山本ユウ(2)

無事にタクヤくんは賛成してくれて、私のアイディアは実行された。


私には彼氏がいる。その言葉の響きから違和感は取れなく、知らない国の民族衣装を着ているような気分だった。


私たちはLINEを交換した。思えばお父さん以外で男の人とLINEを交換したのも初めて。これでいつでも業務連絡、じゃなくてメッセージのやりとりと無料通話ができる。彼氏に業務連絡という言い方は変だ。

LINEでタクヤくんに彼女と何をしたいか尋ねると、「デート」という答えが返ってきた。


「デート」。また耳に慣れない言葉だ。デートがしたいとは、漠然としている気がする。デートって何をするんだろう。

高校生 デート とググってみると色々出てきた。


映画、カラオケ、カフェで勉強、プリクラ、遊園地、花火


女友達でもプライベートに予定を入れてまで遊びに行ったりすることがない私には、どれも遠い世界の娯楽に感じた。どれもお金かかりそうだなぁ。そういえばこの間も、クラスの同期カップルが花火大会に行くとか行かないとか、話してたような気がする。

普通の高校生は普段こんなことをして遊んでいるようだ。


私には彼氏がいるのだ。新しいことに挑戦して、経験してみないと。


歌は苦手だからカラオケは却下して、遊園地はお金がかかるからそれも却下して、それ以外でタクヤくんに決めてもらった。


寝る前のゆっくりする時間に静かな部屋で、タクヤくんとLINEをし、デートについて調べるのは知らない世界を探索しているようでワクワクした。



そして次の週末、市内で一番大きい駅で私たちは待ち合わせることになった。せっかくだからオシャレしたいなと思ったものの、何を着ていけばいいか分からず結局、家にあった紺色の、地味なワンピースになった。デザイン的に、制服と大して変わらないなと思った。短い髪も少しだけ編んでみた。


緊張する心に駅のアナウンスがうるさかった。


待たせちゃいけないと思って待ち合わせ場所に15分早く着いたら、人混みに紛れてタクヤくんが待っていた。私より更に早く着いていたようだ。ジーンズにジャケットという見慣れない男子の私服はそこそこかっこよかった。タクヤくんもぎこちなく笑っていて、緊張しているようだった。


「おはよう」

「おはよ」

まるで学校で話し始めた頃みたいな小さすぎる会話に逆戻りしてしまっている。お互い緊張してしまってはどうにもうまくいかない。


賑やかな地下街を10分くらい二人で歩いた。隣で私より背が高く、私より声の低い、同い年の人間が歩いている。今までにない経験はまた違和感を生じさせた。


「あの着ぐるみ見たことある」

「ここのお店美味しそうだよね」

「犬だ、可愛い」


少しずつ会話にも慣れてきて、お互いに目に入るものから話題を提供できるようになった。


地上に出ると今日もまた日が照っていて暑かった。電光掲示板の温度計は33度を示していた。


「あっついねー」

「映画館はきっと涼しいよ、早く入ろ」


タクヤくんの言った通り、映画館は冷房が効いていて涼く、快適だった。二人となり同士の席で、話題作の映画を見た。


最後に感動シーンのある映画だったが、やはり私は涙を流せなかった。

タクヤくんはというと、冷めた目で興味深そうにスクリーンを眺めていた。創作者の視点から観察して分析しているのだろうか。


映画が終わるとパネルの前で二人で自撮りをしているカップルがいた。それに倣って私たちも自撮りをしてみた。普段自撮りなんてしないから上手い角度で撮れなかったけれど、これは面白い経験になった。


そこで見覚えのある顔がじっと私たちを眺めていた。彼が遠慮なく視線を浴びせてくる。

「知ってる人?」

タクヤくんが言った。

幼馴染の秀樹だった。私の夢を嘲笑った、トラウマの人。


彼は私の顔を見て山本ユウだと認識するや否や「ヤッホウ」とだけ声をかけていなくなった。


この緊張デートの中で変に話かけられなくて良かったと内心ホッとしていた。


映画館はゲームセンターと繋がっていた。ゲームセンターはタクヤくんが慣れているそうで、UFOキャッチャーなどを気ままに見て回っていた。

ゲーム機の奥には、プリクラがあるのは私でも知っている。そして勇気を出して言ってみた。


「タクヤくん、あの、」

「ん?」

「私あの、プ、プリクラ撮ってみたい!」

「あ、うん、いいよ」


200円ずつコインを入れ、フェミニンな外装の巨体に2人で入った。

ここは彼女である私がリードしなければいけないのだろうけど、私自身プリクラにはあまり慣れておらず、時間制限に追われながらコースや背景を選択するだけで精一杯だった。

機械が加工した私たちの顔は綺麗だった。さすがプリクラだなと、今時の女子高校生の気持ちが分からなくもないような気がした。


言い出しっぺは私なのに、分からないことだらけ、戸惑いだらけで迷惑をかけているんじゃないだろうか。


常にあたふたする初デートであった。

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