第9話

あれは、2年前の事だった。

両親が急に帰国するとの知らせを聞いて久しぶりの一家団欒に心を弾ませていた時、

「梓、お見合いをしなさい」

とだけ言われてドレスやら靴やら髪やらを整えてある食事処に連れていかれた。


そこで出会ったのが秋重 大輝。

第一印象はいい人。 お見合い、と気を張っていた梓だがそんなに心配することでもなかったようだった。

そして食事が済むと、うちのお母様が口を開いた。

「それで、婚約の話なのですが…」

婚約。 そこまで話が膨らんでいるとは思ってもいなかった。

「2人の雰囲気も良いみたいですし、大輝がもしよろしければ」

梓はこのとき、ずっと心の中で断って欲しいと願っていた。

梓の後ろに立って話を聞いていた藤井もそうだ。

「ええ、もちろん。梓さんとなら僕は」

だが、その願いは届かなかった。

今更断るわけにはいかないし、何せ執事が好きだなんて口が裂けても言えなかった梓はそのまま許嫁、という事になった。


「梓さん、好きです。」


「愛していますよ。」


「梓さんのためにプレゼントを用意したよ!」


「一緒にいるだけで幸せだ。」


大輝は、梓に沢山の言葉やプレゼントをあげた。

梓は全て受け取った。だが、好きにはなれなかった。

大輝が言ってくれる言葉は全て、藤井に言って欲しい言葉だと思ってしまうからだ。

しかし藤井は何も言わない。いいや、言えない。


大輝の手をとり梓の胸にあてる。


「私の心にいるのは、秋重さんですよ」


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