第4話 青年
『昨日発生した、首相や国会関係者を
現場のヘリからの映像が写る。正面玄関を始め、各門には戦闘車両が配置されている。軍事評論家が武装の説明を得意気にしている姿が写る。
「うわー、物々しいなぁ。しかし、ロボットは
人質がいる以上、大火力での砲撃はできない。何度か内部に戦闘員を送り込んでいるようだが、成果は出ていないとの報道もある。犯人が逃げる時を狙うつもりだろうか。
「まさか人質ごと撃つつもりじゃないだろうなぁ。
日本中の人間が見守る中、
『現場からです。どうやらロボットが正面まで出てきたようです。自衛隊の戦力に
「マジかよ。人質を盾にしてれば良いのに、わざわざやられに出てくるとは、無茶苦茶もいいところだ」
議事堂の衆議院正玄関前に立つロボットを見て、麟太郎が
突然、モニターの画像が一気に明るくなった。ロボットの周囲が、連続的に爆発して炎が上がっている。
軍事評論家が、遠くからミサイルで攻撃されたようだ。と解説している。
「瞬殺かよ。
しかしそれで終わりでは無かった。攻撃ヘリが登場して、爆発の煙が晴れると、無傷なロボットが写し出されたのだ。麟太郎がうなり声を上げる。
「あり得ないだろう。どうやって防いだんだよ。ロボットってだけでも
本当どこの国の兵器だ? とブツブツ言っている。
次に、戦車の主砲が
その後はひどかった。アパッチがヘルファイア(対戦車ミサイル)と共に、30mm機関砲を掃射し、戦車や戦闘車両が近づいてきて、主砲やライフル砲を叩き込む。戦闘員がLAMを
雨のように降り注ぐミサイルや銃弾に、議事堂の衆院前広場は地獄絵図へと
30分ほど爆発と煙の映像が続いたが動きがあった。黒煙の中から、ダダダダッと光る弾丸が発射され攻撃ヘリに着弾する。
ロボットからの初めての反撃は、攻撃ヘリに着弾すると同時に小爆発を起こして、ヘリから煙が上がる。ヘリが上空へと逃れる間もなく、追撃により攻撃ヘリの制御が乱れ墜落した。議事堂正面の一区画に墜落したヘリが爆発して炎上する。
そうこうしている間に、ロボットが腰を落とした姿勢で走りだし10式戦車に
『これはいけません。ロボットが避けた砲弾が、国会議事堂の衆議院に直撃しました。人質の安否が
しかしロボットの反撃に、自衛隊は成す術がないようにも見えます。大丈夫なのでしょうか。状況を見守りましょう』
「これくらいで、建物の中まで影響は無いと思うけど、ハラハラするなぁ。さっさと倒してくれよ。……っても無理そうだな」
画面を見るとロボットが10式戦車の砲身を脇に抱え、持ち上げようと踏ん張っている姿が映る。ブレーンバスターかよ! と麟太郎が興奮気味につぶやく。
だが重量40トンの戦車が持ち上がるはずもなく、砲身がバカリと折れて、ロボットが
砲身の折れた10式戦車も黙っていない。倒れたロボットに走り寄り、キャタピラで押し潰しに掛かる。腹を40トンの重量が通り過ぎたロボットだが、ダメージも無く立ち上がり、戦車の後部に光る弾丸を打ち込む。弾丸が連続的に爆発する内に、戦車の燃料に引火したのか戦車が燃え上がった。
内部の戦闘員が、あわてて戦車から降りてきた。10億円の戦闘車両がオシャカである。
そして残りの16式機動戦闘車は、ロボットが横からタックルし、横倒しになってオブジェと化した。
こうして国会議事堂のあちこちで黒煙が上がり、ロボットは
『事件の続報です。正面の戦闘中に、裏口から侵入した戦闘員も連絡が
「国は何やってんだよ。ちゃんと調べてから突入しろよ。まったく」
良くいる、自分ではできない
ちくしょう! 叫んだ麟太郎がジャケットを羽織り家を飛び出した。
「さて、お仕置きタイムだ」
衆議院本会議場に帰ってきたロボットから音声が流れる。室内の誰もが、防衛大臣をチラリと見た。防衛大臣は
ロボットの背中のハッチが開き、ヘルメットの男が出てくる。
白い2m大の人形が、大臣の
ヘルメットの男が、拳銃を大臣のこめかみに当てた。大臣が息を飲み、カメラがその光景を映す。
「全国の悪党ども見てるか? 俺のロボットは自衛隊だろうが、警察だろうが止められない。俺の仲間になれば悪いことしながら一生遊んで暮らせるぜ。早い者勝ちだ。さっさと覚悟を決めて議事堂まで来やがれ! 臆病な悪党ども!」
カメラの前で拳銃を構えたまま、ヘルメットの男が
国会期間中は、会議場でこのようなことは起きないが、今は外との通話に制限を掛けていない。
「最後だ。出てもいいぞ」
大臣が何やらスマートフォンで話した後、ヘルメットの男に自分のスマホを突き付ける。
「お前にだ」
と言う大臣を
「防衛大臣の妻です。すぐに身代金をお持ち致します。夫の命を助けて下さい」
わかったと男が答え、拳銃を
「
つぶやいた麟太郎が、意を決したように歩き出す。警察官が物々しい格好で立ち並ぶ中を通り抜けようとして、麟太郎は呼び止められる。
「どこに行く」
「どこって議事堂に決まってるじゃないか」
なっ!
と周囲に緊張が走る。ヘルメットの男が呼び掛けたのは悪党だ。麟太郎は勿論悪党には見えない。どういう事だと周りも対処に困っている。
「もし……」
そんな微妙な空気の中、麟太郎に話し掛けたご婦人がいた。
「何でしょう」
「あなたは、あの悪党の仲間になるおつもりですか?」
「いえ、中に知り合いがいるんですよ。近くにいてあげたくて……」
「そうですか。では一緒に参りましょう」
アタッシュケースを持った妙齢のご婦人と、
警察官は止めることができなかった。議事堂に来た同志の邪魔はするな。と犯人から言われている。犯人を怒らせて、報復に人質を殺されては
『ただいま、ヘリから報告が入りました。広場に二人の人影が現れたようです。ひとりは、女性のようです。アタッシュケースを持っている事から、大臣の身代金を運んできたようです。もうひとりの青年は付き添いでしょうか。犯人の呼び掛けに応じた悪党には見えません』
どこかでテレビの音声が聞こえている。現場の指揮官が無線で状況を報告している。バラバラと報道ヘリコプターのエンジン音がうるさく響く中、他の警察官は、ポケーっと二人を見つめるばかりだった。
『警視庁から情報が入りました。やはり女性の方は、身代金を持ってきたようです。防衛大臣の奥様が自ら身代金を持ってきました。中では何が起こるかわかりません。警察は何をやっているのでしょうか。最悪、人質が増える事になりかねません』
画面の女性アナウンサーは興奮して状況を伝える。
『もうひとりの青年については、情報が無いそうです。何でも、建物の中に知り合いがいるそうです。身代金を持っているようには見えませんが、何か犯人を説得する材料を持っているのでしょうか。衆議院本会議場の映像に注視しましょう』
麟太郎の行動に、日本中が
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