2章

6話 冒険と創生と土だるま

 ○月○日 晴れ

 樹林地帯に進入。

 奇形種二種三体に遭遇。後述別枠にて詳細記載。

 土だるまの跳躍力:約一メートル視認

 耐久:一メートルの落下に耐えうる

 術者との距離:四メートル以上でも動作に問題なし

 身体性能は要継続調査。






 木漏れ日がキラキラして眩しい。覆い繁る木々が直射日光を遮ってくれるお陰でそれなりに過ごしやすいのが幸いだ。ショウブ少年は片手に地図を持ち、障害物のない道を慎重に選びながら、前方を歩いている。時折何やら広い集めているのは小枝と草だろうか。

 まだ太陽が高く、真上から指一本分の角度にも満たない頃──この指角度の表現は個人的には曖昧すぎて好きになれない。手を広げて親指を真上とした時に人差し指までの角度を指一本と言うのだが、真下まで到達するには大抵後指一本分足りないし、何より個人差がありすぎる──とにかく、まだ太陽が頭上に輝く頃、植物性の奇形種に遭遇。

 赤い花を持つ草丈1メートル程の植物で、百合と似ている。


 詳細はすっ飛ばすが、ショウブ少年は危なげなくこれを撃破したとだけ記しておく。確かこいつはグレイギーという推奨討伐ランクD★の奇形種だったと記憶している。疑っていた訳ではないが、本当にDランクなんだな。

 ショウブ少年の得物は剣だ。ハンターには一般的な武器だからさもありなん。どの程度の技量か俺にはわからないが、とりあえず剣に慣れているだろうことはわかる。


 少年は折れ倒れたグレイギーの根元に剣を突き刺した。土の下から白く丸い根を掘り起こす。あ、いいな。俺も根欲しい。あれ食用としてもだけど生薬としても重宝するんだよな。鎮静作用があって、咳止めにも使えるし、栄養価も高いけど、体を冷やす作用もあるから用法用量要注意っと。まあ俺はほぼ見ていただけで倒したのは少年だから、分け前もらおうなんて思わないけど。

 白く硬い拳大の根を布で包み、荷袋に放り込んだ少年は顔を顰めた。ああ。そろそろ対応してあげるのか? あれだけ主張しているんだから、無視し続けるのは難しいと思ってたんだ。


 ショウブ少年の腰にはぷっくり膨れた巾着がぶら下がっている。戦闘中も同様で、その激しい動きに腰袋もまた当然のように右へ左へ上へ下へ、挙句の果てには一回転とぐわんぐわん振り回されていた。その中にいるものにとっては、堪ったものではないだろう。

 その腰袋が、戦闘が終わったにも関わらず揺れている。もうがっさがっさと音を立てて揺れている。少年もそりゃ無視しきれないわな。


「出してあげたらどうだ?」


 可哀想になって言ってやると、少年は溜息をついて腰袋の口を開けた。途端、土色の塊がぬっと顔を出し、ぴょんと少年の腕に飛び乗る。土だるまだ。どこからどう見てもまごう方なき土だるまだ。

 二つの丸い土塊を繋ぎ合せたその土だるまは、軽快なジャンプで少年の肩に、そして頭にとまった。と思ったら即座に叩き落とされた。ムゴイ。地面から身を起こした土だるまが抗議の声、もといジャンプをしている。


 偶然作り出された呪術人形、少年はこの声なき土だるまをそう説明した。


『思うままに操れる人形を作りだそうとしたんです。俺が初めて作り出せたのがこれで、以降作り出せてません。そして残念ながらこちらの命令通りにも動いてくれません』

『へえ呪術人形……凄いな本当に。感動ものだ。ちなみに俺にも作れたりする?』

『さあ。俺も原理がわかってないんで』

『えー。残念。ところで呪術人形って、勝手に動いてしまうものなのか?』

『いえ。通常はありえません。人形の動力源は作り手の術力なので、その力に乗った命令を無視することはできないはずです』


 少年の頭上で蝶と戯れ揺れる土だるまを見た。


『命令通り動いている感じじゃないけど』

『だからこれは特殊なんです。俺の意図とは別に自立して動く。俺にもどういう仕組みになっているのかさっぱりわかりません』


 少年が土だるまを乱暴に掴み降ろすと、手の中で土だるまが暴れる。少年の手が土だるまの動きにあわせて小刻みに揺れるが、少年はすっぱり無視する。


『じゃあ君は、この土だるま君を解呪する方法を探していると? 解呪して、そして今度こそ自分の命令に従う人形を作ろうというのか?』


 少年の手が止まる。やや沈黙を挟んだ後、彼はごくあっさりと答えた。


『まぁ、そんな所です』

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