第20話 昭和55年 ウオッシュレット

「おしりだって、洗ってほしい」「人の、おしりを洗いたい」。おしりは、拭くものではなくなったのである。「人のしりを拭う」ということわざは正確ではなくなったのである。

1980年6月にTOTOより発売され、発売以来累計販売台数が4千万台を数えるという大ヒット商品になったのである。古い話で申し訳ないが、外国に行くなんて稀有な時代、プロレスラー力道山が、初めてアメリカに行ったとき、ホテルのバスルームで、便器で顔を洗ったという話をTVでしていたのを見たことがある。


ことさように、トイレ事情は大きく違ったのである。向こうは水洗、こちらは「ポッチャン」が普通。家のトイレが水洗になったとき、ああ~、日本も真に文化国家になったものだと、私は感動もし、喜んだものである。このウオッシュレットがヒットするには、水洗トイレの普及が大前提であった。


TOTOは1960年代に米国からの輸入によって温水洗浄便座の販売を行っていた。主に病院向けや高級ホテル用であった。清潔好きな土壌を持つ日本では必ずヒットすると国産開発に向かったのである。肛門位置などの数値データは存在していなかったので、社員などの協力を得てデータを収集し、噴出位置を設計するという涙ぐましい努力をしたのである。


上記の「おしりだって・・」「人のおしりを・・」のフレーズは、当時人気だった歌手戸川純を起用したCMの歌の中のフレーズである。初回の放映時間がゴールデンタイムであったことより、視聴者から「今は食事の時間だ。便器の宣伝とは何ごと!」とクレームが入ったが、それを乗りこえるだけのインパクトがあったのである。マドンナをして、再来日したとき、「日本の暖かい便座が懐かしい!」と言わしめたのである。私がホテルで初めてこれを使ったとき、変な興味心からビデなるものを試してみた。位置や、操作方法になれていず、上着まで濡らしてしまった苦い経験がある。

TOTO(旧社名は東洋陶器)なる会社の概要をちょこっと見ておこう。森村グループの一社である。森村とは「世界最大のセラミックス企業グループ」であり、東京証券取引所上場企業の中で陶磁器売上高上位5社のうち4つを占めると言う。TOTO、日本特殊陶業、日本ガイシ、ノリタケカンパニーの4社である(スゲェーグルプなんだ、ビックリ)。TOTOは実に衛生陶器で約6割のシェアを持つと言う。人のおしりを拭わず、洗って大きくなった会社である。

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