第9話~西の問題児「破壊娘」4~

凪彩はワナワナと手を震わせ顔を真っ赤にしながら「国民的声優アイドルを救う、宙を舞う黒タイツの少女」と言う見出しのスポーツ新聞の1面を見ていた。


新聞には助けられたアイドルの大きな写真とコメントが1面を飾り、その下に顔こそ映ってはいなかったが妖に飛び蹴りを入れた際に真下から撮られた恥ずかしい凪彩の黒タイツ姿がアイドルの写真の4分の1サイズで載っていた。


「な、何でこんな恥ずかしい写真が・・」


「あぁーそれ?会場に来ていたマスコミのカメラに偶然写っていたらしいよ、良かったじゃないか顔が写ってなくて」


「そ、そう言う問題じゃないです!こういうのは・・・・・」


凪彩は真っ赤な顔のまま机をバンバン叩いて埼雲寺に抗議した。



府警にはマスコミや一般人からの問い合わせが殺到し、世間にまず出る事の無い妖の写真にテレビのワイドショーでは毎日の様に取り出されていて、ネットの各大手情報サイトでは同じ写真が拡散されこの「黒タイツ少女は誰なのか?」で盛り上がり、闇夜に写っているセーラー服の1部から「〇〇高校の制服じゃないか?」などと飛び交い炎上をしていた。


妖対策捜査第課からマンションまでの距離は約9km、自慢の脚力でギア変速の無い普通のママチャリを飛ばし10分程で到着した。


片側1車線の県道沿いにある南向きのマンションは10階建てで1階に洋食喫茶店と20台ほど置ける店舗駐車場、マンションの西脇を通り裏には住民用の駐車場があり、マンションから徒歩10分圏内には最寄りの駅、コンビニ、スーパー、レストランなどがあり生活に不便を感じさせない場所に立っていた。


凪彩はマンションとその周辺に妖の痕跡が無いか妖視を使って回ってはみたが特に妖の痕跡は見つからなかった。


「ストーカーが現れてから時間も経っているし、知らない人がウロウロしていても1階が喫茶店だから怪しまれないか・・」


収穫も無くマンションの入り口に戻った凪彩に喫茶店の排気口から漂う洋食の美味しそうないい匂いが容赦なく胃袋を刺激し捜査の邪魔を始めた。


「・・ぐぅぅ」


お腹の音にタブレットの時計を見ると20時を過ぎていた。


「お腹すいた・・妖の痕跡も見当たらないし今日は・・帰って報告書を書かないと・・」


「あれ、羽澄さん?」


タブレットをしまい国道方面に自転車にまたがり踏み出そうとした時に声を掛けられ、声の方を向くとエントランス前に藤間と天駕海が立っていて凪彩は自転車を降りエントランスまで自転車を押すと。


「こんばんは」


「早速来てくれるなんて助かるわ、それで何かありました?」


「今日は特に怪しい痕跡などは見えませんでした」


「見えない?それってもしかして術とか使うの?」


「はい、妖を見る術です」


凪彩が説明すると藤間は目をキラキラさせ


「私、そう言うの興味があって・・羽澄さんお腹空いてない?よかったらここで聞かせてくれない・・ねぇれんも夜食がてら一緒に・・」


「私はいい・・明日早いから」


藤間が1階の喫茶店を指さしながら言うと天駕海は興味が無いのか表情を変えず背を向けエントランスに入ってしまった。


「羽澄さんちょっと待っていてね、直ぐに戻るから」


藤間が手を振り天駕海の後を追い掛け天駕海が開いた自動ドアに滑り込むとエントランスの奥に見えなくなってしまった。



実際「妖」と言う存在が公表され新法や警察組織も作られ、一般の人が映画やドラマで見ていた「陰陽師等」が現実に存在していると人間は興味がわいてきて身近にそれが存在すると知りたくなり皆同じ行動を取り始める、凪彩も組織に入り授業中でも関係なく幼稚園に呼び戻される事があり、最初は何事も無かったが呼び戻しが多くなると学校側は生徒を集め全員に説明をすると「興味」だけで毎日の様に何人もの生徒が凪彩に近づき「陰陽師」の話が聞きたいと何度もせがまれた嫌な事を思い出した。


「かっこいいな」「凄いね」「妖って強いの?」「術教えて」「私も陰陽師になりたい」


「そんなに興味があるなら何時でも変わってあげる・・もし妖に会いたいなら紹介するけど・・ただ命の保証はないけど・・」


それが「興味」だけで聞いてきた生徒への凪彩の答えだった。



凪彩が昔の事を思い出しているとエントランスから藤間が現れ凪彩の手を掴み引っ張る様に喫茶店に連れて行ってしまった。


店内は広くカウンター席、BOX席があり正面駐車場側にはガラス張りで外の様子が伺える様になっていた。


「ごめんなさいね、恋も今回の件でナイーブになっていて・・」


「いえいえ、大丈夫です気にしないで下さい」


窓際のBOX席に着き藤間が両手を合わせて言うと


「それより何食べる?ここの超お勧めはミートパスタなんだけどそれでいいかな?ここに来ると先ずはそれを食べてもらうの、絶対に損はさせないから」


「そ、それでお願いします」


藤間の迫力に負けおすすめのミートパスタを注文すると藤間が本来の目的を話し始めた。


「陰陽師にも興味はあるんだけど・・本当はね恋に話相手と言うか何と言うか・・仕事柄友達とか作る時間が無いし、羽澄さん見た時に恋と年齢が近そうと思ってね」


「はぁ、なるほど・・それで」


「いや、ごめんね変な話ししちゃって、今の事は忘れて」


凪彩は埼雲寺がこの場にいたら「超」が付くくらい喜んで話に乗るだろうと思いながら


「天駕海さんがOKなら話相手になりますよ、ただ、個人の携帯とかスマホとか今は持っていなくて・・府警支給のタブレットならありますが制限が掛けられていてメールくらいしか出来ませんが」


凪彩はふと何でOKしたのか不思議に思った、「同じ境遇だから?」「仕事だから?」それとも・・


「友達がいないからだろう、それとも友達が欲しいのか?不快だな・・」


頭に聞こえた妖の低い声に「確かに学校でも話す人はいても友達・・と呼べる人はいない・・でも私にはそんな人は必要ない・・」凪彩が思うと宿る妖に強い口調で


「私にはやらなければならない事があるから友達はいらない・・これは仕事だから」


「そうだよな、やる事があるよな・・それが終わったら」


「・・分かっている、約束は守る・・」


凪彩がこの妖と契約した時の事を思い出していると急に動かなくなった凪彩に藤間が声を掛けてきた。


「羽澄さん?どうしました?」


「あ、ごめんなさい、ちょっと話をしていて・・」


「話?誰と?」


「あ、違うんです、あ、え、えーと」


凪彩は両手を振ると藤間が周りを見ながら小さな声で


「もしかして、術か何か使ったとか?」


「・・そんな感じです」


凪彩が誤魔化そうとした所で注文した品が運ばれてくると胃袋が気合を入れ泣き出し、美味しいパスタで慰めると話が盛り上がり食後のデザートまで出され結局1時間程「妖や陰陽師や術」について話す事になってしまった。


「・・映画みたいにはいかないんだ」


「一応、食うか食われるかの世界なので」


「私達の知らない所で羽澄さんもその年で大変な事しているんだ」


「持って生まれた運命ですから諦めています」


「恋も声優だけにしておけば良かったんだけどね」


「声優だけ?」


いつもなら話すのが嫌になり適当に話をするが、興味とは言え藤間は話を真剣に聞いてくれ今までとは違った感覚がしていた。


「そうだ、明日仕事に来てみない?恋の護衛かなにかにかこつけて」


「仕事に・・ですか?」


「羽澄さんの話を聞いて、もしただのストーカーじゃなかったら・・私達じゃ恋を守ってやれない・・そう思ったの・・行くときはもちろん私も一緒にだけど」


「・・はい・・許可が出ればですが」


自分が嫌いな「興味本位」であったがいつの間にか藤間の逆の立場になっている凪彩は不思議な気持ちになっていたが「仕事だから」と自分に言い聞かせていた。



後日、凪彩は学校帰りに渡されたメモの住所に来るとそこにはコンクリートがむき出しの四角い2階建ての建物があり壁には「スタジオ渦潮」とアニメのキャラクターが書かれていた。


「時間通りに来たね羽澄ちゃん、玄関に回ってー」


凪彩がどこかで見た壁のアニメキャラクターを眺め考えているとインターホンから藤間の声が聞こえ凪彩は「はすみ・・ちゃん?」と思いながら玄関に向かうと「カチャ」と音がしてオートロックが解除され中に入ると外装と同じコンクリートむき出しの玄関で藤間が迎えてくれた。


「待っていたよ羽澄ちゃん、さあさあ中に入って」


藤間に連れられと操作室と書かれた部屋に入るとそこには音響設備が展開していて何人かの人が機械を操作していてガラス1枚を挟み奥にもう1つの部屋があり3人の女性が台本片手に笑いながら何か話をしていてその内の1人が制服のままの天駕海だった。


「羽澄ちゃん、ここが動画に声を充てる施設で・・」


藤間が説明を始めると凪彩が始めて見る施設に「おー」と感動していると後ろのドアが開きスーツ姿の男が1人入って来ると、その場にいた全員が挨拶すると凪彩も釣られて挨拶をした。


「あ、社長、昨日話をした羽澄凪彩さんです」


「社長の潮海しおみです・・話は聞いていたが・・本当に女子高生なんだ」


潮海は「へぇー」と言う顔で凪彩を見ると藤間が「でしょ」とドヤ顔で答えた。


「まぁ、天駕海の事をよろしく、あの娘はうちの看板だから」


潮海はそう言うと席に座り機械を操作する人と話し始めた。


「凪彩ちゃん、もうじきで始まるから見ていて」


凪彩は頷くと部屋に沈黙と緊張が走りアテレコが始まり、笑って話をしていた3人の表情が変わり真剣な顔付きに変わった。


「はい、じゃーシーン7の戦闘シーンからー」


社長がマイクで指示を出すとモニター画面に音の無い映像が流れ始め中の3人が台本を見ながら映像に合わせて口を動かし始めた。


開始から1時間程で「はい、OK―15分休憩でー」と潮海が言うと部屋の沈黙と緊張が解け奥にいた3人も笑顔に戻り収録室に隣接している横の部屋に出て行ってしまった。


「藤間さん、アテレコって大変なんですね・・それとこのアニメって「とあるビリビリ娘の・・」ですよね?しかも主役のビリビリ娘の声って天駕海さんだったんですね」


「そうそう、1期見てくれたの?今やっているのは2期の分のだけど」


「はい、見ました・・埼雲寺さんが凄いから見て見ろって言いわれまして・・」


凪彩は新技の開発の為に埼雲寺から借りたこのアニメを思い出すと「埼雲寺さんが喜ぶはずだ」と思っていると。


「終わるまで私達暇だし声優の部屋に行ってみる?他のメンバーにも紹介しておかないとだから」


「は、はい」


凪彩は藤間にそう言われ付いて行くと操作室から廊下に出て休憩室と書かれた部屋に行くと部屋は飾られこの部屋だけ別世界の様だった。


「お疲れー」


「お疲れ様です」


「「「あ、お疲れ様です」」」


藤間が部屋に入ると3人がハモる様に答えると凪彩に3人を紹介してくれた。


天駕海あまがみは知っていると思うけど、こっちが笹川ささかわあや、それでこっちが和良橋わらはし奈々なな、みんなうちの事務所の声優さん」


笹川は背が高く和良橋は天駕海と同じくらいの背丈で2人は天駕海とは違い化粧をし成人女性だった。


「初めまして羽澄凪彩です、よろしくお願いします」


凪彩が挨拶をしていると昨日とは変わって天駕海は笑顔で話をしていた。


「ねぇーねぇー天駕海―この人がボディーガードの人?」


「そうそう、府警から来てくれている」


「えー私には普通の女子高生にしか見えないけど」


笹川がお菓子を摘まみながら凪彩を見て言うと


「凪彩ちゃんは正真正銘本物の女子高生だよ」


「「女子高生で刑事でボディーガードってそんなに強いの?」」


藤間の突っ込みに笹川と和良橋があり得ないとばかりにハモって突っ込むと。

「刑事ではなくて府警に所属しているだけで・・強いとかは・・」


凪彩が頬を掻いて困っていると


「凪彩ちゃんは強いんだよ、羽澄流なんちゃらって空手ができるんだって、何でも課長さんが言うには男の4,5人ならあっと言う間らしいよー」


藤間がなんちゃって空手の構えをしながら言うと


「すごーい」「かっこいい」「かわいいのに」「私も守って欲しいー」などの黄色い声に凪彩は顔を赤くしてただただ困るしかなかった。


少ししてスタッフの「始めまーす」の声に休憩室からアテレコ部屋に笹川、和良橋と移動すると天駕海がドアの前で立ち止まると笑顔が消えた顔で凪彩の方を見ると

「羽澄さんは妖にも強いの?」


「妖にも強い?」


凪彩が予想外の質問に考えていると笑顔の藤間が割り込んできて


「凪彩ちゃんは、こないだは地神、その前は電気の妖を退治したそうよ」


「ふ、藤間さんそう言う話は・・」


嬉しそうに言う藤間に凪彩が手を振りながら制すると天駕海は「そうなんだ」とだけ言って部屋を移動して行った。



収録が終わり藤間、天駕海と別れた凪彩は「みんなと色々な話が出来て楽しかった」と思い今までと違った生活に憧れが少し沸いて来ていた。



凪彩が妖対策捜査課に帰ると埼雲寺が机に座り不機嫌オーラを放ちながらPCを眺めていた。


「ただいま戻りました」


「どうだった・・アフレコの方は・・」


埼雲寺の不機嫌オーラの低音の声は明らかに凪彩に向かっていた。


「そうですね、丁度ビリビリ娘の2期のだったので」


「そうか2期のか・・それでどうだった?」


「妖の形跡も無かったので身内では無いと思います」


「そうか・・それで・・」


何か言いたそうな埼雲寺に凪彩は気が付いた。


「天駕海さんと笹川さんと和良橋さんの3人と会って来て、埼雲寺さんがビリビリ娘のDVDとBRを持っているって言ったら、ありがとうって3人が言っていました」

ここで埼雲寺の「不機嫌」オーラから「羨ましい」オーラに変わり爆発した。


「何!ビリビリ娘と準主役の2人にも会って来ただと・・・・グヌヌヌ・・」


埼雲寺は立ち上がり机を叩くと細い目を光らせ頭から流した汗で泣くと黙ってしまった。


「埼雲寺さん?どうしました?あ、そうだ天駕海さんからこれ貰って来ました」


異様な埼雲寺に体を引いたまま凪彩はカバンから色紙を出し恐る恐る埼雲寺に差し出すと「埼雲寺おじさんへ」と書かれた天駕海恋の色紙を見るなり卒業証書を貰うかの様に両手で受け取ると攻撃色から非攻撃色に変わった妖の様にオーラがパッと晴れ神様の様な後光を発すると色紙を手に持ったまま席に座り顎に手を添えると椅子を左右に振りながら今まで発した事のない優しい声で。


「凪彩君・・今度のボーナス査定だが・・期待してもいいぞ」


「え?私にもボーナスって出るんですか?」


「いや、冗談だ・・でも返済ノートの未返済分は全てチャラでいいぞー」


凪彩は幸せを越えオタクの高みに昇ってしまった埼雲寺に気持ち悪くなったが、1枚のサイン色紙が未返済分を帳消しにしてくれた「天駕海恋・・恐るべし」と思っていると。


「そうだ、今月の誕生日コンサートまでにストーカーを必ず退治するからーよろしくーあ、俺も出るからー」


「よろしくって?埼雲寺さんまで?・・それって上からの指示ですか?」


「そうそう、どこの企業のオファーにも絶対受けなかった彼女が、今度府警のイメージキャラクターに決まってね、ポスターが出来るコンサート当日までに犯人逮捕しろって命令が来てさ」


「よく分かりませんが府警からの命令なら仕方がありません・・分かりました」


明らかにおかしい言動の埼雲寺に怯えながらも返事をすると


「頑張ろうねー凪彩君」


「・・・・・は、はい、頑張ります」


それから色紙を眺め細い目をキラキラさせ後光を輝かせ動かなくなった埼雲寺を横に凪彩は急いで報告書を書くと気持ちの悪い上司からようやく釈放された。

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