妖降伝(youkouden)
肉まん大王(nikuman-daiou)
第2次妖魔戦争
第1話~第2次妖魔戦争~
遥か昔、人間と共存を容認する
日の出ている間は主力が人間で日の沈んだ夜には妖が加わり深夜から日の出までは妖が主力となり反対勢力と戦いが行われた。
日本の中心に近い広い野原、1年近く続いたこの戦争の終息が近づいていたある日の深夜、雲一つない夜空に満月が輝き地面を照らしていた。
血と異臭の匂いが広がり先程まで戦が行われていた野原に赤や黒の返り血を浴びた妖狐が息を整えていた。
妖狐の姿は白い布衣を基調とし薄紫色の刺繍や飾りが付いており黄褐色の後ろ髪が背中まであり両サイドから降りる髪には琥珀色の装飾で纏められていた。
「お疲れ様、妖狐」
妖狐が声の方を向くとそこには薄い桃色から濃い桃色に色が上から変わる生地に大小の白い梅の花柄のある着物に紺色の帯を巻きに身長とさほど変わらない長ドスを持つまだ幼さが残る戦場には似つかわしくない格好の少女がゆっくりと歩いて来た。
「おお、姫の方も片付いたのか」
「こっちは妖狐の方とは違って数も少ないし弱い妖だったから」
2人が各々の役割を終わらせて話をしていると、長いコートを腰のあたりを紐で結びズボンのような袴を履いた男が近づき膝を着き。
「姫、妖狐殿、駐屯地に帰還せよとの命令が」
「帰還?他の戦場に応援とかの話はどうなっているの?」
姫が男に問うと
「この場所に残った陰陽師と妖は他の戦場に向かい、お二人には一度帰還せよとの事であります、私は他の戦場に向かうので、ごめん」
男はそう言うと立ち上がり一礼をして去ってしまった。
「応援に行かないで戻るのか?」
「応援の人員の方は妖狐のお陰で人間も妖にもここでの被害が少ないから足りるだろうし、命令には逆らえないわ」
お陰と褒められた妖狐は嬉しそうな顔をしながら頭を掻き「それじゃ戻ろう」そう言うと返り血の付いた服を元の状態に戻し姫に近づきお姫様抱っこすると満月の輝く夜空に跳ねた。
「ちょっと待って妖狐―きゃー」
勢いよく跳ねた妖狐にしがみつき姫が悲鳴を上げると。
「人間の姫の足だと帰るのに何時間かかるか分からないし、他の戦場の仲間の事も早く知りたいし・・それよりも意外と可愛い声出すんだな姫は」
可愛いと言われた姫は顔を真っ赤にしながら長ドスの柄頭を妖狐の顔に押し当て暴れだした。
「おいおい、そんな物騒なもので突くな、落としちまうぞ」
そう言われた姫は今空の上を飛んでいるのを思い出し暴れるのをやめ、妖狐の服をギュッと掴みなおすと。
「妖狐、ありがとうね」
「え?何?何だってよく聞こえない」
妖狐は風を切る音で姫が何を言ったか分からないでいると、姫は息を大きく吸い込むと出せる最大の声で叫んだ
「だ~か~ら~ありがとーって」
「飯の礼だから気にするな、まだまだ時間はかかりそうだが妖が人間の世界で共存出来そうだしな・・それよりも妖狐は姫が食えなくなったのが非常に残念だよ」
「私を食べるなんて100年早いわよ」
「100年後って・・姫死んでいるじゃん」
「あ、そうか・・じゃーお預けね」
「何じゃそれ」
妖狐は笑いながらそう言うと飛行スピードを上げ夜空を駆けて行った。
遡る事1年前
とあるお城の城主に子宝に恵まれず、たまたま妻方の親戚に不幸があり1人残された姫を引き取るが後に城主に子宝に恵まれると、人には見えない妖が見える姫を気味が悪くなった城主は姫を離れに住まわせてしまった。
少しして姫が離れにあった蔵の中に怪我をして動けなくなっていた妖の姿の妖狐を見つけ、最初は妖狐の威嚇に怯えていたが姫が毎晩の様に妖狐を見に来ると妖狐の威嚇が少なくなり恐れながらも食料と水を1日1回持って行く様になった。
それが半年続いたところで城主から姫に「妖が見えるならお国の役に立ってこい」とこの共存戦争に半ば城から追い出される様に行かされる事になり、出発する前日の夜に今まで話す事も無かった妖狐に「もう食事は上げられないから自分で何とかして」と事情を話すと妖狐は「これを持って行け、食事の礼だ」とどこともなく長ドスを取り出し「昔退治した大ムカデから作った長ドスだ、妖くらいなら切れる」と言い姫に渡した。
姫は使い方の分からない長ドスを手に蔵を出ようとした所で妖狐が
「お前は共存出来ると思うのか?」
「・・・分からない、でも・・もう行く所ないから」
姫が振り向き悲しそうにそう答えると妖狐は妖の姿から人間の姿に変わると頭を掻きながら
「何でなんだ、もしかしてお前の名前はアキエだったりしないよな?」
「アキエ?」姫がそう思っていると妖狐が姫に近づき顔をジーっと見ながら。
「近くで見ると違う様な気がするけど・・もう行く所ないからとか・・他人の空似なのか?」
そして妖狐は一時期姫に年恰好のそっくりなアキエと言う少女に飼われていた事を話し始めた。
農家の両親とアキエの3人が暮らしていた小さな村に妖が現れ家を破壊し次々と人間を襲い始め妖狐はアキエを納屋に隠すとその妖と戦ったが当時の妖狐の力は非力で敵う相手ではなかった、そして妖はアキエ以外の住人を食いちらかし去って行った。
残された妖狐は崩れた納屋から怪我をしたアキエを助けると近くの村に行こうとばかりにアキエの袖を何度も引っ張ったが壊れた家の前に座り込んで動こうとはしなかった。
拉致が明かなくなった妖狐は仕方なく人間の姿になると
「アキエ、近くの村まで行こう、そこに行けば食べ物もある」
「やっぱり妖さんだったんだ、アキエは何となくそんな気がしていたんだ」
アキエは少し嬉しそうに言うと今度は悲しそうに
「ここがアキエの家だし父さん母さんもいなくなっちゃったから・・アキエはもう行く所ないから・・このままここでいいよ」
そう言い少ししてアキエは両親を追う様に息を引き取った。
それから私は時間をかけ村を襲った妖を探し彷徨いそして何とかその妖を倒したが・・妖力も使い果たし怪我をして隠れる場所を探して誰もいなかったこの蔵に身を潜めた。
姫はそれを最後まで聞くと目に涙を浮かべながら妖狐の手を取り妖狐の目を見ながら。
「あった事は悲しい事だけど・・さっき共存出来ると思うのか?って言ったけど、私より先に共存していたんじゃない、なら出来るんじゃない妖狐さん、共存できたら悲しい出来事も少なくなると思う・・無くなって欲しい・・私の両親も妖に殺されたから」
「そ、そうなんだ・・」
「妖狐さん!そんなにアキエさんに似ているならアキエさんだと思って私を助けて下さい、もし共存出来なかったら・・」
「出来なかったら?」
妖狐が聞き返すと姫は俯くと小さな声で
「共存出来なければここにも戻りたくないし、もう行く所ないから・・だから私を食べるなり好きにして下さい、それと・・この長ドスの使い方を教えて下さい」
長ドスを差し出した姫に妖狐が「ぷっ」と噴き出すと
「いいだろう契約成立だ、もし共存できなかったら遠慮なく食べさせてもらう」
こうして姫と妖狐は後に合流し妖狐を姫の使役と言う事にして共存戦争と言う名の第2次妖魔戦争に身を投じた。
駐屯地に戻ると人気が少なく松明の灯りだけが揺らめいていた。
2人は見張りの兵士に案内され駐屯地を任されている陰陽師「
暮島は青い狩着を纏い立派な口髭を生やし机に座って何かの書類を読みながら。
「ご苦労であった、ここは残った妖と我々で鎮圧するので、2人には明日の昼に北にある駐屯地へ先行して向かってもらう」
「北の駐屯地ですか?」
姫がそう言うと暮島は書類を机に置きながら
「新たに複数の妖が出たらしく苦戦を強いられていると報告があった」
北の駐屯地までは馬を跳ばしても3日程の場所にあるが、妖狐と姫の2人は妖狐の飛行術で駐屯地まで1日程で辿り着けた。
「そう言う事だ、今日はもう遅いからゆっくり休んで明日に備えてくれ」
妖狐と姫は部屋を出ると、ここに来てから寝床となっていた小さな平屋に向かった。
通常雑魚寝を強いられている人間や妖とは違い、出身の都合で姫様には一軒家が与えられていて、平屋は板の壁に囲まれ中には小さな庭もあり建物は1DKサイズ。
そしてこの戦争に参加してこの駐屯地に来てから2人はいつもこの建物で寝泊まりをしていた。
家に入ると妖狐は仕事が終わった旦那の様にちゃぶ台を前に座り姫は真っ直ぐ台所に向かい、そしてこの平屋を使う時には決まって置いてある食料箱の中身を確認していた。
「そう言えば今日戦場にいた人間が姫の事「
「鎬姫?違うけどどうして?」
「いやさ、今までお互い名前も知らないできたから本名なのかなって」
「本名は好きじゃないから使ってない、それに皆姫って言うから・・それより今日のおかずは魚だけど、焼く?煮る?」
「姫は人間と妖の間に立って、丁度刀を武器に鎬を削っているから鎬姫でいいんじゃないか?・・おかず?まずは酒がいい♪」
妖狐が嬉しそうに答えると背にある台所から凄まじい殺気を感じた。
「や~く~の~に~る~の~そ~れ~と~も~」
姫の怒った声に妖狐が慌てて振り向くとそこには長ドスを今まさに抜かんと暗黒オーラを放つ姫が立っていた。
「ま、待て姫、魚は焼くでいいから」
妖狐が両手を広げ逃げる様に言うと姫は笑顔に戻り黙って台所に消えると妖狐にわざと聞こえる様に
「まったく、いつもいつも酒酒酒って、妖狐が怖くて身の回りの世話をしてくれる人が来ないから私が家事しているんじゃない、酒くらい自分で運びなさいよ、私は貴方の世話役じゃないって・・」
「いや、長ドス持った姫様の図柄も十分怖いと思うんだが・・」
「何か言った?」
「へいへい酒は何処かな~」
妖狐は立ち上がりながら誤魔化すと台所脇にある棚から一升瓶と徳利を取りちゃぶ台の前に座わり酒を飲み始め、少しすると姫が皿に乗せた焼き魚をちゃぶ台に置き冷えた玄米を茶碗によそっていると、妖狐は徳利にあった酒を一気に飲み干し魚に手を付けようとした。
「うはっ旨そうな魚」
妖狐は魚を手に持ち大きく開けた口に運ぼうとしていた。
「待ちなさい妖狐、ちゃんと頂きますを言ってから」
両手を塞がれた姫はどうする事もできず口に入る魚を見ていた。
「いひゃひゃきます」
焼きたての魚を口でホフホフしながら妖狐が言うと。
「人間と妖が一緒に暮らす世界になったら食事マナーも必要になってくるし・・いひゃひゃきますとか恥ずかしいから止めてよね」
姫は茶碗を置き空になった徳利に酒を注ぐと妖狐の前に差し出し妖狐は出された酒を少し口にすると。
「はいはい、それより鎬姫かぁ~いいんじゃないその名前で・・これからそう名乗れば?」
「名乗るって言われても」
姫は急な名前変更に困っていると
「よし決めた、これから姫の事を鎬姫って呼ぶわ」
「呼ぶのは勝手だけど・・それより妖狐には名前とかあるの?」
1人嬉しそうにしている妖狐に姫が問うと
「ん?名前?あるっちゃ~あるけど」
「何て名前なの?教えてくれたら私も鎬姫でいいから」
「・・〇〇〇」
急に真面目な顔になった妖狐が頭を掻きながら蚊が鳴く様な声で言うと
「ん?聞こえないよ」
「だから〇〇〇・・」
妖狐は少し拗ねた様に言うと姫は名前から連想したある物を思い出しながら。
「〇〇〇?美味しそうな名前ね」
「アキエが毛の色が似ているからって・・せっかく付けてくれたからそれを名前にしている・・あまり気に入ってないけど・・」
「じゃー私が鎬姫で妖狐は〇〇〇ね」
妖狐の子供の様な仕草を見ながら姫が言うと。
「その名前で呼ぶのはやめてくれ恥ずかしい、呼ぶときは今まで通り妖狐でいいから」
口を尖らせ頬を赤らめながら妖狐は言った。
そして、長い時を超えるまでその名前で呼び合う事はなかった。
(本編のネタに使用する為、妖狐の名前はこの話では伏せさせていただきますBy肉まん)
布団に入り数刻した時に最初に妖狐が体の異変に気が付いた。
「な、何だ?か、体が地面に引っ張られているように重たくて動かない・・」
妖狐は重たい体を起こしながら仰向けになり手足で体を持ち上げるがそれ以上は出来なく下を向いたままの頭から見える範囲を確認していると庭側の雨戸がゆっくり開き冷たい風が吹き込み、雨戸が開き終わるとそこに狩着姿の暮島秀正が立っていた。
暮島は松明を部屋内に向けると四つん這いで顔も上げられない妖狐を見つけ。
「大分効いている様ですね・・数十人に及ぶ封印術の前では手も足も・・声すら出ない様ですかね妖狐」
そして懐から呪符を数枚取り出すと妖狐目掛け呪符を放り投げ、呪符は妖狐を囲むように床に張り付くと妖狐の体が更に重くなった。
入り込んだ冷たい風に目が覚めた姫は目を擦りながら妖狐の異変に気付き妖狐に近づこうとすると。
「おおっと姫様、その妖狐に近づいてはなりませぬ」
「そこで何をしている暮島」
「何を?って、そりゃ決まっているじゃないですか人間に反旗を翻した妖の退治ですよ・・今頃各地で半勢力を倒して残った妖達を陰陽師率いる人間が倒している事でしょう・・そう妖殲滅戦が始まる頃ですよ・・ここでは一番強力な妖狐を我々陰陽師が・・ついでにそれを先導し人間界に妖を導いた姫様には罪人と言う事になっていただきますが」
「そんな話は聞いていない」
姫が叫ぶと暮島は笑いながら
「最初から人間と妖の共存なんてあり得ない話、この世を収めるのは人間だけで結構なんですよ、妖同士で戦わせ残った妖を裏切り者に仕立てて人間が成敗って・・最初からそう言う話しなんですよ姫様」
暮島は松明を部屋に放り投げると懐から3枚の金色の呪符を取り出し手を複雑に組みながら呪文を唱えると呪符が宙に浮き縦長に並ぶとそれぞれ繋がり呪符が火の粉を散らしその火の粉の中から中心に握り部があり上下に刀身が伸びる
「これはどんな強固な妖も退魔できる異国で使用する法具、最近手に入れましてね・・妖狐を相手に試せるとは私も運がいい」
暮島は薄笑いを浮かべながら組んだ手を妖狐の頭に狙いを定めると宙に浮いた独鈷も妖狐の頭を狙い定める、そして暮島が「死ね」と叫び手を上げると独鈷は妖狐の頭目掛け弾丸が発射されたかの様に飛び出した。
妖狐は何かに圧し潰されそうな力に抵抗していた、どうにかこの呪縛から逃れる手段がないか考えていたところに姫が起き暮島の話を聞いて歯が割れんばかりに噛み締めていた。
「人間に裏切られた」その事だけが頭に鳴り響き我を忘れてこの辺りを破壊する程の自分ではまだ制御出来ない妖力を開放しようとしていた。
「ドスッ」と言う音と共に頭から大量に流れてくる自分のとは違う人の血が頬を流れ落ち床を染め血溜りを作りそれを見た妖狐は我を取り戻す。
目の前には桃色の寝巻の裾から見える小さな足が見え、そして徐々に赤く染まっていく桃色の寝巻。
「姫!」と妖狐は叫びたかったがしゃべる事も出来ずにいると、今度は背中に姫の体であろう物が倒れそれがズルズルと頭にずれると小さな足の前に膝が降りて来た。
「まさか妖を守って自ら独鈷を受けるとは・・やはり姫は妖に魅入られていたのじゃな」
妖狐は自分に放たれた独鈷から自分を守る為に姫が受けたのだと確信した。
「妖狐・・ごめんね・・人間が犯した罪を私の命で償えるなら・・なんて都合よすぎるよね・・ゴホゴホ」
姫は血の混じった咳をすると出会った頃の話を始めた。
「初めて妖狐を見た時に本当は怖かったんだよ・・でも妖狐は何もしなかった・・アキエさんに似ていたから?・・そうだアキエさんだと思って助けろなんて自分勝手だよね・・刀の使い方なんて知らなかった私にもちゃんと教えてくれた・・」
姫は意識が薄れて行く中で最後の力を絞って妖狐を抱くと
「妖狐の背中って人間と一緒で温かいんだね・・そうだ約束だから私を・・・・食べ・・」
そして姫はそれ以上語らなかった。
妖狐はこの状況でも涙だけは流せた事に感謝した。
涙が血だまりに混ざり悲しみと怒りが入り乱れていると
「まったく妖を守るなんて、もしかして姫も妖怪だったのか?」
暮島が姫の背中に刺さる独鈷を引き抜くと姫の亡骸を足で押し妖狐の背中から剥がすと、妖狐はできる限りの力で横に転がった姫を見た、そこには目を閉じ安らかな笑顔の姫が横たわっていた。
「お前も姫の後を追ってあの世に行け」
暮島が独鈷を振り上げ動けない妖狐目掛けて振り落とし、そして独鈷の手ごたえが予定より下にあり独鈷の刺した物を見て目を疑った。
「何で畳?妖狐は」
暮島は慌てて周りを見渡すと部屋の隅に本来の獣の姿で長ドスを銜えた妖狐を見つける。
「どうやって結界を抜けた」
「姫のお陰で・・辿り着けた・・」
妖狐はそう言うと暮島の目の前から姿を消し少しすると外から次々と結界を張っている陰陽師達の悲鳴が聞こえ、結界を張っていた十数名の悲鳴が終わると妖狐は庭に姿を現した。
「残りはお前だけだ暮島」
名前を呼ばれた暮島が振り返り妖狐を確認し独鈷を構えると妖狐は血で濡れた長ドスを地面に刺した。
「何が起きていると言うのだ、封印術も完璧だったはず」
「教えてやろう、まずお前のミスその1、襲撃日が満月だった。その2、お前は私の実態を見誤った。その3、姫の命を先に奪った・・だ」
自分のミスだと指摘された暮島は構えを崩さず叫んだ
「満月がお前に何の役に立つと言うんだ」
「この後お前は死ぬから冥土の土産に教えてやる、まずは質問の答えだ、妖狐は皆が天狐を目指しているわけではない私の様に
「天狐なら聞いた事もあるが月狐や時弧なんて聞いた事も無い」
「それなら教えてやる、月狐になると月の満ち欠けで変わる妖力を持ち特に満月と新月に最大の妖力を発揮する、そして時弧とも呼ばれる由来、時間(時計)を操る術」
「そんな馬鹿な話があるはずがない」
「そう思うか?身を以て知るがいい・・今宵は満月だから妖力の増しは時計の最大値12だ」
妖狐はそう言うと複数の尾を広げ月の光を尾に当てた。
「時計の12だと12倍にでもなると言うのか?」
暮島が吐き捨てる様に言うと同時に全ての尾の毛先から順に輝きだした。
「12倍?何を馬鹿な事を言っている・・妖力増しは『12乗』だ」
そして輝きが根本を過ぎ全身を包み込むと
「次は時狐の時を操る術だ」
妖狐は長ドスを地面から引き抜くと横一文字に構え後ろ足に力を蓄え体制を低く構える、暮島は攻撃が来ると掴めるだけの呪符を周りにばら撒き迎撃の呪文を唱えようとした時に目線が横にずれていくのを感じた。
「これが時間を操る術だ」
暮島は距離の離れた場所にいた妖狐が目の前にいて銜えた長ドスを横に払い終わった体制で立っていた。
「何が起きたと言うのだ・・」
暮島はそう言い残しその場に体を残し離れた頭が目を見開いたまま地面に転がた。
「伝える者がいなければ誰も知らない・・だからお前も知らなかった・・そう言う事だ陰陽師」
姫の故郷が見える海に浮かぶ小さな無人島。
日の出が近く水平線が明るくなり始め少し強い海風が吹く場所に人の姿の妖狐がいた。
「姫を失って最後に悟ったこの力・・こんな力はいらないから戻って来て欲しい、また同じ時間を過ごして欲しい、怒って欲しい、笑って欲しい・・」
手製の墓に向かって妖狐は拳を震わせながら泣くのを我慢し呟いた。
「これから私はどうしたらいいんだ・・」
「妖狐の好きに生きればいいじゃない?」
風音がそう答えると
「姫がいないと・・」
「私がいなくても妖狐の心にはいつも私はいるから」
妖狐はその言葉に我慢していた涙を流し頬を濡らした。
少しして妖狐は涙を腕で拭うと
「そうだな姫は心の中にいるんだな・・わかったよ」
「今日の妖狐はやけに素直じゃない」
「だだ捏ねたって姫は怒ってくれないだろう?」
「そうねーまた会う機会があれば怒ってもいいかな?」
「会う事なんてあるのか?・・これから私は妖都に行って天妖界を目指す・・もし、もしまた会う事が叶うのならそこで待っている」
妖狐の言葉に風の返事はなかったが妖狐が妖都への門を開いて入る時に最後の風が妖狐に向かって吹いた。
「がんばってね妖狐」
こうして共存と言う名ばかりの第2次妖魔戦争が各地に怨念を残して幕を閉じた。
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