第8話

「少し、早く着きすぎたかも」

デートの日だけはお互い、執事やメイドからの送り迎えは無しにしている。

大輝がどうしても、と梓に言ったからだ。

待ち合わせの15分前。梓は待ち合わせ場所の近くまで来ていた。

そして、その場所が見えたところで梓は驚いた。

もうすでに大輝が待ち合わせ場所にいるのだ。

梓はヒールだったが走って大輝のもとまで行った。

「秋重さん!」

「そんなに走ってどうしたの?」

大輝は走ってきた梓に驚きつつも笑っていた。

「まだ15分前ですよ、早く来ているならご連絡くれればもっと早くに」

「いいの、俺が待ってたかっただけだから」

少し乱れた梓の髪を直して言った。

「今度はちゃんと言ってくださいね」

「はーい」

なんて、子供のような返事をする。

普段の大輝からは想像できないような姿。

「梓さん、行こう!」

と、今度は梓の手をとって走り始めた。

急なことでついて行くのに必死な梓。

「ちょっと、秋重さん!まって、」

「あ、ごめん」

今日ヒールを履いてきたのは間違いだった、と後悔する梓。

「でも、梓さんにちょっとでも俺を見て欲しくて」

梓の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

「梓さんと出会ってからずーっと、梓さんは俺のことを見てくれてない」


「梓さんの心の中にいるのは、誰?」

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