第3話~閉じ込められた童と黒鬼2~
ご機嫌斜めだった昨日とは変わって今日は雲一つ無くお日様が「密室で筋トレをしています」と言わんばかりにとても蒸し暑い日だった。
依琴はホテルの部屋でエアコンと言う名の贅沢品から出てくる冷たい風を浴びながらため息をついていた。
「何で家にはエアコンが無いのかなぁ・・体に悪いとか風邪ひくとか言うけど・・どう考えてもこの暑さの方が体に悪いと思うけど・・」
依琴の住む陽光寺には1台数万円もする最新の扇風機が何台もあり、室温センサー、赤外線センサー、空気清浄機機能、128段階風量調整、音声認識機能、リモコン付きと、もはや「エアコン買おうよ」と言いたくなる様な代物が使われていた、それでも唯一救いだったのは陽光寺が標高300mの山の上にあり街中よりかは少しは涼しかった・・ただそれだけだった。
依琴は涼しい天国の部屋で熊田から届いた若手議員の資料を順番に見ていた。
1人目は「
2人目「
2人の共通点は同じ大学の先輩後輩と言う関係でそれ以外は特にA県生まれと大雑把な共通点しか見当たらなかった。
「もしこの2人が事件とは関係無かったら・・」
依琴はもう一度被害者の資料に目を通した。
朝からこの事件に妖が関わっているとしたらと考えたが答えがでず昼時を迎えてしまった。
「やっぱり犯行現場に行くしかないか・・ここから出たくない・・でもお腹が空いて来た・・」
窓の外が暑さで陽炎の様に揺れる風景を見ながら依琴はお腹に手を当て呟くとスーツケースを開け昨日とは違いスカートを取り出し着替え始めた。
白のタンクトップにチェック柄スカートそして昨日腰に巻いていたオレンジ色のカーディガンをタンクトップの上に着ると昨日とは違ったお出かけ用のピンクの斜めがけショルダーバックを肩からかけ「よし、揚げ物」と言いながら部屋を出た。
ホテルから出ると朝からビルドアップしているお日様がジリジリと地面を焼き、その照り返しで地面の上にゆらゆらと何かが踊っていた。
依琴は意を決すると歩きだし今日はタクシーを使わず「天国に一番近い食堂」に向かった。
食堂は昼時という事もあり混んでいたが、依琴は気にせず入店すると食券3枚を買い幸いにもカウンターに席を見つけるとそこに座り食券をそっと置いて店員を待った。
厨房は忙しく依琴が来た事に気が付いていなかった、少しして昨日とは違う店員が来ると水を置き食券を見て何度か確認するとこれを頼んだであろう少女を見ながら。
「カキフライ定食ご飯大盛、カレイのから揚げ単品でー」
厨房の店長を含め店員が注文を繰り返すと店長の手が止まり、注文が聞こえた方に振り返り依琴を見つけると一瞬顔が引きつるが何も見なかった事にして調理を再開した。
依琴はスマホを操作しながら少しすると「お待ちどうさま、昨日はどうも」とカウンター越しに店長直々に皿を差し出し依琴はスマホを置きその手で皿を受け取りながら。
「昨日はありがとうございました、あれから2時間程ランニングしてから食べたんですが冷めても美味しかったです」
「お、おう、そうか、それは良かった」
店長は鼻を掻きながら厨房に戻って行くと次の注文を作り始めた。
依琴は眼鏡を置き立てられた筒にこれでもかと刺さっている割り箸を取ると今日はゆっくりと時間をかけ「何て幸せな時間なんだ、やっぱりここは天国♪」と思いながら味わって食べた。
1件目の待ち合わせ場所に着くと熊田が先に到着していた。
「おう、来たかって・・その恰好でって・・まぁーいいや」
そう言うと選挙事務所であっただろう誰もいないプレハブに案内した。
熊田がカギを開けドアを開けると依琴は迷う事も無く部屋に入ると長い間締め切られていた部屋の淀んだ空気が鼻をついた。
依琴が目を細めゆっくりと部屋を見渡していると熊田が部屋に入って来て。
「どうだい、何かありそうか?」
「
「ようし?」
「あぁそうか、妖視は妖が残した妖力の残留とか妖自体を見る事が出来て・・何ていうか妖を色々な色で見えるんです・・あまり遠くまで見えませんが普通に」
「なるほどねー見えるんだ、そりゃすげー」
熊田のまだ信じられない返事をスルーすると依琴は部屋の中央に移動して。
「今から術を使うのでそこから動かないでください」
依琴はバックから取り出した小さな銀色の破片を広げた右手に乗せると前に上げ左手で右手の手首を掴むと目を瞑り
「
手に乗せた破片がマジックの様に少量の煙に変わると依琴の広げた手からソナーセンサーの様に何かが広がると少しして依琴は目を開け熊田の方へ向くと
「ここには何も無いか、あったとしても時間が経ちすぎて反応が出ないか・・です」
「それなら、一番新しい現場ならどうだ?」
熊田は閃いたかの様に言うと依琴を車に乗せ一番新しい現場に向かった。
現場となった場所は最初の現場から40分程移動した、片側2車線の国道に面した3階建ての建物で5,6台は止められそうな広い駐車場があり、事件からまだ日が経っていないせいか新しい立入禁止のテープが貼られ駐車場と玄関に警官の姿が見られた。
駐車場の警官が車に乗る熊田を確認し駐車場に車を通すと出て来た熊田に敬礼をしながら挨拶すると今度は依琴の方に同じく敬礼をしながら挨拶するがその目が依琴の服装を上から下へと泳いでいた。
「あぁー気にするな、あいつらからすれば今風のお出掛け姿の警官は存在しないからな」
熊田は少し笑い玄関に移動しながら依琴に言うと
「一応、妖降士の正装も持ってきていますが、平安時代の狩着みたいで目立つし捜査の時は着ません」
熊田は平安時代の狩着を着た依琴を連れて歩く自分の姿を思い浮かべると
「確かに狩着はねぇーな」
「ですよね、まだ道着の方がましですよ」
熊田と依琴が玄関の警察に挨拶をし、家に入りドアを閉めるとスリッパに履き替えながら。
「道着?護身術か何かやっているのか?」
「護身というか分かりやすく言うと空手みたいな物で、対妖用の
すました眼鏡顔で言う依琴に熊田は駐車場の警官が依琴を見た様に見ると。
「世の中には見た目じゃ判断つかないって言うけど、あんたがここに来てから面食らう事が多くてな・・」
「今まで行った所の県警の担当さんも熊田さんみたいに同じ事を言っていました、あ、そうだ先に言っておきます」
依琴は指で眼鏡を押し目を細めると
「もし、妖が出ても決して相手にしないで逃げて下さい、怪我で済まない事になるかもしれないので」
「あぁ、そうするよ」
熊田は背筋に冷たい物を感じていると
「この事件には妖か邪術を使う者が関わっていると思われます」
「え?」
「今ここに入る時に感じました、この家を監視している何かの目が私達を見ていました」
「監視している目って?」
「何かは分かりませんが、式神の様な物だと思います」
熊田は慌てて振り返ると変哲もないドアがあり、遠くで鳴いているカラスの鳴き声が聞こえた。
捜査資料では被害者がいくつかの部屋を逃げ周り応接間で加害者に捕まり首を半分の太さにまで握りつぶされ絶命したと書かれていてその時に被害者が抵抗しただろう痕跡があった。
依琴は各部屋を周り妖探波の様な術は使わず妖視だけを使いある痕跡を見つけたがこの場で熊田には報告をしなかった。
ビルドアップが終わり「これから冷却に入ります」とばかりに水平線の彼方に沈む夕日の中ホテルに戻ると熊田を入口に残し依琴は急いでスーツケースから呪符の束を取り出すと部屋の出入り口と四方の壁に貼ると
「熊田さん、今から念の為に結界を張るので・・もう遅いかもしれませんが」
「遅いって?」
「相手に式神を使える術者がいるのであれば、私の正体もバレてる可能性が・・麻薙流 結界術」
依琴が部屋の中央に呪符を張り付け術をかけ終わると
「これで盗聴される事はないと思います」
「盗聴ってどこにそんな装置が?」
周りを探る様に見渡す熊田を見ながら
「熊田さん、これがアリバイのある犯罪のやり方です、昨日の夜にこのホテルを中心に3重の結界符を配置していたので何かあれば反応があると思いますが」
依琴の話に熊田がポカーンとしていると
「熊田さん貴方も・・・・熊田さん?」
「あぁー済まない、余りにも急だったもので」
依琴は熊田を椅子に座らせると冷蔵庫から冷たい飲み物を出し、その後スーツケースから表に可愛い女の子が印刷され裏には小さな護符が入ったアクリルキーホルダーを取り出すと机に置いた。
「家の
「餓鬼程度が寄り付けなくなるって・・」
「既に熊田さんも相手の標的になっている可能性もありますので」
依琴は結界を張ってから変化が無い事を確認すると
「誰かに聞かれたら困るので現場では話さなかったですが、現場にごく微量ですたが妖力の痕跡がありました、多分喉を潰された時に被害者が抵抗して引っ張り抜いた体毛です」
依琴はポケットからその体毛を取り出し無造作に机に置くと熊田は顔を近づけ体毛を左右から見ると。
「普通の毛にしか見えないが」
「普通の毛ですが妖視で見ると根本に妖力の色が見えるんです、この体毛はまだ妖として生きているんです」
生きていると言われ熊田が顔を慌てて離すと依琴は体毛を手に取り眺めながら
「この体毛の持ち主を考えていたんですが被害者をあんな風にできる力が強くてこの体毛を生やしている妖は・・」
「妖は?」
「体毛の色から獣系の妖では無いと思います、該当する妖は鬼か海が近いので海坊主あたりか・・ただ不思議な事が・・色が変なんです」
「い、色が変?」
「殺意のある色では無いんです」
そう言われた熊田はあり得ないとばかりに
「よ、4人も殺しているのに殺意が無いって、それじゃたまたま立候補者を殺したって言うのか?」
「操られているか、使われているか・・それとも別の何か?」
依琴もどの線もしっくりこないでいると熊田が依琴の意味不明な発言にイライラしながら
「私には見えないし未だに信じる事が出来ない、この事件は本当に妖の仕業なのか?」
依琴は眼鏡を指で押し細い目で熊田を見ると
「ほぼ鬼で間違いないと思います」
「どうして断言できるんだ」
熊田は思わず大きな声を出すと
「家にもいるんですよ、同じ毛状で同じ色をした
「お、鬼がいるって・・い、いるのか?」
熊田は熱くなった頭が一瞬で冷えた。
「元人間で料理人、今は妖になっているが家の料理長をしている、妖になった詳しい事は知りませんが料理を作り美味いと言わせる事を生甲斐にしています、庵角の作る料理は絶品ですよ」
依琴は嬉しそうに言うと熊田は窓から日が沈み薄っすら明るい地平線を見ながら「もはや俺の常識は通じないのか・・」そう呟くと
「私も妖降士になり母親から話を聞くまで庵角が鬼だって知らなかったし舞ちゃんなんて姉妹だと思って育ちました・・余りにも成長の差が出てきて小学生辺りであれって思ったんですよ・・この先いつになるか分かりませんが人間と妖とが一緒に暮らす日が来るんです、このA県にもいつか住民票を持った妖が現れるかわかりません」
「住民票を持った妖か・・」
「だから私は庵角や舞ちゃんが陽光寺限定で暮らすのでは無く、どこにでも自由に行ける世界を作る為に、そしてそれを邪魔する妖や術士を何とかしたいんです・・偉そうな事を言いましたけどそれが私の願いです」
依琴は机のキーホルダーを取り女の子が印刷された面を見た後に熊田に渡すと熊田は印刷された女の子を見ていると
「その子が舞ちゃん、名前は舞風で天狗の子です」
「こんな小っちゃい子が寺から出られないでいるのか」
熊田は護符キーホルダーをポケットにしまうと目頭を押さえ始めた。
「もしかして・・熊田さんにもお子さんが?」
「いや、そんなんいねぇーよ、あんたの話聞いていて、何か・・何て言うか刑事になった頃を思い出しちまって・・市民を守り過ごしやすい街作りを何て思っていたけど・・現実は違ったノルマに追われ事件性が有ろうが無かろうが捜査して市民に不利益でも軽犯罪を検挙して、今度は俺にはどうしよも無い解決不可能な事件まで押し付けられてどうしようかと・・最近は早く定年が来ないかって思うただのおっさんになっていた」
依琴には熊田の気持ちが分からなかったが
「仕事を遂行したって事なら立派な刑事じゃないですか、解決不可能な事件?それなら私を手伝って下さい、知らない土地に来て私の知らない事や足りない事が沢山あります、それを補って下さい、そうすれば事件も解決出来ると思います」
依琴が特別な事が出来るだけの高校生と思っていた熊田は自分に呆れ鎮火したはずの何かがまた息を吹き返した気がすると立ち上がり。
「ちくしょう・・妖とか馬鹿にしていた奴らめ、この事件を解決して見返してやる・・麻薙さん、足は俺に任せろ何処でも連れてってやるから・・それでどこから攻めるんだ?」
依琴は良く分からない所に火が付いた熊田を見ながら
「まずは・・」
「まずは?」
「お腹が空いたから・・天国に一番近い食堂に」
「え?」
「この時間だとまだ妖が活動する時間ではないので、活動を始める前にこちらのエネルギーの補給をしないと・・それに結界を張ってから近づいてくる様子もないし、こっちが外にいれば何かが釣れるかもしれない」
熊田が唖然としていると依琴はスマホを見ながら「閉店まで時間は十分ある」と呟き眼鏡を指で押すと熊田の背を押し部屋を後にした。
依琴と熊田が食堂に着くとすれ違いで店長が出て来て
「お、おう、お嬢ちゃんまた来てくれたのか、ゆっくりしていってな」
そう言うと苦笑いをし小走りで電気が疎らのシャッター街に向かって行った。
「麻薙さん、ここよく来るのか?」
「ほぼ、毎食」
食券販売機で熊田はミックスフライ定食を購入し依琴は昨日から悩んでいた地鶏のから揚げ定食、ご飯大盛、そしていつものカレイのから揚げ単品を選ぶと食券を熊田に渡し
「熊田さん食券をお願いします、ちょっと待っていて下さい、直ぐに戻りますから」
依琴はそう言うと食堂を出て店長の向かったシャッター街に向かった。
少し歩くと電灯の電気が続けて切れているシャッターの前に車内の灯りを点けたままの高級な黒い車が止まっていた。
依琴は車の横を歩きざまに横目で車内を見ると後部座席は黒いフィルムで見えなかったが運転席と助手席に男が座っていて助手席の男が後部座席の方を向いて何か話をしていた。
依琴が完全に車を通り過ぎようとした時に聞き覚えのある声が聞こえて来た
「あんたも強情なやつだな、これだけ払うって言っているだろう」
「だから、あそこは誰にも譲らねぇし移転もしない」
「他の店は早々に出て行ったのにあんたのお陰でここに出来る総合デパートの話も止まっちまっているんだ」
「出て行った?追い出したの間違いじゃないか?みんなが口を揃えて言っていたぜ、こうやって車に乗せて脅されたって」
「何だと!」
助手席の男が後部座席にいる店長だろう人に掴みかかろうと身を乗り出した
「すいません天国に一番近い食堂の店長さん乗っています?お店の客が店長の料理を待っていて困っているんですが?」
依琴は車の窓を指で叩き大きめの声で言うと突然ガラス越しに現れた女に運転席の男が車を降りて来て依琴の前に来ると
「誰じゃお前は?」
「誰って・・天国に一番近い食堂の多分常連さん?私はそう思っていますけど」
「常連だと、店長は今忙しいから後にしてくれ」
お琴は男の返事に店長がいるのを確認すると
「いや、店長の作った料理を食べに来たので、もうお金を払っちゃったので急いで作ってもらわないと」
依琴が笑顔で言うと助手席の男が気付いた様で車から出て来ると。
「何だお前は」
「だ~か~ら~わ~た~し~は~」
依琴は同じ質問に「またですか?」とばかりに答えると
「何だこの変なガキは?」
助手席の男が言ったところで後部座席で騒ぐ声がするとドアが開き店長が転がり出て来た。
「お嬢ちゃん、駄目だこいつらは、グフッ」
店長が何かを言おうとした時に助手席の男が店長の腹に蹴りを入れ黙らせると。
「店長の知り合いか?お嬢ちゃん」
依琴から笑顔と言う文字が消え細い目で男を見ると
「暴行・・」
「あー何だって?」
「聞こえないか?暴行だと言っている」
「暴行?可愛がってやっているんだよ、それより俺たちと遊びに行かない?可愛がってやるぜ」
「断る」
「そんな事言わねーで付き合えよ」
男はそう言うと店長の腹に2度目の蹴りを入れ振り向き依琴の肩に手を触れた。
「人間のクズが」
依琴はそう言うと男の手の甲を片手で掴むと下に下げながら自分の手首を勢いよく上げ、そしてその手を離すと男の手首があり得ない程下を向きプラプラしていた。
「ぎゃー手首が手首が」
「麻薙流 殺手術
一瞬何が起きたか分からなかった運転席の男と後部座席にいた男が降りて来て騒ぐ仲間に近づくと助手席の男は折れた手を押さえながら。
「や、やっちまえ」
言われた男2人が依琴に向かうと依琴は小さな呼吸を1回すると肩幅に足を開き拳を握った右手を脇腹に添え左腕を曲げ左手を拝む様に顎の前に出し型を取ると静止した。
「麻薙流
男達は怯む事も無く依琴に拳を振り上げると先に来る助手席の男の拳を左手で流しながら足を掛け転ばすと掛けた足を後ろに下げ地面を踏み込み、もう一人の向かって来る拳に足から拳までを直線にした右拳を当てた。
「麻薙流 殺手術
「グ、グオォー」
男は拳から肩に掛けて徐々に痛みが走り悲鳴を上げ地面に倒れ拳を抱え動かなくなると、先に転ばされた男が立ち上り依琴に向かおうとするが地面に倒れた仲間を見つけると
「お、お前何もんだ」
「もう面倒臭いなぁ・・えーと・・警視庁 刑事部 妖対策捜査 第二課 所属 陽光寺 麻薙依琴」
依琴はバッグから可愛い手帳を取り出し手帳を見ながらそう答えた。
「け、警視庁・・」
「そうだ、天下の警視庁様だ、A県警とは訳が違うぞ」
依琴の後ろから走って来た熊田が男の前に立ち自分の手帳を見せながら言うと、男は諦め床に座り込んでしまった。
「怪我した2人を連れてこの場から立ち去れば見逃してやる、もしやるなら暴行が2件、車両通行止め違反でしょっぴく、いいな」
男は頷くと怪我をした仲間を車に乗せその場から逃げる様に去って行った。
店長の話によると数年前からこの商店街にあいつらが現れ地上げ行為を力づくでやり始め、最初は反対派が多くいたが1件また1件といなくなり現状のシャッター街になってしまった。
噂では持ち主の足元を掴んで脅したり、商店街の治安を乱したりと嫌がらせを行っていた。
食堂に戻ると何事も無かった様に店長は調理を始めた。
俯いた依琴と熊田はテーブル席に座り注文を待っていると
「しかし凄いな、麻薙流なんちゃらってのは」
「すいません、少し熱くなりました」
「いいんだよ、あんなのを野放しにしている我々にも責任があるし、いいお灸だ」
「報告書みたいのはあるんですよね」
「報告書?」
「さっきの件のです・・」
「あぁ?さっきの件の報告書ね・・」
「やっぱり・・はぁ~」
熊田はがっかりする依琴を見ると店長を呼び
「店長、さっき暴行されましたよね?」
「そんな、暴行だなんて大げさな」
店長が誤魔化そうと手を振ると
「暴行されていましたよね、それでたまたま通りかかった正義感溢れる空手少女に助けられた、そうですね?」
店長は熊田が依琴を無言で指さす仕草を見ると
「あぁ、あーそうです、蹴り2発受けて倒れていたところを助けてもらいました」
「目撃者の俺も同じ事を見たんで、報告書もこれでOKだな」
依琴が熊田と店長のやり取りを聞いてズレたままの眼鏡顔を上げると小さな声で「ありがとう」と言うと丁度料理が運ばれて来て。
「今日は俺のおごりだから気にせず食べてくれ」
「お、店長太っ腹だね」
「ごちそうになってしまって・・」
「お嬢ちゃん、そんな顔しないでいつもの美味そうな顔をしながら食べてくれ」
依琴は出来る限りの美味しそうな顔で出された食事をゆっくり食べ始め、そして完食をした。
依琴が食べ物を前にしてもこんな調子には理由があった、どんな理由があるとしても一般人への殺手術の使用は禁止されていて、使用を紅麗にバレると修行と言う名の
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