第11話~西の問題児「破壊娘」6~

妖の幼稚園襲撃事件で府警のお偉いさん達は「事件解決」と喜び、凪彩が破壊したプールの事も始末書不要となっていた。


妖を退治して残るはストーカー犯人となったが所詮は人間と府警では防犯カメラの映像から手配写真をばら撒き犯人が捕まるのも時間の問題としていたが結局、犯人も捕まらず誕生日コンサート当日の朝を迎えた。


昼間散々暑くなった気温は夕方から下がり湖畔に走る風はいつもより涼しく感じていた。


湖畔に作られたコンサート会場には通常の警備に加え京都府警、コンサート会場の管轄する県警を加え厳重な警備体制が敷かれていて府警は県警と共にコンサート会場に現れるだろうストーカー犯人逮捕を目論んでいた。



凪彩と埼雲寺は会場の外に設置されたテントの監視カメラのモニターで満員の会場を見ていた。


「という事で我々は私服警官としてコンサート会場の中で万が一に備える、凪彩君は裏方でステージの袖から藤間さんと行動を共にしてもらい、私は観客に紛れて今回特別に作られた最前列で警備を行うが・・質問は?」


「埼雲寺さん・・その恰好で警備・・ですか?」


背中に「誕生日おめでとう」書かれたピンクのハッピ姿に色とりどりの「サイリウム」を差し腰には西部劇のガンマンの弾倉ベルトの様に「キンブレ」がぶら下がり、そしていつもより光り輝く頭には「天駕海💛恋」と書かれたハチマキを巻いた埼雲寺が腕を組み凪彩の前に立っていた。


「いつものスーツ姿では怪しいし、これならまさか警察だなんて誰も思わないだろう♪」


手を顎に添え自分の世界に入りテンションが上がり機嫌のいい埼雲寺に「十分怪しいし・・気持ち悪いです」と凪彩は心で突っ込むと。


「それより何で制服のままなんだ凪彩君は?」


「な、何でって・・埼雲寺さんが勝手に・・それと」


凪彩は拳を握りワナワナ体を震わせ言った。



コンサート会場に来る数時間前、幼稚園に誰もいないのはまずいと残るはずだった凪彩がカップラーメンにお湯を注いだ直後に埼雲寺が府警の警官を乗せた護送車で乗り付け凪彩にカップラーメンを持たせ「時間が無い」と無理やり護送車に乗せ会場に向かった。



「護送車の最前列の補助席でカップラーメン食べるなんて・・恥ずかし過ぎです!」


「まぁまぁそう言うな天駕海さんからのご指名だから」


「え?ご、ご指名?」


まさかのセリフに凪彩は怒りが引き唖然としてしまった。


「渦潮の社長さんから府警に連絡があって、警備リストに入っていない羽澄凪彩を警備に入れて欲しいと連絡があって、お偉いさんが誰かまわすから幼稚園の方はいいから途中で拾って行けって事になってだな」


「はぁ、なるほど・・ですがこの格好じゃ」


「だから裏方なんだよ凪彩君、制服じゃ目立つだろう?それより袖からコンサート観れるなんて羨まし過ぎだろう・・お、そろそろ時間だな」


埼雲寺は時計を見ながらそう言うと腰の後ろから手作りのピンクの団扇を取り出すと「今日は熱いな」と扇ぎながらテントを出て行ってしまった。


残された凪彩はコンサート直前に藤間が迎えに来て会場入りをした。



凪彩は藤間と共に袖に着くとステージにはまだ灯りは無く観客席だけが照らされていた。


時間になり全ての灯りが消えステージの巨大モニターに電源が入りアニメのキャラの名場面が映し出され最後に黒い服の天駕海恋が映し出されるとシンセサイザーの音と共にテンポのいい曲が鳴り出しステージの縁から「ドーン」と花火が噴出しその中から白い神官着姿の天駕海恋が現れると会場のボルテージが一気に上がり特に白い服のエリアから大きな声が聞こえた。


「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


2曲目が終わりステージの灯りが消えると


「今日は天駕海恋の誕生日コンサートに来てくれてありがとう、最後まで貴方の心を甘嚙みしちゃうからねー」


「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


会場から歓声が上がると巨大モニターがステージを照らすと


「先輩負けても来年がありますから・・え?卒業して来年はいない・・じゃー留年しないと駄目ですね」


モニターに笑顔でほほ笑む赤いジャージキャラのアニメのワンシーンが流れると今度は赤い服のエリアから「テーンちゃーん、ナイスボケ」と突っ込みがあるとステージの灯りが点き赤いジャージ姿の天駕海恋が現れると今度はゆっくりとした曲に「あれ?歌詞なんだっけ?」「あわわわどうしましょう?」などの天然キャラ全開で2曲を歌うとステージの床から火柱が天駕海恋を囲う様に上がるとステージの灯りが消えそれと同時に観客も静かになった。


「戦う気がないならそこをどけ、私の邪魔をするなら全員纏めて叩きのめす!」


セリフの終わりと同時に灯りが点くとそこに凪彩も知っているピンク色の制服姿の天駕海恋が腕を突き出し必殺技の構えをして現れると


「これで終わりだ「「「「「「超ビリビリ1000万W《ワット》砲」」」」」」


必殺技を天駕海恋と会場と一体になり叫ぶとビリビリ娘のパンチの利いたOP曲が始まりモニターの上部から「ドーン」と花火が打ち上げられ夜空を鮮やかに染めた。


「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


OP曲が終わり観客が曲目の流れでED曲を待つと天駕海恋が息を整えながら


「はぁはぁ、今日はね、ED曲の代わりに・・ビリビリ娘2期のOP曲を歌っちゃおうと思っていますが・・いいかな?」


「「「「「・・・・・・・・・・・うぉおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


一瞬シーンとなった会場から地響きの様に叫び声が聞こえると超ハイテンポの曲が始まり曲の終わりに近づくとゆっくりとしたテンポになり


「これで終わり・・私の全力は出し切ったから・・今まで・・ありがとう」


ビリビリ娘のセリフで曲が終わると凪彩は気が付いた、このセリフはアテレコで聞いた2期の最終回のビリビリ娘の最後のセリフだと。観客は新曲に盛り上がったが最終回の映像を思い出した凪彩は涙が溢れてきた。


「ビリビリ娘・・死んじゃうんだよ・・世界を救うために」


「凪彩ちゃん覚えてたんだ最終回、でもネタばらしちゃ駄目だからね」


凪彩が思わず言った言葉に藤間が突っ込むと凪彩は腕で涙を拭い頷くと


「本当は3大都市から新曲の披露したかったんだけど曲が完成したのが昨日でした・・3大都市に来てくれた方には本当にごめんなさい・・では最後のお色直しに・・ちょっと時間かかるから今日はスペシャルゲストを呼んでいるので楽しんで行ってねー」


天駕海が着替えに退場すると凪彩のいる反対袖から笹川ささかわあや和良橋わらはし奈々ななが現れ揃ってお辞儀をすると笹川が腰に手をあて棒読みで


「えー笹川綾でーす、今朝、天駕海から連絡があって・・コンサートで1曲歌って欲しいと・・社長の許可貰っているからよろしくーガチャって電話切られた・・事務所に確認したらスケジュールが変更になっていて・・フゥ・・」


「私なんか今日オフで昼まで寝てやろうと熟睡していたら天駕海に電話で起こされましてー綾ちゃんと同じく1曲歌ってって言われました・・フゥ・・」


2人はため息で間を開けると大きく息を吸って


「まったく・・私達を振り回すのはビリビリ娘の時だけにして欲しいわー」


「そうそう、リアルまで振り回さんといてー」


「「「「「ハハハハハハ」」」」」


観客の笑いを聞くと2人は顔を見合わせ


「「まぁ天駕海の頼みだし、歌ってやるかぁー」」


トークが終わるとビリビリ娘のED曲が流れだした


「「ビリビリ娘EDのサブキャラバージョン!今日しか歌わないからねーー心して聞くように」」


「「「「「う、うぉおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


まさかのサプライズと一生に一度しか聞けないサブキャラバージョンに観客は盛り上がり曲が終わるとスピーカーから


「準備OK、笹川さん、和良橋さんギャラも無しにありがとうー今度コンビニで肉まん奢るからー」


「ギャラ無いんかーい」


「私、ピザまんがいい」


「「「「「ハハハハハハ」」」」」


笑いと共に2人が退場すると灯りが消えスポットライトが点くと肩を出し黒い生地に楕円の穴のレースから下の白い生地が見える黒いウェディングドレス姿の天駕海恋が立っていて見た事も無い衣装に会場は静まり返ってしまった。


「このコンサートのラストに何を着ようか迷いました、18歳になったら今までと何が変わるのかなって考えて調べたら、「一人で契約をすることができる」や「父母の親権に服さなくなる」そして「結婚ができる」って・・そうかお嫁さんになる事ができるんだなって思いこの黒いウェディングドレスを作ってもらいました、着るのは今日が最後になっちゃうかもしれないけど、ハハハ」


天駕海が照れながら笑うと


「恋ちゃん綺麗」「似合っている」などの叫び声が聞こえると


「ありがとう、こんな天駕海恋ですが最後までお付き合いして下さい、あなたの心を甘嚙みしちゃうぞ(⋈◍>◡<◍)。✧♡」


「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


曲が鳴り始め歌手「天駕海恋」としての曲が始まると凪彩は見てはいけない物を見てしまった、今まで動ずる事も無く腕を組み椅子に座っていた埼雲寺が体を「サイリウム」で光らせ両手に「キンブレ」を持ち曲に合わせ周りの観客と同じ不思議な踊りを踊り始めた・・・そう、凪彩の辞書には無い「ヲタ芸」である。


「あら、タイミング、角度、完璧な踊りじゃない埼雲寺さんって、しかも目立っているし意外なところがあったんだ」


「そ、そうなんですか?私には良く分かりませんが・・」


藤間の声に凪彩は上司の姿を見なかった事にすると目を閉じ天駕海恋の声に聞き入った。


天駕海は曲が終わり物凄い熱気に包まれた会場を見ながら笑顔で


「次が最後の曲になります、聞いてください」


そう言うとバンドマン達が「え?最後の曲?さっきので終わりだよな?アンコールの事か?」と言う不自然な動作をしていると天駕海が「パチン」と指を鳴らすとスピーカーから誰も知らない静かな曲が流れだした。


裏方では「どうなっているんだ」「誰が止めろ」と大騒ぎになっていて凪彩の隣にいた藤間まで「何、何、聞いていないわよ」と慌てていた。


「この曲は今日の曲目にはありません、私が自分で作った曲でまだ誰も知らない曲ですが最後に聞いてください」


ゆっくりとした曲は詩の様な流れで天駕海恋がこの世界に入ってから今までの事を綴った歌詞になっていた。


(歌詞は2019年11月15日付けのブログに載せてありますので~良かったら見て下さい)


歌が終わると天駕海は鼻を啜りながら


「潮海社長、京都でブラブラしていた私をスカウトしてくれてありがとう」


「藤間さん、いつも我儘ばかり言ってごめんなさい」


「笹川さん、和良橋さん今日は来てくれてありがとう」


この後も渦潮のスタッフやコンサートスタッフ、関わった人にお礼の言葉を述べると最後に


「この1年間みんなから沢山のパワーを貰い天駕海恋は羽ばたき続ける事が出来ました・・大変な時もあったけど皆さんの応援でとても幸せな日々を過ごさせてもらいました・・でも今日が約束の期限です・・天駕海恋は戻らなければならない場所があります・・だから・・これで終わり・・私の全力は出し切ったから・・今まで・・ありがとう・・」


最後は自分に言い聞かせる様に言うと天駕海恋は深々とお辞儀をした、観客には見えなかったが大粒の涙が床を濡らしていた。


会場はざわつき出すと大きな声を出す1人の黒服の男がいた。


「う、嘘だーーー恋ちゃんは俺と・・俺と」


突然の叫び声に注目を集めると男はゆっくりと通路に出るとステージに向かい歩き始めた。


「今日は僕と恋ちゃんが一緒に・・」


男はステージの天駕海を見ながら叫ぶと数人の警備員が男の進行遮る様に並ぶと


「何だお前ら邪魔するなよ、今日俺は恋ちゃんと結ばれるんだから」


男は泣きながら訴えると会場がざわめき


「ふざけた事言うなデブ」「恋ちゃんがお前となんてあり得ないだろう」「そうだそうだデブは帰って寝ろ」などのヤジが飛び出すと男はポケットから黒い団子の様な物を取り出すと


「ふざけてなんていない、恋ちゃんと俺は・・」


「誰貴方?私は貴方を知らないけど・・最後の感動を邪魔するつもり」


コンサートを感動で終わらせるつもりが黒服の男に邪魔され涙も止まり真っ赤な目でビリビリ娘の様な言い方で天駕海がマイクで叫ぶと男は言葉に一瞬ふらつくと踏みとどまり手に持った黒い団子を飲み込むと


「俺は・・俺は恋ちゃんと・・グフッ・・うわあああああああ」


男の体が徐々に膨れ上がり近くにいた人を体に飲み込みながら体長4mを超える黒いカエルに変体した。


会場は騒然となり逃げ惑う人は陸地に接する通路に殺到すると通路から押し出され湖に投げ出される人や逃げ場を失い湖上に作られた会場から湖に飛び込む人が現れた。


「レ、レンチャン、オレトイッショニ」


黒カエルは視点の定まらない目を動かしながらそう言うとピョーンと跳ねステージ前に降りると口を開け天駕海を捕獲しようと舌を伸ばした。


「ちょっと失礼しますね天駕海さん・・破!」


目の前に来た妖に体が動かずに腕をクロスしてガードをした天駕海の影から赤と黒の狩衣を着た埼雲寺が現れると「キンブレ」をクロスして伸びて来た舌を弾き返すと妖の方に構えたまま。


「凪彩君なにやっているのー早くこっちに・・」


「あ、ちょっと藤間さん離して下さい、私いかないと・・しょうがない・・ガツッ」


「な、凪彩ちゃん・・置いて行かないで・・グエッ」


名前を呼ばれた凪彩は巨大な黒カエルが現れ腰を抜かし凪彩の体にしがみつく藤間の首にチョップを入れ気絶させると藤間の体を通路に寝かしステージに向かった。


「すいません藤間さんが・・」


「まずは一般人を避難させたいから・・妖の動きを止めるよ」


「はい」


埼雲寺は懐から掴めるだけの「キンブレ」を取り出すと妖の影目掛け投げると印を組んだ


「埼雲寺流 影法束縛術えいほうそくばくじゅつ


呪文を唱えると宙を舞っていた「キンブレ」が止まり妖の影に向かって勢いよく刺さり鮮やかな光を放ち始めた。


「羽澄流 封印術 水縄束縛すいじょうそくばく


凪彩は足で床を蹴ると妖の周りの床の隙間からいくつもの水が飛び出し妖の体を水縄で拘束した。


埼雲寺はマイクを掴む手が震え固まっている天駕海に細い目で「大丈夫」と頷くと握られたマイクをゆっくり取ると


「府警、県警の皆さん妖対策1課の埼雲寺です、妖は短時間ですが束縛して動けなくなっています、妖は我々が食い止めるので今のうちに一般の方の避難をお願いします」


放送が入るとステージ近くにいた警官はその場を離れ避難誘導を始め殆どの人がこの会場から出る事が出来た。


「さてと、この妖はどうしよう・・」


「カエルとか苦手なので埼雲寺さんに任せます、私は天駕海さんを連れて逃げます・・」


「凪彩君の妖ってカエルが好物じゃないの?」


「美味そうなカエルじゃないか凪彩」


「私が嫌いなんです」


凪彩に宿る妖の言葉と埼雲寺の言葉に答えると凪彩は天駕海に肩を貸すと袖に向かって歩き始めた。


「マ、マテ、レンヲ ドコニ ツレテイク」


妖が束縛から逃れようと動いているとステージ下から「ピカッピカッ」と光り埼雲寺がステージから数m下を除くと記者らしき男が座りながらカメラを片手に写真を撮っていた。


「グォオオオオ ニンゲンノブンザイデ」


妖は口を少し開けると記者目掛けて舌を伸ばした。


「何で逃げないのかな」


埼雲寺はやれやれとステージから記者の前に飛び降りると今度は呪符を出して舌を弾き返した。


「グォオオオオ ソウカ オモイダシタ オマエ オレヲ ブジョクシタ ヤツダナ コロス」


妖は頬の袋を膨らますと口から唾を吐くように透明な液体を飛ばした。


埼雲寺は後ろにいる記者を庇う様に宙に呪符を展開し盾を作ると液体が盾に当たりドロッと地面に広がり悪臭を放った。


「何を食べたらこんな匂いになるんだ」


埼雲寺は鼻を摘まみながら言うと呪符の盾に付いた悪臭を放つ液体に吸われる様に盾が勝手に消えしまい。


「この液体は法力(妖力)を吸うのか・・面倒だな・・それでも」


埼雲寺はステージに戻った凪彩を見つけると記者からデジタルカメラを取り上げ徐にシャッターを何度か押した。


「ピカッピカッピカッ・・・ピカッ」とフラッシュが光る度に妖は目を塞ぎ攻撃の手を緩めると凪彩は妖に飛び蹴りを決めた。


「都市伝説だと思っていたけどフラッシュって妖にダメージこそ無さそうだが目くらましには使えるんだな・・あ、凪彩君が写ってしまった・・まぁーいいか顔は写ってないし」

埼雲寺はデジタルカメラを記者に渡すと記者の服に呪符を張り付け「食われたくなければ早く逃げろ」と言いステージに向かって跳ねた。


「効いてなさそうだね」


「はい、妖の体がブヨブヨしていて表面にヌルヌルした粘膜の様な物があって・・」


飛び蹴りからステージに着地し眼鏡を押す凪彩に埼雲寺が言うと怒り狂った妖が封印を破るとブヨブヨの体を持ち上げステージに体を落とすのを2人が避け会場の方へ着地すると


「埼雲寺さん、そうだ許可下さい許可」


「あぁーそうだね妖降術の使用を許可するけど・・あまり・・」


羽澄流奥義はすみりゅうおうぎ 妖降術ようこうじゅつ 出ろ!地雷帝じらいてい!妖狩りを始めるが如何に」


「了解した、あやかし・・豪華な食事を始める」


埼雲寺の「あまり壊すなよ」を聞かずに妖降術を使うといつもなら近距離戦を行う凪彩が遠距離による攻撃しかしなかった。


「凪彩、近づかないと食えないのだが」


「だって臭いし気持ち悪い・・」


「何て事だ・・最高の御馳走じゃないか・・最近の凪彩は腐った妖しか・・」


「腐っているってしょうがないじゃない・・あ、か、勝手に実体化するなー」


地雷帝は凪彩の両手に現れパペット状態になると目の前の食事に「待て」をされたかの様に愚痴を言い始めた。



天駕海はステージから凪彩に支えられ袖で藤間を回収してステージから見えない人気の無い袖裏で気絶している藤間を座り支えながら1人震えていた。


「何で妖が出てくるのよ・・期日は今日だけど・・まさかお父様の?・・確かめないと」


天駕海は意を決すると藤間をゆっくり寝かすと立ち上がり震える足でステージに向かった。



埼雲寺の使う影法術は攻撃タイプではなくどちらかと言うと防御、支援タイプの術で打撃耐性(ブヨブヨの体)と電撃耐性(ヌルヌルとした粘膜)のある妖に埼雲寺の補助があっても凪彩は苦戦していた・・いや、ただただ近づきたくなかったが本音だったが・・


「凪彩君、時間稼ぎをするんだ、妖を異界に落とす・・埼雲寺流奥義 影法術 異界影落いかいかげおとし」


「はい、羽澄流 破潰脚術 地柱槍ちちゅうそう 羽澄流 封印術 地柱束縛」


凪彩は地面を踏むと妖の周りから地柱が現れ地柱の檻を作るとベルトポーチから札を取ると地柱目掛けて投げつけ地柱に貼り付き封印檻を完成させると埼雲寺は懐から大量の呪符を取り出し妖目掛け投げると印を組み呪文を唱えると呪符が妖の周りに貼り付き呪符から呪符へ黒い影が伸び繋がると今度は妖に向かって地面を黒く染め妖の体が地面に少しずつ沈み始めると。


「落ちろ、妖になったストーカー君」


「あ、あなたはお父様に言われて里から来た妖?」


埼雲寺が最後の締め呪文を唱えようとした時、天駕海が腕を抱えステージの袖から現れ肩を震わせ妖に叫ぶと妖はカエル顔を天駕海に向け嬉しそうに


「お父様?おぉーそうか結婚の挨拶にも行かないとだね恋ちゃん、ちょっと待っていてね今から・・」


埼雲寺は妖の前に現れた天駕海に慌てて術を解き、凪彩は「天駕海さん近づいたら駄目」と叫んだ時だった妖は頑張って口を開け舌で天駕海を捕まえるとゆっくり開いた口に引き寄せ野菜を地面から引き抜く様に天駕海を舌ごと口に戻した。


「ま・に・あ・えーーーーーーーーーー」


凪彩は「バーン」音を立て地面を蹴ると舌に巻かれ浮いた天駕海を捕まえ抱き寄せると天駕海に「目を瞑って」と言うと大放電を開始した。


「だ・い・じ・な・と・も・だ・ち・を・は・な・せーーーーーーーーーーー」


放電した電気を妖の舌を伝わせ流すと電気が妖を覆いバチバチ音を立てて弾けると妖は焼け焦げた姿になり悪臭を漂わせ天駕海を巻いた舌も力無く地面に落ちた。


「大丈夫天駕海さん・・天駕海さん?」


巻かれた舌を剥がしながら凪彩は言ったが天駕海は目に涙を浮かべながら地面に座り込んでしまい凪彩は天駕海を優しく抱いた。


「大丈夫だから妖は退治したから・・もう・・」


「う、ぅぅ凪彩ちゃん・・」


天駕海が凪彩を強く抱き寄せると


「タイジ シタ?」


「凪彩君、まだ死んでない」


脱皮するかの様に妖は体を震わせ焦げた元ヌルヌルした粘膜を剥がすと新たに粘膜を滲ませ凪彩と天駕海の横に転がる舌で2人を捕まえるとあっと言う間に大きな口に引き込んでしまい少しすると凪彩が作った地柱の檻が消え妖を自由にしてしまった。


「まいったな・・どうするか・・異界に落としたら2人共一緒に落ちちゃうし・・はぁ・・」


自由になった妖は埼雲寺に向かい飛ぶと舌と液体を吐きながら怒りに任せ攻撃を始めた。


「オマエハ コロス コロス コロス コロス コロス」


「大技は無理か・・しかし・・」


宙から錫杖を取り出し妖の攻撃をかわしながら残っている呪符で2人を助ける方法を考えていたが無駄に時間だけが過ぎて行った。



「凪彩、目を覚ませ」


「うぅぅん、体が・・ヒリヒリする・・」


凪彩は薄暗い妖の体内で宿る妖の声に目を覚ました。


「ここはまずいぞ・・妖力を吸収している・・このままだと我もいずれは・・」


地雷帝はそう言うと黙ってしまった。


「ここは・・妖の・・あ、天駕海さん」


凪彩はズレた眼鏡のまま液体の中を手で探ると直ぐに天駕海を見つけ抱き上げた。


「天駕海さん、天駕海さん、目を覚まして」


「・・うぅぅぅぅん・・凪彩ちゃんここは?」


少しして気が付いた天駕海に肩を貸し立ち上がろうとした時に凪彩の腕に何かが邪魔をする物に当たった。


「ん?背中・・にーーーーーーーーー」


凪彩が天駕海の背中に黒い何かを見つけ叫び慌て足を滑らして液体に尻もちを着くと天駕海は滑らない様にバランスを取りながら自分の背中の黒い物を触ると。


「あ、あぁぁぁぁ術が解けているーー何でーーな、凪彩ちゃん見ちゃ駄目――」


天駕海はそう言いながら手を振るとバランスを崩し足を滑らせ凪彩に覆いかぶさり抱き合う形になってしまった。


「これは・・もしかして・・羽?」


「・・そう・・羽」


凪彩が背中に回った手で黒い何かを触りながら言うと天駕海は小さな声で答えた。


「あ、天駕海さん・・す、凄いよ羽が生えている」


「あ、あまり触るな・・くすぐったいから」


「ねぇねぇーどうやって羽生やすの?私にも教えて・・」


凪彩は天駕海を抱き寄せると両手を使い羽を触り出した。


「凪彩ちゃん・・」


「はい?」


「状況も状況だし・・そろそろ気付こうよ」


「え?何を?」


天駕海は「はぁー」とため息を吐くと凪彩の体を引き剥がし両肩に手を乗せると


「私は天狗なの、術で人間に化けていたの・・」


「て・・天狗?えーーーでも妖視でも・・あ・・うっすらと見えている」


「今は事情があって人間に化けるくらいしか出来ないけど、それよりここから早く出ないと妖力全部吸われちゃう」


「あ、そうだった」


天駕海と妖の腹の中にいる事を思い出した凪彩は周り探るが弾力のある壁があるだけだった。


「この壁を突き破る程の衝撃が無いと脱出は難しそうだね・・超ビリビリ砲みたいにドーンってやつ・・今の私にはそんな術は使えないけど」


天駕海の言葉に凪彩は思いついたが「じぃー」っと天駕海を見つめるとモジモジし始めた。


「凪彩ちゃんどうしたの?そうだ地雷帝だっけ?凪彩ちゃんの妖って、その力を使って何かいい案でも浮かんだ?」


「・・えーと・・そのですね・・」


「凪彩ちゃん、赤いジャージのテンちゃんみたいな天然もほどほどしないと」


「それです、キャラ設定の著作権とか使用権とか問題になるんじゃないかと・・あ、決してパクったんじゃないんです・・超ビリビリ砲は・・埼雲寺さん(肉まん)が・・」


凪彩はそう言うとポケットから金属の円盤を取り出して天駕海に見せた。


「そう言う事は早く言わないと・・私達溶けちゃうよー」



天狗固有の神通力で薄い部分を見つけると凪彩は反対の壁に背を着けると腕を突き出し超ビリビリ砲の準備をした。


「地雷帝、まだ生きているか?」


「私を誰だと思っている、凪彩の体内に結界を張り妖力の消耗を押さえて待っていたわー」


「地雷帝って言うからもっと気品のある妖だと思っていた・・ただのおっさんだね・・髭あるし」


「おっさんで悪かったな若い天狗」


「水天狗の翠恋すいれん・・それが私の名前だ地雷帝・・凪彩準備は?」


凪彩は地雷帝が妖とは言え凪彩以外と会話をした事に驚いた。


「あ、い、いつでも行ける」


「出ようここから」


凪彩が腕を上げ構えると天駕海が体を凪彩に寄せ構えた腕に手を添え頷くと凪彩は一気に電気発生させると電力を一気に右手に流し込み親指を弾き壁に向かってそれを放った。


凪彩私流なぎさしりゅう 秘奥義 彗星雷流弾ちょうビリビリほう


弾かれた円盤は電力を纏い黄色に輝きバチバチと耳が痛くなる程の音を立てながら彗星の様に黄色の尾を引きながら壁に当たるとゴムを伸ばす様に壁が伸び数mの所で黄色い球体に変わりバチバチ音を立てながら止まった。


凪彩が「駄目か」と思っていると天駕海が構えた指に1枚の硬貨を乗せ頷くと凪彩も頷き2人は大きく息を吸うと


「「いっけぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」


僅かな電気で放たれた硬貨は周りの水分を集めながら拳大の水球になり止まっている黄色い球体に当たると大爆発を起こし水蒸気に変わり周りの視界を塞いだ。



日が落ちコンサート会場を照らすライトだけになり影法術士に必要な影が少なくなり埼雲寺は最後の術の為に妖の攻撃を避けながら術に使う魔力を練っていた。


「チョコマカト ニゲルナ ボウズ」


「これ以上は無理か・・後は私と妖の精神力勝負」


妖の舌と唾に加え横に払った手の同時攻撃に呪符の盾と地面に突き立てた錫杖で受けた埼雲寺は錫杖を離すと両手を広げ高く上げると頭の横に降ろした。


「埼雲寺流 影法術秘奥義 影侵操帯えいしんそうたい


呪文が終わると埼雲寺の頭が光始め妖の体を照らすと大きな妖の影が浮かびあがった。


「影が無ければ作ればいい」そう言うと目くらましを食らった妖に埼雲寺は頭を光らせたまま走り出し懐にある影に潜り込もうとした。


「ギョエーーーーーーーーー」


突然妖が仰け反ると影が移動して影に潜る事が出来なかった埼雲寺は勢いのまま地面を滑り妖の股を過ぎ止まると振り返り細い目で妖を見上げた。


「しまった」


その時だった妖の背中が服を摘まんで引っ張った様に伸び止まると少しして先から黄色い光を放ち爆発し水蒸気を噴き出しながら肉片を巻き散らした、埼雲寺は飛び散る肉片を避けると妖の体が膨らました風船が縮む様に小さくなっていった。


「何が起きたんだ・・」


水蒸気で視界が悪くなった埼雲寺は妖視を使い辺りを探ると自分に向かって来る2つの反応が現れそれに構えると聞いた声が聞こえてきた。


「ビーアイアールアイビーアイアールアイ ハイフン スイレン アットマーク ウズシオ ドット シーオー ドット ジェーピー」


「ビーアイアールアイビーアイアールアイ?何それ?」


「藤間さんから聞いた・・凪彩がメル友になりたいって・・だから私のメールアドレス・・特別に教えてあげる」


「メル友なりたいなんて言ってないし、天駕海さんがOKなら話相手になりますよ、ただ、個人のスマホとか持っていなくて・・府警支給のタブレットならありますが制限が掛けられていてメールくらいしか出来ませんがって言ったんです・・そのタブレットもさっき壊れちゃったけど・・」


「凪彩はスマホも持っていないの・・もしかしてガラケー派?」


「これだけです」


凪彩は立ち止まると眼鏡を押し壊れたタブレットをビシッと天駕海に向け言うと


「新しいの来たらちゃんと教えなさいよ」


天駕海は振り向かずにそう言うと構えた埼雲寺を見つけ「おじさん発見」と言いながら走ると凪彩もタブレットを抱え天駕海の後を追った。



湖畔に立つ木の上にスーツ姿の男が片手をポケットに突っ込み煙草の煙を大きく吐いた。

「妖力を封印されているとは言え贄用の生天狗が手に入ると思ったのだが・・まったくどいつもこいつもつかえない奴だ・・まぁ「ヲタクの力」を妖力として代用出来るのがわかっただけでもいいとするか」


男は煙草を指で跳ねると木から飛び降り暗闇に紛れる様に姿を消した。



この後コンサート会場に散らばった妖の破片は地雷帝が美味しく頂きました。

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