第11話 ヌフ
その後、草原で日差しを浴びながら、
身長150㎝の小柄な和香は、二刀流から鋭く斬り込んだ。身長190㎝のマッチョなゴンザは、力任せの豪剣を叩き付ける。しかしヘルンクラムは、びくともしないで平然とそれを受け止める。
そしてヘルンクラムの素早い攻撃を、和香はギリギリで交わし、ゴンザは剣で受け止めていた。
結局、血を流したのは俺だけだ。ゴンザは傭兵として戦闘に慣れているからともかく、和香が意外と戦闘が得意なのには驚かされた。
「和香は、長剣を片手で軽々扱えるなんて、意外と力があるんだな」
「カメラマンは、体力勝負な時があるのよ。
なんとも心強いお言葉だ。俺は剣はそこそこにして、魔法で支援した方が良さそうだな。
「今日はお疲れでしょうから、まだ明るいですが早めに夕食にしましょう。明日から魔法や戦闘を学ぶことにします」
そう言いながらエイメンが、草原にイノシシを出した。テレビで見たイノシシより大きくて、体毛が青い。牙が四本生えていたり、目が赤かったりと見た目にも違和感がある。
魔物だそうだ。
亜空間で作った収納庫に入れておいた物を出してきたと言っている。エイメンは、食事など必要ないが俺達のために用意したのだとか。
エイメンは人型をしているが、真っ黒な霧のような存在だ。しかし
焼き肉のタレまで魔法で出てきた。何でも俺の脳内知識から
「はあ、魔法は便利ねぇ。ファンタジー世界は楽しいわぁ。見晴らしの良い草原でバーベキューなんて最高ね」
「普通の人間に、ここまでやるのは難しいですが、練習すれば、似たようなことは、できるようになると思いますよ」
俺達は座っているだけで、皿やハシまで木を削って作られて配られる。テーブルやイスも、土が盛り上がって、大理石のように固まるのだから凄い。
魔物の解体などは一瞬だった。エイメンが魔物に手をかざしたら、魔石、毛皮、牙などの素材や、肉が木の葉に包まれて現れる。内臓などの不要部位は、肥料となって横に小山が出来上がる。魔法は、本当に凄いな。
「美味しい。肉単品でも臭みは無いわ。焼き肉のタレは普通だけど、魔物の肉は意外といけるわね」
「ビールがあれば最高だな」
ゴンザの感想を聞いてエイメンが、また俺の頭に右手をかざした。目をつぶってなにやら探っている風だ。しばらくすると、左手にジョッキに注がれたビールが現れた。うそだろ。驚きしかないな。
狐につままれたような気分の俺にジョッキを渡し、カンパーイ! と言った三人が、ガチャンと乱暴にジョッキをぶつけて、んぐんぐと
「ぷはー!
「青空の下でビールが飲めるとは思わなかったわ」
「このお酒は美味しいですね。この世界の食文化は、
いやいや、作り方なんて知らないし。
俺もジョッキをあおる。キンキンに冷えたビールが戦いで
なんかいろいろあり過ぎて、パニクりそうな自分が馬鹿らしくなるなぁ。和香もゴンザも、よくすんなりと受け入れられるものだと思いながらも、ビールの味に気分が高揚してきた。
「麟太郎君、お肉焼けたわよ」
適当なブロック状に切り分けられた魔物の肉が、焚き火の上に浮かんで、火に
俺は皿に入った焼き肉のタレに、魔物の肉を付けて、恐る恐る食べてみた。
旨い!
高級な豚肉のような味だ。脂が乗っていて柔らかい。俺は、いろいろな部位の肉を取って、ガツガツと
国会議事堂での不安も、転移後の
エイメンがいなかったら、食事ひとつとっても、魔物を殺して調理しなければならない。今後もいろいろ大変なのだろうと思うとウンザリするが、今は置いておこう。
エイメンもヘルンクラムもヌフも、人外なので食事は必要ないらしい。しかし俺達に付き合って、肉を食いビールを飲んでいる。ヌフは焼き肉のタレが気に入ったようだ。ヘルンクラムはビールを飲んでご機嫌になる。手に持った木の枝で、あちこちをツンツンしだした。
いつの間にか草原は暗くなり、照明魔法がフヨフヨと浮いている。風が吹いても飛ばされない所が面白い。
ゴンザが「がははは」と豪快に笑い、
楽しいなぁ。
ふと思った俺は、みんなも同じように考えているかもしれないなと思い、フフッと笑ってしまった。
食後、星を見ながらみんなとおしゃべりを楽しんだ。寝る時は、草原でごろ寝だろうか? 焚き火があるから、動物や魔物は寄って来ないのだろうか? 交代で見張りを立てて、冒険者のように眠るのだろうか?
いろいろと疑問をエイメンに聞いてみた。
なんと寝る時は部屋で寝ると言う。ヘルンクラムが家に変形するらしい。ヘルンは、本来の
変形といえば、ヌフも
「今の我輩は尻尾が一本にゃ。尻尾が増える度に力が上がるにゃ」
「魔獣は強力なので、普段は力を抑えています」
「どんな風に変わるの? 見てみたいわ」
和香の言葉に、テーブルの上からピョンと飛んだヌフが、クロヒョウほどの大きな猫に変化した。尻尾が二本になっている。
そしてまたジャンプしてクルンと回転すると、今度はヘルンクラムと同じくらいの男の子になった。服もちゃんと着ている。尻尾は服に隠れているが三尾らしい。
四尾は虎、五尾は獅子であった。基本的には猫科の動物なのかと思っていたら、六尾は大きな亀であった。ゾウガメより全然大きい。俺も
そして七尾は、体高2mのグリフォンとなり、八尾に至っては体高4mの象に変化した。長い体毛が生えた、牙が八本あるマンモスである。尻尾は一本だ。
最後はなんだと騒いでいると竜が姿を現して、俺達は
「ヒュドラか?」
「全長30mはあるわ。ビックリね」
「あの太い足と爪が凄いな。さすがに戦う気にはならねえよ」
「ヌフは魔界ではあの姿です」
胴体は四本脚で立つゴツいワニのようだが、前足が長めだ。9つの長い首があり、顔は恐竜のようだ。ご丁寧に翼まであるとは驚いた。ちゃんと空も飛べるそうだ。
「どうにゃ、カッコいいにゃ」
と
しばらくすると、スルスルと縮んで元の子猫ほどの大きさに戻ってしまった。背中に乗せてもらいたかったのは、俺だけじゃなかったようだ。和香もゴンザも残念そうにしている。
「この星の魔物でしたら、三尾までで大丈夫でしょう」
「あの男の子がそんなに強いのか?」
「ええ、ゴンザさん。魔法が強力ですから下手な魔物には負けません。あなた方にすぐに死なれては、寝覚めが悪いですから、強力な使い魔を用意しました」
うわー、和香がうらやましいなぁ。あのマンモスをモフりたい。
「この星の魔物って言うことは、別の星にも生命がいるのか?」
「あんちゃん、俺はコブラのように生きたいって言っただろ? スペースアドベンチャーができなくてどうする」
「この世界には、異星人がたくさんいますよ。まずはこの星で宇宙に出る方法を探して下さい」
「夢が広がるわねぇ」
「だろ? だろ?」
いやあ、ビックリし通しだな。本当、夢が広がるぜ。俺も本気で死なない努力をしないとな。
ヘルンクラムがニュ~っと大きくなり家になる。六畳二間くらいの小さな
中は、お城のような豪邸だった。玄関は広い吹き抜けになっていて、豪華なシャンデリアがぶら下がっている。ここだけで、すでに外観の大きさを越えている。
正面や左右には扉があり、キッチンや風呂場があるらしい。中央に階段があり、二階に上がると各自の寝室になっている
「はぁー、たまげたなあ」
「本当ね、中がこんなに広いとは思わなかったわ」
「亜空間を接続してますので、外観と内部は別次元となります」
「さすがは悪魔だな。驚かされてばかりだ」
「麟太郎さんも、すぐにできるようになりますよ」
ヘルンクラムが内部にも存在していた。眠そうにあくびをしている。各自に部屋をあてがわれた。パジャマや着替えは無いが、洗浄魔法で体も服も洗えるそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます