第2話~閉じ込められた童と黒鬼1~

時代は流れ2XXX年の夏


この年の夏は例年に比べ平均気温が5度も低く日照時間も過去最低の記録を塗り変える勢いであった。


日照時間が減り気温の上昇が少ないとは言え温暖化が進んだ地球の日本では夏は蒸し暑くその月の平均気温は30度を超えていた。



「よりによってまた夏休みなの、人手が足りないとは言え長期休みの度に地方に回される私の身にもなって欲しい・・皆と海行きたかった・・スイカ割りしたかった・・氷割りもやりたかった・・まぁ美味しい物食べれるからいいか・・」


北へ向かう新幹線の窓から永遠と続く曇り空を遠くに眺め窓枠に肘をつき顎を手に乗せ少女は窓に映る縁なし眼鏡が少しずれた澄まし顔の自分に愚痴っていた。


少女はジーパンに白いTシャツ姿に薄いオレンジ色のカーディガンを腰に巻き旅行サイズの大きなピンク色のショルダーバッグを掛け、ミディアムの黒髪をゆるふわヘアーにして細い目に縁無し(ツーポイント、オーバルレンズ)の眼鏡をかけていた。


最寄りの駅のアナウンスが流れると少女は眼鏡を指で押し上げ立ち上がると棚からショルダーバッグと同じ色の小さいスーツケースを取り出し降り口のドア前に移動すると窓から見える雲間から微かな夕日を見ながら電車の停止を待っていた。



少女が着いた場所は海に面したA県の県庁もあるB市の駅で1階が電車のホームで2階が改札口となっていて帰宅時間と重なり多くの人が行き交っていた。


少女が電車を降りて2階にある改札を出たところでショルダーバッグからレトロなゲーム音と共に「タイガーバズーカじゃ」を数回繰り返すとその後「電話に出ないとごーっついタイガーバズーカじゃ」と男の声が聞こえだした。


駅の改札周辺にいた人は一斉に音の方を向くが少女は気にした様子も無くバッグからスマホを取り出し電話に出た。


「あ、かーさん、うん今着いたけど・・迎えが来ている?あっそう分かった・・着いたら電話する」


少女が電話を切ると周りの人が自分を注目しているのに気づくと、「何でこっちを見ているの?私に何か付いている?」と少女が自分の服装を確認していると1人また1人と何事も無かった様に元の目線に戻し元の行動の続きを始めた。



少女が待ち合わせ場所の観光案内所に隣接している待合室に着くと観光で来ただろう荷物を持った人がスマホ片手に何人か座っていた。少女は空いている椅子に腰かけ先人達と同じ様にスマホでA県の観光では無くグルメスポットを探していると地鶏を使った料理を見ながら「食べる時間あるかな?舞ちゃんのお土産も買って行かないと」などと考えていた。


麻薙あさなぎ依琴いことさんですか?」


名前を呼ばれた少女が顔を上げると茶色のスーツ姿で年齢50歳位の中肉中背の少し毛の薄いおじさんが立っていた。


「そうですが・・あ、もしかしてA県警の・・」


「あ、そうそう、えー、A県観光協会の熊田くまだです、よろしく、お母さんの麻薙あさなぎ紅麗あかりさんからは話を伺っているので用意した車で案内します」


警察とばれたくなかったのか熊田は油汗を掻きながら依琴の言葉に被る様に少しテンション高めの声を出した。


依琴は見知らぬ地で熊田と名乗った初めて会う男が母親の名前を知っているので、多分待ち合わせている人がこの人で間違いないだろうと眼鏡を直すと席を立ち荷物を手に取った。


妖対策捜査課の任務では行った先の県警に協力を依頼するが、いつも知らない人と待ち合わせると言った意味不明な行動から始まる事が依琴には気に入らなかった。


「それが例え調査情報の漏洩防止だとしても」


駅の長い通路を歩いているとすれ違う人の目が気になった、2人がどう見ても家出した少女を連れたおじさんにしか見えなかったからである。


階段を降り少し歩いたところにハザードランプを付けた黒い1BOX車が止まっていて、熊田はその横で止まるとサイドドアをスライドさせ依琴に乗るように促すと依琴は荷物を先に乗せ自分が乗り込もうとした時だった。


「あーちょっとそこの人、ちょっといいですか?」


声をかけて来たのは2人の若い警官だった。


「何かありました?近くで事件ですか?」


熊田がそう言うと警官の1人が少し離れ無線を使って話始め、もう1人の警官が依琴と熊田を順番に見ながら。


「お嬢さんですか?」


「いいや、今日初めて会った」


熊田が警官の質問に事実を語ったが警官にはそうは聞こえなかった。


「初めて会ったと言うのはどういうことですか?ちょっと身分証を見せてもらえませんか?」


そして衝撃だったのが無線で話をしている警官だった。


「こちら〇〇、通報のあった男と若い女を確保、ただいま△△が職質中・・・」


それを聞いた熊田は「まさか刑事の俺が通報され職質に会うなんて」そう思っていると


「あの~熊田さんこれって役に立ちます?」


乗りかけた車から降り依琴がバッグから可愛い手帳を取り出し熊田に見せた。


そこには顔写真と「警視庁 刑事部 妖対策捜査あやかしたいさくそうさ第2課 所属 陽光寺ようこうじ 麻薙依琴」と書かれ可愛い手帳カバーを外せばちゃんとした警察手帳であった。


「ほぉーそんな物まで支給されているんだ」


「これが無いと現場から追い出されてしまうので」


熊田がまじまじと手帳を見ていると若い警察官が「ちょっといいですか」そう言い可愛い手帳を依琴から受け取ると手帳を開いた数秒後に段々と顔が青ざめて行くと、無線が終わった警官が戻り可愛い手帳を見ながら固まっている同僚を見ながら


「どうした△△?不審な点でも・・」


「ほれ、身分証明書だ、時間が無いから早めにしてくれるか?」


熊田は時計を見ながら自分の警察手帳を戻って来た警察官に見せた。


数分後、2人の若い警官は無事に1BOXが発進出来るように誘導員となり車が見えなくなるまで敬礼をして見送ってくれた。



去年4月に新法と法改正と共に新しく発足した 警視庁 刑事部 妖対策捜査課。

事件の調査を警察が行った後に人外が関わっているだろうと判断された事件の解決を行う。


現在、警視庁、大阪、名古屋、京都、福岡、北海道の6か所に課が存在していて、なぜか警視庁にだけに2課が存在していた。



警視庁 刑事部 妖対策捜査第2課の課長は麻薙紅麗で課は地下にある元物置が使われ部屋には課長専用の机椅子PCの1セットだけが置かれ所属は現職の紅麗と民間人で娘の依琴の2名だけが席を置いていた。


依琴は非常勤とされ普段は高校に通い事件があれば紅麗から指示がありS県にある陽光寺から直接行動をしている。


管轄は東北、要請があれば関東全域



一方、第1課は課長に現職で陰陽師の備瀬びせ栄嗣ひでつぐで二課の3倍はあるだろう部屋に民間からの募集で備瀬が採用した5名の計6名が在籍していた。


管轄は関東全域



依琴は日本海が見えるホテルの一室に案内された。


「ここのオーナーは元俺の部下だから気にせず使ってくれ、明日の朝に資料を持ってくるから事件の話はその時で、俺は戻ってやる事があるから今日は帰るから何かあればここに電話でもメールでもしてくれ」


熊田はそう言うと名刺を依琴に渡し出て行った。



部屋に1人残された依琴が時計を見ると後数分で19時になるところだった。


「あ、電話しないと」とスマホを取り出しベッドに寝転がると眼鏡を棚に置き実家である陽光寺に電話を掛けた。


数回の呼び出し音の後にドスの利いた男が電話に出た。


「はい、こちら安全・安産祈願から各種お祓い、怪奇現象に至るまで承っている「陽光寺」貴方の担当の「庵角あんかく」です、お客様のご用件を伺います・・・・・・お客様?どうかなさいました?」


「依琴だけど、かーさん帰っている?」


「なんだ依琴さんか、てっきりお客さんかと思った、ちょっと待って下さい・・紅麗あかりさーん依琴さんから電話ですよー」


電話口から離れても聞こえる低い声にため息をつきながら待つと受話器を取る音と共に


「無事着いたかい」


「うん、明日こっちの担当と事件の打合せする」


「捜査資料はこっちでも見たけどあの死体の状況なら妖が関わっていてもおかしくないね」


「そんな資料を私は見てないけど・・あったなら出掛ける前に・・」


そんな話をしていると電話の向こうから電話を邪魔する子供の声が聞こえてきた。


「ねーねーあかりーだーれーと話しをしているの?ママだったら変わってー変わってー」


「今依琴と大事な話をしてるからって足に纏わりつくなーまいかぜーちょっと分かった分かった変わるからー」


少しすると子供の息遣いが聞こえ


「あーあーママ?紅麗から代わったー舞風まいかぜだよー聞いてる?」


「はいはい、聞いている」


「ママいつ帰ってくるの?今何してるの?・・・」


と親の帰りを待つ子供の質問攻めが数分続き


「じゃー舞はお風呂に行ってきまーす、はい、あかりーでんわー」


と一方的に舞風の話を聞かされ、その後依琴と紅麗は業務連絡を済ますと


「また明日~、あ、そうだ庵角が電話を取るのは止めておいた方がいいと思うよ」

と紅麗の返答を待たずに電話を切った。



依琴は身を起こすとベッドから足を垂らしながら座り眼鏡を掛けるとスマホを操作して熊田に会う前にお気に入りに登録していたグルメサイトを呼び出すと、お腹が「もう我慢ならん」と訴え始めた。


「お腹すいたな・・朝昼少なかったからなぁ・・ここから近いところで・・ん?こ、これは・・」


依琴はとあるお店の広告を見つめ更に営業時間を調べた。


「20:30閉店、まだ19;30・・間に合う」


依琴はバッグを肩に掛けると急いでその店に向かった。


ホテルからタクシーで10分程の目的の店に着くとそこは昔からある商店街にありまだ20時前だと言うのに殆どの店がシャッターを閉め、この店の店上の看板に「誰もが満足!天国に一番近い食堂」と書かれていた看板だけが輝いていた、そして「もう我慢ならん」と訴えるお腹に「待っていろ今から・・」と言い聞かせながら入店すると食券販売機を見つけ迷う事も無く向かいそこで一番派手にデコレートされたボタンの食券を購入した。


依琴はテーブルではなくカウンターの端に座り静かに食券を置いて店員を待った。

店員が水を持って現れると食券を見てしばらく固まり我に戻ると依琴を見ながら。

「ほ、本当にこの注文でいいのですか?」


依琴はこのお店のイベント画面が出ているスマホを店員に見せると。


「30分で食べたらお代はただで、更に5千円貰えるんですよね?」


店員が無言で頷くと「じゃーお願いします」と依琴は置かれたコップを手に取り冷えた水を飲みながらすまし顔でいると店員が


「オ、オーダー入ります・・フ、フル盛り30分コース一丁!」


注文名を聞いた店内の店員、お客からからどよめきが起きた。


そして19時55分に3人がかりで運ばれて来たこの店自慢の揚げ物全品とこれでもかと超大盛ご飯ともうどうでもいいだろう普通サイズの味噌汁がカウンターに置かれた。


注文した全品が並ぶとカウンター越しから店長と書かれたネームを付けた人物が時間を計る時計を差し出し


「制限時間は30分、食べ残しは持ち帰りできるから安心しなお嬢ちゃん・・ではスタートだ」


どちらかと言うと痩せている依琴をあざ笑う様に男が時計のスイッチを入れるとカウントダウンが始まり、それを確認した依琴は眼鏡を外し横に置くと何度か深呼吸をすると「麻薙流あさなぎりゅう大飲食術だいいんしょくじゅつ」と呟き戦闘モードに入った。


流石自慢の揚げ物と味わいながら食べ始め10分が経ったところでその場にいた全員が残っている揚げ物の量に「こりゃー無理、間に合わない」と思ったところから急にペースが上がり始め20分を過ぎてもペースが落ちるどころか上がる一方、徐々に青ざめていく店長の顔。


残り5分に来たところで「もうどうでもいいだろう普通サイズの味噌汁」を残し皿にあった揚げ物を食べ切ってしまい依琴はそこで箸を止めるとコップの水で口の中の物を流し込むと目の前で青ざめる店長に笑顔で。


「店長さん、ここの揚げ物最高です、滅茶苦茶美味しいのでカキフライとこの辺にあった白身のから揚げってテイクアウトで頼めます?」


依琴は箸で皿の上でこの辺と円を描いて言うと我に帰った店長は


「カレイのから揚げとカキフライの単品だな・・」


依琴の食べっぷりとここの揚げ物最高ですと褒められ店長は気を良くしたのか振り向くと調理を始め、依琴は冷めて残った味噌汁をゆっくり飲み干し制限時間2分を残し完食を果たすとそれを見ていたお客から拍手が起きた。



帰りに食事代と賞金を貰いそこからテイクアウト分のお金を出そうとすると店長が


「代金はいらねぇーから持って行きな」


「賞金までもらってそれは悪いですから」


依琴がそう言うと店長は少し恥ずかしそうに鼻を掻きながら


「美味そうに食べるお嬢ちゃんのあんな笑顔で揚げ物最高です、滅茶苦茶美味しいですなんて言われたら・・自慢の揚げ物をもっと食わせてやりたくなった、ただそれだけだ」


店長に強引に店を追い出された依琴は膨れたお腹を摩りながら「誰もが満足!天国に一番近い食堂」と書かれた看板を細い目で見上げ「看板に偽りなし!」そう言うとホテルまで走りながら帰り部屋でジャージに着替え2時間程海岸沿いの道をランニングしホテルに帰るとお腹が「小腹が空いた」と騒ぎ出しテイクアウトしてきたカレイのから揚げとカキフライを完食し睡眠についた。


注)麻薙流大飲食術はただの自己暗示であり間違っても沢山食べれる術を使用した訳ではありません。



翌日、熊田はカバンが破けるくらいの書類を詰め込んで現れた。


「これがここ1か月で起きた事件の資料だ、今まで起きた事件と違って俺らには到底理解出来ない事ばかりでお手上げだ」


事件の内容はこうだった、最初に殺されたのが現職議員のT氏、遅くまで事務所で仕事をしていたところを鈍器の様な物で後頭部を殴られ死亡していた。話だけを聞けばただの殺人事件に聞こえるが違ったのは鈍器で殴られた頭の外傷にあった、後頭部から入った鈍器が前頭部にまでめり込む様に達していて人の力ではどうやってもこの外傷を作るには無理があった。


2件目の事件は元議員で頭ではなかったが同じ様に鈍器で体中を滅多撃ちにされ、まるで焼く前のハンバーグのたねを床に叩きつけた様に死亡していた。


3件目の事件を聞いた時に依琴が眼鏡を指で押し上げながら


「熊田さん、被害者が何で現職又は元議員の人なんですか?」


「そうなんだ、残りの1件の被害者も元議員で被害者の共通点と言えば今度の選挙に出馬表明していたくらいで、党も違うし年齢もバラバラ過去の履歴も共通点は見当たらない・・我々もここまでは辿り着いたんだがそれ以上の調査が進まなくて、この事件があって今度のB市の選挙は呪われているとかネットやテレビで騒がれるし出馬を表明していた2名の議員も取り止める始末だ」


依琴は資料を見ながら「得をする人」「損をする人」を考えていた。


「熊田さん、もしこの4人が生きていて、予定通りに選挙が行われたら結果はどうです?」


「現職のT氏は当選確実で、残りの定数の2を出馬取り止めした議員も含め出馬表明していた5名で争うわけだけど、被害者の3人の中から2名がほぼ当選すると思う・・あくまで俺の意見だけど」


「競争相手の4人がいなくなって得をする人は・・そうすると出馬を取り止めた2人の議員が怪しいと」


「我々もその線は調べたけど2人共ここ数年で頭角を現してきた若手の議員でアリバイもあって・・」


依琴は眼鏡を直し細い目で熊田を見ると


「熊田さん、アリバイって言うのは法律で裁ける事であって、私達の世界では法で裁けないアリバイが存在するんです、例えば家にいながら呪い殺すとか妖に殺させるとか」


「ははは、まさか呪い殺すとか最近噂に聞く妖の仕業だなんて」


依琴の鋭い視線と信じられない話に熊田は頭を掻きながら言うと


「呪いなら対象の一部が必要です、もし手に入ったとしても呪術を操れる人がいなければ不可能、妖の線はよっぽどの事がなければ人間の命令は聞かない、私たち妖降士ようこうしでも力を借りる事は出来ても妖を操る事ははっきり言って不可能です」


「やっぱり妖っているのかね?警視庁や大阪・京都府警にも妖対策捜査課が出来ているからいるんだと思うけど、ここは田舎だし俺は未だに信じられない」


依琴は今まで行った捜査で会った担当と同じ質問をされ


「弱い妖ならどこにでも普通にいますよ・・人間には見えないだけで、人間にも見える位の強い妖力を持つ妖が現れて違法行為をしています主に食事と言う名の殺人ですが、現在の法では裁けないという事で新しい法を作りこの課が設立され法改正も進んでいます、ただ全部が悪い妖では無いという事は言っておきますね、この事件が無事に解決したらぜひ陽光寺に遊びに来て下さい、熊田さんの考えが変わると思いますから」


依琴は笑いながら言うと熊田は冷や汗を掻きながら


「そうだな、機会があれば伺うとするよ」


「話が反れてしまいましたが、出馬を辞退した2名の情報を対妖法に基づき開示して下さい、こちらで人外であるか調べてみますので」


「そんな法律も出来たのか・・分かった資料は後で送らせる」



対妖法の個人情報開示は妖対策捜査課に所属する刑事及び民間ではあるが陰陽師、妖降士に与えられている権限、そして法で裁けない妖または人外に関わっているかもしれない人間の調査のみに使用されている。



とある広い庭のある屋敷に黒いスーツに黒いサングラス、黒い帽子をかぶった大柄な男が屋敷の長い通路を歩いていた。


「また、わらじの所に行くのか?」


途中、開かれた扉の前で大柄な男は男の声で問いかけられるが、大柄な男はそれに答える事も無く歩き続けていると


「まぁよい、炎灯えんとうがちゃんと仕事をしてくれさえすれば童には危害を加えることはない」


炎灯と呼ばれた大男は舌打ちをすると足を止め


「仕事はこなしている、だから手を出すな」


炎灯はそう言うと歩きだし目的の部屋の扉の前に来ると。


杉原すぎはら約束だ、結界を解除してくれ」


炎灯がそう言うと扉の近くで何かが弾けると炎灯は扉を開け部屋の中に入った。


「ナー」


中から嬉しそうな女の子の声がすると炎灯は少女に近づき座り込んだ。


「元気にしていたか?」


「ナー」


少女は笑顔でした声は「はい」と答えた様に感じた。


少女は部屋の中心に座り赤に黒い花柄の毬を抱え人間で言うなら10歳くらいで髪はおかっぱで小袖を着用し袖からは駐車場で使う様なサイズの鎖が数本垂れ少女を囲むように渦状に畳に広がっていた、そして少女をこの部屋から出さんとばかりに少女の周りに柱が建てられ封印の護符やら綱やらで囲んでいた。


「お前をこんな所に閉じ込めてしまってすまない、後いくつかの仕事が済めば開放してもらえるからそれまでの辛抱だ」


「ナー」


少女は1回だけ頷き「分かった」と答えた様だった。


少女は炎灯の言葉は理解しても返事は「ナー」のテンションの上げ下げだけで喋る事が出来ない様子だった。


「そろそろ仕事の時間だ」


「ナーナー」


炎灯が立ち上がり部屋を出ようとすると少女は寂しそうな声で訴える


「また来るから」


炎灯の言葉に少女の返事は無かったが炎灯は部屋を出ると扉を閉めまた長い廊下を歩き始め、開かれた扉の前を通るとまた男の声で


「仕事は分かっているな?」


「あぁ、北に入った妖の掃除と向こうに寄って物の回収だったな・・」


開かれた部屋からの返事は無かったが炎灯は元来た廊下を進んで行った。

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