中重タクヤ(6)

ユウから連絡があった。「話がある」とかしこまったように言われては身構えてしまうが、ユウのことだからおそらく進路とか夢とかの話だろう。


ところがそれは予想とは相反し、驚かされるものだった。


「この模擬恋愛、仮交際を解約したいの」

「ほう、何かあったの?」

「…うん。好きな人?ができた、のかも、しれない」


曖昧かつ高姿勢で語っているのが電話越しに伝わる。


「そうか、俺は別に、構わないが」

「じゃ、この関係は今日までってことだね。今までありがとう」

「こちらこそ」


この至ってシンプルな短い会話で、この関係はあっさりと終わりを遂げた。


電話を切った後、しばらく無感情だった。約一ヶ月に渡った契約が途切れ、今まで通りの生活に戻るのだ。さほど大きな変化ではない。


ところが数分後、猛烈な後悔の波に襲われる。

「解約したいの」というユウの声と、「俺は別に、構わないが」という自分の声が頭の中を幾度も反芻する。


なぜ俺は引き止めなかったんだ。後悔の念が今更競り上がってももう遅い。関係は解約済みだ。


これで終わってしまうのは嫌だと思った。嫌だ嫌だ、と自分の心が自分とは思えないような駄々をこねる。


ユウの健気な笑顔が見たい。ユウの隣を歩きたい。ユウと映画を見たい。ユウと昼食をとりたい。ユウと……。


ずっと続くような気が、勝手にしていた。模擬恋愛であることを忘れかけていた。

今後ユウは他の男と模擬恋愛以上の充実したデートをするのかもしれない。

この心の悶えと焦燥と羨望と寂寥感と…。この気持ちは………。



ユウは好きな人ができた、と言った。

ユウは恋を知った、のかもしれない。


俺は独りで嫌だ、と言った。

俺は恋を知った、のかもしれない。



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