ですよ。この車自体が彼女ですから」
数時間ほどして目的地についた。俺は道中、車窓から草原を眺めていたが、結構動物がいてアフリカのサバンナみたいな感じで楽しかった。中には、動物だか魔物だかわからないが、危険そうなのもいて気を抜けないなと実感した。
目的地の森は、木がまばらで草も少なく歩き
「私がいると魔物が近寄ってきませんので、気配を消して隠れています。適当に歩いていれば魔物に出会うでしょう。順番にひとりずつ戦って下さい」
そう言ってエイメンは影に消えていった。
最初に出会ったのはオオカミのような魔物だった。魔物が3匹いるとヌフが教えてくれた。俺も魔物の気配や魔力を
「こういうのは慣れにゃ。練習してればいつかできるにゃ」
「もう少し具体的なアドバイスをくれよ」
「我輩と麟太郎は違うにゃ」
まず
白いオオカミのような魔物だ。馬くらいの大きさがある。ネットで見た獣とは迫力が違う。俺達を殺そうとする気迫が伝わってくるのだ。魔物の全身からあふれでる何かが、俺の恐怖をあおるようだ。
オオカミが低く
これが殺し合い。自分が死ぬかもしれないという恐怖。
和香が長短の剣を二刀流に構える。飛び掛かってきたオオカミをスルリと交わし、足を斬りつけた。オオカミの白い体毛から赤い血がにじみ出てくる。
オオカミが前足を振るったところを長剣で
和香もオオカミの魔物も、横にジワジワと動きながら、相手のスキを
突然オオカミが、ガウッと吠えた。すると口から風の
和香がうずくまる。俺が助けに入ろうとすると、ゴンザに肩を
「上手いな。やられたフリして誘ってやがる」
「ブラフなのか?」
「このローブは、意外と高性能らしい」
和香に向かってオオカミが走り、口を開けて飛び掛かった。
その口めがけて和香の長剣が一直線に走る。口から入った長剣の切っ先が、オオカミの首の後ろから抜けた。
ゴバアアア!
と声にならない叫びを上げながら、オオカミがそのまま和香にのし掛かるが、和香の肩を押さえていたオオカミの足に短剣が刺さった。
また叫びを上げたオオカミの心臓に下から和香の短剣が突き刺さり、オオカミがドドッと崩れ落ちる。
「いやあ、1匹でも大変ね。集団でこられたら
「上手く立ち回ってたと思うぜ。経験積めばなんとかなるだろ」
「さっきのは風のブレスか? 魔物も魔法使うんだな」
「魔物と動物の違いは、魔法を使うところにゃ」
魔物を収納庫にしまい、和香に治癒魔法を掛ける。軽い打撲や切り傷がすぐに治ってしまうので、やはり魔法はすごいなと感心しきりだ。
そして次は自分だとゴンザが歩き出す。
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