5章
32話 陽と影と土だるま
ザニザニの外れからやや南に向かった田舎道に彼らはいた。辺りは青々とした作物が一面に並び、風に揺れてさわさわと軽い音をたてている。まだ年若い少年はしばらく背後を見詰めていたが、くるりと身を翻し息を吐いた。
「追われていないよーだな。良かった」
言って腰袋を開けると、中から勢いよく土色の塊が飛び出し少年の肩にとまった。そしてそのまま肩の上でもう一度跳ねる。
「あ? あの女なら逃げ足早そうだったし、多分逃げただろ。俺だってどさくさに紛れて逃げ切れたんだし、騎士だろうが何だろうがあれが捕まると思えねー」
黒髪の揺れる横顔に土色の塊が身を寄せ、そのざらりとした感触に少年は思いきり顔を顰めた。
「や、め、ろ! お前の体がくっつくと、俺にも色々ついてくるんだよっ! ──って痛ぇよ! グリグリザリザリすんな! 痛ぇ! 痛ぇって言ってんだろっ!!」
肩に手を伸ばし止めようとすれども、土だるまはするりと飛び抜けそれを躱し、交互に伸ばした右手左手も全て躱されてしまう。奇妙なダンスに踊り疲れた少年は大きく舌打ちして肩を落とした。
「っ、はあっ。──ったく何が気に食わねーんだ。お前の名前騙るのはいつものコトだし、レグサスさんと二人きりになったのは俺のせいじゃねーだろ。ってか俺も面倒な話し方続けさせられたせいで、めちゃくちゃ疲れたんだよ。これ以上疲れさせんな」
ひらひらと振った掌の上に重みが加わったことに気付き、少年が顔を上げる。しばし見詰めあっていた少年は、ふと口許を綻ばせた。
「いいんだよ。あの女に着いてかなくても俺は蘇芳に辿り着く。覚えてるよ、約束なんだろ。俺を止めるのは蘇芳、何か蘇芳がヤバイことやらかしてたら──」
冷たい風が頬を打ち、枯草色のフードをかぶった少年はほのかに温かい土だるまを肩に乗せた。
「今度こそ、俺と
緑の絨毯の隙間を縫い、少年と土だるまは歩き出す。太陽に向けて、影を背に。その先に大切な友の姿を求めて。
風が少年達を追いかけ、やがて諦めたようにふつりと消えた。
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