第5話~閉じ込められた童と黒鬼4~

寺崎の自宅に向かう車内では熊田は運転に集中し、依琴はタブレットで対妖事件用電子令状の返信を確認していた。


「熊田さん、術全ての使用の許可が出ました、危ないので私を降ろしたらそのまま離れて下さい」


「何を今更、俺は最後まで・・」


警視庁の妖降士とは言え女子高生に「危ないので」と言われ刑事魂に火が点いていた熊田がそう言うと


「離れて下さい、邪魔になります、怪我します・・怪我じゃ済まされないかもしれません」


熊田はいつもと違う依琴のトーンの変わらない口調に冷たい物を背中に感じると「・・分かったそうする」と答えた。



熊田はある家が見えるところで車を止めるとその家を指さしながら。


「あそこに見えるのが寺崎の自宅だ」


その家は回りの家とは違い高い壁と山西の自宅と同じく門を構えていた。


依琴はバッグを肩から掛けタブレットを抱えるとドアを開け雨の中に身を出した。


「ドアを閉めたら決して戻らないで下さい」


「麻薙さんも気を付けて・・」


「ありがとう」


依琴は雨で濡れだした眼鏡を指で押しながら言うとドアを閉め目的の家に向かって歩き始めた。


麻薙流あさなぎりゅう 妖探波ようたんは


依琴は帰って来る妖探波に反応して戻る波に集中すると


「家内に実体レベルは黒鬼だけ・・後は餓鬼レベル・・それと結界?黒鬼が言っていた童はここか?」


警戒しながら門の前に立つと呼び鈴を押すが返事は無く2度目の呼び鈴を押そうと指を出したところで目の前の門から浮き上がる様に餓鬼がゆっくりと顔を覗かせた。


「もう隠す気はなさそうだな」


依琴はバックステップからの宙返りで餓鬼から距離を取ると息を整え叫んだ。


「麻薙流奥義 妖降術 来い!舞風、庵角」


依琴は風を纏い2本の長さの違った角を生やし対妖たいあやかしの妖降士の姿に変わった。 


「ママ、A県限定販売の恋人はチョコっと妖菓子あやかしを買って来て」


「依琴さん、お土産はA県限定のミソたれ流しヨーグルプリンを1ダースでお願いします」


2人共何処で調べたのか依琴の行先にしか無い物を注文すると


「舞ちゃん1箱でいいのか?」


「庵角も1だから舞も1でいい」


「そうか、庵角と同じ1ケース買って行く」


依琴は微笑を浮かべ戦闘前の平和な会話を終わらせると門から現れた餓鬼に向かって歩き始めた。


依琴は門から現れた餓鬼を拳で倒すと門前に立ち指で濡れた眼鏡を押すと左足を下げて右拳を門に軽く添えると


「麻薙流 殺手術 風龍咆ふうりゅうほう


体に纏った風が強くなりその1部が添えた拳に集まると依琴は拳を門に押し込む様にゆっくり突き出し門が徐々にガタガタ揺れ出し拳が触れている付近からヒビが入り端まで到達すると門がバラバラに砕けた。


依琴が門を潜ると中には砂利に挟まれ石道が続き右には庭園が広がり左には芝が広がる庭になっていた。


「流石は陰陽道を外した陰陽師と言ったところかな・・礼儀も知らない妖降士」


依琴が門から家の中間の石道に来た時に雨音に交じり男の声が聞こえ、依琴は声のする芝が広がる庭に向くとそこには明るいグレー色のスーツ姿の男が1人で傘を差して煙草を吸いながら立っていた。


「警視庁 刑事部 妖対策捜査 第2課 所属 陽光寺 麻薙依琴、対妖法に基づき4件の殺人事件に関与した人間及び妖を容疑者として逮捕する、あなた達には3つの権利と供述は法廷であなたに不利な証拠として用いられる事がある、ただし妖には場合と状況によっては適応しない」


タブレットを掲げ権利の告知と言う非効率なルールの決まり文句を言うとスーツの男は良くできましたとばかりに拍手をすると。


「長々とご苦労様、では私が殺した証拠の提示をお願いします麻薙依琴さん」


「門前にいた餓鬼が・・」


「餓鬼?門にそんな者がいたのかね?いやー恐ろしい時代になったものだ」


男は煙草を吹かしながら言うと依琴は行けば黒鬼が出て来て証拠となるはずだったが一向に現れない普通の家に「黒鬼がいるはずなのに」と苦虫を噛んでいると。


「門の破壊・・いやー困りましたねー器物破損で警察に・・」


「それじゃ警察の俺らが先に恐喝と暴行の幇助の容疑で寺崎を連れて行くがいいか?いるんだろう寺崎は」


バラバラになった門の破片を避けながら若田を前に熊田が現れ若田が令状を雨に濡れないように見せると石道を玄関に向かい歩き出した。


「熊田さん、若田さん、何で・・」


「熊田さんの妖事件のついでにって別件で令状請求をしていたんだよ」


若田は笑顔でVサインを見せると熊田は頭を掻きながら苦笑いを見せた。


「まったくどいつもこいつも役に立たない奴ばかりだ、炎灯・・やれ」


スーツの男は煙草を指で弾いて濡れた芝生に捨てながら言うと玄関が内側から破られ止まる事も無く黒鬼が姿を現し若田と熊田を突き飛ばすと2人は壁にぶつかり動かなくなってしまった。


「熊田さん、若田さん」


依琴が黒鬼に向かおうとした時に足元から複数の餓鬼の手が現れ両足を掴み束縛してしまい、それと同時に黒鬼の後から出て来た捜査資料で見た寺崎がスーツの男の所に向かった。


「す、杉原さんどうするんですかこんな事になるなんて聞いて・・」


「あ~ん、俺の方が聞いてない、お前達のドジが生んだ結果じゃないのか?」


「そ、それは・・でも何とかしてくれるんでしょう?」


寺崎は杉原と呼んだスーツの男に縋る様に言うと。


「何とかしろ?この状況を見てどうしろって?警視庁の妖降士に刑事までいるんだぜ」

「そ、そんな・・」


絶望に地面に膝を着く寺崎に杉原は傘を掲げやれやれと素振りを見せると。


「必要な物は手に入ったから俺は退散させてもらう・・そうだ、これがどれだけの物か使ってみるか」


杉原はスーツのポケットから依琴が黒鬼に渡した紙包みを取り出し封を解くと更に数枚の呪符を出し呪文を唱え目の前に投げつけると呪符が直径2m程の円を描くように宙に留まり中心から黒い渦が広がり始めた。


「す、素晴らしい、大した儀式なしでこれだけの妖門が開くなんて」


依琴は足を掴む餓鬼の手を切り払うと動かなくなった2人のところまで地面に触れずに飛ぶと安否確認をして安堵し振り向くと黒鬼が杉原に向かっていた。


「杉原さん、俺達はどうしたら?」


「お前らか?役に立たない奴は知らん、勝手に童と一緒に捕まってしまえばいい」


杉原はそう言うと呪符を取り出し呪文を唱え黒鬼に呪符を投げつけると地面に貼り付いた呪符から蔦の様な物が生え出し黒鬼を束縛してしまった。


「杉原さん、どうして・・」


「お前みたいに妖でありながら童なんかに情を出し、鬼のくせに鈍感だから気付かないんだよ間抜けが」


杉原はそう言うと妖門に地神の頭をかざすと空いた手で宙に何かの文字を書き短く呪文を唱えると妖門の渦が膨れ上がりそこから虫の頭が現れ徐々にその巨大な姿を現した。


「この地で滅びた百足がこんな簡単に呼び出せるなんて俺って天才だな、あっはははは・・百足よ全部食っていいぞ」


杉原は両手を上げながら大笑いしながら言うとそのまま妖門に向かい飛び込んだ、杉原の姿が消えると妖門はゆっくりと小さくなり消滅すると、それを合図とばかりに寺崎の自宅から火の手が上がり巨大な百足が動き始め腰を抜かして喚く寺崎を最初の獲物にした。


「うわぁー助けてくれー」


助けようと依琴が動く前に百足は寺崎を頭から地面ごと丸飲みをすると頭を上げ骨を砕く音と共に久しぶりの食事に歓喜の声を上げた。


依琴は2人をこのままここに放置しておくと危険と判断すると目の前の壁に穴を開け気絶している熊田と若田を持ち上げ「ごめん」と言いながらその穴に押し込むと百足の方に振り向きバッグから大量の呪符を取り出し呪符を宙に投げ「麻薙流 大結界術」と言うと呪符が風に運ばれ百足を中心に広がりこの家を丸ごとの結界を張った。


奇声を上げ次の獲物を黒鬼に定めた百足は臭そうな液体を垂らしながら頭をゆっくり黒鬼に近づけると口を開き目の前にある美味しそうな「黒いボンレスハム」をかじろうとしていた。


「麻薙流 殺手術 昇龍砲しょうりゅうほう


壁を蹴り風の力を利用し黒鬼の足元に飛び込みしゃがむと依琴は体をバネにして拳を百足の顎に向けて突き上げた。


「生きているか黒鬼」


黒鬼を背中越しに指で眼鏡を押しながら言うと


「何故俺を助けた妖降士」


「何故?何故なんだろう、特に理由は無いが・・まさか食べられたかったのか?」


「ば、馬鹿な事を言うな、だ、だれが百足なんかに」


「じゃ、手伝うか黒鬼、手伝うならその束縛を解いてやる」


「百足に食われるくらいなら・・」


黒鬼が言い終わると同時に家の一部が火の粉を上げながら崩れ落ち、それを見た黒鬼は依琴の方を見ると片目の無い顔を歪ませ。


「妖降士、頼みがある・・百足は俺が抑えるから童を助けてくれ、あそこには結界があって俺には入る事が出来ない、お前ならその結界を破って童を助けられる」


「お前の言葉を信じろと?私が束縛を解除したら逃げやしないか?」


「頼む、人間の妖降士、童を助けないと俺は・・うぅ」


黒鬼はなんとその場で泣き始めてしまった。


「はぁ~、まったく庵角といいお前といい私の周りには泣く鬼しかいないのか」


依琴はため息をつきながら小さい頃に庵角の作った料理に嫌いな物が入っていて「庵角の作ったご飯が美味しくない」と1口も付けず庵角を何度か泣かした事を思い出した。


不意にアッパーカットを食らい後ろに倒れた百足はその無数の足を動かし体制を整えると餌を横取りされたとばかりに大きな口を開げ奇声を上げ依琴に向かって口から液体を巻き散らしながら襲って来た。


「麻薙流 殺手術 風護壁ふうごへき


依琴が両腕を前に出すと周りの風が体の前で渦を巻き風の盾を作り上げ百足の攻撃をはじき返すと


「麻薙流 封印術 風輪束縛ふうりんそくばく


今度は渦を巻いた風の盾が分かれ複数の小さな渦を巻いた小さな輪になると百足に向かって飛びいくつかの百足の足に手錠の様に絡まると百足の動きが止まり、依琴は風の力で百足より高く飛び上がると。


「麻薙流 殺手術 鬼風拳撃おにかぜけんげき


鬼の力に風の推進力合わせた拳を百足の頭に叩き込むと百足は体を宙に束縛されたまま頭部をダラーンとさせてしまった。


「これで時間は稼げる、童は助けてやるから・・泣くな黒鬼」


泣き止まない黒鬼の前に着地した依琴は鼻先までズレた眼鏡を掛け直すと地面に貼られた呪符の周りに自分の呪符を数枚貼ると長い呪文を唱え始めた。


「麻薙流 解呪術かいじゅじゅつ 呪符破じゅふは・・・・・・・・破!」


最後に気合を入れた依琴に答える様に黒鬼を束縛していた呪符が縁から煙を上げゆっくりと燃え始め呪符が燃え尽きると黒鬼を束縛していた蔦がボロボロと崩れて行った。


「動けるか黒鬼?」


炎灯えんとう、それが俺の名前だ」


「そうか炎灯、私は麻薙依琴・・依琴と呼べばいい」


「依琴はいい陰陽師だな」


「妖降士だ炎灯・・百足は任せたぞ」


依琴は残った風を体に纏わすと近い窓から家に侵入した。


燃盛る家内は何も無ければ火傷をする程の熱さであったが依琴には風のお陰でその熱さを殆ど感じなかった。


「麻薙流 妖探波・・・そっちか」


妖探波は通常限界範囲に到達するとソナーの様に波を返してくるが結界などの封印された場所などは逆に反射せず吸収されてしまう。


依琴がその方向に進むと火の手が殆ど回っていない壁に対火呪符が貼られた長い通路を見つけ、再度妖探波を使うと通路の先の波が帰って来なかった。


依琴は呪符のトラップが無いかゆっくりと長い通路を進むといくつかの普通の扉があったが突き当りのドアには今までとは違う護符が貼られていて依琴は結界を解除するとドアを開け部屋の中に入った。


部屋の中は天井が黒く燻っているだけで壁床は殆ど元の状態を維持していた。


「ナー?」


入って来た依琴に表情を変えず直視する少女は部屋の中心に座り赤に黒い花柄の毬を抱え少女を中心に何故そこにあるのか何本もの鎖が円を書いて床に広がっていた。


「あなたが童さん?炎灯って鬼から助けてくれと頼まれて来たんだけど?」


「ナー」


炎灯の名前を聞いたのか少し笑顔になった少女に


「部屋の中まで結界を張るなんて、今解除してあげるから」


「ナーナーナーナー」


慌てた様な少女の言葉に依琴は何を言っているか分からなかったが柱に呪符を貼り解除した瞬間柱が折れ天井が落ちて来た。


「まずい」と落ちて来た天井を支えようと技を使おうとした時に「ジャラジャラジャラ」と言う音と共に床から鎖が飛び出し天井を支えてくれた。


「ナー」


少女の安堵の言葉に依琴はもしかして忠告してくれていたのかと少女に近づき目線を合わせると


「助けてくれてありがとう童さん」


「ナー」


依琴には「どういたしまして」と聞こえた。


「ここから出ましょう」と言いかけた時に入り口のドアの向こうの通路が音を立てて崩れてしまった。


「出口が・・」


依琴が困っていると少女は立ち上がり毬を依琴に渡すとドアの前まで歩き両腕を横に上げると袖から新たな鎖が現れドアの先の瓦礫を排除しながら鎖の通路を作り上げた。


「ナー」


少女はキョトンとしている依琴から毬を取ると片腕で毬を抱き空いた手で通路を指さすと依琴の手を握り手を引き鎖の通路に導いた。


「ナー♪ナー♪ナー♪」


直線に作られた灯りの無い不思議な鎖の通路の中で鼻歌を歌う少女に連れられ出るとそこは雨の降る庭園が広がっていた。


「ナーナー」


少女は「出られました」とばかりに笑顔で依琴の顔を見ると繋いだ手を離し使った鎖を袖に回収すると小走りで玄関の方へ向かい依琴は不思議な少女に唖然としていたが外で起きている事を思い出し慌てて少女を追いかけた。


「ナー」


石道の上で止まり大きな声で叫ぶ少女に依琴が追いつくと


「おぉー無事に出られたんだな、よーし」


術の束縛が解け自由になった百足と組み合っている炎灯が少女の声を聞いて百足を力任せに持ち上げ地面に叩きつけた、それはまるで「パパ頑張って」と言われ無茶した父親の様だった。


「依琴、童を助けてくれてありがとう、俺はもう・・」


炎灯はそう言うと後ろに大の字に倒れてしまった。


「ナー」


少女の叫びと同時に百足が起き上がり倒れた炎灯に伸し掛かろうとした時、少女は毬を持ったまま両手を上げると袖から鎖が現れまるで生きているかの様に地面を這い百足目掛けて飛び出し体に巻き付き炎灯への攻撃を阻止した。


「ナーナー」


少女は首だけで依琴の方を見て何かを訴えると依琴は「分かったと言い」


「麻薙流 増妖術ぞうようじゅつ解放」


依琴の周りの風が大きく強くなり竜巻に巻かれている様になり頭に生えた角も長く太さを増した。


「麻薙流 超殺手術 風魚雷かぜぎょらい


依琴は右手を左斜めに上げ右に払うと順番に8つの渦が現れ払った手を百足に向けると百足に向かい渦が動き出しゆっくりと宙に姿を消してしまった。


「麻薙流 超疾風ちょうしっぷう


「麻薙流奥義 超殺手術 鬼風拳撃おにかぜけんげきれん


依琴は両拳を握り脇に構えると少ししゃがみ跳ねると目にも留まらぬ速さで百足の頭に向かって飛ぶと百足の頭部上部に右拳を打ち込むと今度は左拳を打ち込み速度を上げながら交互に拳を打ち込み百足の頭部を下に押し込んで行き地面に届く頃に百足の固い殻の頭は陥没し割れ見た事も無い体液を巻き散らしていた。


「これで最後だ」


依琴は宙返りで百足から離れそう言うと宙に消えた8つの渦が4つ1セットで別々の場所にゆっくり現れ、百足の割れた頭に当たると渦を増しドリルの様にそのまま百足の頭に入り込み少しして体内で破裂し百足の頭と体をバラバラにした。


大きく残った百足の本体は徐々に崩れ落ち塵と化してしまい、それを見た少女は鎖を袖に戻すと倒れた炎灯に向かって小走りで向かい頭の横にしゃがむと顔を毬で叩きながら何度も「ナー」と繰り返した。



逮捕された黒鬼の証言から自分は気付いたら杉原の元に召喚されていて、数年前に杉原と共に寺崎に接触し議員に初当選させると杉原が目的にしていた地神の神体を所有する寺崎の後輩の山西に「議員にしてやる」と話を持ち掛けた。


そして杉原が黒鬼を使って裏工作をしていた時に黒鬼が一般の陰陽師に退治されかけ逃げている途中に童と出会い童の力でその陰陽師から逃げると自分を助けてくれ行く当ての無い童を杉原に合わせると「その陰陽師は俺が何とかしてやる」「童がそいつに見つからないように」と童を奥座敷に封印すると、それをネタに黒鬼は何年も汚れ仕事を続け「今回の件が終わったら2人共自由にしてやる」と杉原に言われ「これが最後だと」渋々手伝っていた。


逮捕された妖の炎灯は依琴の証言もあり杉原の呼び出した百足退治に協力した事もあり刑期は軽減される方向になった、一方囚われていた童は共犯には当たらないと無罪になるが今回のケースの様な身寄りの無い妖をどうするか妖法には記載が無くA県警の管理下でとある寺に保護される事になった。



依琴は家のお土産と店長からの差し入れの特大弁当を手に熊田と若田に見送られ帰路の新幹線で来た時と同じく窓枠に肘をつき手に顎を乗せて連結電車ごっこをしている曇り空を眺めていた。


「主犯は逃がすし、共犯者は2名死亡・・捕まえた黒鬼の証言はあるけど・・こんな報告書なんて書きたくない・・代わりに書いてくれる人はいないかな・・今回は凄く疲れた・・」

依琴は窓に映る眼鏡が鼻先まで落ちた憂鬱な自分の顔を見ながらウトウトしていると妖力を感じ眠気が覚めた。


「ナー・・」


依琴が声の方を向くと小さな声で毬を両手で抱え俯く少女が通路に立っていた。


「あぁ、駄目じゃないか付いてきちゃ」


「・・・・・」


「黙ったって駄目な物は駄目、熊田さんの紹介してくれたお寺に戻って身を隠しなさい」


「・・・ナー」


少女は寂しそうに言うと後部車両に体を向けると歩き始め少しして妖力を感じなくなった。


「身寄りの無い妖かぁ・・そんな事考えた事もなかったな・・今度の新法案でも身元引受人がいないと一緒に暮らせなくなるし・・かわいそうだけど・・」


依琴は熊田に連絡を入れ事情を話すと童が戻ったら連絡させると言い電話を切るとまた連結電車ごっこをしている雲を眺めた。


「いずれ、家もあの子みたいに身寄りの無い妖を預かる事もあるのか・・里親探しています何て事にも・・」


依琴は家から近いスーパーの階段にある掲示板を思い出し、そこに子犬や子猫と一緒に妖の写真の入った張り紙が混ざっている物を想像した。


「生後約100年、健康状態は良好、主に生肉を・・って・・流石に譲りますはないか・・」


依琴はホッとしたのか珍しく冗談じみた事を考えると単調な揺れに瞼が重力に逆らえなくなっていた。



「・・依琴、何で舞はお寺から出れないの?」


「分からない、かーさんが舞ちゃんはお寺の中にいないと駄目な事情があるからって言っていたけど・・依琴も良く分からない」


「事情ってなんだろう?」


暑い夏の夕暮れに庭で遊び疲れた小さな依琴と舞風が縁側に座りアイスを食べながら「あーでもない」「こーでもない」と話をしているところで車内放送に起こされ目が覚めた。


「・・・・」


前席がいつの間にか向かい合わせになっていて、その座席を囲む様に鎖が張られ毬を抱えた少女が頭だけを外の向け景色を見る振りをしながら目だけが「チラッ」「チラッ」っと依琴の方を見ていた。


依琴は気付かない振りをしてバックからスマホを取り出すとメールを打ち始めた。


「・・・・・」

「・・・・・」


長い沈黙が始まりほぼ2区間の間を我慢比べしている様な状態が続き、依琴はその間「何で気付かなかったのだろう?目の前にいるのに妖力が感じない・・」と考えていると突然スマホが「ごーっついタイガーメールじゃ」とメールの着信音が鳴ると、チラ見をしていた少女は体をビクッとさせ抱えていた毬を落としてしまい額に汗が滲み出しそのまま固まってしまった、依琴が落ちた毬を拾い固まった少女に差し出すと少女はゆっくりと顔を依琴の方に向け両手で毬を受け取ると足の上に抱え少し俯き上目で依琴の方を見た。


依琴は説得の為に少女との会話を試みるが依琴のいう事は理解してくれるが少女の答えが「ナー」のアクセント、声の高低で埒が明かず考えた結果「はい=ナー」「いいえ・分からない=返事無し」と試してみると会話が出来る様になって来た。


・・・・・・


「それじゃお寺には帰りたくないの?」


「ナー」


「何処か行きたい所があるの?」


「・・・・」


「私と一緒に行きたいの?」


「ナー」


「もしかして炎灯に付いて行けとか言わた?」


「ナーナーナーナー」


そうですとばかりに連呼すると依琴は指で眼鏡を押すと頭を掻きながら


「あの黒鬼はなんて事をしてくれるんだ・・」


「ナーナー」


少女は依琴に同意したかの様に笑顔で返事をした。



結局、少女を陽光寺で引き取る事になり依琴は各方面に連絡を入れていた。


車内販売が車両に現れ夢で見たせいか無性にアイスが食べたくなってしまった依琴が適当にアイスを選び棒の持ち手を掴むと少女が首を振りながら低い声で「ナー」と言い座席に立ち上がると依琴の腕を掴み違うアイスの持ち手を掴ませた。


「これがいいのか?」


「ナー」


少女は販売員には見えず怪しい仕草をした依琴だったが、縦に首を振り自信満々の少女に依琴はそのアイスを購入すると販売員が笑顔で。


「お客様、そのアイスは当たり付きなので良かったら包装の内側の黒い部分をご確認して下さい」


依琴は「当たり付きなのか・・」と包装を開け内側の黒い部分を見るとそこには「当り」の文字があり結局2本のアイスを手に入れ1本を少女に渡し相手は違うが夢で見た様に2人で食べたる事にした。


「美味しいか?」


「ナー」


少女は毬を腕で抱き床に届かない足を揺らしながら笑顔でアイスを食べた。


「やはりこの子は座敷童なのか?アイス当たったし・・」



後日、この話を紅麗にすると「それで、パチンコの勢いが止まらないのか・・フフフ・・今月20万の黒字だぞ20万・・フフフ」とガッツポーズをしながら怪しげな笑みを浮かべ止まる気配を見せなかった。


注)この少女の詳細は本編にて書こうと思っています・・

まさか、まだ設定とか決まっていないんじゃないか?って言われましたが

ちゃんと設定はあります・・座敷童である事には間違いないですが・・(By肉まん)

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