第6話 集結
しばし考えていた
『映像をご覧下さい。男が現れ、議事堂に向かって歩いております。犯人の呼び掛けにより集まった悪党なのでしょうか。
……今、警視庁から発表がありました。この男は、前科○犯の犯罪者で、昨年の飲食店襲撃事件への関与を疑われて、全国に指名手配されているということです。まだ日本国内に隠れていたとは、驚きの事実です。そして顔も隠さず現れるとは、大胆不敵な行動に思えてなりません。
しかしながら、本物の悪党が仲間に名乗り出てしまいました。事件はどうなってしまうのでしょう。犯人達の今後の動きに注目が集まるところです』
テレビでは、そんな報道がなされている。同じようにテレビを見ていた
しばらくすると部屋の入り口に、スキンヘッドの男が現れる。男は部屋の中を見回しニヤリと笑った。
「よう、悪党。準備運動は終わってるんだろうなぁ」
「あんたに比べりゃ、誰もが善人さ」
「「がははは」」
悪党どうし、気があったようだ。握手を交わしながら豪快に笑う二人の悪党に、人質達は冷ややかな視線を向けている。
そして新たな男は、派手に宣伝してきてやると、マシンガンを持って出ていった。
テレビ画面に、衆議院正玄関から出て来た男が映る。男は何か叫びながら、マシンガンを乱射している。
室内のヘルメットの男も、映像を見ているのだろう。スモークバイザーに隠れた顔は、楽しそうにニヤニヤと笑っているようだ。
『新たに仲間になったスキンヘッドの男が、突然マシンガンを乱射し始めました。とんでもない悪党が、仲間に加わってしまいました。警察官は物陰に隠れて何もできません。この国はどうなってしまうのでしょう。心配でなりません』
本当、あと二日半でどんだけ悪党が増えるんだよ。と麟太郎が毒づく。
ヘルメットの男は日本全国に呼び掛けていた。今頃、電車に乗ってこちらに向かっている悪党がいるのかと思うと不安なのであろう。麟太郎は画面を見ながら
ヘルメットの男は、相変わらずロボットの近くで、小型テレビの画面を見ながら、ニヤけているようだ。周りからは、誰かと話しているように、ブツブツと独り言を言っているようにも見える。
たが、実際に男は会話をしている。ヘルメットの男以外には見えていないだけで、男の影が立ち上がり男と話しているのだ。
「おい悪魔、計画通りに悪党どもが集まり始めたぜ」
「最初の若者が良い宣伝になりました。上手いこと、悪党どもの背中を押したようです。若者は、悪党ではありませんがグッジョブです。クククッ」
「ああ、あの坊やはおもしれえ」
「でも、あの青年には、警察のマイクがついていますよ。もっともそれがどうした。という感じですがね」
「まったくだぜ。室内の話し声なんか、いくら聞かれても困んねえっての」
今日は、どれくらい悪党が集まるか楽しみです。と悪魔が笑う。
いったいこの二人の関係はなんなのか? 目的はなんなのか?
そもそも悪魔と呼ばれた影の存在自体なんなのか? まったくわからないが、仲が良いのは確かなようだ。
そうこうしている内に北門に人影が現れた。地味なパーカーで顔をすっぽり隠して、ポケットに手を突っ込んだまま、衆議院に向けて歩いてくる。
そしてマシンガンの音が止んだと思うと、南門にも二人の不審者が現れる。
マシンガンを持ったスキンヘッドの男が、何やら新たな男達と話して、大口を開けて笑っているところが画面に映っている。
『新たに悪党が現れました。警視庁の発表では、パーカーの男は、正体が不明との事です。二人組は、とある犯罪組織の用心棒をしていたが、現在は組織ともめており、組織の人間を何人も殺しているそうです。
恐ろしい犯罪者が集まってきました。警察は、手をこまねいているだけなのでしょうか。これ以上犯罪者が増える前に、捕まえて欲しいものです。いつまで無策を装うのでしょうか。そろそろ本気を出して下さい。お願いします』
画面を見ながら、悪魔とヘルメットの男が、クククッと笑みを押し殺している。楽しくて仕方がないと言った
さてさて友達100人できるかな♪
と男がつぶやいた。そして新たな男達が部屋に顔を出すと、
「良く来た、新たな同志よ。武器はあっちにある。好きに遊んでくれ。ただし中の人間は、身代金を受け取るまで手出し無用だ。外の人間はいくら殺しても構わないがな。がははは」
と笑って出迎えた。男達は握手を交わし、武器を手に取ると、さっそく外に試し撃ちに出掛けた。
想像以上にヤバいやつらだった。麟太郎は画面を見ながらそう思った。
議事堂の外に出て、マシンガンを乱射し、RPGロケットランチャーをぶっぱなしては、パトカーや護送車をドカンドカンと破壊して、ゲラゲラと笑っている。
そんな光景が画面に映る度に、麟太郎の背中に冷や汗が流れる。想像以上に
これでは何かの
「参ったなぁ。テレビクルーには、
「何が困ったんだ?」
いつの間にかヘルメットの男が、麟太郎の近くに来ていた。麟太郎の独り言に疑問を投げ掛けている。
「いや、考えていた以上に無秩序なもんだから、身の危険を感じていたんだ。議員は身代金を取るという目的で生かされているが、俺のことは生かしておく理由が無いからな」
「なんだ、そんな事か。心配すんなって、中の人間には手出しさせねえよ」
「今はそうかもしれないけど、100人集まったら、あんた一人じゃ制御できないぞ。言って聞く人間とも思えない」
ヘルメットの男が目を輝かせる。何かが男の
「ほう、100人集まると思うか?」
「制限がなければ、200や300簡単に集まると思うぞ。それ以上いくんじゃないか?」
「そんなにか? どうして、そう思う」
「楽しそうだからさ」
「……がははは、ちげえねぇ。だがまあ、心配すんなって、お前の彼女には手は出させねえよ」
「悪党なんか、信用できるか!」
「まったくだ。がははは」
やはりお前はおもしれえ。と言ってヘルメットの男は、定位置に帰っていった。麟太郎は、何が面白いんだと思案顔だ。
『大変な事態になってきました。現在、議事堂には悪党が、50人以上集まっております。昼からの半日で、この人数まで増えてしまいました。あと二日で、どれだけ悪党が増えるのか想像もできません。
国も警察も、まったく対処できていません。国の最高権威である国会議事堂を
女性アナウンサーの冷めた声がイヤホンから響く。麟太郎は、ハァーッとため息を吐いて
夕方になって外が暗くなり、悪党達が衆議院本会議場に帰ってきた。悪党どもの自慢話が始まり、部屋の中はガヤガヤとうるさくなった。
悪党が50人だぞ、50人。こんな状況で問題が起きないわけないよな。と麟太郎が暗い顔でつぶやく。
あれから、どこからともなく悪党が次々と現れ、現在54人の悪党が部屋に集結している。テレビの情報では、いずれも名だたる極悪人のようだ。
人質達も、良くこれだけの悪党が集まったものだと
国会議員という上級国民と、犯罪者という最底辺が、
「ああん、おっさん。何様のつもりだぁ?」
「彼女は、わしの秘書だ。ちょっかいを掛けないでもらいたい」
「それがどうした。ちょっと話すくらいいいじゃねえか」
「彼女が嫌がっている。しつこい男は嫌われるぞ」
「てめえ……」
悪党のひとりが拳銃を構えて、
「おいおい、だいじな金づるを殺すんじゃねえよ。じいさん議員の身代金を、お前が払ってくれるのか?」
「うるせえ! いちいち
ヘルメットの男が立ち上がる。
「おいおい、ここは俺の遊び場だぜ。俺が仕切って何が悪い。俺が作った遊び場に勝手にやってきた
「武器さえ手に入りゃ、てめえに用はねえんだよ!」
騒いだおっさんが、今度はヘルメットの男に銃口を向けた。人質達が耳を押さえ、身体を
別方向から銃声が聞こえて、おっさんの拳銃が床を転がった。
ぎゃああああ!
白い人形の撃った銃弾が、騒いだおっさんの手を貫通する。血をダラダラと流す手を押さえて、うずくまるおっさんの顔前に、ヘルメットの男の拳銃が突き付けられる。
「武器さえありゃ、何だって?」
「て、てめえ、同志を撃ちやがったな!」
「都合のいいこと言ってんじゃねえよ」
シーンと静まる本会議場に銃声が響き、おっさんの血が飛び散る。人質達がヒイッと叫び、悪党どもが顔を見合わせる。白い人形がおっさんの死体を引きずる音に、人質達が顔を
「見た通りだ。裏切り者を始末した。政府のスパイが
あと何人かスパイと思われる人物を確認しているが、泳がせている状況だ。くれぐれも行動には注意してくれよ。せっかくの同志が減るのは忍びないんでな」
みえみえの嘘だ。ヘルメットに隠れて見えないが、ペロリと舌を出しているに違いない。と麟太郎がポツリとつぶやいた。
「おやおや、裏切り者では仕方がありませんね」とヘルメットの男にしか聞こえない声が、床下から聞こえてきた。
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