第11話

「ただいま」

大輝に家の前まで送ってもらった。

「お帰りなさいませ」

疲れた体を早く休ませたくて自室へ向かう梓。

しかし

「お嬢様!」

と藤井に腕を掴まれた。急なことで心臓が高鳴ってしまった。

「な、なに」

戸惑いを隠せないまま藤井を見ると眉を下げて心配そうな顔をする。

「足から血が出ております」

そう言われて梓は自分の足元を見た。

すると、確かに靴擦れのせいで血が出ていた。

全く気づかなかった。

「直ぐに手当をしましょう」

すると次の瞬間、梓の体がふわっと浮いた。

藤井に、いわゆるお姫様抱っこをされているのだ。

「ちょっと、藤井!」

「暴れないでください、お嬢様」

大輝へ心が動いたそばから、藤井はまた無意識に梓の心を引き戻していく。

梓をベッドへ座らせると、慣れた手つきで手当をしていく藤井。

藤井に触れられることなど、毎日のはずなのに今はいつも以上に緊張してしまう。

「無理なさらないでください。レディにとって足は命です」

「藤井には分からないわ」

つい、冷たい態度をとってしまう梓。

「…楽しまれたようですね」

「何が?」

「プレゼントを、頂いているようなので」

藤井の目線の先には大輝からのプレゼント、勿忘草が。

「勿忘草。確か家にも沢山あったわよね?」

「えぇ。花言葉は…」

にこやかに話す藤井だったが、花言葉に触れると急に顔を曇らせた。

「どうかしたの?」

「あ、いえ、すみません。花言葉は忘れてしまいました」

梓にはそれが嘘だとわかった。だが、あえて触れなかった。

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