中重タクヤ(4)
「突然で驚かせてしまったわね、告白とかそんなんじゃないから安心して?それで、タクヤくん、恋愛小説を書くためには人並みの幸せ恋愛経験って必要じゃない?」
「はぁ…まぁ、」
なんと答えたら良いのか分からない。
「実は私、スクールカウンセラーになりたいの。さっき見えちゃったかしらね。それで将来、中学生や高校生を相手に話をする事になったとして、人並みの高校生らしい経験をしてこなかった人が親身になって話を聞いて、同情できるかしらって思ってね。お互い夢を叶えるために恋愛経験が必要なら、私たち二人が交際すればいいんじゃないかと思って。もしよかったら、私と恋人関係になりませんか?」
握手の手が差し出された。
驚きで鼓動が激しくなった。ユウは本当に心理学で心を読めるのではないかと思った。なんとなく俺も、恋人関係という経験を積むためだけの彼女がいればいいのになぁと最近考えていたからだ。それがクラスメイトのユウで、ユウもまたそのような関係を必要としているのなら都合がいい。
ただひとつ問題がある。
「悪くないアイディアだなー」
「ほんとに!?」
ユウの顔が輝いた。
「でもただ、俺はユウのことを恋愛感情として「好き」だと思ったことがないし、これからも思えないと思う」
「それは私も同じ。感情はなくていいの、ただ関係性としてだけ。お互いに彼氏、彼女という称号がついて、一般的な高校生みたいなことをしてみるの」
「それでいいなら好都合だ。契約結婚ならぬ、契約交際だな」
俺は握手の手を掴んだ。
「契約交際って、言葉が誤解を生みそう。模擬試験ならぬ、模擬恋愛って呼ぶのはどう?」
俺たちが結んだ関係、決めたルールである模擬恋愛とは、
名ばかりの恋人関係において彼氏、彼女の役割を果たすロールプレイのようなもの。今のところ期限はなく、話し合いの元にいつでも解消できるものとする。
非常に分かりやすい言葉だ。
お互いが同じ目的で、同じ得をするから、援助交際とは全く違う。下心もなく、至って健全なものだ。
こうして、俺とユウの恋人関係、模擬恋愛は始まった。
形上ではあるが、初めての彼女がこの時できた。
その日、クラスでは他にも2組ほどカップルができていた。
この模擬恋愛が成立したのが学校祭の日だったことは至って偶然だ。ユウがそんなところまで計算しているとは到底思えない。
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