男装女子でも、運命感じていいんですか?

@hoshitsuru

男装女子でも、運命感じていいんですか?

それは日当たりのよく、そよ風がとても心地いい日曜日の事だった。


「あのっ、初めて見かけた時から、ずっとあなたの事が好きでした。よければ私とお付き合いしてくだしゃい!」


 その女の子は、真っ直ぐ私に向き合った。

 顔を朱色に染めて、何と初々しい告白シーンなのだろう。

 青春ドラマのワンシーンと言われても疑わないほどの純潔さがあった。


「えっと……」


 しかしその告白を受けた当事者であるは、その少女を前に戸惑いを見せるしかなかった。

 何故なら、この子は盛大な勘違いをしている。

 いや、その原因はたぶん、というか絶対自分にあるのだろうけど。


 ……これは、どう説明しようか。



 ★☆★☆★


 自分が周りの女の子とは違うことに気がついたのは、まだ小学6年生の時だった。

 低学年までは普通だったのに、私が小学5年生になったのを期にどんどん身長が伸び始めていた。

 最初は早めの成長期かと思っていたが、一向にその成長が止まることはなく、いつの間にかクラスで一番背の高い男子よりも身長が大きくなっていた。

 そのせいで、同級生の女子なんて小さく見えた。


 友達はみんな「いいな~、背が高いの憧れるなー」とか「スタイル抜群だよねー。羨ましい」とか言うけど、全然良くないし、いい事なんて一つもない。


 やんちゃな男子からは「やーい、デカ女~」なんてからかわれ、学年の捻くれた女子達からは多くの僻みをかった。

 街で友達と買い物していると、スーツ姿の男の人に毎回スカウトされてしつこいし、ナンパ野郎も寄ってきた。

 余りにもしつこいので断って逃げようとした際に、変なチャラ男に無理やり腕を捕まれた時は、凄く怖かった。


 私はただ普通に歩いているだけなのに、すれ違う人みんな、私を物珍しそうに見てくる。

 この前なんて、コンビニでレジ打ち係の店員さんに、目を剥いてオーバーに驚かれてしまった。


 私は、高身長な自分がすごく嫌い。

 だから私は、こんな自分をどうにか目立たせたくなかった。


 そこで知ったのが、男装だった。

 要は女性がコスプレで男キャラに成りきるための変装のことらしいが、私はこれだ、とひらめいた。

 さっそく美容院でバッサリと髪を切り、適当なパーカーやジーンズを購入した。

 そして男装した姿で外を歩くと、いつもより人の視線が少ないのが実感できた。

 男の人からのねっとりした視線は全くなくて、逆に今度は女性の視線が増えたが、同性であるからそれほど気にはならなかった。

 これほど安心して街で買い物が出来たのは初めてで、感動した。


 そして私は、いつの日からか男装に嵌まっていったのだ。

 日曜日には男装姿で近くの国立図書館に訪れて、借りた本をカフェで本を読むという流れが定着するようになっていた。

 そして今日も私は図書館に入り浸り、気になった本を借りてこれから移動しようとしていた。

 の、だが……。


「ちょ、ちょっといいですかっ」

「うん?」


 図書館を出て、これから最近お気に入りの喫茶店に向かおうとしていたところ、後ろから誰かに呼び止められた。

 落とし物でもしたのかな、と思ってさりげなく振り向くと、そこには顔を真っ赤にした女の子が、もじもじしながら立っていた。


「か、かわいい……」


 ひと目見て、思わずそんな言葉が私の口からこぼれ出ていた。


 年は自分より少し下ぐらいか。

 化粧気のなく、幼さの残った可愛らしい顔立ち。

 見た目華奢っぽいなのに、女の子特有の柔らかさがありそうだ。

 まとめた茶髪もふわっとしていて、さやさやと優しい風に揺れている。

 白いブラウスに、ひらひらしたミニスカといった、イマドキの女子風コーデ。

 いや、イマドキ風の女子である。

 これこそ、私が理想としている女の子の図だ。


 私がじーっと目の前の少女を凝視していると、手で顔を隠してしまった。


「そんなに見ないでくだしゃい……」


 恥じらうその一つ一つの仕草が、もの凄く萌える。最後に嚙んでしまったところも愛らしい。

 きっとそこらの男ならイチコロだろう。

 これが所謂“癒され系”ってやつか……と私はレベルの高さに度肝を抜かれていた。


 女の子はよほど恥ずかしいのか、両手で覆いきれなかった耳まで赤くなっていた。

 遠慮なさすぎだったな、と自戒して私はすぐに謝罪した。


「あ……、ごめんなさい。えっと、それで私に何か用かな?」

「ああの、その」


 口をもごもごとさせ、視線をあちこち彷徨わせる。

 先ほどから、後ろの方を気にしているようだった。

 その視線が気になって覗くと、建物の陰からこちらの様子をニヤニヤと窺っている女の子達がいる。

 この子の友達とかなのかな?


「あの、よくここの図書館を利用されてますよね?」

「え?うん、基本週末にだけどね」


 その女の子はようやく話を切りだしてきた。


「実は、私もよくこの図書館に来るんです。そ、それで……」


 いっそう忙しなくもじもじし始めた。

 何をそんなに緊張してるんだろうか、と疑問に感じていると、彼女はやがて決心したように、すぅっと息を吸った。


「あのっ、初めて見かけた時からずっとあなたのことが好きでした」


 ま、まさか……。

 悪い予感がゾワゾワと全身を這い上がってくる。

 待って、もしかしなくてもこの流れは―――


「よければ私とお付き合いしてくだしゃい!」


 あ、また緊張して嚙んじゃってる。かわいいなぁ……って、逃避してる場合ではない。

 取りあえず、一回冷静になろう。


「えっと……」


 私は頭を掻いて、返答につまった。


 ……困ったことになった。

 私は男装をするにおいて、女子から告白されるというケースを全く考えられなかった。


 というかそれ以前に、私だって女であるのだ。

 一先ず、この告白を受け入れることはできない。ここはもう断るしかないんだ。


「告白されて嬉しいけど、……ごめんね」


「ッ!……そ、そうですよね。やっぱ私のような子供なんかと付き合えるはずないですよね」


「あっ、いや、別にそういうんじゃないんだけど」


 やんわりと断ったつもりだったが、それでも女の子は激しく落ち込んでしまった。


 い、言いづらい。

 私が本当は男装しているだけの同性者だなんていったら、確実にあの子はショックを受けるだろう。

 何か純粋な子供を騙しちゃってる感じがして、申し訳ない気持ちになる。

 でも、このまま何も言わないのは、この子に対して失礼だし、さらなる大きな誤解が生まれかねないので、はっきり明かしておく。


「えーと、私のこの見た目が紛らわしいからアレなんだけど……。私、男じゃないんだ」


「……ふぇ?」


「えっと、ほら」


 私はポケットをまさぐって、図書館の利用者カードを見せた。

 ちょうど私の名前が書いてある欄を示す。


「木戸川、桐花さん……」


 ぽそっ、と彼女は私のフルネームを読み上げたて、瞼を瞬かせる。

 “桐花”という名前の男など今どき滅多にいないだろうから、これで誤解は解けるはずだ。


「う、あうぅ……」


 その女の子はみるみる顔を茹で上がらせ、目尻には涙が溜まってゆく。


「ご、ごめんなさいっ」


「あっ、ちょっと!」


 女の子はそのまま踵を返し、顔を伏せて走り去ってしまった。

 その子を追いかけるように、物陰に潜んでいた女の子達が一斉に飛び出す。

 その振り向きざまに、恨めしそうな視線で私を睨んでくる子もいた。


 私も声をかけて逃げた女の子を止めようとしたが、その刹那に垣間見えた彼女の表情は泣き崩れていて、とても追える気力が湧かなかった。

 私は、もの凄い罪悪感で打ちひしがれていた。


 女の子を泣かせるために、男装を始めたわけじゃなかったのに……。


 あの女の子は、ずっと私のことを異性だと思い、ずっと好意を寄せてくれていた。

 そして今回、勇気を振り絞ってやっとの思いで告白をしたのだろう。

 ……それなのに、その結果は全て誤解に終わった。


「なんかもう、不憫すぎる……」


 あの子、大丈夫かな。

 自分が彼女を振っておいて何だが、とても心配なのは確かな気持ちだ。

 何とかまた、会えたらいいんだけど……。

 私は肩を落として、彼女が去っていった先を呆然と見据えていた。


「……ん?」


 すると、その道に日光に反射して光る、四角い何かに気が付いた。

 私がそれをしゃがんで拾うと、それは可愛らしい薄ピンクの布地のパスケースだった。


「これって、さっきの子の……?」


 中に入っていたのは、あの女の子のらしき図書館の利用者カードだった。

 何でここに?と一瞬考えを巡らせたが、きっとさっきの振り返った造作の勢いで落としてしまったのだろう。


 私は、その利用者カードを上にかざして眺める。

 笠井奏と名前が記入されていた。

 奏ちゃんっていうんだ。……って、あの子、私と年齢同じだったのか。

 ……また明日とか、ここに来るかな。


 このパスケースを彼女に届ける必要もあるし、もし明日にでも会えたのなら、その時にちゃんと謝ろうと決意した。





 そして来たる翌日。

 私は、学校終わりに再び図書館に訪れた。もちろん、制服を着たままで。


 取りあえず図書館内を一周しようと回っていると、本棚がならぶ小説コーナーの最奥あたりで、うずくまっている笠井さんを発見した。


「う~ん……ないなぁ……」


 案の定、彼女は腰をかがめて探し物をしているようだった。


「あの、笠井さん?」


「ひゃいっ!?」


 後ろから声をかけると、びくっと肩を跳ね上げて裏返った声が出た。


 背筋を伸ばしたまま振り返って、私と目が合う。


「桐花さんっ!?ど、どうしてここに―――」


 そう言って、ハッと口元を抑える。

 ここは図書館の構内。

 大声を出すと、普段から静かなだけに余計に響いて、周りの人の迷惑になってしまう。

 だけど幸いなことに、平日の4時前はまだ人はまだそこまで居らず、誰かに注意などをされることはなかった。


「はいこれ。昨日落としていったでしょ」


「あ……」


 パスケースを手渡すと、笠井さんは頬を引き攣らせた。


「あ、ありがとうございますっ」


 受け取ると、ホッと安堵の表情を浮かべていた。

「良かった」と一安心しながらも、それから続く言葉がでてこなかった。

 二人の間に気まずい空間が隔てられ、長い沈黙ができる。

 どうしよう、何か話題、話題……。

 そういえば告白の件を謝らなければな、とふと思い出したが、その前に彼女の方が先に口を開いた。


「あ、あの。桐花さんって」


 私の制服姿を眺め、少しだけ躊躇いぎみに言葉を紡ごうとしていた。


「桐花さんって、本当にその、女性だったんですね……。昨日は、私の勘違いで途轍もなく失礼なことを」

「ああいや、それは私が悪いんだよ。私が男装なんてしなけりゃ」

「えっ、だ、男装?」

「そう、男装」


 笠井さんはきょとんと気抜けする。


 私は特に秘密にしているわけでもないので、自分の身長で抱えているコンプレックスを打ち明けた。

 そのために、週末は男装をして気休めのようなものをしていることも。


「―――という事だったんだ」

「そう、だったんですか……」


 話し終えると、笠井さんは眉間に小さくしわを寄せる。

 私としては話を真剣に聞いてくれただけで、内心とても嬉しかった。


「そんな深刻そうな顔しないで。ごめんね、こんな話に付き合わせちゃって」

「いいえ、私はちょっと安心しました」

「えっと……?」

「私、こんな見た目のおさない自分が嫌なんです。ずっと大人の女性に憧れていて、それも桐花さんみたいな人に」

「え……」

「私はこの見た目のせいで、いつまでも周りのみんなから子供扱いされていて。私だってもう高校生なのにですよ?自分のことくらい、自分でちゃんと出来るのに」


 彼女は不満そうに頬を膨らませた。


「……でも、あの桐花さんにも悩みがあると分かると、不謹慎ですけど、安心できました。力になりたいな、と思いました」

「そんな、悪いよ」


 笠井さんは別人のように真剣な目つきで私と視線を交えた。


「そういう悩みは、一人で抱えない方がいいです。私でよければいつでも聞きますから、人にちゃんと相談した方がいいと思うんです」

「……分かった。その時は、笠井さんの話も聞かせてよ」


 私はずっと笠井さんのような女の子らしい容姿に憧れていた。

 だけど、それはそれで笠井さんにとっての悩みの種ともなっていたんだ。


「……あっ。す、すみません。私なんかが偉そうに。でも、きっと私は自分の容姿に悩んでいる仲間がいて嬉しかったんです」


 興奮が冷めて思い返したのか、頬を僅かに紅潮させている。


「……それに、桐花さんは覚えてないかもしれないけど、一回だけ桐花さんに本棚の高いところの本を取って貰った事があったんですよ?


 私が背伸びしても全然届かなくて苦戦しているとき、ひょいっとその本を取ってくれた姿がもう格好良くて。こんな素敵な人がいて、仲良くなれたらな、て思ったのがそもそもの告白の切っ掛けだったんです」


 笠井さんは照れながらも、そう話してくれた。


「今日だってわざわざ、このパスケースを私に届けるために来てくれたんですよね?桐花さんは、やっぱり私が見た素敵な桐花さんです。だから、その」


 ぐっと顔を上げて、彼女の弱気を奮い上げた。


「わ、私と友達になってくれませんかっ?」

「……もちろん!」


 私は即座にオーケーした。

 でこぼこな二人だけど、だからこそ歯車が噛み合うように、分かり合える事の方が多いのかもしれない。

 私は、笠井さんとなら上手くやっていける気がした。


 私達は見つめ合い、お互いに微笑みがこぼれた。

 先ほどまでの場の緊張感は何処へやら、すっかり和やかなものに変わっていた。


「かなでー?どう、探し物見つかった~?―――って」


 すると、女の子がひょこりと本棚から姿を現した。


 この子、どこかで?……そうだ、確かあの時に私を睨んできた子だ。


「ああっ、昨日かなでをフった人!本当に女だったんだ」

「ちょっ、涼ちゃん!」


 向こうも覚えていたようで、涼ちゃんと呼ばれたその子は私を目の端で捉えるやいなや、思いきり指さして驚きを露わに言った。

 そのストレートな感想に笠井さんはあわあわとしているが、ここまで素直に言えた涼さんに、逆に私は好感を持てた。


「ごめんね、桐花さん。涼ちゃんがしごく無神経なことを」

「あっ、いや大丈夫だよ。気にしてないから」


 上目遣いで見られ、瞬間ドキッと心臓が跳ね上がった。

 私は笠井さんに何ともない風に装ったが、これまでにないほど気持ちが動転していた。

 私を見つめる彼女の大きな瞳に、吸い込まれそうになる。

 あ、あれ?私、どうしちゃったんだろう。

 バクバクと鼓動が早鐘のごとく脈打つのが頭に響いてうるさい。

 頬の表面にだんだん熱が帯びていく。

 しかも、胸が圧迫されて苦しい。けど、嫌じゃない。

 むしろ何だろう、すごく幸せな気分だ。

 今まで、こんな気持ちになったことはなかったのに。

 もっと、もっと笠井さんに見てほしい。意識して欲しい。そんな感情が自分を取り巻いて、どうにかなってしまいそうになる。


「ふふ、かなではけっこう手強いよ?」

「えっ!?」


 突然、私の耳元でそんな声が囁やかれた。

 私はぎょっとして横を見ると、涼さんはイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべていた。


「うそうそ、冗談だよ。こんな台詞、一回言ってみたかったってだけだから。じゃあねーかなで、また明日学校でね」

「え?うん、手伝ってくれてありがとね、涼ちゃん」


 涼さんは軽い調子でそれだけ告げると、忍び笑いをしながらこの場を立ち去っていった。

 彼女が耳打ちした言葉の意味は分からなかったが、それでもなぜか私の胸にはモヤモヤしたものが残っていた。






 ★☆★☆★




 この一週間の終わりを締めくくる日曜日、私は奏ちゃんとお出かけの約束をしていた。

 こうして会うのは、奏ちゃんと友達になった月曜ぶりである。

 あれから私達は携帯番号を交換し、毎日メールで連絡を取り合っていた。


 そのやり取りのうちに、私が服のサイズがまた小さくなってきている悩みを話すと、今度一緒に服屋さんに行きませんかと誘ってくれたのだ。

 彼女いわく、ファッションに関しては人一倍に造詣があるらしく、私に見合った服を探してくれるようだった。

 当然、私にそのお誘いを断る理由などない。


 目的の最寄り駅で待ち合わせをしていると、純白のワンピースを着こなした奏ちゃんが、トテトテと私の元にやってきた。


「私、遅れました……?」

「いや、私が早く来すぎちゃっただけ」


 不安そうに顔を窺う奏ちゃんに、私ははにかんで首を振った。

 お互いにまだだった自己紹介をすることにした。


「えっと、改めまして、私の名前は木戸川桐花。奏ちゃん、これからよろしくね」

「わ、私は笠井奏です。こちらこそ、よろしくお願いしましゅ!」

「はいダメ~。畏まらない緊張しない。私とは友達なんだから、気楽に気楽に」


 何処となくギクシャクしている奏ちゃんを、私は落ち着かせた。


「よ、よろしくっ」

「うん!じゃあさっそく行こうか」


 私は満足して頷き、笠井さんの手を取った。

 流石に大胆すぎるかな、と思ったが、奏ちゃんは少し狼狽えただけで、すぐさま手を握ってくれた。

 それを確認してから、私はその手を柔らかく握り返した。

 心がぽかぽかして、とても温かい。

 まだ顔がほんのり赤く染まっている奏ちゃんを見て、また自然と頬が緩んだ。


「……桐花ちゃん?どうかしたの?」

「ううんっ、何でもないよ」


 奏ちゃんにとって友達よりもずっと大切で、特別な存在になりたいと思った。

 全く私は何考えてんだか、と心の中で一笑したが、日に日に私のこの想いが強くなっていった。

 これ以上にないほどまでに、物足りないという気持ちが膨れあがっている。


 ただこの気持ちは、まだ胸のうちにしまっておいた方がいい気がする。

 それよりも今は、奏ちゃんとのお出かけ、もといデートを楽しも―――


「うわあっ!?」


 突然、背後で何かが崩れる音と、同時にいくつかの悲鳴がきこえた。

 私たちは何事かとすぐさま振り向くと、


「あいたた……」


 そこには、涼さんを含んだ奏ちゃんの友達が、柱の後ろから重ね倒れしていた。


「涼ちゃんたち!?ど、どうしてここに!?」

「あ~……。私たちのことは気にせず、お二人はデートを続けてどうぞ」

「もーう!」


 奏ちゃんの問いに、涼さんらは誤魔化すように目をそらして、再びそそくさと隠れていった。

 ヤケになったのか、もはや姿がバレバレである。


「はぁ……。な、なんかごめんね桐花ちゃん」

「ううん、別に謝ることじゃないよ」


 涼さんたちは、きっとテンパりやすい奏ちゃんが心配でついて来たのだろう。

 友達思いの良い子たちだな、と私は感心した。


「じゃあそろそろ行こうか、奏ちゃん!」

「うん、桐花ちゃん!」


 今度こそ離さないよう、私たちはギュッとしっかり手を繋いだ。

 そして、今日一日を大切な思い出にするぞ、と私は意気込むのだった。

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