三
「あの日」から一度だけ、僕と修一と二人だけで汽車に乗っている夢を見た。車輛は僕たちが最後に乗ったあの車輛だった。
「なあ、毅」窓の桟に肘をついている修一が僕に言った。「この鉄道はな、俺らが小学校を卒業した後の三月三十一日に廃止になるんだ」
「どうして、そんなことを知ってるんだ?」
「どうしてだと思う?」
汽車が停まり、ドアが開いた。
修一は立ち上がり、汽車を降りて行った。窓の向こうで、小さなホームで修一は僕を見て、笑って立っていた。
そこで目が覚めた。
気が付けば、「あの事故」から三年の歳月が過ぎていた。僕も、「あの日」に同じ汽車に乗らなかったクラスメイトも、六年生になった。卒業がもう、数ヶ月後に迫っていた。
でも……。
卒業できなかった美知代たちの事を考えると、素直には喜べない僕がいた。僕だけが、生きて、良かったのだろうか。何度も、そう考えた。
それに、汽車も利用客が減り続けたこともあって、廃止が発表されたのは丁度一年前のこと。僕が最後に乗った時も夕方ラッシュの時間帯だったけれども、人は大して多くは乗っていなかった。事故が起きる前から経営は苦しかったらしい。あれから、よく、これだけ続いたと思う。
この鉄道の最終日は僕らが小学校を卒業した後の三月三十一日。修一が夢で教えてくれた日と同じだった。もしかして、その日に汽車に乗れ、っていうことだろうか?
修一の最後の意志が、僕に託された、と思った。
卒業式当日。梅の花が咲き始めた頃だった。式が終わってから、教室に戻り、卒業アルバムと記念品を貰った。
卒業といっても小学校だからクラスメイトのほとんどとは、中学も一緒だった。でも、少しだけ、私立の学校に行く奴もいて、そういう奴とは記念写真も撮ったし、話も出来るだけした。
最後に、音楽が流れる中を門から出る時に声を掛けられた。
「なあ、毅」
「何?」僕は振り返る。
政重だ。彼は私立の中学に行くことになっている。
「あのさ……」彼は一度、言葉を切った。「三十一日。汽車に乗りに行かないか?」
「え? どうしてだ?」
僕は戸惑った。汽車に乗ったことは「あの日」から無かった。
「あ、でも、ダメならいい」
「いや、行く」僕はまっすぐ彼を見た。
「いいのか? 無理しなくていいけど」
「ああ、夢を見たから」
沈黙。
そう、夢を見たから。修一の。
乗りに行かないと、彼らに失礼なような、気がしたから。
僕は、こうして、生きているんだから。
「夢?」
「そう」
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