第22話:昔馴染みの実力


「それじゃ、行こうか」


岬と一緒に再び訓練用ドームへと移動するが、ドームは敷地内にあるので移動は容易い。

二人とも既に制服から弾力がある演習用スーツに着替えてある。


基本的に蒼風学園の制服は弾力と強度を大幅に向上させてある。

いきなりの事態に対応する時に制服で動いて阻害されるようでは話にならない。


ちなみに残念ながら女子は常にスパッツ着用だ。


そこから更に耐久性を上げたのがこの黒いスーツ。

地上的に身も蓋もない言い方をすると“かっこいい体操服”である。


「それにしても連也にあんな知り合いがいたとはね。仲良いけど、そういう関係なわけ?」


「単なる昔馴染み。そういう関係だったことはない」


「でも、彼女って連也のこと好きじゃん」


岬は全く躊躇う様子もなく、確信を持って二人の関係に切り込む。

天空都市ではこういうことにオブラートに包む文化はないのだろうか。

律羽のような気遣いができる淑女がいるのを考えると、そうでもないようだが。


「・・・・・・はっきり言うね、お前」


「それが僕の交友関係だから。それに、ハッキリするのは嫌いじゃないだろ?」


岬は見透かしたような目でそう告げる。

確かに回りくどいやり方をされるよりは、はっきり言われた方がマシだ。


「まあな。葵の前ではあんまり突っ込まないでくれると助かる」


「了解、嫌がらせをする趣味はないからね」


単刀直入に言ってくるかと思えば、こうして本当に言ってほしくないと頼めば何も聞かずに受け入れる。

そこが岬の妙な器の大きさを感じさせる所だった。

騎士長として権限を持つ律羽に対して遠慮が全くない男も見る限りでは岬だけだった。


この男とは何だか上手くやっていけそうな予感がしていた。


ドームに辿り着くと既にウォームアップをしている人間が何人もいた。

今朝にも会った東間と視線が合うが、苦々しい顔をされて目を逸らされる。


今日は取り巻きが遠慮がちに離れているのを見ると東間が望んで集めた子分ではないらしい。

そこから周囲を見回すとアップ完了したらしい律羽と葵が見えた。


「それじゃ、今日は私が相手をするから。基本的な所はどこまで出来る?」


「うーん、大体オッケー。後は動かしてみたいかな」


そんな二人の様子を見守りながら岬とストレッチを行う。

全身の筋力を使うエアリアルの起動はアップを欠くと怪我をし易い。


律羽も葵も灰色の演習用のエアリアルを使用している。


「うーん、ちょっと重いかも」


少しだけ眉根を寄せて葵は何度か浮遊を繰り返す。

葵には事前に力の加減を考えろと言ってある。


そうしている間に連也のアップも完了し、葵と律羽は互いに向き合った。


「さて、それじゃあ少し早いが始めろ」


景教官もそんな雰囲気を察して早めにスタートを告げる。


「とりあえず、一度全力で私を蹴ってみてくれる?」


律羽は初心者であろう葵に非常に優しかった。

まずは適性の度合いを見てアドバイスできることがあればしようという姿勢だ。

それでも連也から葵の適性の高さは聞いているので、やや警戒気味だ。


「えぇ?でも、一方的ってのも趣味じゃないんだよねぇ」


「いいわよ、私も簡単にやられるつもりはないから」


「そっか、律羽って凄いんだもんね。それじゃ、行っちゃうよ!!」


一度、停止の動作を行って空中に浮遊する葵。

律羽は気付いただろうが、その淀みない動作は明らかにエアリアルを扱える者の動きだ。


そして―――


「いっきまーす!!」


元気のよい掛け声が放たれた瞬間。


風が切り裂かれる音が連也の耳にも届いた。


「なっ・・・・・・!?」


さすがの律羽も面食らって、その場から瞬時に放出をかけて離脱する。

葵の蹴りはとんでもない速度で先程前まで律羽がいた空間を抉り取っていた。

あれを初見で躱す律羽も尋常ではないが、蹴りを放った葵も同じく尋常ではない。


それを眺めていた周囲の生徒も目を疑った様子でそれを見ていた。


その速度もそうだが、一瞬で停止をかける技術は明らかに初心者の域を超えている。


「やっぱり、このパターンね」


律羽が頬をひくつかせながら連也を見る。

俺は悪くないと再度、意味のないストレッチを始める連也。


「あのバカ・・・・・・少しは加減を、してるか」


ぼそりと呟いたものの、本気の葵は恐らくもう少し速い。

スピードだけなら連也にも勝るだろう。

そして、連也も人のことを言える立場ではなかった。


葵のその動きを見て律羽の目に真剣さが帯びる。


「葵、次は一発だけじゃなくていい。好きなだけ攻撃してきていいわよ」


「オッケー、今の避けられるとは思わなかったなー」


二人とも笑みを交わし、再び対峙する。

互いに相手の実力を悟るには今の一瞬の交錯だけで十分だった。

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