　人間と犬は友だちだっていうけれど、その街では羊が親友なんだって。

　私がホームステイしたお宅で飼われていたのも、もちろん羊だった。空港の到着ロビーまで迎えに来てくれたホストマザーの後ろをさ、黒い顔にベージュの巻き毛の羊が追ってきてね。予備知識として知ってはいたけど、でも異様に見えたよね。すぐ慣れたけど。その辺でいつも見てる犬よりかは、そりゃだいぶ大きいけど、犬と違って肉食獣のキバもツメもないんだもんなぁ。

　洗い立ての羊って本当にふわふわでさ。最高だった。ステイ先の家だと、二週間に一回くらいのペースで洗ってたんだけど、よくシツケられてるからか、それとも羊ってそういう生き物なのかは知らないけど、すごく大人しくてね。ブラッシングしながらドライヤーをかけてあげると、途中で眠り込んじゃったりするの。かわいいでしょ。

　犬を散歩させるみたいに、羊の散歩をする人もいたけれど、放牧場に預けてる人の方が多かったかな。仕事とか学校とかで忙しくしてる人が多い、わりと人生がせわしない感じの街だったから、犬よりも羊の方が向いてたんだろうね。朝、放牧場に連れて行ったら、あとは夜まで羊飼いさんと牧羊犬が面倒を見てくれるし、あとは連れて帰るだけ。家でもふもふしながら、その日にあったことを報告するのがさ、これがいいんだよね。羊ってなんでも黙って聞いてくれるし、最高に癒し系。

　いい街ではあったんだけどさ。やっぱり留学って疲れるでしょ。言葉が分からないから、授業は半分も理解できないっていうか、むしろ五割も理解できてたら上出来だよね。でも払ってる授業料は十割。それどころか渡航費、滞在費に事前準備に費やしたお金と時間、すり減らした神経のことなんて考えちゃうと、十五割くらいは得るものが欲しくなっちゃうじゃない。卑しい人間だもん。諦めがつくまで、文字通り毎晩泣いてた。泣いてるとき、羊がいてくれてよかった。

　市街地の合間に放牧場があるから、緑も多くてね。苛立ちをどうしようもなくなっちゃいそうになったら、その前に窓辺に行くの。するとグリーンの牧草の上に、ふわふわの羊が群れてるってわけ。

　今でもホストファミリーとの間には、クリスマスカードのやり取りがあるんだけど、それによると羊ちゃんはまだ元気みたい。いつか向こうに移住することができたら、私も自分の羊を飼いたいなぁ。それでホストファミリーと同じ羊飼いさんに預けて、同じ群れで遊ばせてあげるんだ。