第18話 昭和51年・クロネコヤマトの宅急便
今回はモノではなく、モノを運ぶ手段の話です。
関東の田舎大学に受かり、寮に入ることになった。入寮初日、小荷物は着いていたが、布団がついていない。布団は駅留め(チッケ)であったから、翌朝、寮のリヤカーを借りて駅まで一里の道を取りに行った。お蔭で、到着初日は寮の「来客用布団」で寝た。男ばかりの寮、布団乾し、何年してないのだろうという代物だった。
駅までリヤカーを引きながら、かび臭い布団で寝かされ、初日から〈ついてない〉と愚痴り、運送手段の不便さを呪った。
当時、個人がモノを送るには郵便局に荷物を持ち込まねばならなかった。それでも郵便局が受け付けてくれるのは重さ(6kgまで)、大きさの制限があった。それ以上の場合は、しっかり梱包し、荷札をつけて国鉄の駅に持ち込み、取りに行かねばならなかったのだ。他に通運というのがあった。この代表的な企業は「日本通運」である。ただし、輸送料が、オンレーン部分(鉄道運賃料金)とオフレール部分(集貨・配達にかかる発送料、到着量)が合算され、個人が小口で送るには値段が高いのであった。
今や宅配便があって、若い人にはこんな不便は想像出来ないであろう。このような不便さを解決してくれたのが〈クロネコ・ヤマトの宅急便〉であった。ここで、大和運輸の社史をひも解いてみよう。社史は語る。
《今や、年間16億個以上を扱うまでに成長することができた宅急便ですが、発売初日は11個だけ。全国のトラック台数が204台だった1919年、ヤマト運輸は銀座でトラック4台を保有するトラック運送会社としてスタートしました。戦後は、三越、松下電器の専属配送業者となり、高度成長期、路線トラック事業で順調に社業も発展して来ました。この時期、高速道路が次々に完成、他社は長距離輸送にどんどん参入、しかし、ヤマト運輸は市場の変化を見逃し、出遅れてしまったのです。気付いた時にはすでに手遅れで、そんな時、オイルショックが発生。一転し、経営危機がささやかれる会社になってしまったのです》
1971年に社長になった小倉昌男氏は、低収益の理由を追及した結果、それまで業界の常識だった「小口荷物は、集荷・配達に手間がかかり採算が合わない」という誤りに気が付いたのです。氏は「小口の荷物の方が、1kg当たりの単価が高い。小口貨物をたくさん扱えば収入が多くなる」と確信し、不特定多数の荷主または貨物を対象とする「宅急便開発」を社内に命じたのです。
そして1976年1月「電話1本で集荷・1個でも家庭へ集荷・翌日配達・運賃は安くて明瞭・荷造りが簡単」というコンセプトの商品『宅急便』を誕生させたのです。背景には私が感じていたような不便さを氏も感じていて、ここに参入すれば必ず成功すると思っていたのです。ああ~、私もあのリヤカーで布団を取りに行った日に、そこに気が付いていれば、今頃ベンツに乗れていたのに、無念!
今や、宅急便と云えば、クロネコヤマト、ヤマトといえばあの子猫を加えた黒猫マークが浮かぶ。なぜ黒猫なのか?白猫ではいけないのか?「シロネコヤマトではなんだかねぇー」というぐらい定着した。あのヒットした「黒猫のタンゴ」。「魔女の宅急便」に出てくる黒猫ジジ。夏目漱石の吾輩の猫も黒猫であった。黒猫はゲンがいい動物なのか?それであの黒猫マークになったのか?社史はそれについても語る。
《ヤマトグループの「クロネコマーク」。実は1957年に業務提携した米国の運送会社アライド・ヴァン・ラインズ社の「親子猫マーク」がヒントになっています。
母親が優しく子猫をくわえて運んでいる同社のマークを見た当時の社長小倉康臣が、運送業社の心構えを適切に表現していると強く共感したのがきっかけでした。
デザインは、当時の広報担当者の子どもが落書きした「猫の絵」をヒントにしたと言われています》
黒猫は西洋では魔女の使いとして、不吉な動物として虐待もされてきた歴史がある。
しかし日本では「夜でも目が見える」等の理由から、「福猫」として魔除けや幸運、商売繁盛の象徴とされて来たのです。そういえば招き猫は白もあるけど黒もあるなぁー。それから『魔女の宅急便』の宅急便を巡って原作者と、著作権、商標権の問題が生じたのです。原作者の角野栄子さんは、〈宅急便〉はヤマト運輸の登録商標である事を知らなかったのです。これについては争うことなく、映画化に至って、ヤマト運輸と正式なスポンサー契約を締結し、このアニメの映像を「こころを温かくする宅急便です」のキャッチコピーと共に、そのままヤマト運輸の企業CMにしたモノを作る事によって、この問題を解消したのです。
スキー宅急便、ゴルフ宅急便、クール宅急便と商品を開発。常に業界の一歩先を行き、ネットワークが全国に広がり、いまでは国内のみならず、アジア各国にも広がる世界企業を目指しているのです。なんだか、ヤマトの宣伝記事になってしまったなぁー(苦笑)。
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