第13話~西の問題児「破壊娘」8~
日が昇り薄い霧で覆われた天狗の村は夏だと言うのに肌寒い朝を迎えていた。
窓から日が差し込みその明かりと朝から忙しそうに鳴く雀の声で目を覚ました凪彩は体を起こそうとしたが右半身に何かが邪魔をして思った様に体が動かせなかった。
「か、体が動かない・・何かが・・」
「うーん、な・ぎ・さ~♪そんなにカップラーメン食べれないよ~♪むにゃむにゃ」
「・・・・」
動く左手で布団を上げるとそこに石鹸の香りがする茶髪の頭があり更に布団を上げると水恋が凪彩を抱き枕の様に抱いて寝言を言いながら幸せな寝顔を浮かべていた。
「まったく・・」
凪彩は布団の端を避けると水恋の鼻を摘まみその時を待った。
「・・ふ、フゴ・・ほんにゃにしたら・・わたし・・にゃぎさ・・そんにゃにすわにゃいでーもうむいだって・・うわぁー」
夢から覚め上半身を上げた水恋は「寝ぐせですベンツ」とばかりに髪が跳ね上がり鼻を摩りながら寝ぼけ眼で辺りを見渡し凪彩を見つけると「今度は私の番」と言いながら目を閉じ口を尖らせ凪彩の顔に接近した。
「何をしている水恋」
自由になった右手を広げ「ガシッ」と水恋の顔を掴み押し戻すと
「さっきは好きにさせたから今度は私の番・・だから濃厚なやつを・・じゅるじゅる・・フギャー」
凪彩は寝ぼけ手をばたつかせる水恋の額に唐竹割を入れると頭を押さえ悶える水恋を押しのけ起き上がると眼鏡を掛け台所に向かい顔を洗い始めた。
「お、おはよう凪彩、殴られた様に頭が痛いんだけど」
「寝ぼけて絡んで来たから・・かかと落としをした」
パジャマ姿で額を摩りながら布団に座る水恋に凪彩はタオルで顔を拭きながらサラッと言うと。
「蹴らなくてもいいのに・・それよりいい夢だったな~♪」
水恋は立ち上がりフラフラした足取りで台所に向かうと凪彩に並んで顔を洗い始めた。
「それで今日はどうするの?」
「これからお父様の所に行って話をする」
凪彩からタオルを渡された水恋は凪彩が顔を拭いた同じ場所で濡れた顔を拭きながら言うと入り口の扉が開いて水葉が入って来た。
「起きたか家出娘・・って・・朝から一緒に顔を洗いっこするなんてやっぱり」
「ち、違います母様、これはたまたま・・」と水恋が言い訳をしながらタオルを隠すと凪彩は眼鏡の縁で頬を掻きながら「ハハハ」と笑った。
「まぁーそんな事はいいわ、機嫌のいいところでお父様に話したら2人を連れて来いって始まってねー」
「お父様が2人を・・機嫌の良いうちに凪彩行こう」
「うん」
水恋は凪彩の顔を見ると頷き凪彩は眼鏡を掛け頷き返した。
いつもの制服の凪彩と人間界の服の水恋は水葉に連れられて行くと他の家には無い板の壁に囲まれこの村では十分立派な門のある家に着いた。
「妖降士さん、本当なら武器の持ち込みは禁止されているんだけど・・地雷帝は没収できないし中に入ったら間違っても術は使わないでね・・敵対行為とみなされちゃうから」
「はい、分かりました」
「それと水恋、約束の日から時間が過ぎているからお父様にちゃんと謝りなさい」
「はい、お母様」
凪彩と水恋の返事を聞くと水葉は門の方へ手を翳すと門がゆっくり開き門を抜けると石畳が家まで続き家の横には小さな庭と池があり、家に入ると水葉から「呼ぶまでここで待っていて」と言われ客間に通された。
「ねぇ水恋、水恋のお父さんってどんな人?」
「お父様は・・若い頃に鬼達からこの村を1人で守った英雄ってお母様が言っていた・・何でも同盟の村が鬼達の襲撃にあって当時の長老の爺様と殆どの天狗が鬼退治に出払った所に別の鬼達がこの村に来たんだけど、村には大した戦力も無くて・・それでお父様がお爺様の大切にしていた妖命酒を一気飲みして・・後は何となくわかるでしょ?」
「酔っぱらった勢いで大暴れ?」
「まぁそんな感じで鬼達を追い払ったのはいいのだけど・・その後に知らせを聞いて戻って来たお爺様に喧嘩を吹っかけて・・」
「返り討ちにあった?」
「ボコボコにされた挙句に湖の洞窟に封印されて・・それで反省すれば良かったのに自力で封印破って村を出て行った・・お母様から聞いた話だけど」
「でも今はこの村の長老になっているって事はお爺様に許されて戻れたの?」
「詳しい事は知らないけどある日突然村に戻って来たらしい」
「村を出て行ったのは間違いだな・・あいつはわしに脅されて村から離れた・・そして、わしが別の場所で退治された事を聞いて戻ってきたのだろう」
2人の話に地雷帝が嬉しそうに割って入ると
「地雷帝がお父様を脅した?」
「封印された洞窟から出たあいつは腹が減っていたのか湖でまったりしていた、わしを捕まえると事もあろうに天ぷらにして食おうとしたのだ」
「「て、天ぷら」」
凪彩と水恋が同時に言うと
「わしも食われてたまらんと本来の姿になり逆に食ってやろうと思ったのだが・・これ以上はあいつの個人情報に関わるから話すのは止めておこう・・ただあいつは妖命酒が無くても十分強かった」
「個人情報とか意味分からないし、それよりお父様が地雷帝と会った事があったなんて知らなかったわ」
「
「もし地雷帝がお父様を食べていたら・・私はこの場にいなかったのか・・」
冷や汗を水恋が感じていると水葉が入って来た。
「水恋、妖降士さん準備が出来たからついて来て」
水葉に連れられ庭の見え中央に囲炉裏が置かれた10帖程の畳の部屋に案内され、部屋の中にはお殿様が座る様な一段高い場所とその奥に床の間があり墨汁で描かれた錫杖を構えた老天狗の掛け軸が飾られ囲炉裏を挟んで座布団が2枚置かれていた。
「そこの座布団で待っていて、今呼んでくるから」
2人は両親に顔合わせをする前の男女の様に背筋をピンと伸ばし正座をして待っていると、少しして派手な山伏衣装を着て腰まで伸びる髪を背中辺りで黒い帯で纏めた2mはあろうがっしりとした体格の厳つい顔の水恋の父親であろう水香が現れ、後ろから小さく見える180cmの母親の水葉がついて来た。水香は無言のまま1段高い場所に胡坐で座ると肘置きに腕を置き水葉は1段下に座布団を置き水香の横に並んで座った。
「あ、あのお父様・・約束の期日が過ぎてごめんなさい、それと・・あ、あの・・」
「この戯け者が!」
地響きの様な声が部屋に響き渡り水恋と凪彩は思わず下を向き目を瞑ってしまう。
「1度ならず2度も勝手に村を出た挙句、1年と言う約束を破り婚約者がありながら事もあろうに人間の娘を連れて来て婿にするとはどう言う事か!」
ここから1時間程反論も許さず水恋が物心ついた頃から今までのおてんばに水香の怒涛の説教が続き「これで機嫌がいいの?」と凪彩は思いながら話を聞いていると水恋のあまりのおてんば振りに「私の10倍は生きているんだから・・成長しようよ水恋」と心で突っ込んだ。
「まぁまぁーあなた、そろそろ水恋と妖降士さんの話も聞いてあげないと、それとこれは妖降士さんからのお土産の妖命酒だそうよ」
「人間のくだらない話を聞いている暇は・・な、何?妖命酒だと」
水葉が胸元から出した小瓶をちょこんとお盆に置いて畳を滑らせ差し出すと水香は太い指で小瓶を摘まみ顔の前に持ってくると。
「さ、三百年・・いやそれ以上だな・・人間がどうやってこの妖命酒を・・」
「水恋の200年分のお小遣いと妖降士さんの誠意・・と言う事かしらね」
「グヌヌヌ・・しかしこれと結婚の話は・・」
「もうよいじゃろう水香よ、水恋も十分反省しているし許してやれ」
凪彩の膝に乗せた手が突然グニャっとなると2本の髭を生やし身長30cm程の人間の老人姿に変わり凪彩の手を離れ分離すると水香は目の前に現れた妖に慌て小瓶を落としそうになった。
「な、何者だ」
「わしか?この妖降士に宿っている妖で・・そうじゃな妖命酒、ナマズの妖と言えば思い出すかな?」
「妖命酒にナマズだと・・・・!?」
地雷帝は凪彩の膝に座ると足を組み薄笑いを浮かべ2本の髭を順番に触っていると、水香は何かを思い出したのか顔を引きつらせながら小瓶を手離し肘置きを倒し壁まで後ずさってしまった。
「あら、あなたお土産の妖命酒を手放すだなんて・・もったいない」
床に落ちる直前に水葉が小瓶を受け止めると、地雷帝は立ち上がり引きつる水香を見ながら「ニヤ」っと笑いを浮かべ指を指すと
「その様子なら思い出したようじゃな水香・・久し振りじゃな・・ヒヒヒヒ・・思い出したなら・・凪彩と水恋は帰ってもよいぞ、ここからはわしが話をする」
水恋は今まで威厳を保っていた父親の今の姿を見て唖然としていると地雷帝が振り返り2人に早く行けとばかりに手を振った。
「ちょっと待ってよ地雷帝、これは私事で・・」
「い、いいんだ水恋、妖降士と一緒にはなれに戻っていなさい」
帰れと言われ意味が分からず水恋は立ち上り言うと水香が片手で水恋を制した。
よく分からない凪彩と納得の行かない水恋が帰ると囲炉裏を囲み食事と酒が用意され地雷帝、水香、水葉の3人は日が沈み術で作られた灯りの照らす部屋で小さな宴をしていた。
「あれから大分妖力が増したんじゃないか水香?」
「あの一軒で俺は村を離れ武者修行したからな・・」
「なるほどな・・あの悪ガキが今じゃ長老とは・・それでいつ村に戻ったんじゃ」
「地雷帝が大阪で退治されたと噂で聞いて・・」
「じゃろうな、それよりあの時お前が言った約束事は忘れていないだろうな?」
「あの時の約束?」
「そうじゃ、わしに食われそうになった時に、何でも言う事を聞くから食わないでくれ・・と」
「はて?・・そんな事を言ったかな?」
「惚けるな水香、その時わしは何も言わずにお前を見逃してやった・・だから今約束を果たしてもらうが・・いいかな?」
「それは、もしや・・」
「そうじゃ水恋をわしによこせ」
「よこせと言われても、水恋には婚約者が既にいて・・」
「知っている、だから・・えーと何と言ったかな水葉さん?」
「略奪愛ですか?」
「そうそう略奪愛じゃ、まぁ今回は略奪して愛じゃがな」
「やっぱり百合なのね水恋は・・フフフ」
「略奪愛だの略奪して愛だの百合だのさっぱり意味が分からん」
「あなたも見ていれば分かりますよ」
水香が困惑の表情をすると水葉は薄笑いを浮かべた。
「しかし、相手にはどうやって説明すれば・・それとこの村の事も・・」
「それならいい話がある・・そろそろ来るはずじゃが・・遅いな」
埼雲寺は府警の会議を終え同僚の昼食の誘いを断り急いで幼稚園に向かった。
「2人は行ったのか・・ん?何だこれは」
埼雲寺は分かっていたとは言え2人の安否を心配していると机の上に和紙に墨汁で書かれた黒く長い多分ウナギだろう小学生でも描けそうな絵を見つけ手に取り席に着くと顎に手を添えその絵を眺めながら。
「昼食は特上ウナ重にしろと?」
「馬鹿者、わしじゃ地雷帝の半身のウナギじゃ」
「おぉーこれはこれは失礼しました、てっきり凪彩君達と一緒に行かれたかと」
「そうじゃ地雷帝の半身のナマズは一緒に行っている」
「それで、ウナギの地雷帝が何故ここに?」
「おう、そうじゃお前に頼みたい事があってな」
「妖のあなたが人間の私に頼み事・・ですか」
「凪彩に啖呵を切ったはいいが、どうしようかと考えているであろう?」
「確かに何かいい案は無いか考えていたところで・・」
「それならいい案を教えてやろう・・凪彩と水恋をここに戻したいのであろう?それなら先ずはわしの話を聞け」
「確かに2人が無事に戻れるのであれば」
「ではお互いの利害の一致でいいかな?」
「・・いでしょう、話を伺いましょう・・・・・・なるほど・・府警の方は何とかしますが・・あ《・》れ《・》には少々時間が・・」
「急いでやってくれ、2人は既に天狗の村に入っている、向こうに行く手段はこの和紙の裏に書いておいた」
ウナギ地雷帝は埼雲寺との話を終わらせるとウナギの絵と共に気配を消すと埼雲寺は地雷帝に言われた通りに和紙の裏を見ると、そこには何故か表には透けない見た事も無い文字と園庭中央辺りにある残留妖力を追えと書かれていた。
「話の中には無かったが・・地雷帝は凪彩君を人間界に戻さないといけない理由でもあるのかな?まぁいいか・・それより府警に・・」
埼雲寺は府警のお偉いさんに電話をしようと受話器を取りダイヤルに指を掛けるとその指を離し引き出しからメニューを取り出し府警ではなく「お弁当の
「・・・・という事で・・・・そうです愛知県警の
埼雲寺は受話器を置き「府警はOK」と呟くとまた受話器を取り別の電話を掛けた。
「妖対策捜査課の埼雲寺です藤間さんですか?・・いえいえとんでもない・・あ、それでですね天駕海恋さんの早期復帰をする方法がありまして・・はいそうです・・こないだ借りた映像の資料をもう一度お借り出来ないかと・・もちろん府警からの要請ですので・・社長に確認をですね分かりました・・時間が無いので急いでお願いします・・それではお待ちしています」
電話を切った埼雲寺は園庭に出ると妖視で残留妖力を探すとその周りに呪符を並べ印を組んだ
「埼雲寺流 封印術 空間停滞封鎖・・これで残留妖力は確保・・後は編集だな」
埼雲寺は術を終わらすと職員室に戻り受話器をまた取った。
「・・はいPCショップ魔改造です」
「あー私埼雲寺と言いますが店長の
「少々お待ちください・・店長電話っす」
埼雲寺が待っていると少ししてかん高い声の男が電話に出た。
「・・はい八崎です」
「やっさん、久しぶりです埼雲寺です」
「おぉー埼雲寺さん久し振りー今日はどうしました?」
「やっさんの腕を見込んで頼みたい事が・・実は今から映像編集を手伝って貰いたいんだけど・・そうそう府警のお仕事・・期限?明日の朝・・少ないですが報酬も出ます・・そこを何とか・・あ、詳しくは言えませんが編集の元映像は天駕海恋がらみの映像で・・」
埼雲寺が事情を話すが今から徹夜での編集に渋っていた八崎だったが「天駕海恋」の名前を出すと八崎はかん高い声を更に上げ「今からパソコンと機材を持って行く」と話に乗って来た。
「駒は揃った・・後は時間との勝負だな・・」
埼雲寺は時計を見ながらそう呟くとお弁当が届き食べ終わる頃に八崎がお店の車に機材を乗せて現れ、機材を降ろし準備をしている所に今度は「オフィース渦潮」のロゴの入った車で潮海社長と藤間が現れると2人は映像資料の入った段ボールを抱えて職員室に入って来た。
「埼雲寺さん、天駕海の復帰が早まるって話は本当ですか?」
「これはこれはオフィース渦潮の
埼雲寺はパソコンの準備をしている八崎にわざと聞こえる様に言うと続けて
「今、凪彩君が現地に行って両親を説得しておりますので」
「こないだの事件で両親が猛反対しているって天駕海から聞いていたから、もう無理だと諦めていたところでしたよ」
潮海と藤間が手にした段ボール箱を床に置き潮海が額の汗をハンカチで拭きながら言うと埼雲寺は細い目で満面の笑顔浮かべ
「任せて下さい潮海社長、府警の協力もありますし・・何とかなると私は思っています」
「それでこの資料をどの様にして・・」
「資料を編集して天駕海恋さんの両親を・・・・と言う事です」
埼雲寺の説明を聞いた潮海と藤間は「天駕海の事、よろしくお願いします」と頭を下げると「まだ収録があるので」と言い2人は幼稚園を後にした。
天駕海恋の休業を世間には妖の事件での体調不良とされていたが、オフィース渦潮の関係者には両親の反対による芸能界引退とされていた。
話が終わった埼雲寺が八崎の機械セッティングを手伝い始めると。
「体調不良じゃ無くて両親の反対だったんだ・・まぁ、あんな事があったししょうがないか・・」
「もしかしてやっさん会場にいたの?」
「後ろの席で妖が出て直ぐに会場から出たからよく分からないけど・・後からニュースで見た」
「一応この話は極秘情報扱いなんで・・」
「大丈夫です埼雲寺さん・・それよりオフィース渦潮の社長とマネージャー・・天駕海恋がらみってのは本当だったんだ・・
「埼雲寺はこれでも警察官ですよ少し特殊ですが、それに嘘はつきませんよ、ほらあそこ」
埼雲寺が指さした先にはピンクの額縁に飾られた埼雲寺個人宛の天駕海恋の色紙が壁に飾れていた。
「おぉー埼雲寺おじさんへって書かれている・・完全に個人宛だ・・す、凄い」
「それとここ」
今度は机の書類を持ち上げると机の上に透明な板が現れその下に天駕海恋が現状最後に書いたサインが書かれていた。
「つ、机に・・マジっすか・・しかもPCってアクリルじゃ無く高いポリカーボン板で全面保護仕様・・」
「という事で信じてもらえたかな?」
「埼雲寺さん一生付いて行きます」
「ありがとう、では早速編集作業をしよう・・しかし・・やっさんいい趣味してるわー」
セッティングが終わり職員室の机の上には八崎の持ち込んだ超高性能パソコン2台、24インチモニター4台、全ての入力メディアに対応した再生装置2台、高性能7.1ch対応アンプとスピーカー1組、業務用8K対応ビデオカメラ1セット、3D対応プリンター1台、そして埼雲寺が八崎に頼んだ電池式の7インチのポータブルブルーレイプレイヤー1台が並んでいた。
「それで何を編集すれば?」
「そう言えば言ってなかったね・・天駕海恋のデビューからこないだのバースデーコンサートまでの1年間の映像から選りすぐりを編集して1時間に纏める・・著作権は許可取ってあるから大丈夫・・ちなみに未公開映像もあるから心して見るように」
「み、み、未公開映像・・埼雲寺さん・・徹夜でも何でもやらさせていただきます」
八崎が接続の終わった機器の電源を入れ接続チェックをしながら聞くと埼雲寺はオフィース渦潮から借りた箱を空け中身のマスターテープと書かれたメディアを取り出し顎に手を添え眺めながら言うと八崎はマウスの手を止め立ち上がると埼雲寺に深々と頭を下げた。
そして、夕方から始まった編集作業は八崎の悶絶の声をベースに翌日の朝まで続き「天駕海恋 デビューからの軌跡」と言うタイトルのこの世に1枚しか無いファンが泣いて喜ぶブルーレイディスクが職員室に差し込む徹夜には眩しすぎる朝日と雀の鳴き声の中完成した。
「さ、埼雲寺さん・・俺・・もう死んでもいいっす」
「まだ死んじゃ困るよ、このディスクで説得した暁には天駕海恋の復帰コンサートで特別最前列席に座り応援するんだから」
「お、おぅ・・でも・・もう無理っす・・」
目の下に太マジックで書いたような隈で拳を突き上げた八崎はそのまま机に体を倒し深い深い幸せな夢の中に入ってしまった。
「さてと、私も・・ふわぁ~久しぶりの徹夜はこたえるな・・」
埼雲寺はあくびをしながら赤と黒の狩衣に着替えると肩から掛けたカバンに術士としての道具と完成したディスクとポータブルブルーレイプレイヤーを入れ徹夜の目に眩しい園庭に出ると埼雲寺は妖視で自分の掛けた術の場所を確認すると和紙を取り出しその残留妖力に近づいた。
「やはり弱くなっているな、急がないと・・埼雲寺流 影法術
埼雲寺は左手に和紙を持ち右手で印を組むと術を唱え和紙を残留妖力に近づけると和紙が光り出し広がると埼雲寺を包み込み今度は光がゆっくり収縮して園庭から埼雲寺ごと消えてしまった。
埼雲寺は水恋と凪彩が来た湖畔に小さな村を見下ろす崖の上に立っていた。
「ここは・・来れたのか?行ってみればわかるか」そう呟くと小さな村に向かい足を進めた。
実家を追い出された水恋と凪彩の2人ははなれで夕食用に運ばれて来た食材を眺めていた。
「ねぇ凪彩これで何か作れる?」
「インスタント食品が主食の私が作れると思う」
「だよね・・」
「「グゥゥ・・」」
2人のお腹が同時に鳴ると「ドンドン」とドアを叩く音が聞こえ水恋が出るとそこには山伏衣装の若い男天狗が立っていた。
「
「おぅ、久しぶりだな水恋・・元気だったか?」
「私はいつでも元気だよ、それより陣水は何しに来たの?まさか姉に会いに来たとか言わないよね」
「母様に言われて・・はなれから炊飯の気配が無ければ作ってやれと言われた・・どうせねーちゃんは料理出来ないだろう・・いつも食ってばかりだったからな・・」
元気な姉に陣水は面倒臭そうな顔で言うと水恋は陣水を家の中にいれ凪彩に紹介を始めた。
陣水は凪彩、水恋とあまり変わらない身長に少しふくよかな体格をしていた。
「この陣水が私の1つ下の弟で・・と言っても1歳じゃなくて20年は年下だけど」
「じ、陣水だ、よ、よろしく」
「羽澄凪彩です、こちらこそよろしく」
「・・ちょ、待て」
始めて見た人間に戸惑い目をキョロキョロさせる陣水に笑顔で答える凪彩が手を出すと陣水は1歩下がってしまった。
「何きょどってるの陣水、あぁ、ごめん凪彩・・陣水は村以外の人を見るのが初めてで」
「ち、違う・・母様からお前の婿って聞いたからてっきり男の妖だと・・どう見ても女の妖にしか見えない・・は、羽澄凪彩は、な、何の妖なのだ?」
「何の妖?ハハハ凪彩は普通の人間で今お父様と話をしている地雷帝が私のお婿さんでー凪彩は・・何て言うか・・地雷帝の器的な存在」
「そ、そうか妖では無いのだな」
「改めまして羽澄凪彩です」
凪彩は改めて手を出すと陣水は顔を赤くしながらその手を握った。
「ん?陣水顔が赤くなっていない?」
「ば、馬鹿、人間の女と手を繋いだくらいで・・」
陣水は慌てて手を離すと2人を押しのけ台所に向かい食材を見ながら「座って待っていろ」と言うと手際よく調理を始めた。
「陣水って釣りと料理以外興味無いらしくて・・しかし凪彩の手を握って赤くなるなんてまったく子供みたいでしょ」
「そうなんだ、でも趣味があるなんて凄いと思うよ・・私なんか・・」
「凪彩の趣味?そう言えば凪彩って何か趣味とかあるの?」
「・・・・妖退治?」
「それは、し・ご・と・でしょ・・歌うとか踊るとか食べるとか何か無いの?」
凪彩が真面目に答え水恋がズッコケそうになりながらも身振り手振りをすると凪彩は汗を掻きながら本気で悩み始めた。
「趣味?・・趣味?・・う、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・」
「ねーちゃん趣味なんて言うから羽澄さんが困るんだ、好きな事って聞けばいいんだよ」
台所で青い炎の上でフライパンを振りながら陣水が言うと
「なるほど、じゃー凪彩の好きな事は?」
「好きな事?・・好きな事?・・う、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・」
凪彩は首を傾け顎に指を添えるとそのまま汗を掻きながら固まってしまった。
水葉が酌をしながら地雷帝と水香がこの水天狗の村の状況の話をしていると若い男の天狗が部屋に入って来ると水香に耳打ちをした。
「・・うむ、分かった・・この村の結界を破ろうとした人間の術者を捕らえたが地雷帝の言った待ち人の事かな?」
「頭は剥げていたか?」
その質問に若い天狗が頷くと注がれた酒を飲み干し
「埼雲寺と言う人間界の使いで凪彩のボスじゃ、そいつをここに連れて来てもらえんかのう、あ、あー心配しないでいいあいつはわしの協力者じゃ」
「人間界の使い?地雷帝何を企んでおる?」
「企むも何もここのみんなが納得の行く答えを持って来てやっただけじゃ」
「・・・・それなら、人間を連れて来い」
地雷帝の言葉に水香は少し考え若い天狗に指示を出すと、少しして赤と黒の狩衣姿の埼雲寺が2人の天狗に連れられ水葉の用意した座布団に座った。
「遅かったな埼雲寺、こちらがここの水天狗の長で水恋の父親の水香、横にいるのが母親の水葉じゃ」
「初めまして埼雲寺正義と申します・・人間界であった妖の事件ではお嬢様にご迷惑を・・」
埼雲寺が頭を下げ話し出すと
「人間の術者よ、地雷帝から話は聞いている・・水恋の我儘の結果故に人間に非は無い」
「そうじゃな人間に非は無い、それでもこの埼雲寺と凪彩がいなければ今頃水恋は・・」
「食われていればそれまでと言う事であろう・・まったく困った娘だ・・それで地雷帝、この人間の術者は何をするのかな?」
「そうじゃな、まずは水恋が人間界に与えた事から見せてやろう・・埼雲寺例の物を・・」
地雷帝がそう言うと埼雲寺は肩から掛けたカバンからディスクとポータブルブルーレイプレイヤーを取り出すと水香と水葉は初めて見る物に興味をしだした。
「この光る円盤には天駕海恋・・人間界ではそれが彼女の名前でした・・水恋が人間界で成し遂げた1年間を収録しています、そしてこの黒い機械がこの円盤の情報を映像に変え映し出してくれます。」
説明が終わり水香と水葉が何となく頷くと埼雲寺はディスクをセットし再生ボタンを押した。
「天駕海恋 デビューからの軌跡」のタイトルから始まり、デビューの頃の藤間が撮った移動中や我儘の映像、事務所のソファーで無防備に寝ている映像、アニメの吹き替え、TV出演の映像が流れフェードアウトすると
「人間界に行っても我儘好き放題は全然変わっていないのね~水恋たら・・」
「人間界にも迷惑をかけおって・・けしからん」
水葉と水香が人間界での娘の姿を見て嘆くと埼雲寺が予定通りとばかりに
「ここからが人間界に与えた本当の天駕海恋の姿です」
埼雲寺が言い終わると画面がフェードインするとライトも点いていない誰もいないコンサート会場が映し出され、続いて会場の外の映像に切り替わり入場を待つファンの長い列を映し出した。
「これが天駕海恋の集めた人間達です」
画面が切り替わりコンサート会場に続々入場するファンを映し、少しすると画面がフラッシュしながら「バーン」と爆発音と共に登場した天駕海恋と会場いっぱいに埋め尽くされたファンの映像に変わると「天駕海恋 1stコンサート in 関東ドーム」と映し出され白い神官着姿の天駕海恋が現れ歌を披露し始めた。
「ここ関東ドームで天駕海恋が初めて集めた5万5千人の
ここから埼雲寺の演出と八崎の技術による映像のマジックショーが始まり、天駕海恋の魅力溢れる映像と音が小さな画面に流れた。
「こ、これが水恋の集めた人間なのか・・」
「まぁ水恋たら、人間界の服も似合うのね」
「はい、お嬢さんは今や日本だけでは無く日本以外の国にも影響を与え始めています・・そしてこの会場は始まりで・・」
埼雲寺の言葉に続き映像がクロスフェードすると「天駕海恋 2ndコンサート in 関西ドーム」と表示され赤いジャージの天然マネージャー姿の天駕海恋が現れボケ始め会場から笑いが飛び出すと
「な、なんだ、何が起きているんだ」
「まぁ水恋たら、こんな可愛いらしい表情も出来るのね」
「これはアニメと言う特殊な技法を用いて作られたキャラクターに声だけを充てている状態です・・お嬢さんは別のキャラになりきって新たな
「グヌヌヌ・・5万5千人でも足りぬと・・」
「あ、ちなみにこの関西ドームは関東ドームより小さい会場ですが3万6千人収容で・・当然ですが満席です」
「あの我儘水恋が、9万人もの人間を集めたの~凄い事ね」
「お母様、ツアーは後1か所あります」
映像が古いフィルムの様な映像に切り替わると静かに目を瞑り立つ天駕海がゆっくり片手を上げながら目を開け
「戦う気がないならそこをどけ、私の邪魔をするなら全員纏めて叩きのめす!」
セリフの終わりと同時に天駕海の映像に四隅にファンの映像のカットインが入り映像がカラーに変わりピンク色の制服姿の天駕海恋が腕を突き出し必殺技の構えをすると
「これで終わりだ「「「「「「超ビリビリ1000万W《ワット》砲」」」」」」
会場が一体になって必殺技を叫ぶと水香と水葉が聞いた事も無いシンセサイザーの音と共にハイテンポな曲が始まると画面に「天駕海恋 3rdコンサート in 九州ドーム」と現れビリビリ娘のOP曲をフルバージョンが流れた。
ここまで来ると水香も水葉も黙り込み映像に見入っていた。
「この九州ドームは関西ドームとほぼ同じ大きさの会場で3万6千人収容します・・ここも当然ですが満席です」
OP曲が終わり画面がフェードアウトするとビリビリ娘のED曲が小さな音で流れ始めた。
「お、終わりなのか?」
「合計12万人?なのかしら集まったのは?」
「3大都市ツアーはここで終わりですが・・」
埼雲寺の含んだ言葉にED曲が途中でフェードアウトすると夜空に星が見えるコンサート会場が映し出され
「本当は3大都市から新曲の披露したかったんだけど曲が完成したのが昨日でした・・3大都市に来てくれた方には本当にごめんなさい・・では最後のお色直しに・・ちょっと時間かかるから今日はスペシャルゲストを呼んでいるので楽しんで行ってねー」
天駕海のツアーでのセリフが始まり
「天駕海恋の仕事仲間で親友の2人です」
そして画面に「天駕海恋 Birthday野外コンサート」と出ると湖に作られたコンサート会場のリハーサル映像が流れ潮海社長と握手、藤間との会話、歌と振り付けの確認、慌ただしいスタッフの映像が画面奥から順番に浮き上がり流れた。
「この追加された誕生日コンサートには5千人と収容人数は少ないですが、総応募者数10万人を超え抽選を勝ち抜いた強者共が集まっています、そして話はお聞きしていると思いますが・・お嬢さんが妖に襲われた場所で京都府警、県警の合同警備により妖からお嬢様をお救いした場所でもあります」
「このコンサートのラストに何を着ようか迷いました、18歳になったら今までと何が変わるのかなって考えて調べたら、「一人で契約をすることができる」や「父母の親権に服さなくなる」そして「結婚ができる」って・・そうかお嫁さんになる事ができるんだなって思いこの黒いウェディングドレスを作ってもらいました、着るのは今日が最後になっちゃうかもしれないけど、ハハハ」
袖から藤間が回すカメラに笑顔でVサインをしてステージに向かう天駕海恋の映像と黒いウェディングドレス姿の天駕海恋が映し出された。
「次が最後の曲になります、聞いてください、この曲は今日の曲目にはありません、私が自分で作った曲でまだ誰も知らない曲ですが最後に聞いてください」
ゆっくりとした曲が流れる天駕海恋はマイクを願う様に両手で包むと大きく息を吸い歌い始めた。
夢見た この街で
歩き出す わたし
1歩1歩 踏みしめて
終わりのある この道を
早くなる 鼓動
まぶたを開けた
朝陽のシャワー 浴びながら
始まる時を 刻むよ
終われない この道
沢山の声が
わたしの心を染めるから
楽しい 笑顔
心から さけんで
前よりも もっと色濃くなるまで
おなじ時を刻もう
みんなの声が 心地いい
私も 大声を出して
楽しい時を過ごす
いつしか 走っていた
過行く人たちに
見向きもせずに
見える終わりに 立ち止まり
思い出す この気持ち
終わりに 焦る気持ち
涙が溢れ 振り返る
刻んだ時がほほ笑んでいた
目をとじて 息を吸った
最後まで笑いたい
前を向き目を開け笑顔で叫ぶ
感謝の気持ち・・ありがとう
歌が終わると天駕海は鼻を啜りながら渦潮のスタッフやコンサートスタッフ、関わった人にお礼の言葉を述べると
「この1年間みんなから沢山のパワーを貰い天駕海恋は羽ばたき続ける事が出来ました・・大変な時もあったけど皆さんの応援でとても幸せな日々を過ごさせてもらいました・・でも今日が約束の期限です・・天駕海恋は戻らなければならない場所があります・・だから・・これで終わり・・私の全力は出し切ったから・・今まで・・ありがとう・・」
最後は自分に言い聞かせる様に言うと天駕海恋は深々とお辞儀をし大粒の涙が床を濡らし少しするとフェードアウトし画面に笑顔の天駕海恋の顔と左から羽ペンが動きながら字幕を浮き上がらせた。
「Let's meet you with a smile then if we can come back once again.」
と書かれ画面がフェードアウトするとポータブルブルーレイプレイヤーが停止した。
「これが水恋の人間界での夢の1年だ・・お前が知っている我儘な娘が人間に与えた物は計り知れない・・どうじゃ、水香」
「しかし、それだけで婚約を破談する訳にはいかないし・・この村の事も・・」
「じゃろうな・・そう言う事だが人間界から何か話は無いのか埼雲寺」
映像にジワーッと涙を浮かべていた埼雲寺は地雷帝に話を振られ涙を腕で拭うと慌てて話を切り出した。
「あ、あ、すいません・・今回の件に関しまして京都府警、いや日本政府からの提案についてお話をします」
埼雲寺は封筒から書類を出すと1度鼻を啜り話始めた。
「まずはこの村と京都府警の間に協定を結び対妖対策課を窓口に妖討伐人員として非常駐人員として水恋様1名、常駐人員としてもう1名をいただきたい、もちろん許可はいりますがこの2名はこの村へ里帰りも出来ます、そして連絡役としてこの村に人間側から術士1名の常駐人員を置かさせていただきます、そしてその見返りに協定を結んでいる間は必要な食料の支給をします」
「それでは根本的な解決には・・」
埼雲寺は水香を手で制すると
「ここからが私がここに来た本来の目的ですが・・愛知県警に数年前から税金で保護されていて帰る場所を無くし新しい住居を探している風属性の天狗25名がいます、その天狗達の受け入れをこの村にお願いしたいと思っています」
「風天狗25名の受け入れだと・・」
「はい、詳しい事は分かりませんが、数年前に愛知県警の陰陽師が調査に行った先の村で鬼に追われた若い風天狗達を保護したらしいのですが・・人数も多いしなかなか受け入れ先が見つからないでいてですね」
「風属性の天狗とは・・」
「違う属性なので気になるは分かりますが・・」
「・・ん?あ、あなた、水恋を土天狗に渡すなら、もう属性なんて同じ事じゃないかしら?」
悩む水香に埼雲寺が水葉に細い目でアイコンタクトを送ると少しして気が付いた水葉が埼雲寺の考えを伝えた。
「我々にとっては願っても無い話だが・・土天狗の長、
水香の言葉に埼雲寺の細い目が光った。
「それならこれではどうですか?ただ・・見た事は本人達には内緒でお願いします」
埼雲寺はポータブルブルーレイプレイヤーの電源を入れチャプターメニューの2番を再生させると画面に幼稚園の防犯カメラの映像が映し出され「メル友?ビリビリ娘の3期?・・ウウッ・・・・な・ぎ・しゃ~」から始まり凪彩を押し倒し黒い羽を広げた天狗姿の水恋が凪彩との気を繋ぐ絡みの映像が流れた。
「な、何という事だ」
「あらあらあら、先に押し倒すだなんて水恋たら・・だから言ったでしょあなた・・2人は既に出来ているって」
「私も詳しくは知りませんでしたが・・気を結ぶ方法と言うか・・行為は初めて見ましたがこれで羽澄凪彩と水恋は事実上・・
「気を結んだからと言ってもだな・・」
「それなら水香、水恋の婚約者にどうするか聞いてみれば済む事じゃないか?」
「それはそうだが・・向こうとの関係が・・」
ずっと黙っていた地雷帝が煮え切らない水香に話を切り出すと
「あなた、若いとは言え風天狗25名と人間の後ろ盾があるなら土天狗は脅威にはなりませんわ、いつでも戻れる可愛い娘は出稼ぎだと思えばいいし、こんな好条件で村の未来が見えているのよ、考えなくても分かるでしょ」
「・・・・わ、分かった、明日向こうと話をしてくる」
水香はそう言うと注がれた酒を飲み干すと立ち上り部屋を出て行ってしまった。
「まったくヘタレ根性だけは変わっていないの~」
「まぁまぁ地雷帝、あれでも最初は水恋を嫁に出すくらいなら戦争だって言っていましたのよ・・ただ・・酔っぱらってでしたけど」
「フン、まぁいい、わしもこの姿のままだと妖力が減るから凪彩に戻るとしよう、埼雲寺も戻ってもいいぞ」
地雷帝はそう言うと煙を巻くようにその場から消えていなくなってしまった。
「水葉さん、私も帰りますが・・2人にはここに来た事は内緒でお願いします」
「あら、そうなの?」
「ええ、今回の件でこちらの村での事は2人に任すって言ってしまった手前・・」
「分かりました・・内緒にしておく代わりに・・そうねその光る円盤と機械を貸していただけないかしら、娘の成長をもう少し観たいので・・」
「事がいい方向に終わりましたら、この円盤ともっと大きな画面で観れるテレビと言う機械をお持ちします、それとこの円盤以外にも映画、音楽、など沢山の種類があるので一度お持ちさせていただきます」
「人間界にはそんな物があるの・・いいでしょう・・事が終わったらお願いするわ」
埼雲寺は細い目で頷くと自らの影に沈みこの天狗の村を後にした。
「フフフ、水恋のお陰で色々と楽しみが増えたわ」
水葉は嬉しそうに部屋の中を片付け始めた。
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