第15話~西の問題児「破壊娘」10~

凪彩が目を覚ますと先日の様に纏わり付く水恋も無く起きる事が出来た。


「あ、おはよー凪彩、今日は随分とお寝坊さんね」


「おはよ・・お寝坊さん?って今何時?」


「もう、お昼くらいになるかな」


凪彩は慌てて起きると水恋の布団は片付けられ台所に寄せられたちゃぶ台には、陣水が作ったのであろう2人分の食事が置かれ、水恋は台所を背もたれにしてちゃぶ台の前に胡坐を掻き「たくあん」らしき物を摘まんでいた。


「こんな時間まで何で起こしてくれなかったの?」


「だって寝顔が・・じゃなくて起こしたんだけど起きないし・・多分妖力と言うか精神力の使い過ぎで疲れたんじゃない?」


最近、術を長時間使う事が無かった凪彩は実家で修行をしていた頃の様な疲労感があった。


「お!起きたのか羽澄さん、ねーちゃんより遅く起きるなんて・・」


「遅く起きるなんて何よ陣水」


陣水が昼の食材を手にはなれに入って来ると凪彩は慌てて布団を片付け始め、それを傍観している姉に「そこにいたら邪魔だから、手伝ってやれよ」と陣水は言いながらちゃぶ台を足で中央にずらし調理を始めた。


陣水は朝食用に作り手の付けていない料理に温かい2品を追加すると


「朝作ったのは冷めているいけどこのままでいいか?」


「あ!ねーちゃんに任せなさい」


水恋は何かを思い出すと荷物で持って来た空の段ボール箱を用意すると冷めた料理の皿を入れるだけ入れ蓋を閉めた。


「陣水、見ていろ、これが人間の作った『チン』と言うやつだ」


水恋はそう言うと蓋の隙間から右手を入れ中身が見えない様に段ボールを左手で押さえ「チーン」と自分で言うと蓋を開け湯気が上がる皿を取り出した。


「す、凄い・・温かくなっている・・どうやったんだねーちゃん」


陣水は空になった段ボール箱を覗き仕掛けが無いか中に手を突っ込んで探った。


「フフーン、人間界にはこの村では考えられない様な便利な物が沢山あってチンはその内の1つで何でも温かく出来るんだ、ちなみに卵は爆発するから注意が必要」


「こんな箱だけで何でも温かく出来きて・・卵が爆発させるなんて・・人間界には便利だけど危険な物があるんだな」


田舎から都会に行った姉が田舎から出た事の無い弟に「凄いでしょ」と指を立て自慢する様に言うと「いや、箱の中で術使っているから電子レンジでは・・それと・・やっぱり卵を爆発させたんだ・・」凪彩は誰もいない幼稚園で同じ事をして後片付けが大変だった自分を水恋に重ねると「自分だけじゃなかったんだ」と何故かホッと安心した。



朝早く土天狗の村に向かった水香は水天狗の村より3倍は広い領地の中央に立つ立派な家の客間にいた。


「水香よ、今更何を言っている、こちらは既に準備も整えお前の所の娘が来るだけの状態にしているのだが」


「申し訳無い・・こちらから話をして今更白紙にとは都合が良すぎるとは思っている・・」


キセルを吸いながら余裕の表情で胡坐を掻く土天狗の長の土神つちがみと肘立てに腕を乗せ肘立ての端を爪で叩く長男 地砕ちさいを前に水香は油汗を掻いていた。


「親父、もういいんじゃないか結婚なんて儀式は・・」


「地砕、何を言っている、それでは我々の面子が・・」


「面子?結婚なんて面倒な事しないで・・奪って領土拡大すればいいのでは?早くあの湖の村を最終防衛ラインにでもしないと・・この村も勢力を伸ばしている鬼に対抗出来なくなる」


「鬼に対抗出来ない?何の話だ土神」


初めて聞く「鬼」の話に水香が土神に問うと土神は大きくキセルを吸うとゆっくり吐いた。


「水香には申し訳ないが地砕が言った通りだ、西からある鬼の集団が無差別に妖を狩りながら進軍している・・そしてこのまま進めばこの地方にもいずれ現れる・・そこでこの村では対抗する人員の確保と拠点となる場所を探していた・・悪いが水天狗は後方支援を得意としていて前線戦力としては数に入れられない、そこで嫁を貰い主導権を握りあの湖を利用して拠点にしようと考えていた」


「鬼の進行・・本当なのか土神・・そんな事が起きていたのか・・」


「水香、人間と組むのであろう?お前達と人間でどこまでやれるか分からんが、撃退できれば我々はお前の村には手を出さない・・お互い自分の村の守りだけを考えれば済むと言う事だ・・ただし、今回の件の代償としてお前の村が滅ぼされたならば我らがその地を頂くがよろしいな」


「・・分かった、それで話が付くなら条件を飲む・・急ぎ村に戻って話をしなければ」


水恋の結婚破棄の話をしに来た水香は土神の話を聞くと、それどころでは無いと慌てて戻ろうと立ち上ると地砕が手で制した。


「あぁ~水香さん親父と話は付いたけど当事者の俺はまだ納得が行っていなくてね・・拠点と言う目的の為ではあるがお宅の娘さんを貰うからと他の天狗からの縁談を断っているんだけど・・」


「我々にどうしろと・・」


「そうだな・・その妖を操る人間の術士が見てみたい・・鬼達が来たら人間達に進行を止めてもらわないとこの村も困るからな・・俺に変わって婿になるからには俺より強いんだろうな水香さん・・俺は遅れてそちらに向かうから、よろしく」


「・・分かった、話をしてみる」


もはや断る事も出来ずに水香は返事をすると急いで部屋を出て村に戻った。


「地砕、勝手な真似を・・」


「その術士が弱ければ食ってしまえばいい・・その後、村ごと食ってしまえばいいだけだ・・そうだろう親父」


地砕は薄笑いを浮かべ立ち上ると表情を変えない父親に答えた。



凪彩、水恋、陣水の3人は昼食を始めようとした時、はなれの扉を「ドンドン」叩く音が聞こえ水葉を先頭に水香がはなれに入って来た。


「水恋、陣水はいるかしら?あら・・お昼?それなら私達も一緒にしましょう」


陣水は残っていた食材を使い人数分の食事を揃えると5人は小さいちゃぶ台を囲み「いただきます」だけを言うと食事が終わるまで無言状態が続き陣水が後片付けをしていると水葉が肘で水香を突いた。


「ほら、あなた早くしないと」


「あぁ、そうだな・・水恋、話がある」


水葉に言われ水香はそう切り出すと土天狗の村であった事を話し始めた。


「私との結婚の件はいいとしても・・鬼の進行を止めるなんてこの村じゃ無理じゃない?」


「そうなんだが・・何と言えばいいのか・・えーとだな・・」


「もう、あなたったら・・はっきりしなさい」


「そうだが・・何て話をしたら・・」


水香が頭を掻きながら悩んでいると水葉がため息を吐きながら話し始めた。


「はぁ~しょうがないわね、私の知人の紹介で住居を失った若い風天狗25人がこの村に移住して来ます、この村の天狗と合わして50人近くになり頭数は揃いますが・・それでも鬼の進行には数も力もまだまだ足りません・・そこで羽澄さん、あなたの力が必要です」


「え・・私の力ですか?」


関与してはいけない話を聞いていた凪彩は水葉に急に話を振られ自分を指さし答えた。


「そうよ~水恋の婿になるんだから人間とは言え協力して貰わないと・・」


「ですが、私は・・」


「そうだよ、嫁の実家に危機が迫るんだから~婿としては嫁とその親戚を守らないと♪」


水葉の話に乗り水恋が嬉しそうにそう言うと凪彩は「やっぱり私が婿なんだ・・」と思いながら


「協力はしますが、私1人が入ったとしても大した戦力になれるか・・」


「地雷帝もいるし大丈夫だよ、それに凪彩がいれば私も安心♪」


「凪彩さん、あなたのいた人間界に協力出来る術士はいないの?もし協力してくれるなら・・こちらとしてもそれ相応のお礼はしますよ・・せっかく人間と知り合えたのだし」


「人間界の術士ですか・・人間が妖に関与する事は・・」


「もう関与しているじゃない・・それに辞表置いてきたしもう警察じゃないんだから♪」


「それはそうだけど・・術士の知り合いが・・」


凪彩が水葉の想像もしない提案に戸惑っていると地雷帝が勝手に分離し凪彩の膝に座ると


「凪彩に知り合いの術士なんていない・・いても両親くらいで話をしても無駄だろう・・それならわしの知り合いの凪彩の元上司にでも話をしてやろう、まぁ人間が協力するかは分からないがな」


「わたし個人の話を埼雲寺さんにしたって・・それにそんな事をしたら対妖法に・・」


「抵触するか?今まで散々迷惑掛けて今更この話をしたところであやつが凪彩を捕まえるのか?それにどうやってここに来る?ここの水天狗全員とはいかないが代表が友好的なら戦争にはならないと思うが・・そうじゃな水香」


地雷帝に話を振られ陣水が出したお茶を飲みながら水香が頷くと


「地雷帝の言う通りだ、村の危機に人間が協力してくれると言うなら我々はそれに報いるつもりだ・・新たに出て来た鬼の進行の問題は水恋のお陰でこの村を守る為の選択肢が増えた・・それに何と言うか・・わしもだな人間界に興味が無いと言うか・・」


水香は頭を掻きながら少し恥ずかしそうに言うと


「私も水香も人間界に行ってみたいと思っていたの~地雷帝から聞いたけど2人が使役関係夫婦になれば・・何と言ったかしら人間界の法律では許可があれば両親は娘に会いに行けるらしいし・・水恋が人間界のどんな場所で何をしていたのかとても気になっていたし~婿さんには人間界を色々と案内してもらわないと・・そうするには先ずはこの村を鬼から守れる様にしないと・・安心して凪彩さんに水恋の子供は期待していないから」


「母様、そんな子供だなんて♪私達にはまだ早いです♪」


「は、早いとかそう言う問題じゃ!?」


「わしならいつでも協力するぞ♪」


「私は地雷帝じゃなくて・・凪彩の子供が欲しいの」


「つまらない嫁じゃな」


「ほ、欲しいの!?私の?こ、子供が!?・・・・!?」


水香と水葉の大事な話が若妻と化し嬉し恥ずかし水恋の「子供」の話で全てが吹っ飛んだ凪彩はそう言い何かを想像すると顔を真っ赤にして頭から蒸気を出しながら黙ってしまった。



「子供」の話に凪彩が正気を取り戻した頃に土天狗の地砕が単独で水天狗の村にやって来た。


凪彩は水天狗の村の天狗達と一緒に村の入り口で出迎えると地砕は茶色の山伏衣装に水香に負けず劣らずの高身長に体格で長い錫杖を手にしていた。


「私は使者でここに来た訳ではないからわざわざ出迎えとは御苦労な事だが・・そこの変な服の人間が水恋の婿なのか?よく見ればただの人間の女ではないか・・妖を飼っているらしいが・・こんなのが村を守るのか水香さん」


地砕は地上に降りるなり凪彩を見つけ近づくと鋭い目で凪彩を上から見下ろしながら言った。


「地砕、こんなのかとか凪彩に失礼じゃない、謝りなさいよ」


「水恋、お前には何も聞いていない・・それと謝る?ひ弱な人間ごときに使う言葉としては最適な言葉を使ったのだが間違いだったか?」


「何よ凪彩は・・」


「地砕、済まない・・水恋の行為はわしが詫びるから許してやってくれ」


「目的の為とは言え、こんなじゃじゃ馬を嫁に貰う事になっていた俺の身になって欲しいものだな・・まぁそれも人間のお陰で無くなった事だし・・今後同じ様な事があれば少なくとも俺に相応しい娘にしてもらわないと・・連れて歩くにしても恥ずかしくて敵わないからな」


「ちょっと待ちなさいよ、じゃじゃ馬とか・・ちょっと何よ・・な、凪彩?」


水香が水恋を手で制し詫びると地砕は水恋と同じく村の為にと元々好きでも無い女天狗を嫁にする事と今回の縁談で断った天狗の村々に謝罪をしなければならないストレスから溜まっていた物を吐き出す様に言うと凪彩は水恋の肩に手を掛け地砕の前に出ると眼鏡を押し地砕を見上げるとそこにいた全員が聞こえる声で


「次期の土神と聞いていたからもっと高貴な妖だと思っていたけど・・ただの高プライドの固まった天狗の妖ですか?私の所属していた府警にもそう言う嫌われた人が沢山いますよ・・あなたの様な人には付いて行く人は少ないと思いますが・・水香さんみたいに鬼達から1人で村を守ったとか信用信頼がないと人は付いて行きませんよ・・私にも信頼出来る上司がいて私が問題を起こしても怒らず自分を巻き込んで庇ってくれました・・それと婿のどこが偉いの?連れて歩くにしても恥ずかしい?あなたと歩く方が恥ずかしいですが・・夫婦って言うのは平等だと思うし・・お互いに助け合い生きていく物だと思います・・確かに水恋はどうしよも無いじゃじゃ馬かもしれない・・我儘で何でも人任せで炊事洗濯料理も駄目・・おまけに味覚がおかしい・・嫁としては最低かもしれませんが・・人生を共に楽しく生きるなら最高のパートナーだと思っています・・だから私は水恋をあなたから奪う・・大事なメル友だから」


「な、凪彩さん・・喜んでいいのか悲しいのか分からないけど・・大事なメル友?よく分からないけど水恋は嬉しいよ~」


「ちょ、ちょっと水恋・・重いから抱きつかないでーキャーどこ触っているのー」


凪彩の色々並べた演説に感動した水恋は凪彩の背中から抱き着くとそれを見た地砕が肩を震わせ


「人間ごときが説教だと・・この俺に?許さんぞ人間・・侮辱した事を後悔させてやる」


「侮辱されたと思うなら自覚があるんですよね・・それを直せば上に立てるかもしれませんよ・・ちょっと水恋邪魔しないで」


「この場で殺してやる・・」


水恋の状況を無視した抱擁に凪彩が何気に放った強烈な突っ込みに地砕が切れかけていると水香が割って入って来た。


「あー申し訳ない地砕・・こんな所で術を使われたら村が困る・・」


「そんな事はどうでもいい・・」


「そんな事言っていると・・みんなに嫌われますよ」


凪彩は纏わり付く水恋を押しのけ怒らすつもりでは無く普通に言っているが言われた本人は噴火寸前の火山になっていた。


「この村ごと消し飛ばしてやる」


地砕が術の体制に入ると集まっていた凪彩と水恋以外の天狗は地砕に構えた。


「この馬鹿者が、人間の女に切れるとは何事だ!」


術が完成する直前に地砕の後ろの地面が裂けると錫杖を持った老天狗が現れ持っていた錫杖で術の完成を邪魔した。


「馬鹿息子が・・お前が1人で行くと言ったからこっそり付いて来てみれば・・人間相手に周りの事も考えずに調子に乗りおって・・済まない水香」


「父上・・申し訳ありません・・しかしあの人間が・・」


「そうじゃな・・そこの人間、水香から話は聞いておると思うが・・この村の総力を挙げて鬼の進行を止められないのであれば・・こちらとしてはこの村をそれまで放っておくわけにはいかない」


凪彩は土神の登場に「デレ」を止めた水恋から離れると強力に放たれる妖力に圧倒されながらも眼鏡を押した。


「私にどうしろと言うのです」


「そうじゃな・・地砕の土神の儀を行う、立ち合いは・・わし、水香、水葉で行い対象は・・この人間の女とする・・この村の儀の場所を借りるが良いな水香」


「この村で土神の儀を・・父上、正気ですか?しかも人間の女が相手などと・・」


「正気だとも、人間の女に勝てば土神の地位をお前に全て譲ろう」


凪彩は儀式の意味か分からなかったが、話の内容から土砕と戦う事だけは把握出来た。


「ちょっと待ってください、何故私が戦わなければ・・」


「ここの水天狗と村に入る若い風天狗の力は何となく把握できるが・・地雷帝を飼っているとは言えお前の力が読めない」


「地雷帝の事を・・」


「知っているとも、わしはこの辺りでは長く生きている・・昔この湖にいて強力な妖力を発していたからわしぐらいになれば同属性だから分かる・・しかしあの頃の様に強力な妖気が今は感じない・・人間に飼われて弱くなったのであれば戦力としては数えられないからな」


「さっきから話を聞いていれば人間に飼われた飼われたと気に障るやつだ・・わしが弱くなった?馬鹿を抜かすな凪彩に入ってあの頃より妖力は上がっている・・わしの事よりお前の息子を心配した方がいいと思うが」


土神の話にイラっときた地雷帝がその場にいる全員に聞こえる様に言うと


「ようやく現れたな地雷帝、地砕の事を心配してくれるのか?心配無用・・若いがあれでも村ではわしの次に妖力が強いぞ」


「地砕が死ねば後継者がいなくなるがいいのだな?」


「弱いならそこまで、これからも変わらずわしが長をすれば済む事だ」


「いいであろう・・後悔するなよ土神、行くぞ凪彩」


地雷帝はそう言うとスッーと凪彩の中に戻って行った。


「おい、俺を殺すだと地雷帝」


「ちょっと、待ってよ地雷帝、え、あ、わ、私は何も言っていないけど」


文句を言う相手が消えた地砕は血相を変え凪彩に迫りながら言うと凪彩は宿る妖に抗議をしながら地砕に両手を振って反論したが水恋に腕を組まれ引きずる様に湖の方に連れて行かれた。



村の入り口から湖沿いに少し行くと湖から細い道の先に浮かぶ半径20mの巨大な土俵の様な平らな島が浮かんでいた。


「土神、本当に儀を行っていいのだな・・始めたらどちらかが負けを宣言するか死ぬまでここから出られないが」


「水神、土神に二言は無い」


水香は土神に確認を取ると凪彩と地砕に島に移動する様に言うと。


「水香さんちょっと待って下さい、私はその儀を受けるかどうかは・・」


「心配するな、強いとは言え地砕程度の妖力なら凪彩でも十分勝ち目はある」


凪彩が水香に抗議すると地雷帝が凪彩だけに聞こえる様に割り込んで来た。


「地雷帝、勝手に話を進めるなんてどう言う事、私無駄な争いはしないから」


「凪彩には無駄だろうが、ここの村の天狗達には・・」


「地雷帝が決めたんだから自分で行けばいいじゃない」


「行ってもいいが凪彩のいないわしは1分も持たずに負けるであろう・・そうなればこの村がどうなるのか・・」


「あ、それってもしかして脅迫のつもり?警察の私に脅迫なんて・・」


「警察?辞表とやらを出してきたんじゃなかったかのう」


「出したけど受理されたか分からないからまだ警察に所属している」


「ほう、それなら民を守るのが役目ではないのか?」


「役目だけど、対妖法に抵触するし、ここが管轄内なのかどうか」


「妖の婿になるのに管轄がどうだとか、もう家族同然だろうに・・面倒な人間じゃのう」


「面倒にしたのは地雷帝の方じゃない」


「そうか?では、ここに来たのは凪彩の意志では無くわしの意志という事で・・」


「あーー」


地雷帝の「あー言えば」「こう言う」に凪彩がイライラし始めると先に島に渡っていた地砕が錫杖にもたれながら


「早く来い、そこの食っても不味そうな細い人間の女・・それとも今更俺とやるのが嫌にでもなったか?それならこの村は・・」


「そこの天狗は黙っていて・・今話をしているところだから」


凪彩は地砕を睨みながら叫ぶと


「はぁ?黙れ?人間の女が俺に命令だと・・水恋もそうだがお前も礼儀も知らないじゃじゃ馬の様だな・・」


「誰が・・じゃじゃ馬ですか?」


「お前も水恋もだ、どうして俺の所にはもっと気の利いたふくよかな女がこないんだ・・こいつらを食っても骨しか無さそうだし使えるのはスープのダシくらいで・・」


地砕が天を仰ぎ顔に手を当てながら悲しそうに言うと


「「だれが骨だけだって・・」」


凪彩と水恋が揃って言うと2人はお互いを見ながら「「私の方がまだ・・」」と思っていると


「そもそも俺はガキには興味が無い・・特に触れば折れそうな未熟な人間のガキには」


「未熟な人間のガキ?触れば折れる?それなら・・折ってみる?やれるなら・・」


凪彩は顔を引きつらせ地砕を睨みながら言うと島に続く道に向かい道を渡り島に上がった。


「それでは儀を行うがルールを知らない人間に説明する、時間は無制限、どちらかが敗北を宣言するか死亡した場合にのみ儀を終了する事が出来る、島に結界を張られるが結界を破り島の外周の外に出たら逃亡とみなし負けとする・・何か質問は?・・なければこれより土神の儀を行う立ち合いは土神、水神、水葉の3名」


土神が宣言を行うと島の周りの水が浮き上がり島に薄い水壁結界を完成させた。


「2人とも良いな・・それでは、始め!」


羽澄流奥義はすみりゅうおうぎ 妖降術ようこうじゅつ 出ろ!地雷帝じらいてい!妖狩を始めるが如何に!」


「言った手前全力を貸そう」


「俺を狩る?狩れるなら狩ってもらおう」


土神の号令で始まった儀は構えもしない余裕の地砕と天狗と言う今まで戦った事のない相手に出方を伺い構える凪彩の睨み合いから始まった。


「どうした人間、それは恰好だけなのか?」


余裕をかましていた地砕が挑発すると凪彩は膝を軽く曲げると反発力で地面を蹴ると低空で地砕に飛んだ。


「羽澄流 破潰脚術はかいきゃくじゅつ地柱壁ちちゅうへき


凪彩は地砕との中間で地面を軽く蹴り速度を上げると地砕の後ろの地面から壁が飛び出し地砕の逃げ場を無くすと


「羽澄流 破潰脚術はかいきゃくじゅつ十字雷刃脚じゅうじらいはきゃく


凪彩は足の射程ギリギリで片手を地面に付き前回転をすると電力を帯びたかかと落としを地砕の頭に落とし逆の足で着地すると攻撃した足を流れる様に横に回し地砕の脇腹に後ろ回し蹴りを繰り出した。


「面白い曲芸だ・・だが俺には届かなかったようだ」


2発とも手応えのあった凪彩が地砕の方を見ると自分で作った地柱壁の先が地砕の方に曲がりその先が砕けていて脇に当たったはずの足が地砕の横に現れた地柱壁で止まっていた。


「今度は俺の順番だな・・」


地砕は錫杖で地面を軽く2度突くと地面から地柱壁が現れ蹴りの体制の凪彩の腹部に当たり宙に浮かすと別の地柱壁が現れまるでバレーボールの「トス」「アタック」の様に凪彩を地面に叩きつけた。


「つ、強い・・今まで戦った妖とは・・」


「当然だ、人間界に沸いて出る妖と一緒にしてもらっては困る、そいつらにはこんな事は出来まい」


凪彩が腹部を押さえながら立ち上がると地砕は錫杖を地面に突き立てると両手で印を組み始め島全体に魔方陣の様な物が現れ一瞬光ると消えて行った。


「属性結束支配術・・これでここは俺の属性支配地となった・・地雷帝がただの雷帝になったという事だ」


「凪彩、まずいぞ、この島の地属性の権利が奪われた・・この術がある間は地砕の妖力を上回る妖力が無ければ地属性の術は使えない・・悪いがわしの妖力をたとえ増妖術を使っても地天狗である地砕の妖力超える事は出来ない」


「さて、どうする?負けを認めるか人間、それともまだやるか?」


錫杖を地面から抜き余裕の表情の地砕に凪彩は確かめる様に両手両足を動かすと構え直し不敵な笑いを浮かべ眼鏡を押すと


「触れても折れていないし・・地雷帝の半分を封じても半分残っているからまだやれるんじゃないかな?」


「き、貴様!」


凪彩の天然挑発に地砕の頭にまた血が昇り始め、地砕の攻撃が始まり凪彩はその攻撃をかわしながら雷属性で戦う手段を探していた。


「破潰脚術は防がれてしまう、電気鞭では威力が無い、ビリビリ砲は放つまでの時間が無い・・どうする」


「何やっているのよ凪彩、さっさと妖降術で私を呼びなさい」


島の外に土神が作った観戦席に座っていた水恋が立ち上り叫ぶと凪彩は一瞬気を取られ地砕の攻撃を受けて水壁結界ギリギリで立ち止まった。


「使えない術は使わない」


「使ってもいないのに使えないって・・この状況をどうするつもり?」


「どうするか今考えているから・・キャー」


凪彩の周りから地柱槍が現れ凪彩の身体を貫いた。


「今考えるって・・それじゃ地砕に勝てないよ」


「それなら・・ふぅ・・羽澄流奥義はすみりゅうおうぎ 妖降術ようこうじゅつ 来い!水恋すいれん!妖狩りを始めるが如何に・・」


「水恋はいつでも凪彩の奴隷に・・って何も起きないじゃない」


凪彩は息を整えると妖降術を唱えた・・が特に何も起きず凪彩の術の隙に乗じ地砕は長い術を完成させると地砕の横の地面がせりあがるとその胴を天高く伸ばし鱗を成形し2体の地龍を完成させた。


「これで終わりだ人間」


地龍の攻撃に加え今まで術に頼っていた地砕も近接戦を挑んで来ると凪彩は増えた敵に反発力だけで避けながら


「もし降りたとしても・・水香さんに術を封印されているから飛ぶくらいしか出来ない・・だから使わなかった・・水恋に何かあったら困るし・・」


「何かあったらって・・確かに術は使えないけど空を飛べるだけでも・・私だって何もしないで凪彩に何かがあったら私も困る」


「あーそう言う事か、父様、ねーちゃんの封印を解除して下さい」


水恋が叫んでいる横に座っていた陣水がポンと手を叩くと前席に座る父親に身を乗り出し話すと水香は「わ、分かった」と言い水恋に掛けた術を解いた。


「ねーちゃん、羽澄さんにもう一度呼んでもらえ」


「どう言う事よ陣水」


「俺の考えが正しければ妖降術を邪魔していたのはねーちゃんを封印していた父様の封印術ではないかと思って・・そんな事より早く羽澄さんに」


地属性に比べ雷属性は素早さに長け凪彩は地砕と2匹の地龍からの攻撃をかわしていたが地砕の放った地柱壁に逃げ場を失い遂に地龍の口に捕まり宙に持ち上げられた。


「し、しまった」


「ようやく捕まえたぞ人間」


地砕は翼を広げ身動きの取れない凪彩に近づくと錫杖を胸に押し当てゆっくりと押し込んだ。


「さぁどうする人間・・このまま殺して食ってもいいのだが、俺に膝を付いて許しを請い俺に従うのならこの村も存続させてやってもいいぞ・・お前は戦力に数えられそうだからな」


「わ、私に命令出来るのは・・埼雲寺さんだけだからあなたには従わない」


「さいうんじさん?誰だそいつは?まぁいい・・従わないと言うなら・・死ね」


地砕が錫杖に力を入れ錫杖の先が凪彩の皮膚を貫くと徐々に制服を赤く染めて行った。


「凪彩―もう一度私を呼んでー」


痛みに歯を食い縛る凪彩の耳に水恋の叫び声が届くと全身に力を込めた。


「凪彩私流 秘奥義 雷流撃らいりゅうげき


「グガッー」


凪彩の身体バチバチと放電が始まり錫杖を通し地砕と凪彩自身への放電は地龍を通し地面に流れて行くと地砕は体から煙を出しながら落下し凪彩は地龍の緩んだ口から脱出に成功し地面に着地し出血する胸を押さえた。


「もう一度呼んでとか・・そんな事言ったって・・」


「凪彩―早くしないと地砕がー」


「だから呼んだって・・」


「今は前とは違うから早く呼んでー呼ばないなら・・メアド変えてもう教えないからねー」


「メアドを変える?・・水恋本気で言っているの?」


「本気よ本気・・私の事信じていない凪彩なんてもういらない・・絶交だよ絶交」


「ちょっと待ってよ、私が何をしたって言うの?」


「分からないの?馬鹿凪彩」


「ば、馬鹿・・水恋だって私の事何も分かっていないくせにー馬鹿水恋―」


「あー馬鹿言ったなー」


「言ったわよ」


「「グヌヌヌ・・」」


電撃で地面に落下した地砕は錫杖を杖にゆっくり起き上がると自分を無視して凪彩と水恋が水結界を挟み睨み合いの喧嘩を始めていた。


「よくも俺に傷を付けてくれたな人間」


「「あんたは黙っていて」」


地砕は2人の怒りのオーラに後ずさり唖然とするが、今の状況を思い出し翼を広げると宙に舞い錫杖を片手に構え術を唱え凪彩に放った。


「だからいつもいつもそうやって自分勝手に・・キャー」


「まだ勝負は終わっていないぞ人間」


地裁の放った攻撃は無防備な背中を襲い凪彩は結界ギリギリで踏みとどまった。


「何やっているの凪彩ったら・・今なら降ろせるって・・」


「今までだって1回も降ろせていない・・呼んで降ろせるならこんな事に・・」


「だ・か・らー今は前とは違うって何度も言っているじゃない・・あー面倒な凪彩」


水恋は凪彩との攻防に限界が来ると水結界に近づき片手を結界ギリギリに上げた。


「私が結界に触ったら儀は終了で凪彩の負けだから・・」


「そんな事したら・・」


「そうよ、この村も終わり・・だから最後にもう一回呼んでよ・・友達って言うなら・・心から私の事を呼んでよ叫んでよ凪彩!」


目に浮かぶ涙が一筋の線を書き落ちそれを見た凪彩は水恋に背中を向けた。


「喧嘩は終わったか人間」


「・・・・」


答えない凪彩に地砕は地龍を動かし凪彩に攻撃を命令し自らも術を唱え始めた。


「すいれんのばか・・・・羽澄流奥義はすみりゅうおうぎ 妖降術ようこうじゅつ 来い!水恋すいれん!妖狩りを始めるが如何に!」


凪彩は眼鏡を押しながらボソッと何かを言うと大きく息を吸い出せる最大の声を出した。


「今更もう遅いわ死ね人間!」


2つの地龍が凪彩に襲い掛かるのと同時に地砕の放った術が炸裂し一面に土煙が上がりその煙が晴れると凪彩のいた所にクレーターが出来上がっていた。


「・・俺の勝ちだ親父、今から俺が地神だ」


地砕がクレーターを見た後に勝利を確信し土神に向くと指を指しながら叫んだ。


「凪彩・・今、馬鹿って言わなかった?それより凪彩の中って気持ちがいいーこんな感じ今まで味わった事が無かったわー最高ねーあーそこ私の場所だからどいてよ地雷帝ってキャーどこ触っているのよ変態じじー」


「へ、変態じじーだと、この小娘天狗がー」


「これからここは私の物よ・・まぁーいない時は使っても構わないわよ地雷帝」


「なんじゃと後から入って来て何を言うんじゃー」


「2人共・・私の中で何をやっているの?喧嘩するなら出て行って・・」


「何を言っている、凪彩もさっきまでこの天狗と喧嘩しておったくせに・・」


「何か言った?地雷帝」


「いいやー何も言っておらんぞ・・ただ若いのが傍にいると・・」


「だから近寄らないでよーキャーどこ触っているのよエロじじー」


「・・水恋、この翼はどうやって動かせばいいの?もう飛んでいるけど・・」


「翼?えーと飛びたい方向にって・・凪彩が思ってくれれば私が何とかする」


「じゃー地面が見える場所まで降ろしてくれないかな・・ここ寒いし息が苦しいから」


「あーそうか、地砕の攻撃を避けるのに水鏡の術で水結界を使ってそうとう上に出たからねーあーそれと水結界には触れていないから安心してねー」


凪彩が意志を感じてゆっくりと高度が下がり始めると凪彩は水恋に水天狗が使う術について幾つかの質問を始めた。


「なるほど・・近くに水があれば一通りの事はできるのね・・それと術として使うにはもう少し聞かないと扱えそうにないね・・なら同じ物で・・」


凪彩が使えなくなった地属性に変わり水属性の利用を考えていると胸の痛みと全身の傷が消えている事に気が付いた。


「あー凪彩・・勝手に術使って治しちゃったけど・・」


「ありがとう水恋」


「ありがとうだなんて・・いいのよー凪彩―2人の愛の力だからー」


「水恋・・」


「あーそれより気が付いたんだけど、凪彩の中で勝手に術を使うのにいつもの数倍の妖力が必要なのには驚いたよ」


「増えた分は私の精神力(妖力)だから・・あまり使わないでね」


「まだまだ知らない事もあるから、これが終わったらゆっくりお風呂にでも入って・・」


「す・い・れ・ん・・」


「はいはい分かりましたご主人様、地砕は今、土神の方に向いて勝利宣言しているから」


凪彩は元いた地上が見え始め土神を指さす地砕を見つけると黒い翼をたたみ落下速度を上げた。


「羽澄流 破潰脚術・・・普通の飛び蹴り」


「勝負はついたこれで俺が土神・・グハッ」


術の使用で感知される事を考え術をやめると地砕背中に奇襲の飛び蹴りをすると宙返りをして島の中央に低い姿勢で着地をした。


「勝負がついたって・・私は降参した覚えはないけど」


「どうやってあの場から・・」


「愛の力よ愛のち・か・ら♪私と凪彩の愛を切り裂ける物は~」


「水恋・・」


「あい、ごめんなさい・・」


「地砕、あなたは強いけど強さだけの恐怖では誰もついて来ない・・水香さんの様に信用信頼が無くては・・私は妖を否定していない・・むしろ大切な仲間だと思っている・・だから大切な仲間に危機があれば駆けつける・・私は利用されても決して仲間を利用したりはしない・・水恋だけは利用するけど・・」


「え?私だけって・・まぁ~凪彩ならいいけど」


地砕は腰を押さえながら立ち上ると周りに聞こえる様に水恋が「愛」を語り凪彩は立ち上がると眼鏡を押し地砕を挑発した。


「信用信頼だと・・食うか食われるかのこの世は力が正義だ」


地砕は地龍に攻撃の指示をすると錫杖を構え翼を広げると低空で凪彩に飛んだ。


「私だけなら貴方より弱い・・けど信頼出来る仲間がいれば・・あなたには負けない・・水恋!」


襲い掛かる2体の地龍と地砕に凪彩は構えもせずに言うと湖面から水柱が上がり凪彩に向かう地龍に巻き付き水龍を型取ると大きな口を開き喉に噛みつき地龍の動きを押さえた。


「地龍を押さえたくらいで調子にのるな人間」


地砕は水龍に抑えられた地龍の術を解き新たに短い術を唱えると錫杖の先端の色が赤くなり周りにゆらゆらと陽炎を伴い凪彩にその矛先を向けた、凪彩は突かれた錫杖に左足を少し下げて体を半身にしてかわすと右手を地砕の懐に伸ばし山伏衣装の逆襟を掴むと下げた左足を蹴り上げ掴んだ右手を引き寄せるとまるで巴投げをする様に後ろに倒れ込み上げた足を地砕の頭上を通過させ膝裏で首を挟み返って来た足首を左手で捕まえた。


「羽澄流 破潰脚術 地獄挟脚絞じごくきょうきゃくじめ


「グッ・・何をする」


凪彩をぶら下げた中腰の状態で暴れる地砕に凪彩は左腕を絞り脇をガードすると空いている右足で地砕の膝を蹴り体を潰すと締め技が完成し全身の力を使い地砕の首を締めあげた。


「・・クォォォォォ」


数秒もするとその声を最後に残し地砕は動かなくなり凪彩は力を緩め地砕を解放し立ち上ると眼鏡を押し土神に向いた。


「止めを刺せますが・・」


「わしは弱い者には興味は無い・・止めを刺せばお前の勝ちで儀は終わる・・」


「それなら・・止めを刺す代わりに地神様にお願いがあります・・」


凪彩は落ちて倒れている地砕の胸に手を当て起こし意識の回復を確認すると立ち上り土神の方へ向いた。


「土神さま、私にはこの儀式の勝敗自体に意味が無いと思っています、勿論大事な儀式である事は理解していますが・・この儀で私が勝ってもこの村に進行してくる鬼達に対抗出来るかは分かりません・・同じ天狗同士一緒に戦う事は出来ませんか?元の世界に戻れないなら私もここに残って・・」


「ゴホゴホ・・人間の分際で我々に・・」


起こされた地砕は痛む首を押さえ立ち上がり土神と凪彩のやり取りを聞くと背中を向ける凪彩に構え術を唱えようとした。


「地砕、お前は既にこの人間に負けたのだ・・わしが止めねばお前はこの世にはいないのだぞ・・己の力を過信して人間の術者に負けるとは・・恥を知れ」


「この俺が・・負けただと?まだ結界も解けていない・・まだ勝敗はついては・・」


地砕は水結界を指さし立ち合いの土神、水神、水葉の3人に訴えると無言の土神に変わり水香が立ち上ると水鏡の術を使いあった事のリプレイを地砕に見せた。


「これでもまだやるつもりか地砕?それともわしに恥をかかせるつもりか?」


「・・・・お、俺の負けだ・・人間の術者」


地砕の宣言で結界が解かれると地砕は下を向き拳を強く握り体を震わせていると凪彩は眼鏡を外しレンズの埃を息で吹きながら


「人間人間って・・ずっと思っていたんだけど私には羽澄はすみ凪彩なぎさと言う名前があるのですが・・」


「羽澄凪彩・・俺の・・」


「今まで戦った妖の中でも地砕さんは強かったですよ、土属性を封じられた時はどうしようかと思いました・・水恋のお陰で2体の地龍も封じて邪魔も無く絞め技も出来ましたし」


凪彩は眼鏡を掛けると地砕の話に割り込み地砕と一緒に戦った仲間達を称賛すると島を降り始めた。


「え?凪彩・・い、今・・私をベタ褒めした?そうよね~私がいないと凪彩は何もできないんだから~それと水天狗としての私の実力を認めてくれた♪」


「決してベタ褒めはしていない・・」


「水恋は本当に凄いって何で言えないのかな~本当に凪彩は素直じゃないんだから~♪」


「素直じゃない?それなら・・水恋も凄いと思うけど・・いつまで私の中にいるの?」


「え?だって妖降術を解かないと出れないんじゃない?」


「術を解くって・・何それ?知らない・・キャー」


「知らないって・・このままなら・・グヘへへ♪」


島を降りた凪彩に外の水恋が抱き着くと外の水恋は満面の笑みを浮かべながら


「これで凪彩の身も心も私の物・・グヘへへ♪・・グハ」


凪彩の容赦ない唐竹割りを貰った外の水恋は頭を抱えしゃがみ込んだ。


「調子に乗らない水恋・・でも・・ありがとう」



後日、土神から村同士の対鬼の協力体制の申し込みがあり水天狗の村もこれを承諾する事になり、水恋を降ろしたままの凪彩は麻薙紅麗との連絡が取れるまでの数日間・・水恋の内外からのハーレム状態を我慢する事となった。


そして、無時に凪彩と水恋が使役夫婦となり、凪彩は水香の術で幼稚園の庭に戻ると職員室で埼雲寺が待っていた。


「あー帰ってきたか凪彩くん・・意外と早かったじゃないか」


「・・あのーそのーまた勝手な行動をしてー」


「あーそう言うのはいいから、大事な仕事を頼む」


「え?仕事って・・私は」


「ここの妖降士だよね?だから仕事を頼むよ」


埼雲寺は凪彩の置いて行った未開封の辞表と1通の書類を渡した。


「警視庁まで要人の護送ですか?それとこれは・・」


「まぁ~今回の件は私にもどうしようも無くてな・・済まないが行ってもらえるかな?」


「・・はい、最後まで埼雲寺さんに迷惑をかけてしまいました・・」


「あ、もう慣れたから気にしない気にしない・・それと・・」


そして凪彩と水恋はほぼ同時刻に今回のネタばらしを聞き同じ事を叫んだ。


「「それじゃー今までの事は・・」」


その後、京都府警と風天狗を加えた水天狗の村に条件付きの地天狗の村が加わり国内初の人間と妖の正式な協定が結ばれ、協定が結ばれた3か月後「天駕海恋 復帰コンサート」が行われ「例のド派手なコンサート仕様の服装」で「完璧にシンクロしたオタ芸」を披露する埼雲寺、水香、八崎の3人と「あの人達とは無関係です」と離れた位置に座る普通の恰好の水葉、陣水が参加していたが会場に凪彩の姿は無かった。

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