中重タクヤ(3)
気温は日に日に上がり、いよいよ夏という感じになってくる。夏の初め、学校祭の日をいつのまに迎えていた。当日の朝を迎えても出店の装飾にまだこだわりがあるらしく、教室は女子を中心に忙しそうだ。教室に入る前に図書室に寄って借りていた本を返した。そこで学校祭の日の朝から一人で大人しく本を読んでいる山本ユウを見つけた。それはシリーズで置いてある職業本のひとつだった。俺に気づいたユウは慌てたように表紙を隠したが、それは「スクールカウンセラーになるには」というタイトルなのが見えた。
山本ユウに関する追加情報
重めのボブに赤縁メガネでクラスでも目立たないが頭の回転が早そうな女子。見た目からして、この人も理系なんだろうと思う。友達こそいるが、特定の人としか話していないようだ。そして先日分かった、心理士を目指してるということ。
そんな山本ユウとの会話も「おはよう」から少しずつ進展したり。
「学校祭なのに朝から一人か」
「タクヤくんこそ。教室ではまだ作業やってたわよ」
「知ってる、でも女子ばっかりだったしさー」
「今日も暑くなるみたいだからアイスのクラスとか売れそうね」
「あ、話逸らした。確かに、アイスのクラスには負けるなー」
このカンカン照りの日に、俺らのクラスではタコスを売ることになっている。隣のアイスを売るクラスばかりに人が盛るのが容易に想像できる。
他に人のいない図書室では、今まで以上にユウとの会話は続いた。人気のない場所での会話の方がユウは得意なのかもしれない。
「ところでさ、タクヤくん、小説書いてるんなら私も読んでみたいな」
小説はおそらく、古典の授業の時に後ろから見られていたのだろう。
「なんで見てるんだよ」
「見たくなくても視界に入ってしまうんだものねー、さぁどこのサイト?」
「さぁ。基本的に、リア友には見せないんだよねー」
「ふーん、なるほど。じゃあところで、タクヤくんは恋愛小説を書いたことはある?」
ところで、ところで、と話題をどんどん変えてくるな。
「ないなー。なかなか難しいんだよ、恋愛小説は」
「それは何故?」
「何故って…」
「難しいにしては日本でも世界でも恋愛小説は文学の主流よね、古文も古典も世界史でも習うでしょ?」
「まぁ作家たちは恋愛経験がご豊富ですこと」
皮肉を込めて言ってやった。ユウだってろくな経験はなさそうな事だし。
されば首を傾げていたずらっぽく微笑む山本ユウ。
「ということはタクヤくんも恋愛経験を詰めば書けるんじゃないかしらね」
「そうかもなー」
と興味もなく答えると、今度は急に真剣な表情でじっとこちらを見つめてきた。
「では、中重タクヤくん」
「私と、お付き合いしてみませんか」
「ん!?」
突然の出来事に戸惑いを隠しきれず、目線を逸らした。
これは、からかわれているのか?それともガチの告白?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます