第14話~西の問題児「破壊娘」9~
陣水が作った料理で昼食を堪能した凪彩と水恋はお茶を飲みながらちゃぶ台を囲んでいた。
「いや~陣水、腕を上げたんじゃない?前に食べた何だったか忘れたけど、それより美味しいと思ったよ」
「ねーちゃんは腹に入れば何でもいいんだろう?」
「な、何を失礼な、あ、それより作ってくれたお礼に~これ食べてみなよ」
水恋は詰め込んで持ってきた袋から例のお菓子を3本取り出し凪彩と陣水に渡した。
「ねーちゃん、何だこれ?」
「これは、人間界で私が見つけた最強のお菓子でちょーうまい一寸チョコ タラバガニ味」
水恋はそう言うと袋を開け中身のスナック菓子を指で押し上げた。
「む?何だこの微妙で強烈な匂いは」
「最初はこの匂いが気になるけど~食べたらもう~やみつき~♪」
陣水が腕で鼻を塞ぐと凪彩はスナック菓子を片手に持ったまま小さく頷き水恋は満面の笑みを浮かべサクサク音を立てて食べ始めると陣水は美味しそうに食べる姉の姿に同じように袋を開け指でスナック菓子を押し上げ微妙で強烈な匂いのする物を口にした。
「・・・・ねーちゃん・・これは・・美味いのか?甘い物に塩気の何か分からない物の味付け・・別々ならまだしも何故混ぜたか理解できない」
凪彩がスナック菓子を片手に持ったまま大きくウンウンと頷くと水恋が1本目を食べ終え2本目の袋を開けていた。
「何よ、せっかくねーちゃんが買って来たのにケチ付けるつもり?不味いなら不味いって言ったらどうよ」
「新しい味覚への挑戦なら分かるんだけど・・普通に不味い・・人間の味覚ってよく分からないな」
陣水は残ったスナック菓子を見ながら言うと凪彩はスナック菓子を片手に持ったまま横にブンブン顔を振った。
「凪彩は食べないの?」
「・・・・」
「もう、凪彩まで・・いいわよ残りも少ないから・・欲しいと言ってももう上げないから」
凪彩は無言で片手に持ったスナック菓子を水恋に差し出すと水恋は2本目の残りのお菓子を口に詰めシャリシャリ音を立てながら頬を膨らませ凪彩から菓子を取り上げると袋を開け3本目を美味しそうに食べ始めた。
「それより凪彩、さっき言っていた妖降術だけど試してみない?」
「それが・・考えているんだけど・・どうやるかやり方が分からない・・羽澄流も麻薙流も基本的には同じはずなんだけど・・」
「地雷帝を出すみたいにやってみたら?」
「うん・・でも・・この部屋だと集中できないから・・」
「ん?何で?問題でもある?」
「・・・・」
「ねーちゃん・・この匂いだよ匂い・・気が付けよ」
「わかったわよ、本当にもう凪彩も陣水もこのスナック菓子の美味しさが分かっていないんだから」
部屋にこもる微妙で強烈な匂いに頭痛すら感じてきた凪彩と陣水は「いや、分かっていないのはそっち」と心で突っ込むと立ち上り水恋を置いて急いで外に向かった。
「ふぅ・・それじゃー始める・・
「あやかしかり?はじめるって・・あ、なるほどそう言う事か・・それよりここにいるから出ろはおかしくない?」
凪彩は深呼吸をすると眼鏡を押し印を結び地雷帝を呼び出す様に水恋を呼んだが特に何も起きず逆に水恋に突っ込まれ赤面してしまった。
「そ、そうだよね・・出ろじゃなくて・・来いだよね・・ごめん・・それじゃーもう一回・・羽澄流奥義 妖降術 来い!水恋!妖狩りを始めるが如何に」
「如何にって・・まぁ~いいや、で凪彩・・私は何がどうなるの?何も無いけど」
「・・・・」
凪彩の癖になったセリフに突っ込みながら自身の身体に何か変化が無いか確認する水恋に凪紗は印を構えたまま固まってしまった、凪彩は地雷帝を出す時には体の内から出て来る感覚があったが今回は特にそう言う感覚すらなかった。
「ねぇー地雷帝いる?」
「・・いるがわしに何か用か?」
「妖降術で呼び出された時には何かあるの?」
「そうじゃな・・凪彩の中にいる意識が外に引っ張り出される・・と言うのが一番近い表現で・・それと気を結んだとは言えよっぽど相性でも良くないといきなり妖を降ろせるとはわしは思わないが」
「なるほど相性とかもあるのか・・と言う事は・・」
水恋が地雷帝と話を聞いていた凪彩は印を解き眼鏡を押すと
「本家の妖降術だし私も簡単に降ろせるとは思っていなかった・・私の修練が足りない・・大事な何かが足りない・・と思う」
「・・ようし、凪彩、修行だ修行ビシビシ行くぞ、先ずは集中力を高め、後は・・気合と根性だ・・私の修行は厳しいから覚悟しておけ」
「ズルとかサボるとかなら分かるけど・・気合とか根性とかねーちゃんには無縁だろう・・」
「陣水何か言った?」
「何でもねぇーよ」
水恋は「母様に呼ばれるまでのいい暇潰し」と思うと急に腰に手を当てまるで師匠の様に凪彩に言うと陣水がボソッと突っ込んだ。
「そうだね、水恋との相性もあるから練習しないと」
「何言っているの~私との相性は抜群に決まっているじゃない♪もう~やだ~凪彩ったら私の味を忘れちゃったの~♪」
何を勘違いしたのか水恋は急に恥じらい顔を赤らめ頬に手を当てクネクネ体を動かし始めた。
そこから水香に呼ばれる事も無く夕方まで「あーでもない、こーでもない」と試行錯誤していると水恋は「これはチャーンス」と不純な気持ちで凪彩の背中から抱き着いた。
「ちょ、ちょっと水恋、どこ触っているのよ」
「えーいいじゃない、凪彩の中に入るんだから近い方がいいかなぁ~って・・早くやってみなよ~♪」
「もう・・羽澄流奥義 妖降術 来い!水恋!妖狩りを始めるが如何に・・」
「妖狩りでもなんでもなんでも~グへへ♪・・え!?」
凪彩は水恋の行為に修行と我慢しながら術を唱え、水恋は本能のまま体を密着させ回した手で凪彩の身体を触りまくっていると一瞬ではあったが貧血の様に意識が抜けて行った。
「え?もしかして今のって・・」
「水恋も感じたんだ・・」
「うんうん、何かこう、すーっと魂が抜かれる感じがした」
水恋が背中から離れ身振り手振りで凪彩に説明していると地雷帝が話に入ってきた。
「おしかったのぉ~もう少しじゃったのに・・水恋が中にいたわしを邪魔だからどけとばかりに押しのけようとしておった・・」
「私は何もしていないけど?」
「ねーちゃんの独占欲が無意識にそうさせたんだろう?」
「でも何で入れなかったんだろう?凪彩に何かあった?」
「私は何か・・危険な悪霊みたいのが入って来たから・・拒否しちゃった」
「誰が危険な悪霊だ!」
「「なるほど・・それなら納得がいく」」
「納得するな!」
凪彩は笑顔で答え地雷帝と陣水は同時に頷いた。
「後は・・そうじゃな・・外から妖を降ろす本家の麻薙の所にでも聞いてみたらどうじゃ?」
「本家に聞く?・・でもタブレット持って来て無いし・・ここって電話あるのかな?」
「電話なんて物はここには無いわ・・携帯持っていないなんて凪彩はアナログ以前の石器時代の人類なの?まったく私がいないと何も出来ないんだから・・はいこれ」
意味不明な事を言いいながら水恋はポケットからスマホを取り出すと電源を入れ凪彩に渡した。
「・・・・ねぇ水恋・・ここ電波無い・・しかも充電が50%・・」
「凪彩は細かい事言わない・・電波は村の結界の外の湖の向こうの山に行けば入るから」
遠くを指さす水恋に「電波入らないの分かっていて何故電源入れたの?」と凪彩は心で突っ込むと。
「充電も少ないから急いで行こう」
水恋が凪彩の手を取り湖へ向かおうとすると陣水が2人の前に出て遮ると
「ちょっと待ったねーちゃん」
「何だよ陣水」
「父様に・・ねーちゃんを村から出すなって言われているんだけど」
「お父様が・・なに硬い事言っているの?これは私と凪彩に必要な事だから・・」
「ねーちゃんと地雷帝のだろう?羽澄さんは器であって婿様じゃない」
「・・ガルルルル」
「・・・・」
「あ、あー2人共やめてよ、陣水、私だけなら村から出てもいいんでしょ?」
睨み合う水恋と陣水に凪彩は割って入ると
「父様からは羽澄さんと地雷帝については何も言われていないから、村から出ても問題ない」
「そう言う事・・私の見張り役してたんだ陣水」
「ねーちゃんはまた家出するかもしれないから駄目だって・・それと父様がねーちゃんに何を言われても信じるなって・・」
「私ってそんなに信用ないのかな?」
凪彩は「水恋・・自覚が足りない」と思いながら水恋の肩に手を置き頷いた。
「陣水、私だけならいいんだよね?水恋、行き方教えてくれる?」
「教えるのはいいけど・・湖周辺は水の妖力が強くて結界もあるから凪彩の術は使えないよ・・」
「私は大丈夫、電話してくるだけだから」
「それなら・・ここの湖を数キロ泳いで行った先にある一番高い山の方まで行けば・・」
「す、数キロ?お、泳ぐ?」
「だって凪彩は飛べないでしょ・・私がいれば一緒に飛んで行けるんだけど・・」
凪彩は一番高い山にかかる夕日を見ながら「辿り着けるのか?」と思っていると
「送ってやってもいいぞ、ただしねーちゃんがはなれで大人しく待っているなら・・」
「本当に?・・・・水恋」
「な、何よ、凪彩が帰って来るまででしょ・・子供じゃあるまいしそれくらい待てるわよ」
「それなら・・お願いします」
陣水の提案に凪彩は水恋を「じいー」っと半目で見ると陣水に笑顔で頭を下げた。
はなれに水恋を入れると陣水何かの術を使った。
「今のは?」
「扉が開かない様に術を掛けた」
「それなら・・私も・・羽澄流
凪彩は呪符を数枚取り出すと宙に向けて放つとはなれの上まで来ると4方に散った。
「あー凪彩まで増妖術使ってまで封印術を・・そんなに私の事を信用していないの?」
「「していない」」
凪彩と陣水は半目で小さな声でハモると「キー」とヒステリーの様な声を上げる水恋を無視して湖に向かった。
水辺に来ると陣水が術を使い水で出来た2人が十分に乗れる船を作り出し2人はそれに乗ると陣水が術を使い船は水面を滑る様に走り出した。
「なぁ、羽澄さん・・何でそこまでするんだ人間なのに?」
「人間なのに?水恋は私の大事なメル友だし・・人間とか妖とか私には関係ないから」
「メル友?よく分からないけど・・俺はてっきりねーちゃんを騙してこの村を奪いに来たのかと思っていた」
「奪うって・・私が?」
「他の妖は知らないけど、この村では昔から人間は信用するなって教わっているから・・」
「陣水・・それは人間界でも同じ・・術士はまだ妖に対抗できる手段があるけど一般の人間にはそれも無い・・だから妖は恐怖対象でしかない・・私達術士であっても自分より強力な妖と会った時には同じ事を思っている」
「そうなんだ」
「妖を使う術士や妖の力を借りる妖降士である羽澄流や麻薙流は妖と共存している・・陰陽師からすれば私達は異端者だし共存している妖は対妖法が出来るまでは敵対対象だった・・それが人間界の現実」
「人間界も色々と大変なんだな」
「食うか食われるかだから・・でも、水恋みたいな妖がいればもっといい未来が来ると私は思うんだけど・・」
「ねーちゃんがそんなにいたら人間界はハチャメチャになるだろう・・」
「ハハハ・・」
凪彩が1人でも扱いが大変な水恋が沢山いる事を想像して笑っていると
「そう言う事なら俺は羽澄さんを支持する」
「え?指示するって?私を?」
「あー俺とした事が・・ここなら誰にも聞こえないからいいか・・今、村では今後どの様にするか話し合っている・・無論俺の様な若い天狗も参加していて、気に障るかもしれないけど水恋の弟と言う立場を利用してねーちゃんの監視と羽澄さんの監視もしている・・」
「気に障るって・・多分そうなんだろうと思っていた」
「羽澄さんって天然なのか何を考えているか分からないから、やりずらいけど・・」
「一応、私も警察の一員だし、そんな簡単に思考を読まれたらって・・ん~何も考えていない時の方が多いかも・・」
「「ハハハ・・」」
2人は顔を合わせ笑っていると山に遮られ夕日の明かりが届かない湖の対岸に辿り着き凪彩がスマホの電波を確認すると2本と3本を行ったり来たりを示した。
「これなら電話できる・・あ・・電話番号が分からない・・」
凪彩は急いでネットを繋ぐと本家のある陽光寺の連絡先を探しメモを用意して電話を掛けた。
数回の呼び出し音の後にドスの利いた男が電話に出た。
「はい、こちら安全・安産祈願から各種お祓い、怪奇現象に至るまで承っている「陽光寺」貴方の担当の「
「あ、あのー私、大阪の羽澄凪彩と言いますが
「あー・・はい、少々お待ちください・・紅麗さーん、大阪の羽澄さんって方から電話ですよー」
少しするとスリッパの音が聞こえ
「はい、お電話変わりました麻薙紅麗です」
「あ、あのー私、大阪の
「あー統括の所の娘さんか・・確か所属が京都府警で何っていったっけ怪しい剥げ術士の・・あー名前が思い出せない・・まぁーいいやー統括は元気ですかって・・元気な所しか見たことないけど・・それより羽澄家がうちに電話なんて珍しいじゃん、どうした?」
「えーと実家には面倒なので内緒で電話をしています・・麻薙さん・・本家の妖降術を教えて下さい」
「これはこれは、凄い事をお願いされたじゃないか」
「羽澄流と麻薙流の間に何があったかは知りませんが、私は今・・」
凪彩は現状を紅麗に隠さず話をした。
「なるほどねー失敗したら首じゃ済まないけど・・それでも知りたいかい?」
「はい、辞表は既に置いて来ています」
「あらら・・そう言う事・・それより妖降術を教えると言ってもな~気は既に繋げているなら後は・・説明するなら依琴がいればいいんだけど今は捜査でいないし・・私のやり方だとその水恋って天狗には使えそうにないし・・そうか、あいつらに話を聞けばいいかもな、ちょっと待っていて・・庵角いるかーちょっとこっち来い」
紅麗は最初に電話に出たドスの利いた「庵角」を呼び電話口で説明をすると
「はい、庵角です、話は聞きました、あなたに足りないのは・・・・ズバリ・・胃袋を掴む事です!パーン・・痛いじゃないですか紅麗さん」
「真面目に答えろ庵角、そうだ羽澄ここからはスピーカー使うから」
スリッパで叩いた様な音が聞こえると電話口のやり取りだけが聞こえて来た。
「紅麗さん俺は真面目ですって、大食漢の依琴さんの心を掴むのにはどうしたらいいか、どうしたら使役として受け入れてくれるか俺なりに考えました・・その結果振るえるだけの腕を振るって美味しい物を作りましたが最初は口も付けてくれませんでした・・俺は試行錯誤して依琴さんに『美味い』と言わせようと何度も作りました・・料理人としては泣きそうでしたよ・・まったく」
「ほーそれで」
「へい、1年くらいしたある日に1品ですが手を付けてくれたんです・・それで食べた後にこう言ったんです『明日から私の弁当と食事は庵角が作れ』って・・今でも『美味い』とは言ってくれませんが・・それから俺が作る料理に文句も言わずに完食してくれます・・それがもう何て言うか物凄く嬉しくてその場で泣いちゃいましたよ」
「そんなんで鬼が泣くなよ、あ、羽澄、ちなみに庵角は元人間の料理人で今は妖の鬼だから」
「今じゃ下ごしらえとか少しでも手を抜くと大変なんですよ、怒った依琴さんは本当に手が付けられないですから・・話は反れましたがその日から依琴さんに降ろして貰える様になりました」
「そういう事だが、何か分かったか?」
「いえ・・何も見えてきません・・」
「そうか・・降ろすのは確か天狗と言ったな、それなら依琴の使役にも幼いが天狗がいるから話を聞いてみるか?」
「はい、お願いします」
「庵角、舞風を呼んで来い」
少しすると子供の声をマイクが拾った。
「なぁ~に~あかり~まいは~べんきょうをしているのに~あ!~でんわ?ママ?ママから?でんわかわってよ~あかり~はやく~」
「ちょ、舞風、足に纏わりつくな・・電話はママじゃないから・・ママの親戚だから」
「え~ママじゃないの?ママのしんせき?それなに?」
嫌々連れて来た子供が途中で興味を見つけおねだりを始める様な声に凪彩は不安を感じたが水恋と同じ天狗がどの様に降りられる様になったのかどうしても知りたかった。
紅麗が舞風に分かる様に説明をすると
「あーそうだ羽澄・・さっきからママって言っているのは依琴の事で決して私ではないからな、それと依琴と舞風には親子関係は無いし舞風が勝手にそう呼んでいる・・言われている本人は受け入れているらしいが・・それを前提に話を聞いてくれ」
凪彩は「はい、分かりました」と答えると麻薙家も色々と大変なんだなと思った。
「それじゃー舞風はママにいつから術で呼ばれる様になったの?」
「ん?じゅつで?う~んとね~ママがようこうしになってから~」
「あ~そう言う事か・・これでは話が・・羽澄、舞風は依琴が生まれる前からここにいて幼少期から依琴と一緒に過ごしている・・だから・・」
紅麗が説明をしていると舞風が歌を歌う声が聞こえて来た。
「一緒にご飯たべて~♪一緒にお風呂に入って~♪一緒に寝て~♪お休みのチュー♪あのね~舞がママの背中を洗ってあげると舞が寝る時にママが本を読んだり唄を歌ってくれるの~♪あ、勉強しないと怒られちゃうから~えーとママの親戚の人じゃーねー」
「あ、こら舞風まだ話は終わって・・ふぅー済まない羽澄」
「いえいえ、とても楽しそうだなって」
「楽しい?いれば分かるが付き合うと大変だぞ・・そんな事はいいのだが・・何か収穫はって・・」
「術者と妖に絶対の信頼関係が必要という事はよく分かりました・・それは羽澄流も同じ事なので」
「そうだな、麻薙流も羽澄流も同じ妖降術を使う、ただ外から呼ぶのか中から出すのかの違いだけで基本は同じだと私は思っている・・だから羽澄も降ろす天狗との間に信頼関係を構築できれば麻薙流と同じ外からの妖降術が使えると思う」
「はい、やってみます」
「ただ・・羽澄家の関係者の前で麻薙流の妖降術は使わない方がいいとだけ言っておく、理由は最初に羽澄が言っていた
「麻薙さん今日はありがとうございました、どんな結果になるか分かりませんが頑張ってみます、それでは」
凪彩は電話を切って少しすると「ピー」と言う音と共に「充電してください」と画面の表示が点滅しスマホの電源が切れた。
「どうだった?何か分かったのか?」
「んー何となくだけど・・やっぱり水恋と話し合わないと駄目そう・・陣水戻ろう」
凪彩は帰りの船の上で話した内容を書いたメモを見ていた。
「んー困った・・手料理で水恋の胃袋を掴む・・これは味覚も含め不可能だからバツ・・残るは一緒にご飯、お風呂、寝る、お休みのチュー・・ご飯と寝るは実践済みだから・・残るはお風呂で背中を流して水恋に唄を歌わすとお休みのチュー・・時間がないからやるしかないか」
凪彩は近づく湖畔に決意を決めると急いではなれに向かった。
はなれに戻った凪彩と陣水は出る時に使った術を解くと凪彩が勢いよくドアを開けた。
「ただいま・・って寝てるし」
「ドアの術を破ろうとした痕跡があるから妖力切れて疲れたんだろう・・しかしねーちゃんは変わった・・家出して村に戻って来た時はいつもピリピリしていて・・それがこんなに幸せな顔で寝るなんて・・羽澄さんのお陰だよ、ありがとう」
「そんな私は何も・・」
「人間は信じるなって教わったけど羽澄さんは例外としておくから・・それじゃ夕食の材料を取って来る」
陣水はそう言うとはなれを出て行ってしまい、陣水が食材を持って戻って来ても水恋は起きず料理が始まりいい匂いがし始めるとようやく目を覚ました。
「おはおーふぁ~フンフン・・今日はイノシシ肉か?しかも鍋と見た」
「さすがねーちゃん食い物の事だけは鋭い」
「私を誰だと思っているの」
水恋は起きると台所でコップ1杯の水を飲むとちゃぶ台に座った。
「水恋、スマホありがとう・・電池切れちゃったから・・ごめん」
「あ、そうか・・それで何か分かった?」
「分かったと言うか何て言うか・・」
「えー私が1人寂しくここに残った意味が・・ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ」
「意味分からないけど後でちゃんと穴埋めするから」
「穴埋め?・・ヘ?ヘヘ・・ヘヘへ」
水恋が勝手に妄想に入ると陣水が変な顔になった姉を見ながらちゃぶ台に木を組み鍋を「ドン」と置くと水恋が我に戻り垂れたよだれを拭いた。
3人でイノシシ鍋を堪能すると陣水は片付けを終わらせると用事があると言いはなれを出て行ってしまい凪彩と水恋が残された。
「ねぇー凪彩、まだ呼ばれる様子も無いし妖降術の練習しない?」
「練習?・・それより水恋」
「ん?どうした?」
「せ、背中流してあげる」
「え?ちょっと何を?キャー引っ張らないでよー」
「穴埋めするって言ったじゃない・・だから」
寝そべり暇でしょうがない水恋が凪彩に提案をするとちゃぶ台でお茶を飲んでいた凪彩は意を決し立ち上ると水恋を抱き上げ引きずると脱衣所にさらわれるように連れ込んだ。
「凪彩・・何をしている・・キャー下着は自分で脱ぐからいいって」
「じゃー脱いで、私も脱ぐから」
水恋は何が何だか分からず背中を向け下着を脱ぎ振り向くと既に脱ぎ終わりタオルを体に巻き仁王立ちの凪彩が攻撃色を発し立っていた。
「な、なぎさ・・さん、一体何が・・」
「入って、中の椅子に腰かけて」
風呂場に通じるドアを開け凪彩が指さすと水恋はタオルで体を隠しながら風呂場に入った。
「はい、タオル邪魔」
「えーだって」
「それじゃ背中流せない」
何時もなら恥じらう事もなかった水恋が今は何故か恥ずかしい乙女に変わっていると凪彩に無理やりタオルを剥がされ椅子に座らせられた。
「ねー凪彩・・何があったの?」
「何もないよ・・ただ・・必要だと思っているだけ」
「必要って意味分からないよ」
そこからの凪彩は無言でタオルにボディーシャンプーを泡ただせると水恋の背中を流し始め少しして「こっち向いて前も洗うから」と言い水恋は真っ赤な顔をしながらこれを全力で拒否した。
「前は自分でするから」
「それじゃー私も自分で」
水恋は手渡されたタオルで残された部分を洗うと背中合わせにいる凪彩は別のタオルで体を洗い始め先に終わった凪彩は湯船に入り、後に終わった水恋は申し訳なさそうに湯船に入ると小さな浴槽に座り肩が触れる状態になり少しの間2人は無言で湯船から流れ出した水の音だけが聞こえた。
「「・・・・」」
「水恋」
「は、はい」
「向こうの麻薙依琴さんって言う妖降士にも舞風って名前の天狗の使役妖がいたんだ、まだ子供の天狗だったけど」
「そうなんだ・・使役している天狗が他にいるなんて思っていなかったな」
「それでね、怒らないで聞いて欲しいんだけど・・依琴さんって天狗と鬼を使役していて・・」
「そんな事があるなんて・・父様が聞いたら大激怒だよ」
「だよね、でもその2人と話していて分かったんだ、犬猿の仲って言葉があるんだけど・・今も全ての犬と猿の中が悪いのかなって・・鬼の庵角は元人間の料理人だから特殊なのかもしれないけど・・」
「もう、そう言う時代じゃないのかもしれないよ・・現に妖の私だって凪彩や埼雲寺さんと関わっているし・・凪彩なんて天狗の村全員と土天狗の村まで巻き込んで関わっているし・・」
「だから同じ天狗同士なんだから話し合いとかで何とかならないかなって・・今更だけど調子の良い様にいかないよね・・それに術士になる時に決して妖の世界に関わってはいけないって教わるし、対妖法でも禁止されている・・もし話が付いたとしても府警にバレて戻ったら私はどうなっちゃうんだろう・・」
「もし、人間界にいられないならここで暮らせばいい・・私もいるし」
「私も色々な人に後先考えなくて人に迷惑かけるってよく怒られていた・・水恋の事おてんばって良く言うけど・・本当にごめん・・」
「そうだったんだ、私には何となく分かっていたけど・・何て言ったっけ?類は・・友を呼ぶだっけ」
「私は友だけど類じゃない・・」
「凪彩、意味不明だし・・まぁーこの先どうなるか分からないけどよろしく」
「うん、こちらこそ・・・・キャーどこ触っているの水恋」
「最初は何か分からなくてビックリしたけど・・反撃開始だー」
「水恋それ以上触ったら対妖法に基づき・・キャー」
天狗村の夜空に2人の幸せな声が響いた・・
時間は過ぎ月明かりが村を照らし鈴虫の小さな鳴き声がはなれに聞こえ出し、凪彩と水恋はくっ付けた布団に並んで布団に入り寝ようとしていた。
「ねぇ、水恋起きている?」
「起きていると言うか・・基本妖は寝なくてもいいから・・」
「そうか、寝ないならお願いが・・」
「お願い?」
「私が寝るまで何でもいいから唄を歌って欲しいの」
「唄って言われても・・天狗の子守歌とか無いし」
「それなら何か水恋の話とか聞かせてよ」
「私の話って言われてもなぁ・・」
「あ、そうだ最初に行った南の島の話を聞かせてよ」
凪彩は背中を流し、話を聞き、それが終わったらお休みチュー・・これでミッションクリアと思いながら話を聞き始めるが昼間練習で使った術の影響か水恋の話が始まって直ぐに寝息を立て眠ってしまった。
「えーと、あれは日本の南の島で・・・・確か季節は夏だったと思う海が綺麗で水着で泳いでいる人間が沢山いたっけかな・・ん?凪彩?・・もう寝ているし・・しょうがないな・・」
ズレた布団を直し凪彩の寝顔を眺めていた水恋は「お休み凪彩」といいながら凪彩の頬にお休みチューをすると布団をかぶり寝てしまった。
「やっぱり黒ね・・真っ黒だわ・・本当に・・フフフ」
夕方から2人の様子を覗いていた水葉は薄笑いを浮かべると嬉しそうにはなれを後にした。
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