中重タクヤ❶

図らずも飛び交ってしまった噂。ユウとの関係は特に隠していたわけでもないから、どこかで目撃情報があってもおかしくはない。

そうなるともう予想通り、俺は男友達から質問攻めに合う。

「いつから付き合ってた?」

「山本のどこが良かったんだ?」

「告ったのどっちから?」


ユウも同じような質問をされているはずだ。辻褄を合わせなければいけない。しかしここはユウを傷つけるようなことはしたくない。

「学祭の頃から付き合ってた」

「ユ…山本の、マジメだけど誠実で、慣れないことを一生懸命やろうとするところが可愛くて、好きだった。俺から告った。」

今となってはどっちから付き合ったかなんて覚えていない。正確には、覚えているけど、どうでもいい。


「そうだったのか……」

ユウよりは少し多い俺の友人たちはちゃんと話を聞いてくれた。俺の初めての失恋を察してか、いたわってもらった感じがする。失恋した人にはこう接するものなのか。


中でも特に仲良くしていた人には、もう少し詳しく聞かれてもう少し詳しく答えた。

「で、なんで別れたの?」

「詳細は言いたくないんだけど、ユウから別れた」

仮交際であったことを言ってない以上、他に好きな人ができたとフラれるのは不自然かと思ったのだ。


哀れんだ顔をする。俺そんなに悲壮感を漂わせていただろうか。

「山本のこと、本当に好きだったんだな。未練は?」

「……ある」

言ってしまった。これは本音だ。

「そうか、言っちゃ悪いけど山本もそんなに人気なわけじゃないし、まだチャンスはあるさ」

「いや、うーん、まぁ、ありがと」


実のところ、まだ付き合えたとしてユウが俺のことを好きでなければ意味がない。ユウが別の人-おそらくあの幼馴染の男だろう-を好きならば その人と恋愛すればいいと思う気持ちと、それが悔しく妬ましく上手くいかないでほしい気持ちがぶつかり合って、俺はどうすればいいのか分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る